【福祉DX・M365】悩みに寄り添うAIチャットボットが、「相談しやすい窓口」づくりの礎に
(AIチャットボット / NTT東日本)


※下記は自治体通信 Vol.73(2026年4月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
各自治体では、重層的支援体制を整備すべく多様な福祉相談窓口を設けているが、「どこに相談すればよいかわかりづらい」「心理的ハードルが高い」と相談できない住民も多いという。千葉県では、この課題を解決するため、AIチャットボットを導入。利用者の悩みを解きほぐし、適切な相談窓口を案内する仕組みを構築した。同県をいまも伴走支援するNTT東日本の菅原氏は「生成AIが、住民が気軽に相談しやすい体制づくりに役立つ」という。その理由と、取り組みの詳細を同氏に聞いた。

従来の電話相談では、支援から取り残される住民も
―千葉県による福祉相談窓口へのAIチャットボット導入を支援した経緯を教えてください。
千葉県では、国の「重層的支援体制整備事業」に先駆けて、平成16年度から、制度の狭間や複合的な課題を抱えた住民が24時間365日電話で相談できる「中核地域生活支援センター」を県内各所に設置していました。ここでは、県内自治体と連携し、年間7万件以上もの相談を受け付け、その住民が住んでいる地域で受けられる支援などを紹介していました。その成果には手ごたえを感じていた一方で、それでもなお「どこに相談すればよいかわからない」という住民の声があるうえ、心理的ハードルから電話での相談を敬遠する住民も一定数いたそうです。
―心理的ハードルとは具体的にどのようなものですか。
福祉相談では、機微な個人情報を含むうえ、顔が見えないとはいえ、初めて電話をかける相手に深い悩みを打ち明けることに心理的な負担を感じる住民も少なくなかったようです。そのため、この心理的ハードルによって、支援が受けられる可能性があるにもかかわらず、相談できない住民がいると想定されました。こうした潜在的な層が取り残されないよう、適切な支援に結び付ける「新たな入口」の整備を検討した結果、AIチャットボットに着目したそうです。
―千葉県は、なぜAIチャットボットに着目したのでしょう。
既存のFAQやシステムでは回答できないような複雑な悩みでも、生成AIを活用したチャットボットであれば、質疑応答を繰り返すことで柔軟かつ適切に対応できると考えたと聞いています。
そこで、千葉県は各市町村とも協議を重ねた結果、適切な相談窓口を教えてくれる電話以外の方法として、AIを活用したチャットボットシステム導入を決定。当社がその構築を受託事業者として請け負い、令和6年12月の試験運用を経て、令和7年2月から『いつでも福祉相談サポット』として本格運用を開始しています。
悩みを解きほぐす対話で、利用者の86%が満足感
―構築にあたり、どのような機能が求められましたか。
大きく2つの機能が求められました。1つは相談者に「寄り添う」機能です。キーワードに反応して即座に事務的な答えを返すのではなく、AIの自然言語処理を用いた対話を通じて相談内容を「解きほぐし」、必要な相談支援機関を案内する機能です。もう1つは「間違いのない確実な情報を提供する」ことです。AIの誤回答を防ぐため、回答の基礎となる情報として、県の福祉ガイドブックから相談支援機関に関するデータベースを構築しました。そして、このデータベースにある情報からのみ回答を生成する仕組みを取り入れることにより、生成AIによる間違った情報を案内するリスク(ハルシネーション)を防止しています。さらに、県と密に連携し、生成AIが相談内容から相談分類を特定するデータベース情報や、案内する窓口情報の内容を定期的に改善しています。AIチャットボットは一度導入して終わりではなく、実際の利用状況を見ながら自治体と協力して改善を続ける「継続的な伴走」が、なによりも重要だと考えています。
―その継続的な伴走で、どのような成果が表れていますか。
千葉県の担当者によれば、令和7年12月末までに利用者は3,521件におよび、そのうち86%が満足しているという結果が得られています。今後もさらなる改善を行いながら、利用者の拡大と満足度向上をめざしています。この千葉県との取り組みを広げていければ、福祉的支援を必要としている、より多くの住民と福祉関連機関をつなげ、適切な支援に結び付けられると考えています。

これまでは、福祉相談にAIチャットボットを活用した千葉県の事例を紹介した。ここでは、その開発やサービス設計などを担ったNTT東日本の窪寺氏と傍島氏を取材。福祉領域での重層的支援体制に資する生成AIのさらなる活用法について、両氏に聞いた。


多様な支援を行うべき職員が孤立することも
―重層的支援体制の整備が進められるなか、自治体の福祉現場における現状をどう見ていますか。
傍島 重層的支援体制の整備事業では、窓口支援体制の拡充に加え、心理的ハードルによって相談できていなかった住民が相談しやすくなる取り組みが求められています。さらに、表面的な問題の解決にとどまらず、世帯全体の状況や背景まで含めたアセスメントが必要です。一方で、自治体は深刻な人材不足に直面しており、職員の経験やスキルにもばらつきがあります。高度な対応を限られた人員でこなさなければならず、現場が疲弊しているとよく耳にします。
窪寺 特に、重層的支援の場合、従来の所掌範囲を超えた対応が必要になることも多く、関係機関との情報共有がうまくいかないと、「職員が一人で負担を抱える」という例もあります。こうした事態を避けるためにも、福祉関連業務の効率化は不可欠だと考えます。
―どう解決すればいいでしょう。
傍島 住民の複合的な課題に対し、柔軟に対応できる生成AIの活用が有効だと考えます。そこで当社では、住民が普段から使いなれたスマートフォンから24時間いつでも気軽にチャットで相談でき、相談者の心理的ハードルを下げられるAIチャットボットを提供しています。利用シーンを想定して開発し、相談者が見やすいUIや回答のしやすい入力方式などを実現しました。また、職員側が利用状況を把握し、運用上の改善点を見つけやすくなるダッシュボード画面も導入しています。
窪寺 このAIチャットボットは「どの窓口に相談すればよいか」を相談者に案内するものですが、複雑化した課題に対しても、生成AIによる悩みの解きほぐしで適切な窓口へ導き、相談者が探索する負担を軽減できます。それに伴い、職員による電話対応などの業務も削減できるため、現場の負担を軽減できます。さらに、生成AIを活用した「音声マイニング」を導入すると、相談者のヒアリングにかかわる時間短縮に加え、相談後の情報共有も迅速化します。

情報共有が円滑になれば、職員の孤立防止にもつながる
―詳しく教えてください。
窪寺 「音声マイニング」は、面談時の音声を自動で文字起こしし、要約や必要な情報を抽出するシステムのことです。これにより、相談時のメモ取りや事後の相談記録作成の負担を軽減できます。また、会話内容から関連する福祉制度を自動的に提示するレコメンド機能や、登場人物を整理して家系図を自動描画する機能も備えています。こうして可視化されたデータにより、相談後に行う、所掌範囲を超えた関係各所との情報共有が円滑になり、担当職員の孤立防止にもつながります。
傍島 当社では、こうした生成AIのシステム提供だけでなく、全国各地で自治体に密着したエンジニアチームによる伴走支援を提供することで継続的に改善し、職員や住民の使い勝手、案内精度の向上に寄与していきます。
―自治体に向けた、今後の支援方針を教えてください。
窪寺 当社はデジタル技術の提供を通じ、職員が相談対応や支援に専念できる環境づくりを支援します。そして「住民も職員も孤立させない」福祉を、自治体のみなさんと共に実現していきたいと思います。

福祉分野では、これまでに紹介した相談業務に限らず、多くのアナログ業務が残されている。そうしたなか、NTT東日本では、自治体のノンコア業務を効率化する多様なツールのノウハウを提供し、組織的なDXを伴走支援している。その詳しい内容について、同社の奥津氏と倉冨氏に聞いた。


「自分たちでできた」という達成感が、DXの機運を高める
―自治体の福祉分野におけるDXの現状をどう見ていますか。
倉冨 福祉系業務はDXが困難な住民との「対面業務」が主ではありますが、一連のフローにおける申請や庁内の情報共有といった、ツールによる自動化が可能なノンコア業務にまでアナログな作業が残されています。その理由の1つに、ツール導入後の利活用を促進する体制づくりや、組織の運用改革が伴っていない点が挙げられます。
奥津 組織的なDXを推進するためには、単一の業務に活用されるアプリなどではなく、多様なアプリが連携するコラボレーションツールが有効です。なかでも、当社では『Microsoft 365』を用いたDX支援に取り組んでいます。
―そのツールのどのような特長が、DXに有効なのでしょう。
倉冨 『Microsoft 365』には、業務実態に即した自動化アプリの作成ができるローコードツール『Power Apps』が搭載されるほか、各アプリ間の連携がスムーズだという特長です。たとえば、チャットや会議を行う『Teams』で共有した資料は、ファイル共有ツールの『SharePoint』に自動保存され、複数人で同時に編集できます。さらに社内・庁内SNSの『Viva Engage』は、ツール活用の疑問点などを、気軽に職員同士で話し合って解決策を見つけられます。
奥津 この「職員間で解決する」ことは、職員の「自分たちでできた」という成功体験となり、DXへのモチベーションも向上させます。

「3ステップ」で組織を改革
―詳しく教えてください。
奥津 身近な職員同士で知識を共有しあうことで、業務実態に即した活用法が見つけやすくなるうえ、職場での密なコミュニケーションが意欲向上に寄与するのです。
倉冨 当社はこうした組織づくりに向け「3つのステップ」を提案しています。第一に、職員に向けたマニュアル作成やルール策定といった基礎知識を深める段階から当社が支援し、管理部門に推進チームを立ち上げます。そのうえで、当社が独自に培った「業務に役立つ豆知識(Tips)」をまとめた記事や動画を提供し、それを自治体でも『Microsoft 365』の共有ツールで展開します。そして第二に、各部署に「アンバサダー」と呼ばれる職員を立て、研修などを通じてツール利活用の知識を深めます。このアンバサダーを中心に、今度は独自のTips作成などを進め、第三ステップで、職員だけで自走できる体制を整えます。
―DXが進展することで、どのような効果が期待できますか。
奥津 たとえば杉並区(東京都)からは、研修を含むツール活用の定着支援や組織変革を見据えた伴走支援で、「職員のモチベーション向上・業務改善のきっかけになった」という声をいただいています。今後は、多くの自治体のあらゆる業務のDXを後押しすべく、『Microsoft 365』の生成AI『Copilot』の研修やTips提供、AIエージェントの作成まで支援を拡大していきます。ぜひお声がけください。


| 設立 | 平成11年7月 |
|---|---|
| 資本金 | 3,350億円 |
| 従業員数 | 9,753人(令和6年3月時点:グループ連結) |
| 事業内容 | 東日本地域(※1)における地域電気通信業務(※2)およびこれに附帯する業務、目的達成業務、活用業務 |
| URL |
■AIチャットボット、音声マイニング
Email: dd-rsd-fukushi-gm@east.ntt.co.jp
■『Microsoft 365』活用ソリューション
Email: dxdd.rsd-ml@east.ntt.co.jp



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