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「人づくり」に基礎を置いた「藤枝型新公共経営」とは

職員の自発的な改革意欲こそ、より良い行政運営を実現する原動力

職員の自発的な改革意欲こそ、より良い行政運営を実現する原動力

「人づくり」に基礎を置いた「藤枝型新公共経営」とは

職員の自発的な改革意欲こそ、より良い行政運営を実現する原動力

藤枝市長 北村 正平

※下記は自治体通信 Vol.40(2022年7月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。


昨今、行政運営でも持続可能性が取りざたされるなか、多くの自治体では行財政改革にたゆまぬ努力を傾けている。そうしたなか、「まちの元気は、職員の元気から」をスローガンに、職員の自発的な経営努力を原動力とする藤枝市(静岡県)の行財政改革が注目されている。就任以来、職員の「人財」育成に力を入れてきた市長の北村氏のもと、同市では女性や若手が活躍できる仕組みづくりが進んでいる。いかにして職員の高いモチベーションを引き出す行政運営を実現しているのか。同氏に聞いた。

全国でも数少ない、転入超過を続けるまち

―「藤枝型新公共経営」と称する、独自の行政運営が注目されています。

 就任以来、私は、「まちの元気は、職員の元気から」という考え方のもと、とにかく職員を大切にし、その育成に努めてきました。そのため、我々独自で築き上げた「藤枝型新公共経営」という経営戦略は、まずは「人財」育成を柱に職員一人ひとりが自発的に自らの業務を改善し、活力に満ちた、より良い行政サービスを実現することを基本としています。毎年、全職員が各々自分たちの仕事を総点検し、「その仕事は市民のためになっているか」といった市民志向の視点で根本から見直し、改革を進めているのです。こうした基本的スタンスのもと、「選ばれるまち」というスローガンを職員と共有し、人口減少対策や地域活性化策に取り組んできました。その結果、子育て世代を中心に、全国でも数少ない転入超過を続けており、中心市街地では継続的な民間投資を受け入れることに成功しています。

―いずれも、多くの地方都市が抱える難題ですね。

 ええ。それらの難題に対して、当市が成果を上げることができているのは、行政運営や行財政改革の背景に、職員の高いモチベーションがあるからだと思っています。

 私が市長に就任した当時は、国政でも「事業仕分け」が盛んに行われていた時代で、行革と言えば外部の視点から事業を「切る、削る」といった考え方が中心でした。しかし、それは改革の本質ではない、と私は考えていました。事業をもっとも熟知するのは現場の職員であり、そうした個々の職員が、高い目的意識をもって事業の見直しを繰り返すことこそ、真の改革であるはずです。そうした考えから、「職員が市政の宝」と位置づけた「人財」育成や職員の意識改革を就任以来、最重要施策のひとつに掲げてきたのです。

まちを元気にするには、まずは役所自体を元気に

―北村さんが、就任当初から「人づくり」を重視してきた背景は、なんだったのですか。

 就任当初、市政に漂っていた閉塞感が背景にありました。当時は、平成の大合併が進展している時代で、当市も周辺地域との広域的合併が模索されていましたが、結局はそれが破談に終わり、周辺自治体との間に不協和音が生じてしまっていました。また、市立総合病院では、診療報酬の不正受給が発覚し、国からの処分を受けるという異例の事態にも見舞われました。市債残高の拡大が市民の不安を招くといった事態も重なり、役所全体を沈滞ムードが支配していたのです。庁内ですれ違っても、職員にどうも元気がない。就任前には幹部職員から、「市の予算は毎年ほぼ決まっているもの。市長の考えで使えるお金は限られています」と言われたこともありました。そこで、まちを元気にするには、まずは職員の意識を変え、役所自体が元気にならなければならないと考えたのです。職員が元気な市役所はまちも元気であり、市役所が変われば市が変わるというわけです。

―その後、「人づくり」はどのように進めてきたのでしょう。

 代表的なものとしては、「新公共経営若手プロジェクトチーム(若手PT)」があります。そこでは毎年度、部署の垣根を越えて有志の若手職員でチームを組織し、自らが設定したテーマについて調査・研究を進め、政策提言を行ってもらっています。幹部職員にはこの政策提言を受け、市政に必ず反映することを義務づけています。市政への反映が前提になることで、若手職員のモチベーションは大きく変わるものです。若手PTを経験した職員が、その後それぞれの現場で成長していく姿から、施策の効果を実感しています。

 また、若手だけではなく、女性活躍を推進する仕組みづくりにも力を入れてきました。

「人づくり」が、市の魅力になっている

―詳しく教えてください。

 女性職員による意見交換の場として平成28年に発足した、女性活躍推進会議「フジェンヌ」という組織があります。藤枝市の花である「藤」とフランス語の女性を意味する「ジェンヌ」を組み合わせた造語です。もともとは、職員の発案が発足の端緒ですが、私の中にも、「女性が活躍するまちは、活気がある」との想いがあり、女性が働きやすい職場づくりに力を入れてきた経緯があります。フジェンヌからも毎年、政策提言を受けており、上司と部下の相互理解を深めるための「1on1ミーティング制度」や、職員のキャリア形成の実現を支援する「キャリア・サポート相談体制」などは、その実例です。こうした取り組みの成果は、女性職員の割合の高さにも表れており、令和2年4月には35.5%と静岡県内で1位、翌年も県内2位の水準を維持しています。

―女性活躍を推進する国の動きに先駆けた成果ですね。

 こうした成果は、職員採用の現場にも好影響を及ぼしており、毎年、定員の10倍ほどの応募を集めることができているのですが、年によっては、半数以上が女性というケースも見られます。また、採用説明会で自らの仕事について熱く語る職員の姿に刺激を受けて、藤枝市とはまったく縁がなかった学生が入庁してくれたという例も多く出てきました。これまで力を注いできた「人づくり」が、藤枝市の魅力の一端になっているとするならば、とても誇らしい気持ちです。

重点的施策にも、つねに中心にあるのは人

―今後の市政ビジョンを聞かせてください。

 市民の暮らしに直結する健康、教育、環境、危機管理の4分野を「4K施策」と位置づけ、DX推進の成果も反映させながら重点的に進めていきます。ただし、それら施策の中心にあるのは、人です。それは、これまでの行財政改革の精神となんら変わることはありません。まちは人で成り立ち、人がつくり上げるものであることは、これまでの行財政改革の成果が物語っています。自治体経営は、まさに総力戦です。全職員が一丸となって知恵と工夫を重ね、行政サービスの質向上に努め続けられれば、今後も「選ばれるまち」として持続できると確信しています。

北村 正平 (きたむら しょうへい) プロフィール
昭和21年、静岡県生まれ。昭和44年、東京農業大学農学部を卒業後、静岡県庁に入庁。国体局長兼全国障害者スポーツ大会局長、農業水産部長、静岡県地域整備センター理事長などを歴任。平成20年6月、藤枝市長に就任。現在4期目。
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