【脱炭素・清掃業務】「EVごみ収集車」のトライアルで見えた、「脱炭素×業務環境の質向上」への道筋
(ELF EV じんかい車 / いすゞ自動車)


※下記は自治体通信 Vol.74(2026年6月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
脱炭素社会の実現が求められるなか、実効性があり、模範的な脱炭素施策が自治体には求められている。最近では、生活に密着した清掃業務における環境負荷の低減に着目する自治体も現れている。豊島区(東京都)もそうした自治体の一つで、EVごみ収集車を用いたトライアル運用を実施。業務へのEV活用に対する現場の不安払拭にとどまらない多角的な導入メリットを実感したという。取り組みの詳細を、同区担当者に聞いた。

1日も止められない清掃業務。EV導入は慎重な検討が必要
―豊島区がEVごみ収集車のトライアルを実施した背景について聞かせてください。
当区では環境基本計画に基づき、区民や事業者の模範となるべく環境施策として庁用車への低公害車や低燃費車の導入を率先してきました。そのなかで、約2万3,000ヵ所の集積所を毎日50台以上の車両がめぐる清掃業務は、「2030年のCO₂排出量半減」という区の目標に向け、果たすべき役割が極めて大きいものです。ただし、ごみ収集は一日たりとも止められない重要な公共サービスです。EV導入には、業務を確実に継続できるかどうか入念な検証が不可欠だと考えていました。
―どのような点で具体的な検証が必要だったのでしょうか。
まずは、安全確保の観点です。狭隘な道路が多い当区において、車両が円滑かつ安全に走行し、確実に作業を行えることは大前提となる条件でした。次に航続距離です。1日40~50kmの走行に加え、頻繁な発進と停止を繰り返す「ストップ・アンド・ゴー」の激しい環境下で、電力が1日持つのかという懸念がありました。さらに、1トン以上のごみを圧縮・排出する架装部分のパワーも重要な検証項目でした。それらに対して、いすゞ自動車から提案を受けたのが、「EVごみ収集車」のトライアルでした。同社のEVごみ収集車は小型トラック『エルフEV』をベースにしたもので、現行のディーゼル車と同等のコンパクトな車格であるため、大前提としていた狭隘道路での運用も可能と判断。今年2月に10日間のトライアルを実施しました。
―トライアルの結果はいかがでしたか。
回収ポイントと清掃工場を1日5往復するルートを選定し、普段通りの現場業務に投入しましたが、一切のトラブルなく安定した回収を行うことができました。特に注視していたバッテリーについては、2月の寒い時期に暖房を使い、かつ安全確認のために窓を開け放して作業するという過酷な条件下においても、5往復を終えてなお十分に残量のある状態で帰着できました。そしてこのトライアルでは、当初抱いていた実用性に対する不安を払拭できただけでなく、それ以上の成果も得ました。
燃料代の比較では、「半分以下に抑制」の試算も
―どのような成果ですか。
1つ目は、作業環境の改善です。マンションの屋内など空気がこもりやすい閉鎖空間での作業において、走行中や作業中に排気ガスを一切出さないEVは、職員やマンションの管理人の健康維持と安全確保に大きく寄与します。静音性の高さも期待以上であり、早朝からの収集業務において、モーター音のみの静かな作業は、住民の生活環境を保護するうえでメリットになります。
2つ目は、経済的なメリットです。ある1日のケースでの試算では、燃料代が半分以下に抑えられる結果が得られました。清掃車は毎日かつ長期にわたって稼働する車両ですから、この差は将来的な運用コストの低減に向けて大きな手応えとなりました。
―将来のEV化に向けた方針を聞かせてください。
今回のトライアルを通じ、EVごみ収集車はすでに実践投入が可能な段階にあると確信しました。今後は区として率先して導入検討を進めます。また、車両の置き換えにとどまらず、区民の環境意識を醸成するシンボルとしても活用したい考えです。子どもたちに人気の高いごみ収集車が排気ガスを出さないEVになれば、校庭などでより安全に環境学習を行えるほか、最新の車両を間近で見る体験は脱炭素社会への関心を高める絶好の機会になります。生活に密着した車両を通じて具体的な取り組みを広くアピールし、地域全体の機運を高めていきたいです。


地域の清掃業務にEV導入を検討している自治体は、ここまで紹介した豊島区だけにとどまらない。東京都内では、渋谷区でも「EVごみ収集車」のトライアルを実施し、実用性に関する検証を行った。トライアルにおいて重視したポイントや、現場の運転手が実務での検証を通じて得た気づきなどについて、同区担当者に詳しく聞いた。

実用性の懸念から導入検討を断念したことも
―渋谷区では、どのような背景からEVごみ収集車のトライアルを実施したのですか。
当区では環境負荷の低減を重要課題に掲げ、青色防犯パトロールカーなど公用車のEV化を進めています。しかし、清掃リサイクル領域では、過去に導入を検討したものの、断念した経緯があります。当区は「谷」の地形で起伏が大きいのが特徴です。ごみ収集車には、この急勾配を1トン以上のごみを積んで力強く登り切る登坂性能と、なおかつ1日中走り続けられるバッテリー容量が求められます。当時は、狭い路地での業務に対応できる2トン小型クラスで十分なバッテリーを備えた車両がなく、車体サイズと容量の両立という二律背反の課題が高いハードルとなっていました。
―そうしたなか、再び検討を始めたのはなぜでしょう。
令和7年冬にいすゞ自動車からトライアルの提案を受けた「EVごみ収集車」が、コンパクトな車体と大容量バッテリーを両立させたものであり、EVを使った収集業務の実現可能性を感じたからです。2トンの小型クラスでありながら、先行発売されていた他社の車両を上回る66kWhのバッテリー容量を確保していると聞き、「これならば、かつて諦めたときの課題を解決できるのでは」と考え、実務での検証に踏み切りました。
トライアルにおいては、冷暖房を使用し、かつ、架装部をフル稼働させながら、1日を通して起伏の大きいルートを走り切れるかという「実用的な航続距離」を優先して検証しました。
―実際のトライアルの内容を教えてください。
令和8年2月から3月にかけての約2週間、区内でも清掃工場から離れた北部エリアでトライアルを実施しました。期間中は渋谷区内の清掃工場が点検のため稼動を停止しており、より遠方の目黒区内の工場まで往復する必要がありました。1日3~4往復で走行距離は50~60kmにおよび、起伏の大きいエリアと長距離移動が重なる、EVにとっては過酷な条件を設定しました。
アクセルを踏むだけでも、急な坂道をグイグイ登れる
―トライアルの結果はいかがでしたか。
電力面では、予定していたルートを完走できることを確認しました。特に、バッテリー残量は空調の使用状況や天候、ドライバーの運転習性によって差が出ることがわかった点は、今後の運用を考えるうえで重要なデータとなりました。走行性能については、従来のディーゼル車ではギアを下げて登っていた急な坂道でも、アクセル操作に対して機敏に反応し、「加速が良く、坂道をグイグイ登る」と、運転手から評価されました。運用面でも、車庫に戻り充電設備に接続すれば、翌朝の始業時には満充電の状態で出動できることを確認しました。
このほかにも、実際にEVを使用してみて新たな気づきを得られたのは、トライアルの大きな成果です。たとえば、静音性と振動の少なさが想像以上でした。音の静かさは、歩行者が車の接近に気づかないほどだったと聞いています。エンジン振動のない、なめらかな乗り心地も、現場の評価が高かったですね。
―将来のEV化に向けた方針を聞かせてください。
ごみ収集車は、区民の生活に直結し、毎日のようにまちなかを走る非常に身近な車両です。それだけにEV化のインパクトは大きいものの、現場としては「ごみを積み残さない」という実用性の検証がなにより不可欠です。将来的な環境施策を見据え、今回のトライアルで得られた走行データや現場の声をもとに、まずは直営車両における実用性の見極めから慎重に検討を進めていきたいと考えています。

ここまでは、「EVごみ収集車」のトライアルを通じ、脱炭素と安定収集の両立を実感した2自治体の事例を紹介した。ここでは、その取り組みを支援した、いすゞ自動車に取材。清掃業務にEVを導入するにあたってのポイントについて聞いた。


EVごみ収集車の導入は、すでに「実践可能」なフェーズ
―ごみ収集車のEV化をめぐる自治体の動きをどう見ていますか。
篠田 いま、全国の1,200を超える自治体が、2050年のカーボンニュートラル実現を宣言しています。その達成に向け、台数が多く稼動率も高い清掃車のEV化は、極めて有効な手段であるという認識が広がっています。本来、ごみ収集業務は走行ルートや稼動時間が固定されており、充電時間も確保しやすいため、EV導入のハードルは決して高くありません。長年「働く車」を取り扱ってきた我々の視点では、すでに本格導入を検討してもおかしくないフェーズに入っているととらえています。
尾崎 しかし、現実には現場での心理的な障壁が依然として存在しているのも事実です。
―どのような点が心理的な障壁となっているのでしょうか。
尾崎 大きく2つの「不安」があげられます。1つ目は電力消費に関する不安です。架装物の稼動や「ストップ・アンド・ゴー」、冷暖房が航続距離にどう影響するか、実用性を不安視する声は根強いです。2つ目は、運用面に関するもので、車両の大型化による狭路での取り回しや、充電作業の負担への不安です。そこで当社では、こうした現場の心理的障壁を払拭するため、単なる車両提供を超えたトータルソリューションで自治体のEV導入を支援しています。

コンパクトなボディに大容量バッテリーを搭載
―詳しく聞かせてください。
尾崎 まずは、当社が長年蓄積してきたディーゼルごみ収集車の膨大な運行データを活用し、EVへの置き換えをシミュレーションすることで不安を解消します。そのうえで、実際のルートで実力を確かめるトライアルを推奨しています。当社のEVごみ収集車のベースとなる『エルフEV』は、狭隘な道路にも難なく進入できるコンパクトな「ショートボディ」でありながら、66kWhの大容量バッテリーを搭載し、余裕を持った完遂を可能にします。
篠田 現場の「使われ方」を徹底的に研究した当社の車両の設計思想は、現場から高く評価されています。ごみの投入口の高さや、最小回転半径をディーゼル車と同一にし、操作感覚を変えずに済むよう設計しているためです。発進までの起動時間を1秒以下に抑えるなど、細かなストレスの排除にもこだわっています。充電忘れについても、コネクテッドサービス『プレイズム』の遠隔監視によって、管理者が事務所にいながら適切にフォローできる体制を整えられます。
―自治体に対する今後の支援方針を教えてください。
尾崎 現在、東京23区をはじめとした自治体や事業者で、トライアルや本格導入の事例が相次いでいます。業務環境が厳しい都心部でも「ヒーターを使いながら電欠せず1日を走り切れた」といった報告が数多く寄せられており、これらはほかの自治体にとっても大きな安心材料になるはずです。自治体が率先してEV化の旗を振ることは、地域の事業者の意識を変える強力なメッセージになります。当社は先行事例から得られた知見やデータも提供し、自治体が脱炭素化への確かな一歩を踏み出せるよう、支援していきます。


| 創立 | 昭和12年4月 |
|---|---|
| 資本金 | 406億4,400万円 (令和7年3月末現在) |
| 売上高 | 3兆2,356億4,800万円 (連結、令和7年3月期) |
| 従業員数 | 4万2,117人 (連結、令和7年3月末現在) |
| 事業内容 | トラック・バスの製造・販売など |
| URL |


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