

※下記は自治体通信 Vol.67(2025年7月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
DX推進のキーツールとして広く浸透し、自治体内部での情報連携を劇的に変えているビジネスチャット。いまや庁内にとどまらず、庁外との連携にも活用する自治体も増えている。垂水市(鹿児島県)もそうした自治体の1つである。同市では、地域包括ケアシステムの運営に際して生じる介護事業所との頻繁な連絡業務に、庁内で運用するビジネスチャットを活用しているという。ツール導入の経緯を含め、活用状況や効果などについて同市担当者2人に聞いた。


庁内全体へ即座に浸透。「縦割り」を打破するツールに
―垂水市がビジネスチャットを導入した経緯を教えてください。
山元 令和5年に大隅半島管内の自治体による「意見交換会」に参加したのがきっかけでした。その際、周辺自治体から勧められたのが『LoGoチャット』であり、LGWANとインターネット双方の環境からアクセスできるため、「情報連携が進み、業務効率化に非常に有効」という話でした。当市でも、ネットワークの三層分離構造によって、インターネットの活用が制約されており、各課に1台のインターネット端末は順番待ちの状態でした。この時点で、県内ではすでに65%の自治体が『LoGoチャット』を導入していることも知り、無料トライアルを開始しました。
―結果はいかがでしたか。
山元 レスポンスに優れた連絡手段として即座に浸透し、期待通りに情報連携が効率化されました。避難所や投票所の運営時には、庁外から手軽に文字や写真を庁内端末に送れるため、大変好評でした。トライアル利用者へのアンケート結果も、97%が「継続利用を希望する」というものでしたので、令和6年4月からの本格導入を決めました。
―現在までの活用状況を教えてください。
山元 すべての正規職員と一部の会計年度任用職員に対して約260のアカウントを発行し運用していますが、職員からは「情報共有の速度が上がった」との声が多いです。私も、従来のメールや電話にはない、多人数とリアルタイムで情報共有できる革新性を実感しています。コミュニケーションのあり方が変わることで、行政特有の縦割り文化を打破するツールになりえるとの期待も感じています。
市木 こうした効果を実感したことから、福祉課では効率化が必要と考えていた介護事業所との情報連携にも、『LoGoチャット』を活用することを考えました。
介護事業所との連携にも活用。91%が「今後も利用を望む」
―詳しく教えてください。
市木 地域包括支援センターを運営する福祉課では、居宅介護事業所のケアマネジャーのほか、市内の介護事業所や病院などと頻繁な連絡業務が発生します。これまではFAXでのやりとりが中心でしたが、誤送信のリスクがあり、そこには個人情報が含まれる資料もあるため、情報管理の観点から改善が必要でした。なによりも、これらの業務は各所の担当者の大きな負担となっていました。『LoGoチャット』は、アカウント間で情報管理が徹底でき、普段あまりPCを使わないケアマネジャーでも、スマホから利用できます。そこで、新たに「介護事業所連携用」として庁内運用とは別の環境を構築し、事業所やケアマネジャーなどに54アカウントを発行して、令和7年2月から運用しています。
―活用効果はいかがですか。
市木 これまで紙ベースで行われていた書類のやりとりがなくなり、電話対応も大きく減ったため、福祉課と介護事業所双方で業務負担が軽減されています。訪問先からの業務報告にも利用されています。現場では、介護対象者ごとにトークルームを開き、関係者がその人の記録を共有するといった運用が行われるようになり、きめ細かなケアを支えています。アンケートでは、利用者の87%が業務効率化の効果を実感し、91%が「今後も利用を望む」と回答しています。
―今後の方針を聞かせてください。
市木 「介護事業所連携用」環境には今後、業務でつながりの深い市内の診療所や、市外の福祉用具事業者にも参加してもらう計画です。市域を越えた地域一体でのデジタル化を促す庁外活用のモデルケースになれればうれしいですね。


前述の垂水市が活用していた自治体専用ビジネスチャットからは、新たに「生成AIサービス」が利用できるようになり、いま多くの自治体で導入が進んでいる。新座市(埼玉県)でもこのほど、トライアルを経てその効果を確認し、生成AIサービスを正式に導入。幅広い業務において全庁的な活用を推奨しているという。同市担当者の山口氏と皆川氏に、生成AIサービスの導入を決めた経緯や導入効果などについて聞いた。


「持続可能な行政運営」に向け、生成AIに注目
―新座市が生成AIサービスを導入した経緯を教えてください。
山口 当市では、業務の複雑化・多様化や職員数の減少が年々進む中、持続可能な行政運営を確立するうえで、活用すべきデジタルツールの1つとして、生成AIには注目していました。そこで、いくつかの生成AIツールの比較検討を行い、一部は試行的に利用していました。そうした中、令和3年から庁内で活用していた『LoGoチャット』からも、生成AIサービス『LoGoAIアシスタント』の無料トライアルの案内があったことから、令和5年7月から3ヵ月間、実施しました。
―結果はいかがでしたか。
皆川 トライアルには、複数の部署の主事から部長級まで、約140人に参加してもらいました。利用状況を検証する中で、『LoGoAIアシスタント』の特徴であるLGWAN環境でもインターネット環境でも使える点や、個人情報送信制限機能などは、現場で安心して活用できる機能として高く評価しました。なによりも一番大きかったのは、庁内に浸透している『LoGoチャット』上で使用感が変わることなく利用できることでした。導入後に生成AIの活用を広げるうえでも重要だと考えたからです。実施したアンケートでも、ほとんどの職員が「業務効率が向上した」と回答し、70%以上が「今後も継続利用したい」と答えたことから本格導入を決め、令和6年4月から運用を開始しました。
「まずはAIに聞く」。RAGが実現する行政の改革
―現在までの活用状況を聞かせてください。
皆川 希望者全員にアカウントを発行しています。部署や役職を問わず利用は広がっているようで、最近では月間利用上限文字数を突破してしまう月もあり、利用が広がっていることを実感しています。本格導入後半年の令和6年9月に実施したアンケートでは、利用したと回答した人の76%が「業務効率が上がった」、77%が「1日平均10分以上の業務効率化効果を実感した」とそれぞれ回答しています。その後、「RAG(検索拡張生成)」機能が利用できるようになったことが要因の1つとなり、利用状況はさらに広がりました。
―RAG機能とは、どのようなものですか。
山口 事前に関連情報を登録することで、生成AIの回答精度を高める機能です。当市の事情に適合した回答が期待できるこの機能を、多くの部署に共通する用途で活用したいと考え、「FAQチャットボット」のようなイメージで活用しています。それにより、部署間での問い合わせ対応の省力化を目指しています。全庁から共通した問い合わせが寄せられる担当課のマニュアルとして、具体的に「情報セキュリティポリシー」のほか、各部署での予算執行や契約業務のルールを定めた「予算執行の手引き」、「発注事務マニュアル」などの情報を学習させています。RAG機能の活用により、担当課に問い合わせる前に「まずはAIに聞いてみる」という習慣を定着させ、問い合わせを受ける側も含め双方の業務の効率化を図っていきたいです。
―今後の方針を聞かせてください。
山口 RAG機能の活用をめぐっては庁内でも関心が高く、過去の議会議事録を登録し、今後の答弁書作成を効率化するといったニーズも出てきています。上限文字数との兼ね合いから、効果や実現性を踏まえて、学習情報を選別していきたいと考えています。このRAG機能の有効活用を図りながら、引き続き、持続可能な行政運営を追求するなかで、いずれ生成AIの利用が「当たり前」となる環境をつくっていきたいです。


これまでに紹介したチャットツールと同様、LGWAN環境からもインターネット環境からもアクセスできる特徴を継承した「自治体専用電子申請サービス」も登場し、近年多くの自治体が行政手続きのオンライン化に活用している。釧路市(北海道)では、ツールの多様な機能を有効活用し、これまで対応していなかった各種証明書のオンライン申請を開始。住民の利便性向上に寄与しているという。同市担当者2人に取り組みの詳細を聞いた。


フォームの電子化だけでは、オンライン化できない業務も
―釧路市がオンライン申請に取り組んだ経緯を聞かせてください。
豊巻 令和2年度に介護高齢課が、事業者からの各種報告をオンライン化し、入力・集計業務を省力化したいと希望したことがきっかけだったようです。その際、ベンダーから紹介されたのが『LoGoフォーム』でした。無料トライアルを利用して試験導入した結果、「使うと手放せなくなる」といった評価が広がったと聞いています。
―具体的に、評価のポイントはなんだったのでしょう。
後藤 まず、プログラミングの知識がなくても直感的に操作できるところです。また、インターネットだけでなくLGWANからも使える点です。さらに、ほかの自治体が公開しているテンプレートの豊富さも魅力でした。そうした点が評価されて、現在は庁内で手続きのオンライン化に利用されるツールはほぼ『LoGoフォーム』に集約されています。庁内では、これまでに100以上の部署で2,000を超えるフォームが作成されています。
豊巻 ただし、当初は我々2つの課では、活用には至りませんでした。
―それはなぜでしょう。
豊巻 戸籍住民課が行う「住民票の写し」「身分証明書」などの発行手続きには本人確認が必要なものも多く、また必ず料金が発生するので、庁内外でいかにニーズが高くても、フォームを電子化するだけではオンライン申請に対応することはできなかったのです。
後藤 課税証明書を出す市民税課も同様に、本人確認や手数料の支払いが必要でした。そこで、マイナンバーカードで本人確認ができる「電子認証」と、「オンライン決済」機能という『LoGoフォーム』の2つの追加機能を使えるようにし、令和5年12月から運用を開始しています。
「苦情」から「感謝」へ、申請者の反応が変わった
―運用効果はいかがでしたか。
豊巻 これまでの郵送請求に比べ、発行手続きが格段に迅速化しました。郵送請求の場合、必要書類などの準備に時間を要し、請求してから証明書が手元に届くまで約1週間は必要でした。一方、オンライン申請では、利用者は封筒や切手、為替手数料の準備が不要で、郵送の手間もありません。コンビニ交付では限られていた発行書類も9種類へと広げられ、サービス向上につながりました。担当職員側でも、1件あたりの処理時間は郵送での請求と比較して短くなり、全体で年間約12時間の業務削減につながっているとの試算が出ています。
―市民税課ではいかがでしたか。
後藤 記入不備の確認といった電話対応が激減したことなどにより、年間50時間程度の業務削減につながっています。これまでは、「郵便局まで小為替を買いに行けない」「明日必要なのに間に合わない」などの「苦情の電話」を受けることもあり、経験の浅い若手職員は精神的に疲弊してしまうこともありました。しかし今では逆に、利用者から「ありがとう」と言ってもらえる場面も増え、現場としてはそれがなによりの効果だと感じています。
―今後の方針を聞かせてください。
後藤 『LoGoフォーム』にはほかの自治体が公開した多くのテンプレートが掲載されており、それらを見ていると、「こんな使い方もあるんだ」とアイデアが広がり、オンライン申請に前向きな気持ちになります。実際に、多くの部署で利用が広がり、今では『LoGoフォーム』は当たり前のツールになっています。今後は、「電子認証」や「オンライン決済」の機能をさらに活用しながら、「スマートフォンの中に市役所がある」という当市のDX推進方針の基本理念の実現に向けて取り組んでいきたいです。

ここまでは、各自治体でDX推進に貢献する『LoGoチャット』『LoGoフォーム』の導入事例を見てきた。ここでは、両ツールを提供するトラストバンクの木澤氏に、自治体支援方針などを聞いた。

庁外事業者との連絡業務など、活用の幅が広がっている
―『LoGoチャット』の自治体での普及状況はいかがですか。
令和7年2月1日時点で1,488自治体と、すでに全国の8割を超える自治体に導入されています。ユーザーコミュニティには全国約4万人の自治体職員が参加しており、庁内でのコミュニケーションのみならず、自治体間の連携、さらには庁外の事業者との連絡業務などへと活用の幅が広がっているのを感じます。まさに、LGWAN環境でもインターネット環境でも、さらにはPCでもスマホでも使える『LoGoチャット』ならではの特性が活かされており、庁内での業務改善にとどまらず、地域のデジタル化やネットワーク強化を支えるツールとしての位置づけを強めています。
―最近ではチャット上で生成AIも使えるようになっていますね。
はい。『LoGoAIアシスタント』は、同じく2月1日時点で152自治体が有償契約を結んでいます。これまでは、日常的に使う『LoGoチャット』の使用感そのままに生成AIが利用できる点を特徴としていましたが、このほど、Webブラウザ版もリリースしています。これにより、ユーザーはこれまで以上に『LoGoAIアシスタント』を柔軟に活用できるようになりました。さらに、生成AIの回答精度を高めるためのカギとなるプロンプト*については、導入自治体が現場で実際に利用し、効果を実感したプロンプトをサービス内に登録しており、「テンプレート」として公開しています。すでに実装されている「RAG機能」もあわせて、ユーザーの導入効果を高める機能として今後も充実を図ります。
―今後の方針を聞かせてください。
『LoGoチャット』の活用事例が示す通り、今後、自治体には地域の関連団体との情報連携強化も求められてくると思われます。当社では、全国の自治体をつなげるツールとしてだけでなく、地域のネットワークを支えるツールとして『LoGoチャット』を活用してもらえるよう支援していきます。
*プロンプト : 回答を得るために、AIに対して与える指示や質問

4割以上の自治体が導入し、各現場で職員がDXをけん引
―一方の『LoGoフォーム』についても、導入実績を教えてください。
こちらも令和7年2月1日時点で767自治体と、リリースから約5年で全国の4割以上の自治体に導入されています。そこではこれまで約24万手続きで申請フォームがつくられ、5,000万件以上の回答を受け付けています。特別なITスキルがなくても使いこなせるノーコードツールとして、さまざまな現場の職員が『LoGoフォーム』を活用し、行政手続きのオンライン化をけん引している状況がこれらの数字に表れています。
―活用が広がる理由はなんですか。
「オンライン決済」や、マイナンバーカードによる「電子認証」をはじめとする豊富なオプション機能によって、幅広い用途で活用できる機能が充実していることが大きいです。さらに、導入直後から効果を出せる仕組みも、活用の広がりを後押ししています。たとえば、『LoGoフォーム』では、テンプレート機能として各自治体が過去に作成した5,000件以上の申請フォームが公開されています。これらの中から、もっとも簡単に高い導入効果が出せるフォームを当社が選定し、「はじめてのDX推進パック」として提供しています。この内容をさらに充実させ、現在は14の業務カテゴリーで60以上のテンプレートが無償提供されています。
―今後の自治体への支援方針を聞かせてください。
最近では、事務組合や広域連合といった特別地方公共団体での活用が広がっていますので、今後は未導入自治体とあわせて提案を強化していきます。その一環として、従来、6ヵ月としていた無料トライアル期間を延長する「行政DX応援キャンペーン」を展開しています。トライアルで導入効果を十分実感していただいたうえで、新年度から切れ目なく利用できるように、来年3月までトライアル期間を延長します。
そのほか、ユーザーの要望を反映したオプション機能の拡充や、研修会の開催など、導入効果を最大化するための支援にも力を入れていきます。『LoGoフォーム』でぜひ、自治体DXの「成功体験」を積み重ねてください。


設立 | 平成24年4月 |
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資本金 | 1億2,224万3,816円 |
事業内容 | メディア事業、教育事業、パブリテック事業 |
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