

※下記は自治体通信 Vol.59(2024年7月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
デジタル技術の活用で業務改革の推進や行政の効率化を目指す自治体DXが進められているなか、注目を集め始めている取り組みがある。インターネット上の仮想空間である「メタバース」の導入だ。全国の自治体にメタバースの活用を提案している大日本印刷(DNP)の山川氏は、「メタバースが持つ特性を活かせば、自治体での活用領域は広がるはず」と語る。メタバースの特性とはどういったものか。また、自治体現場ではどのように活用できるのか。同氏に詳しく聞いた。

「匿名性」「どこからでも」、2つの特性を活かした「役所」
―自治体はメタバースをどう活用できると考えていますか。
メタバースでは、自身の分身である「アバター」で仮想空間内をいつでも自由に移動できるため、観光資源をメタバースで再現して、地域の魅力を現実世界に近い形で多くの人に伝えるといった活用が考えられます。実際に当社では、メタバースを含む、リアルとバーチャルの空間を融合するXR技術を活用した「XRコミュニケーション®事業」に注力しており、令和5年には自治体向けメタバースのパッケージ商品を開発しました。そのなかには、観光資源の魅力発信といった内容のほかに、メタバースが持つ特性をさらに活かす形で、「相談」「交流」などのサービス機能も含まれています。
―メタバースのどういう特性を活かしたのでしょう。
まずは「匿名性」です。メタバースでは、アバターを動かして、音声やチャットでコミュニケーションを行います。リアルタイムに会話やリアクションができる一方、直接顔は合わせません。いい意味で顔が見えず、音声やテキストに加えリアクション機能により、対面での会話のような安心感を得られるため、対面では伝えにくいこともメタバースだと伝えやすくなる面があります。また、インターネットから利用できるため「どこからでも利用しやすい」という特性もあり、来庁が困難な高齢者、障がいのある方々にも新たな選択肢になると考えます。この2つの特性を活かすことで、自治体は住民に「相談」と「交流」の場を提供できると考え、当社では「メタバース役所」という形で提案しています。
現実の世界では、体験できない価値を提供
―「メタバース役所」とはどういったものでしょう。
役所を模した設計で、様々な相談会や交流会を行えるメタバース空間です。たとえば、「不登校児の悩み相談会」「子育て支援交流会」に、住民はパソコンやスマートフォンから自分のアバターを選んで参加できます。相談会では、「顔が見えない」状態ですが、アバターによって電話とは違った「親近感」も得られ、話しにくい内容でも口を開きやすくなるはず。また、「どこからでも利用しやすい」ため、交流会には年配者など様々な世代の参加が見込め、世代間交流の機会が増えると期待できます。このようにメタバースとは、現実の世界では体験できない価値をもたらしてくれる空間なのです。その空間で参加者同士の交流は活発化し、参加者が行政を身近に感じることにもつながると思います。

―今後の方針を教えてください。
複数自治体で1つの「メタバース役所」を利用する「共同利用型」の提供を開始します。また近い将来、生成AIを実装した「案内係のアバター」などを用意し、参加者を自動的に案内できる仕組みの導入を検討しています。当社では、メタバース内で各種行政手続きが完結できる「未来の役所」を目指しており、今回はその第一歩です。ぜひお問い合わせください。


デジタル化による住民サービスの拡充にいち早く取り組んできた当市では今回、「メタバース役所」の実証事業に取り組みました。令和6年2~3月に実施し、計11回の「相談会」や「交流会」を行いました。その結果、10~70代の幅広い年代から想定以上の100人を超す住民の参加がありました。当初は「メタバース」という斬新な取り組みが受け入れられるのか不安でしたが、「匿名でいつでも利用できるため参加してみた」という住民も多く、メタバースの可能性を実感できました。
メタバースでは、これまでのITツールにはないコミュニケーションが可能だと、改めてわかりました。たとえばWeb会議ツールとは違い、なにより自由に仮想空間を移動でき、より多くの人と自発的に接する機会を増やせます。また、アバターは「分身」のため、いつもの自分とは違った感覚で話せる効果もあるようです。
住民の交流が活発化すれば、地域も元気になります。住民がアバターを使って気軽に集える「メタバース役所」は、そうした役割を十分担える場だと感じました。

設立 | 明治27年1月 |
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資本金 | 1,144億6,400万円 |
売上高 | 1兆4,248億2,200万円(令和6年3月期:連結) |
従業員数 | 3万6,911人(令和6年3月31日現在:連結) |
事業内容 | スマートコミュニケーション部門、ライフ&ヘルスケア部門、エレクトロニクス部門 |
URL |
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(グループ会社ハコスコのサイト)