【歯科検診・受診率向上】アプリ活用を含む多彩な勧奨で、高齢者へ歯科健診の受診を促す
(パシャっとカルテ / Arteryex)


※下記は自治体通信 Vol.66(2025年6月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
後期高齢者の健康寿命に大きな影響をおよぼすとされている「口腔フレイル」の予防に向け、各自治体で取り組みが進められている。そうしたなか、神奈川県後期高齢者医療広域連合は、エーザイと協働で口腔フレイル予防事業を推進。その第一段階として、歯科健診の受診率向上を目指し、同社の関連会社であるArteryexのアプリを活用した新たな受診勧奨を実施。手応えを感じているという。その導入の経緯と効果について、同広域連合の小野寺氏に話を聞いた。

受診勧奨の有効な手段は、郵送に限られていた
―後期高齢者向け歯科健診の受診勧奨に取り組んできた経緯を教えてください。
当県では、平成27年度より後期高齢者の口腔フレイル予防として、前年度に75歳を迎えた県民を対象にした歯科健診事業を推進しています。県民の口腔機能や摂食嚥下機能などの低下を防ぐため、歯科健診受診の習慣づけを目的に取り組んできましたが、事業開始から令和2年度までの受診率は3~4%台で推移しており、受診率の低さが長年の懸案でした。令和3年度から郵送による個別の受診勧奨を開始して改善を図った結果、令和5年度の受診率は6.79%にまで伸びたことから、さらなる受診勧奨の強化に向け、多様な方法を模索してきました。
―どのような方法を模索したのでしょう。
当初は、電話による受診勧奨も考えました。しかし、当広域連合には電話番号のデータがなく、ハローページの活用を模索しましたが、受診対象者の電話番号確認に要する費用対効果を検討した結果、断念せざるを得ませんでした。結局、郵送による受診勧奨に手段が限られていたのです。そんな折にエーザイ社から健診データを活用してフレイル予備群をスクリーニングする「フレイル予防事業」を提案され、その一環としてアプリ導入を促す通知書による新たな受診勧奨を検証することにしました。その際に活用したのが、Arteryex社の『パシャっとカルテ』です。このアプリは、紙による健診などの結果票をスマホで写真を撮るだけでデータ化するという機能に特徴があり、そのインストールを促す二次元コード付き通知書を藤沢市内の歯科健診対象者約4,000人に送付しました。
高齢者900人相当の行動変容をアプリで導く
―結果はいかがでしたか。
結果は、およそ0.75%に当たる30人が二次元コードを読み込みました。数値だけを見ると微少に感じるかもしれませんが、当県全体の対象者が約12万人ですので、単純計算すれば約900人相当が二次元コードを読み込んだ計算になります。そもそも受診率を1%上げるだけでも大変ななかで、0.75%の対象者が歯科健診に興味を抱き、行動が変容したことに効果を感じています。こうして数値化した受診勧奨の効果を、次なる施策に向けたエビデンスとして活用することで、さらなる効果向上も期待しています。
―今後どのように歯科健診の受診率向上に取り組んでいきますか。
引き続き受診勧奨に有効な方法について試行錯誤を重ねながら、県民の歯科健診に対する関心を高めていきたいと考えています。Arteryex社による調査から、「歯科健診の内容を県民に伝えきれていない」という可能性があることもわかってきました。将来的には、歯科健診について理解を深めていただく事業に取り組みつつ、健診によって得られたデータを活用し、「口腔フレイル予防事業」を、より効果的にしていきたいですね。


―歯科健診の受診勧奨において自治体が重視すべき点を教えてください。
まず受診勧奨を多様な手段で展開し、幅広く対象者に認識させることです。そのうえで、実際に行動変容につなげられるかが重要です。神奈川県後期高齢者医療広域連合での効果検証では、後期高齢者の方々のうち15人もアプリをダウンロードしている点で、行動変容に一定の効果があったと考えられます。後期高齢者に向けた施策では「アプリなどのICT活用は効果が薄い」と考えられがちですが、今回の検証は、その考え方に一石を投じる結果となりました。さらに、同広域連合の取り組みで、全国の『パシャっとカルテ』登録者を対象にアンケート調査を実施したところ、意外な事実もわかりました。
―どのような事実ですか。
そもそも歯科健診は、「摂食・嚥下機能などの口腔機能の検査」を目的にしたものですが、当社の分析によれば、「歯科での歯の診療」と誤解している可能性が示唆されました。この結果から、歯科健診が「口腔機能低下を予防するためのもの」であることを周知する施策を、同広域連合も検討し始めています。この分析は、全国25万人以上が登録し、健診や検査、お薬情報などの多様な医療データが蓄積された『パシャっとカルテ』だからこそできたのだと自負しています。当社は、アプリで得られた医療データをもとに、保健事業などにおける根本的な課題を抽出し、解決策のヒントを提供することでEBPM*による効果的な施策立案を支援します。ぜひご活用ください。
*EBPM: エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキングの略称。その場限りのエピソードに頼るのではなく、政策目的を明確化したうえで合理的根拠(エビデンス)に基づいて政策を立案すること

設立 | 平成30年2月 |
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資本金 | 4億3,353万円 |
従業員数 | 55人(インターンなど含む、令和7年4月末現在) |
事業内容 | 医療情報プラットフォームサービスの提供、医療、ヘルスケア領域におけるシステム・アプリケーションの受託開発、『パシャっとカルテ』などの自社開発アプリの運営 |
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