

※下記は自治体通信 特別号(2026年5月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
自治体の介護予防事業担当者の間でいま、1つの問題が取り沙汰されている。団塊の世代が85歳以上となることで、自治体の介護給付費の大幅な増加が予想される、いわゆる「2035年問題」である。この深刻な局面を回避できるかは、今後の介護予防事業の成否が重要な要素となることから、「第10期介護保険事業計画」(令和9年度~11年度)の作成に向け、各自治体担当者は重い責務を背負っている。そこで本号では、この分野の研究者として知られる三菱UFJリサーチ&コンサルティング主席研究員の岩名氏と、民間企業として自治体の介護予防事業を支援するオムロンの加藤氏との対談を企画。両氏に、今後の介護予防事業のあるべき姿について語ってもらった。


総合事業で行われた「フルモデルチェンジ」
―自治体の介護予防事業を取り巻く現状をどのように見ていますか。
岩名 自治体の介護予防事業の柱である「介護予防・日常生活支援総合事業(以下、総合事業)」の実施・運営方法をめぐっては、じつは令和6年8月に大きな見直しが行われました。厚生労働省が「フルモデルチェンジ」と表現するように、目的はそのままに、時代にあわせた事業実施方法の大胆なチューニングが行われています。今後、総合事業に大きな成果を求めていく必要があり、そこに向けて運営条件を緩和させているのです。
この見直しの要点は2つあります。まずは「脱専門職依存」です。
―詳しく教えてください。
岩名 85歳以上になると要介護認定率が急増することから、団塊の世代が85歳を迎える今後10年、介護ニーズは爆発的に増加します。その結果、介護専門職人材の不足が深刻化します。よって、限られた専門職人材をより重度の要介護者に振り向ける一方、要支援者など軽度者には、状態の維持・改善を図り、要介護状態の進行を遅延させる支援が求められます。介護予防を有効に機能させることが、より重要になるのです。
―もう1つの要点はなんでしょう。
岩名 「脱給付型」です。従来の総合事業では、介護保険給付の発想をそのまま持ち込み、入浴・食事・リハビリといった生活支援サービスを一括パッケージ化して専門職が提供してきました。ここに民間参入を促すために基準を緩和する施策も試みましたが、期待した多様な担い手の参画にはつながりませんでした。今回の見直しでは、サービスを入浴・食事・運動などに分解し、スポーツジムや温浴施設、家事代行といった民間事業者がそれぞれ自分の土俵で提供できるようにし、自治体はこれを委託するか、要支援者特有のニーズへの対応部分だけを総合事業で補助するかたちに移行します。その結果、自治体には今後、介護保険給付の枠組みから離れ、民間サービスの強みを活かし、これに総合事業の財政支援を柔軟に組み合わせることが求められます。

広がる短期集中予防サービス
―フルモデルチェンジ以降、この2年間で自治体の総合事業には、どのような変化が見られますか。
岩名 大きく2つの現象が顕在化しています。1つは、想定の通り、専門職の深刻な不足です。地域によっては、要介護者への対応で手一杯で要支援者まで手が回らないケースも出始めています。
この一方で、「リエイブルメント*」、つまり総合事業では「サービス・活動C」と定義される「短期集中予防サービス」の導入が各地で広がりを見せているのが、もう1つの注目すべき現象です。
加藤 その動きは、とても強く感じています。当社の調べでは、現在全国で約800自治体が短期集中予防サービスを実施していますが、その数は徐々に増えてきています。ご指摘の通り、全国で成功事例が登場し、インパクトのあるアウトカムが出始めていることが、この動きを生んでいるのでしょう。
―短期集中予防サービスで成果を上げるために、どのようなことが重要になりますか。
加藤 短期集中予防サービスは、3ヵ月後には卒業することが前提となっていますから、卒業後のセルフマネジメントにつなげる動機付けをいかに行えるかが重要なポイントになります。そのためには、高齢者のニーズをきめ細やかにつかみ、いかに本人のやる気を引き出すケアプランをつくれるかがカギであり、そのために「アセスメント」はもっとも重要なプロセスだと当社では考えています。
岩名 「アセスメントが重要」というのは私も同感です。リエイブルメントとは抽象的ではありますが、「生きる気力を取り戻す」ことに近いものであり、どのような体操をするかは本質ではありません。やる気を持てる目標に向かい、短期間の伴走的な支援を受けて、自身の気持ちの変化を実感するからこそ、その後のセルフマネジメントにもつながるわけです。
「3ヵ月で改善」という成果が定着すれば、その評判は介護事業者にとっても集客の呼び水になるでしょう。実際、ある地域では、高齢者の間での評判を聞きつけた介護事業者が、「3ヵ月で卒業できる」ことを謳い、総合事業とは別にリエイブルメントを新たにサービス化し始めたケースもあります。こうした変化は、総合事業がめざす本来の介護予防の姿に近いものだと思います。
*リエイブルメント : 「再びできるようになること」。介護予防プログラムによって元の生活を取り戻す取り組み

推奨される「システムの活用」
―重要なアセスメントですが、どのように行うのがよいのでしょう。
岩名 アセスメントは毎週の支援において「継続的に行うこと」が大切です。短期集中予防サービスの対象となる高齢者には、身体機能が低下していくなかで、徐々に趣味やスポーツなど自分の好きだったことを諦めながら、要支援認定に至る方がたくさんいらっしゃいます。ですから、当初のアセスメントで「なにがしたいか」と問われても、なかなか前向きな気持ちで希望を語れません。そうした希望は、プログラムで気力と自信を徐々に取り戻した時に初めて生まれるものですから、継続的にアセスメントし続けることが重要です。
また、そもそも論として、利用対象者の絞り込みは、ある程度行ったほうがよいと思います。
―どういうことでしょう。
岩名 短期集中予防サービスをすべての要支援者に提供する自治体もありますが、地域の専門職が限られる以上、自治体としては、効果が期待できる対象者から提供していくのは現実的だと思います。
加藤 アセスメントを活用し、対象者を絞っている自治体は多いですね。それらの自治体事例をもとに算定すると、アセスメントの結果、短期集中予防サービスで効果を上げられる対象者は、介護保険サービスを受給している要支援者の40%程度と推測できます。
岩名 多様な考え方がありますが、その水準は私の感覚にも近いですね。まず、予防サービス利用者のうち、医療対応優先の人、コミュニケーションに課題のある人、引きこもりなどほかの優先課題を持つ人を抽出し、ここには介護専門職が対応するとして短期集中予防サービスの対象から除外します。さらに、介入が不要なほど元気な人を除外すると、生活支援サービス利用者の40%程度が、短期集中予防サービスが有効な層と推定できます。
加藤 当社ではもう1つ、アセスメントを適切に行うために重要なポイントがあると考えています。

―それはなんでしょう。
加藤 多忙な介護専門職が、多くの要支援者を相手にアセスメントをつねに正確に行うことは大きな負担が伴うだけでなく、限界もあります。アセスメントの精度には専門職間の経験の差も反映されるでしょう。そこで当社では、アセスメントの質を高め、最適なケアプランを作成するために、「システムの活用」を強く推奨しています。システムの活用で専門職は人と向き合う支援に専念できます。さらに蓄積された定量データは、事業評価の指標となり、次なる計画の改善に活かすこともできます。

「第10期計画」には、重点テーマの書き出しを
―現在、自治体は「第10期介護保険事業計画」の策定が迫られています。アドバイスはありますか。
岩名 総合事業のフルモデルチェンジ以降、初めての介護保険事業計画の策定になりますので、その見直し趣旨を反映することは必要です。ただし、今回の見直しはおもに手法面での改正が中心でしたので、書くべきことは大きく変わらないと思います。とはいえ、最初の数ページだけでいいですから、次の3年間に自分たちの重点テーマ、予算化すべき重点事業だけは別途書き出していただきたいです。特に人材不足のなかで、リエイブルメントは専門職サービスのニーズを減らす意味で大きな効果がありますので、保険者の重点事項として打ち出してほしいと思います。
さらにいえば、「第10期」の期間で私が最優先課題と考えているのが「既存資源の保全」です。中山間地域を中心に介護事業所はもとより、食品スーパーや移動販売など、地域の社会サービスが次々と消失している地域が出ています。自治体には、こうした生活を支える地域資源の運営状況を把握したうえで、「委託・補助」や「事業者/住民への情報提供」といった適切な支援を行ってもらいたいです。それらの生活基盤があって初めて、介護予防も機能するものです。
加藤 どのような生活基盤を地域で維持し、いかに提供していくか、地域の実情に応じた介護予防の戦略を考えるうえでも、高齢者の現状やニーズを測るアセスメントが重要な入口になると考えています。
このアセスメント、さらにはリエイブルメントの実践に際しては、民間や地域外の技術やノウハウも積極的に活かすことをお勧めします。すべてを人の手で行うのではなく、システムを有効に活用してください。それが、限られた人的リソースでも最大限の成果を上げるための近道であるはずです。


これまでに紹介した介護予防事業の識者による対談では、事業を改善し、成果を上げるためのポイントとして、「的確なアセスメントの実行」と「システムの活用」が推奨されていた。これらを実践し、確かな成果を上げている自治体の1つが、国東市(大分県)である。それまでも「貯筋型サービス」と銘打ち、「短期集中予防サービス」を導入してきた同市において、システム導入はどのような効果をもたらしているのか。同市地域包括支援センター課長補佐の溝部氏に話を聞いた。
※担当者の所属・肩書は取材時のものです

要支援者の増加で、専門職の業務が追いつかない
―国東市が介護予防事業において、新たなシステムを導入した背景を教えてください。
当市は、大分県内でも高齢化率が比較的高い水準にありますが、要介護認定率は現在でも低く抑えられており、元気な高齢者が多いのが特徴です。それは、令和4年度から「貯筋型サービス」と命名して広めてきた「短期集中予防サービス」の効果だと考えています。反面、介護予防ケアプランの件数は近年、増加傾向にあり、要支援認定率は県内有数の多さです。
こうした要支援認定率の増加に伴い、介護支援専門職の業務量が増大していました。市の直営で地域包括支援センターを運営する当市においては、将来的にはこれまで以上に専門職の人材確保が難しくなると予想されるなか、ICTの活用を考えるようになりました。
―システムで、どのような課題を解決しようと考えたのでしょう。
特に、「貯筋型サービス」へとつなぐためのアセスメントは効率化が必要でした。その件数は年間4,800件前後にも達し、専門職の業務が追いつかないため、状態改善を見込める対象者を「貯筋型サービス」へつなげられていない実態があったためです。アセスメントのシステム化をめぐっては、大分県が令和2年度からオムロンと連携協定を結んでおり、県内の自治体のいくつかがモデル事業として同社の介護予防ケアマネジメント支援システム『ハレクルWith』を試験運用していました。当市のケアマネジャーはスキルが高く、手作業でも十分に良いプランができているとの自負もあり、当時の判断として当市はその枠組みには参加していませんでした。しかしその後、参加自治体からシステムの効果などを聞き、また人材不足がより深刻になるなか、令和7年度からの導入を決めました。
「これは私だけのケアプラン」。利用者から数々の言葉が
―どのようなシステムですか。
利用者が望む生活に近づけるための課題解決をつねに考えている専門職の思考過程を支援し、利用者に最適なケアプランの作成につなげてくれるツールです。質の高いケアプランを短時間で効率的に作成でき、専門職の生産性向上とともに、専門職の経験の差に影響されないケアプランの質の担保が図れます。
―導入効果はいかがですか。
『ハレクルWith』を活用することで、利用者の本当の課題、ニーズを引き出せることが、これまで以上にできるようになったと感じています。実際に利用者からは、「私のことをよくわかっているプランですね」「これはまさに、私だけのケアプラン」「本当はここに困っていたの」といった数々の印象的な言葉をもらっています。質の高いケアプランの効果から、「貯筋型サービス」の卒業後には、95歳で運転免許更新にチャレンジした人や、夫婦でお遍路廻りを再開できた人もいらっしゃいました。
また、システムで見える化された利用者情報は、ケアマネジャーとリハビリテーション職で共有され、きめ細かな支援に活かされています。当初システムに拒否感を抱いていたベテランのケアマネジャーからも、オムロンの伴走支援を受けるなかで、システムを評価する声が聞かれるようになりました。
―今後のシステム運用ビジョンを聞かせてください。
今後は、『ハレクルWith』を通じて医療機関とも情報共有を図る計画です。地域と医療双方のリハビリテーション機能が連携することで、退院患者がスムーズに「貯筋型サービス」へ移行するといった取り組みが可能になると期待しています。また、「第10期介護保険事業計画」の策定にあたっては、『ハレクルWith』に蓄積されたデータは、貴重なエビデンスになります。このデータを有効活用し、福祉や医療、地域住民の力をつなぎ、地域一体で高齢者を支える仕組みをつくり上げていきたいです。


ここまで紹介した国東市と同様、介護予防事業において新たなシステムを導入し、事業の運営効率や事業効果そのものの改善に手応えを感じている自治体が、竹田市(大分県)である。早くから「短期集中予防サービス」を導入し、システム導入についてもいち早く着手した同市における効果とは、どのようなものだったのか。ここでは、同市がこれまでに行ってきた取り組みもあわせて、同市介護予防事業の2人の担当者に話を聞いた。
※担当者の所属・肩書は取材時のものです


短期集中予防サービスには、1人あたり50万円の効果が
―介護予防事業において、新たなシステムの導入を決めた経緯を教えてください。
渡部 大分県内でも特に高齢化率が高い当市では、将来にわたる「介護給付費の適正化」に向けて、いち早く平成28年度から導入した「通所型サービス・活動C(短期集中予防サービス)」を軸にした介護予防事業に力を入れてきました。庁内の他の事業や民間企業との連携を図りながら対象者を広く把握していく「入口」の拡充や、3ヵ月のサービス卒業後の高齢者の受け皿となる地域活動といった「出口」の仕組みづくりに特に力を入れてきました。これらの成果もあって、現在に至るまで介護保険料の急増は見られていません。そうしたなか、令和2年度から大分県とオムロンが高齢者の自立支援に資する介護予防サービスの普及に向けた連携協定を締結したことを受け、当市がそのモデル事業の1つとして参加することになりました。それがシステム導入のきっかけとなりました。
―モデル事業では、どのような取り組みを進めてきたのでしょう。
渡部 オムロンとの取り組みのなかではまず、当時同社が開発中であった介護予防ケアマネジメント支援システム『ハレクルWith』を試験的に導入し、サービス利用者に最適なケアプランを作成するための「アセスメント」の実践に活用してきました。
その後、研究機関の協力も得て、短期集中予防サービスの効果検証を行いました。そこでは、当市で短期集中予防サービスを利用したグループと未利用のグループとで、3年後の介護給付費を比較したところ、1人あたり約50万円の差が生じていることがわかりました。短期集中予防サービスが持つ財政上の効果が明らかになったことで、「介護給付費の適正化」に向けて当市が推進する同サービスを後押ししてくれる研究だったと高く評価しています。
「工程分析」で課題を抽出し、最適なプランを作成する
―導入効果はいかがでしたか。
赤木 『ハレクルWith』に実装された「工程分析」というアセスメント手法によって、日常生活の動作を細分化した「工程」ごとに状態像を分析し、どこに課題があるか、その原因がなにかを具体的に特定することができます。この分析によって、ケアマネジャーが経験の差によらず、利用者に最適なケアプランを作成することができます。また、可視化されたアセスメント結果は、ケアマネジャーのみならず、保健師や理学療法士、栄養士など、関わる多くの専門職が情報を共有でき、利用者とも3ヵ月後の目標決定について、合意形成も図りやすくなりました。ベテランのケアマネジャーも、『ハレクルWith』の分析結果については「確かに間違いはない」と太鼓判を押してくれています。
渡部 これらの試験導入の結果を踏まえ、当市では令和6年度から『ハレクルWith』を本格導入しました。当市では、「介護給付費の適正化」を目的に『ハレクルWith』を導入していますので、短期集中予防サービス以外の利用者にも広くアセスメントを行い、ご自身の身体のセルフケアにつなげていただいています。
―今後のシステム活用ビジョンを教えてください。
渡部 当市においても介護事業所や専門職といった社会資源の減少も進んでおり、各種介護サービスの維持が困難になりつつある状況もあります。「第10期介護保険事業計画」においては、今後ますます介護予防の重要性が増すなか、早くから取り組んできた当市の介護予防事業の資源を守っていくうえで、『ハレクルWith』が力になってくれると期待しています。

これまでに、介護予防事業のアセスメント工程をシステム化し、ケアプランの質向上や専門職の生産性向上に取り組む2つの自治体の事例を見てきた。このシステムの開発、導入支援を手がけるのが、オムロンである。ここでは、この事業を担当する同社自立支援事業部事業企画室室長の西條氏に、自治体の介護予防事業における課題やその解決策などについて詳しく聞いた。

介護予防事業をめぐる課題を、3つの構造で分析
―介護予防事業の運営をめぐり、各自治体ではどのような課題を抱えていますか。
団塊の世代が85歳を迎える今後10年、要支援・要介護認定者数や介護給付費の急増が予想されるなか、介護予防事業をいかに戦略的に進めるかが自治体経営の重要課題です。なかでも、要支援認定1、2の方々やフレイルの高齢者といった軽度者が再び自分らしい暮らしを取り戻すことをめざす「短期集中予防サービス」は、高齢者が自立した状態で過ごし続けるうえでも、また介護保険制度の持続可能性を高めるうえでも重要なカギを握ると捉えています。すでに全国約800の自治体で実施されていますが、同サービスの状況を見ると「実行したが、なかなか思うような効果が出ない」といったお話をよく耳にします。こうした課題を当社では、「入口」「サービス」「出口」という3つの構造で整理しています。
―詳しく教えてください。
まず、「入口」においては、対象者一人ひとりの生活課題やその背景、取り戻したい暮らしの姿を丁寧に把握・分析する機会を十分に確保できないため、状態に応じた適切な支援・サービスを提案しにくいという課題があります。
「サービス」の段階では、短期集中予防サービスの利用者数が伸び悩んでいる自治体も多く、利用に至っても状態改善につながる割合が限定的との指摘もあります。
さらに、3ヵ月にわたる短期集中予防サービスを卒業した後の「出口」では、利用期間中に身につけたセルフマネジメントを卒業後も日常生活のなかで継続できるよう支える仕組みを整えきれていないケースが多いです。自立支援・重度化防止を引き続き図るための地域の受け皿の整備も追いついておらず、再びサービス利用に戻ってしまう例も少なくありません。

カギを握るのは「アセスメント」の質
―それらの課題の原因は、どこにあるのでしょう。
入口・サービス・出口、いずれの課題も、その起点にある「アセスメント」の質が大きく作用しています。アセスメントとは、その人が抱える生活課題とその背景を理解し、取り戻したい暮らしの姿を本人とともに明らかにしていくプロセスです。この過程が丁寧に行われることで、一人ひとりの状態に応じた適切な支援やサービスにつなげることができます。
しかし現実には、地域包括支援センターの業務負荷が年々増大するなかで、アセスメントに十分な時間と体制を確保することが構造的に難しくなっています。その結果、利用者の「デマンド」に応えることが中心になり、真の「ニーズ」を一緒に掘り下げるところまで至りにくいという状況が生まれています。
―「ニーズ」と「デマンド」は違うのでしょうか。
「デマンド」は利用者本人が日々感じている困りごとや要望、「ニーズ」は本来取り戻したい暮らしの姿と捉えています。たとえば、「お風呂に入れないので、デイサービスで入浴させてほしい」がデマンドだとすれば、「自宅で入浴できるようになり、夫婦で温泉旅行に行きたい」がニーズにあたります。困りごとに応えることはもちろん大切です。ただ、もう一歩踏み込んで、自立を阻害している要因を掘り下げ、本人と一緒に「この先、どんな暮らしを取り戻したいか」というニーズを明らかにすることが重要です。ニーズを起点に組み立てたケアプランには本人が納得して取り組めるため、サービス期間中の意欲や、卒業後のセルフマネジメントの定着にもつながります。アセスメントの質を高めることは、入口・サービス・出口のすべてに影響するのです。
―よい解決策はありますか。
「入口」となるアセスメントの充実と、そこから導かれるケアプランの質をより一層高めること、これがすべての課題を解決する起点になると考えています。しかし、地域包括支援センターの業務負荷が増大するなか、現場の努力だけでは限界があります。そこで当社では、アセスメントの実施からケアプラン作成を支援するシステムの活用を提案しています。具体的には、独自に開発した介護予防ケアマネジメント支援システム『ハレクルWith』を核に、「伴走支援」「専門職による支援」「データ分析支援」のメニューを組み合わせることで、介護予防事業の効果を最大化し、元気を取り戻す高齢者を一人でも増やす支援を行っています。要支援1、2の方々やフレイルの高齢者の生活課題に特化し、背景・原因の分析からケアプラン作成、モニタリングや評価までを一貫して担うシステムは、当社が調べた限り他に類を見ません。

専門職のノウハウを再現し、誰もが実践できる仕組みに
―どういったシステムですか。
『ハレクルWith』は、2府県21市町村54センターとの実証事業から得た1,000件以上のデータと、リハビリテーション専門職や熟練者のノウハウをもとに開発したシステムです。タブレットやPCで手順に沿って進めるだけで、専門的なアセスメントを誰もが実践できるようになります。多くの自治体で用いられる基本チェックリストが状態像の把握を中心とするのに対し、『ハレクルWith』では特許取得済みの「工程分析機能」により、日常生活での困りごとを具体的な動作に分解して原因を可視化します。生活不活発による筋力低下や、栄養・口腔面の課題など、困りごとの奥にある要因の連鎖まで捉えられるのです。この分析結果はICF(国際生活機能分類)に自動分類され、利用者の全体像を踏まえた目標設定へと自然に進めます。つまり、現場の誰もが経験の多寡によらず、漏れのない丁寧なアセスメントを実践できるのです。
―アセスメントが有効に機能すれば、どうなりますか。
一人ひとりの生活課題とその背景が明らかになることで、その人の状態に応じた適切な支援やサービスにつなげやすくなります。本人が取り戻したい暮らしの姿が見えれば、そこから逆算した目標設定が可能になります。『ハレクルWith』では、アセスメントで捉えた情報をケアプランに自動反映し、現状や課題、目標の文章を作成します。担当者はその内容を確認・調整しながらプランを仕上げていけるため、質の向上と業務負担の軽減を同時に実現できるのです。現場からは、「1日かけてつくっていたケアプランが30分でつくれるようになった」という声もいただいています。なにより大きいのは、本人が納得して取り組めるようになることです。目標が具体的であるほど、サービス利用中の意欲や卒業後のセルフマネジメントの定着につながるのです。
―そのほかの支援メニューは、どのように提供されるのでしょう。
『ハレクルWith』の導入にあたっては、当社の人材が現地に赴き、システムの立ち上げから現場業務への実装、運用研修に加え、地域課題や地域資源を踏まえた介護予防事業のロードマップ作成まで「伴走支援」を行います。また、実際の運用では、当社と連携するリハビリテーション職が、アセスメントやケアプラン作成の実践をサポートする「専門職による支援」も行っています。システムだけでは伝えきれない利用者との向き合い方や考え方を、研修を通じて直接お伝えしています。
こうして『ハレクルWith』に蓄積されたデータは、個々の高齢者の状態や改善状況の把握だけでなく、統計情報として事業の効果検証や地域課題の分析にも活用できます。多くの自治体が策定に動き始めている「第10期介護保険事業計画」においても、この「データ分析支援」は計画づくりを支える貴重な基盤となるはずです。

今後より一層問われる、各自治体のマネジメント力
―今後の自治体への支援方針を聞かせてください。
令和9年度から始まる「第10期」は、介護需要の急増を前に持続可能な介護保険制度を構築する重要な期間です。介護予防事業の柱である「介護予防・日常生活支援総合事業」をめぐっては、厚生労働省がフルモデルチェンジと表現する大幅な見直しが行われ、各自治体の裁量が大きく広がっています。どのような事業を設計し、どのようなデータで効果を測り改善していくか。各自治体のマネジメント力がより一層問われることになります。高齢者一人ひとりが元気を取り戻し、自分らしい暮らしを続けられる地域をつくる。その積み重ねが介護給付費の適正化にもつながっていくと考えています。当社は、『ハレクルWith』と伴走支援・専門職による支援・データ分析支援を組み合わせ、自治体の介護予防事業の効果を高めていくための支援をしていきます。「人が活きるオートメーション」をビジョンに掲げる当社だからこそ、現場の負荷を軽減しながら、専門職の力を最大限に引き出すお手伝いができると考えています。「元気を取り戻す高齢者にあふれる地域づくり」に挑む自治体にとって、頼れるベストパートナーでありたい。それが当社の願いです。


| 創業 | 昭和8年5月 |
|---|---|
| 資本金 | 641億円 |
| 売上高 | 8,018億円(令和7年3月期:連結) |
| 事業内容 | 制御機器事業、ヘルスケア事業、社会システム事業、電子部品事業、データソリューション事業など |
| URL |


.png)

.png)