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行政から率先して「構造改革」を進め、目指すは横須賀の「復活」

「経済と福祉の再生」によって実現する「誰も一人にさせないまち」の理念

「経済と福祉の再生」によって実現する「誰も一人にさせないまち」の理念

行政から率先して「構造改革」を進め、目指すは横須賀の「復活」

「経済と福祉の再生」によって実現する「誰も一人にさせないまち」の理念

横須賀市長 上地 克明

※下記は自治体通信 Vol.39(2022年6月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。


コロナ禍による大きな環境変化を受け、行政のデジタル化が喫緊の課題となっているなか、令和2年4月に「デジタル・ガバメント推進室」を設置し、DX推進にいち早く力を入れた自治体のひとつが横須賀市(神奈川県)である。注目されるそれら取り組みのいくつかは、すでに本誌でも紹介しているが、市長の上地氏は、「DXの推進は、我々が真に目指す構造改革に向けた、手段のひとつでしかない」と語る。横須賀市が掲げる「構造改革」とはいかなるものか。同氏に詳しく話を聞いた。

職員にしてもらいたいのは、「作業」ではなく「仕事」

―自治体DXの推進をめぐり、横須賀市はいち早くその動きを見せてきましたね。

 ええ。当市では、令和2年4月に「デジタル・ガバメント推進室」を設置して以来、「行政のデジタル化」にはかなり力を入れてきました。たとえば、住民窓口サービスや要望の受付といった庁内事務において、デジタル化を積極的に推進してきました。職員数は減少する一方、社会課題が多様化・複雑化していくなかで、これから先、どのような行政組織が必要なのかを考えた場合、職員にしてもらいたいのは「作業」ではなく「仕事」です。デジタル対応できる作業は、どんどんデジタル化していけばいいと思っています。逆に、人でなければできない仕事、Face to Faceでなければ寄り添えないサービスに、限られたリソースを使ってもらいたいのです。つまり、我々が推進する「行政のデジタル化」の目的は、単なる合理化や省力化などではなく、言ってみれば、行政における「構造改革」なのです。

―詳しく教えてください。

 私は、市議会議員時代から、住民のみなさんの声をつぶさに聞き、それを政策に活かすことが、行政の本質的な役割だと考えてきました。それは、議員が日常的に行っていることです。その意味では、行政を担う市職員こそ、議員のように積極的にまちへ出て、住民のみなさんが抱えている課題や不満に耳を傾けなければいけないと考えているのです。新しい時代の新しい社会に合わせて、そうした行政のあり方そのものを変えることを、私は行政の「構造改革」と称し、市長就任以来、一貫して職員の意識改革を促してきました。

経済再生への大方針は、「観光都市」としての発展

―「構造改革」の先に、どのような目標を掲げているのですか。

 ひと言で表現するならば、「横須賀の復活」です。明治維新以来、日本海軍の拠点であり、造船業で栄えた横須賀市には、いわば官製都市として発展してきた歴史があります。その後、自動車産業なども成長したことで、全国から多くの人々を引き寄せ、経済的には繁栄を極め、谷戸地域などにいまも色濃く残る助け合いあふれる地域社会を育んできました。

 しかし、時代の変化とともに、横須賀を支えた2つの基幹産業は衰退傾向を示し、同時に人口減少や高齢化も進み、以前のような活気を失っているのは、多くの地方都市と同様です。かつて住民のみなさんが抱いていた誇りや愛着を取り戻してもらうためには、まずは経済を再生し、それを基盤にした福祉の充実が必要です。経済と福祉、このふたつを両輪とした、横須賀の「復活」が私に課せられた使命だと考えているのです。

―この間、経済政策ではどのような取り組みを進めてきたのでしょう。

 まず当市では、経済再生の大きな方針として、横須賀が育んできた歴史や文化、地理的条件を活かし、「観光都市」の発展を追求することを決めています。これは、私が議員時代から訴え続けてきたことで、それに向け就任後すぐに「文化スポーツ観光部」を創設。スポーツ大会・音楽イベントの開催や、エンターテインメントイベントの誘致に力を入れてきました。また、明治時代の西洋館を再現した「よこすか近代遺産ミュージアム ティボディエ邸」の整備や、横須賀を代表する観光資源を随所に配置した「よこすかルートミュージアム構想」、さらには10㎞におよぶ遊歩道「10,000メートルプロムナード」の整備も進めてきました。

 同時に、当市の悲願であった、東京へとつながる国道357号の延伸、追浜駅前での「地域密着型バスタ」事業など、インフラ整備の実現にも力を入れ、再び全国から人々を惹きつけるための観光集客策を推進しています。

つねに人が人に寄り添う、「Not Alone」の感覚を大事に

―こうした経済再生を基盤に、福祉政策の充実を図ると。

 そのとおりです。経済と福祉の両立が、市政の最大のテーマになることは間違いありません。私が、長年の政治経験を重ねた末に、実現したい市政の姿は、「誰も一人にさせないまち」です。最近よく取り沙汰されるSDGsでは「誰一人取り残さない」という原則を掲げていますが、私の理念は、じつはこれとは少しニュアンスが違うんです。前を進む人が、遅れた人を引っ張り上げるという感覚ではなく、つねに人が人に寄り添う、いわば「Not Alone」の感覚なんです。この理念を、市職員とともに福祉政策で体現することが、横須賀復活ストーリーの最終的なゴールと位置づけています。

―福祉政策では、どういった取り組みを行っているのですか。

 まずは2期目就任後、庁内に「民生局」を発足させました。福祉部、健康部、市民部といった福祉にまつわる各部署を傘下に収め、従来の縦割りを排することで、各種福祉サービスの一体的な提供と質的向上を図るのが目的です。

 さらに、福祉に関するさまざまな不安や困りごとを抱える方々への相談支援を行う「福祉の総合相談窓口ほっとかん」や、市内の行政センター内の「地域相談窓口」を設置・拡充し、住民のみなさんが市職員に直接困りごとを相談できる仕組みを充実させています。これらの拠点は、まさに「行政のデジタル化」を通じた「構造改革」の成果が試される場になると認識しています。住民の声に直接触れることで、職員自身の現場目線も養われ、理屈ではなく感性で住民の生活実態を理解し、政策に活かす。そのための感性を磨く場になってほしいです。

不透明な時代こそ、行政が主導的役割を

―今後の市政ビジョンを聞かせてください。

 新型コロナウイルスの感染拡大や、ウクライナ情勢などを経験し、大きな変化の時代に生きていることを、多くの人が実感しているのではないでしょうか。安全保障を支えてきた横須賀に生きてきた我々は、より敏感にそれを感じます。そんな不透明な時代こそ、行政の主導的役割が求められていると考えています。その役割を果たすためには、現在のような意思決定の遅い行政を変えていかなければなりません。住民とより多く接して、目の前にある課題にできるだけ早く気づき、解決への時間をできるだけ短くする。必要ならば、制度や仕組みも、積極的に変えていく。その先に、必ず「誰も一人にさせないまち」を実現してみせます。

上地 克明 (かみぢ かつあき) プロフィール
昭和29年、神奈川県生まれ。昭和52年、早稲田大学商学部を卒業後、株式会社ニチリョウに入社。昭和53年、衆議院議員田川誠一氏の秘書を務め、新自由クラブ神奈川県広報副委員長などを経験する。平成15年、横須賀市議会議員に初当選して以来、4回の当選を重ね、平成29年に第37代横須賀市長に就任。現在2期目。
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