熱中症対策 自治体事例|関係7部局のプロジェクトチームで対策、図書館で「クーリングシネマ」、小学生にランドセル背あてパッド等を配布
福島県、むつ市、焼津市の熱中症対策 自治体事例
我が国における熱中症による救急搬送者数は、平成22年以降、毎年4万~7万人前後で推移し、また、熱中症による死亡者数は、平成30年以降、高い水準が続いています。
地球温暖化の影響が懸念される中、令和3年8月に公表された気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の「第6次評価報告書第1作業部会報告書」では、地球温暖化の進行に伴い、今後顕著な高温の頻度・強度がますます高まっていくことが予測されており、海外では熱波が頻発し、甚大な健康被害が生じています。
そうしたなか、令和5年4月に「気候変動適応法及び独立行政法人環境再生保全機構法の一部を改正する法律」(令和5年法律第23号)が成立し、さらに同年5月に「熱中症対策実行計画」が閣議決定されました。この計画では、“地方公共団体及び地域の関係主体における熱中症対策”が柱の一つとして重視されており、期待される役割は多様化し、連携を密にするなど、地域における対策の実施体制を強化していくことが求められています。
ここでは環境省「地域における熱中症対策の先進的な取組事例集」と環境省・独立行政法人 環境再生保全機構「地域における熱中症対策の先進的な取組事例集」および各自治体の発表リリース資料等より、先進的な熱中症対策自治体事例をお伝えします。
今回は福島県、むつ市、焼津市の熱中症対策自治体事例を紹介します。
関係7部局のプロジェクトチームで対策|福島県
福島県は7つの関係部局を横断するプロジェクトチーム(PT)で熱中症対策をしています。
知事を本部長として設置した「福島県カーボンニュートラル推進本部」の下部に組織した3つの「部会」のうち「適応策推進部会」の「熱中症・感染症対策プロジェクトチーム」で熱中症対策を推進しているもので、同PTは危機管理部、生活環境部、保健福祉部、こども未来局、農林水産部、土木部、教育庁で構成されています。
福島県カーボンニュートラル推進本部は地球温暖化対策の2つの柱である「緩和策」と「適応策」を両輪に総合的かつ横断的に施策を進めており、推進本部の下部に組織した3つの「部会」および「プロジェクトチーム(PT)」で具体的な施策や実務者による協議を進めています。
施策全体の進捗管理や総合調整はカーボンニュートラル推進監を座長とする、「福島県カーボンニュートラル推進調整会議」が実施しています。
取り組み内容
熱中症・感染症対策PTでは、熱中症や感染症リスク抑制に向けた適切な情報収集および対策などについて協議しています。
適応推進部会のPTは、熱中症・感染症対策PTのほかに、頻発化・激甚化する災害に関する情報収集及び防災・減災対策などについて協議する「自然災害対策PT」(関係部局=危機管理部、生活環境部、農林水産部、土木部)、農林水産業への影響等に関する情報収集及びそれを踏まえた対策について協議する「農林水産業対策PT」(関係部局=生活環境部、農林水産部)があります。
適応策の推進体制
福島県では気候変動影響及び適応7分野(農業・林業・水産業、水環境・水資源、自然生態系、自然災害・沿岸域、健康、産業・経済活動、国民生活・都市生活)に関する情報の収集、分析及び提供等を行うため、気候変動適応法に規定する地域気候変動適応センター(福島県気候変動適応センター)を令和5年に環境創造センターおよび環境共生課に設置しています。
環境創造センターは、国の気候変動適応センターを担う、国立環境研究所の福島拠点が入所し、また、本県の環境の情報発信拠点としての交流棟「コミュタン福島」を有しており、国環研を通じた効率的な情報の収集及びコミュタン福島による効果的・効率的な情報の発信等を実施しています。
図書館で「クーリングシネマ」|むつ市
青森県 むつ市では市有施設でのクーリングシェルター開設に合わせ、通常の図書館営業に加えて、普段は講演会等を対象に団体向け貸出に対応している「むつ市立図書館」のミニシアター「視聴覚ホール」(座席数99席)を“涼みどころ”として開放、上映設備と図書館で所蔵している映画DVD等を活用して、映画を観ながら涼める時間と空間を期間限定で提供しています(令和7年は7月19日~8月31日まで)。
「いつもの図書館」で十分クーリングシェルターの役目は果たせる一方で、「今あるリソース(ミニシアター・所蔵DVD)」を活かし、ちょっとした仕掛けをすることで「図書館ってこんなこともしているんだ!」というインプレッションを市民に届けたいと考えたのがこの企画のスタートでした。
取り組み内容
上映作品は図書館で所蔵している著作権許諾済の視聴覚資料(DVD)に限定しており、おおよそ下記の時間帯で上映しています。
・9時10分頃~:大人向け作品(邦画)
・11時00分頃~:子ども向け作品
・13時00分頃~:大人向け作品(洋画)
・15時00分頃~:子ども向け作品
通常第2・第4木曜日は休館日ですが、クーリングシネマ実施期間中はクーリングシェルターとして閲覧エリア以外は開放。展示ホール・ラウンジは開放し、あわせてクーリングシネマも実施しています。
また、2026年に開催される第80回国民スポーツ大会・第25回全国障害者スポーツ大会「青の煌めき あおもり国スポ・障スポ」を盛り上げるため、映像作品上映の合間に、青の煌めきあおもり国スポ・障スポ実行委員会が作成した競技種目紹介動画「Go!Go!煌めきチャレンジャー」シリーズや、青の煌めきダンス動画も大画面で上映しています。
「クーリングシネマ2025」上映スケジュールとむつ市立図書館のミニシアター「視聴覚室」(円内)
小学生にランドセル背あてパッド等を配布|焼津市
静岡県 焼津市は登下校時の熱中症対策として、クールタオル、ランドセル背あてパッドを小学校1~6年生を対象に配布しています。登校後は教室の冷凍庫に保冷剤を保管し、下校時も背あてパッドを使用できるように工夫しています。また、児童・生徒が活動する際の熱中症対策として小中学校のグラウンド等にミストシャワーを設置しています。
焼津市内の全小学校の体育館への空調設備設置も令和7年度中に完了させる予定です。
取り組み内容
ランドセル背あてパッド
登校時は自宅で冷却した保冷剤を装着し、下校時は各教室に1台(高学年は学年に1台)設置された冷凍庫で課業中に冷却した保冷剤を装着します。
クールタオルケース
ランドセルに専用ケースに入れたクールタオルを取り付けました。クールタオルを水に濡らして首に巻き児童の体温を冷まし、登下校中の熱中症の発生を予防します。
ミストシャワーの設置
児童が校庭で活動する際の出入口となる場所にミストシャワーを設置。校庭活動中の冷却に活用しています。
体育館への空調設備設置
焼津市内の全小中学校の校舎(教室)に空調設備を設置済み。令和6年度は焼津市内の全中学校の体育館への空調設備の設置が完了し、令和7年度中に焼津市内の全小学校の体育館への空調設備設置を目指しています。
また、設置完了までの経過措置として、スポットクーラーを使用しています。
そのほかの取り組み
登下校中の熱中症対策だけでなく、体育館に温度計や救急対応フローの掲示をしたり、廊下に児童が自ら暑さ指数(WBGT)を見て行動できるような掲示をするなど、自主的に予防ができるようにしています。
〈参照〉
環境省「地域における熱中症対策の先進的な取組事例集」
https://www.wbgt.env.go.jp/pdf/model_projects/r05_casebook_full.pdf
福島県気候変動適応センター「福島県における適応策の推進に向けた取組」
https://www.env.go.jp/content/000203392.pdf
むつ市「図書館で『ひと涼み』―むつ市立図書館クーリングシェルター」
https://www.city.mutsu.lg.jp/library/annai/coolingshelter_library_2025.html
独立行政法人 環境再生保全機構「地域における熱中症対策の先進的な取組事例集~静岡県焼津市 小中学校での熱中症対策」
https://www.erca.go.jp/heatstroke/about/pdf/r06/08_05.pdf