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「地方分権時代」の自治体に求められる組織改革とは

政策立案能力の強化に取り組み、未来を切り開ける職員を育てる

政策立案能力の強化に取り組み、未来を切り開ける職員を育てる

「地方分権時代」の自治体に求められる組織改革とは

政策立案能力の強化に取り組み、未来を切り開ける職員を育てる

愛媛県知事 中村 時広

※下記は自治体通信 Vol.39(2022年6月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。


県議会議員、国会議員、そして中核市の市長経験もある中村氏が、愛媛県知事に就任したのが平成22年。以来11年半にわたり一貫して、「政策立案型行政」の強化に取り組んできた。地方と中央の政治を熟知した同氏が、その取り組みに強くこだわってきた理由やその方法論とはなにか。そしてこの間、愛媛県庁はどういった変化を遂げたのか。今後の県政ビジョンとあわせて、同氏に詳しく聞いた。

「お役所仕事」を一掃する、5つの意識改革

―知事就任から3期目も終盤を迎えました。この間、県政運営にあたりどのような方針を貫いてきましたか。

 知事就任以来貫いてきたのは、「政策立案型行政」の強化です。私は知事就任以前、愛媛県議会議員、衆議院議員、そして松山市長を歴任し、市政、県政、国政それぞれのステージを歩んできました。その経験のなかで強く感じたことは、歴史や気候、そこに住む住民の人柄といったそれぞれの地域が持つ「個性」こそが、地域の魅力や発展の源泉であるということ。そして、その個性をベースにした独自の地域活性化策の展開が、持続可能なまちづくりにつながるということです。

 そのため、たとえばほかの地域で成功した政策でも、それをマネしただけでは成果など出るはずもありません。その地域特有の個性を打ち出し、県民の期待に応える独自の政策がこれからの地方分権時代には必要で、そのためにも、行政の政策立案能力の強化に徹底して取り組んできました。

―どのようにして「政策立案型行政」の強化を図ったのでしょう。

 まずは、職員の意識改革に取り組み、「スピード感」「顧客重視」といった、行政に不足しがちな「民間的思考」を県庁組織に浸透させることを図りました。私は大学を卒業してから総合商社に勤務した経験があり、より県民の期待に応える政策を立案するためには、この民間的思考が不可欠だと考えたからです。

 具体的な取り組みとして、私は知事就任直後に、職員に対して「5つの意識改革に取り組んでほしい」と訴えました。その5つとは、「『何故できないか』から『どうすればできるか』」「『自治体に倒産はない』から『自治体に倒産はありえる』」「『やってあげる』から『一緒にやる』」「『失敗を隠す』から『失敗を積極的に明らかにする』」「『情報に振り回される』から『情報を活用する』」という内容です。これまでの、いわゆる「お役所仕事」による非効率な業務の進め方を一掃させて、「自ら考え行動する職員」への脱皮を促しました。

 そしてもう1つ、人事制度の刷新にも積極的に取り組みました。

県政運営を担う覚悟と責任を、職員に再認識してもらう

―具体的にどのように刷新したのですか。

 人事評価において、「挑戦」する姿勢を重視し、「挑戦加点主義」を採用しました。意欲的な職員の評価を高めることで、現場のボトムアップを図ることが狙いです。また、課長に就任する場合、これまでのように「エスカレーター式」で昇任するのではなく、対象となる職員に、まずは課長就任への意欲を表明してもらうことにしました。県政運営の中核を担うことへの覚悟と責任を改めて認識してもらうためです。そのうえで、新たな制度として導入した課長級昇任試験を受けてもらい、多角的な視点から、部下をまとめるリーダーとしての資質を見極める仕組みとしました。

 人と組織を変革する「能力・実績主義」を庁内に浸透させることで、仕事へのモチベーションが上がり、意欲的な人材が育つ県庁になるための改革を進めたのです。

―改革の成果はいかがでしたか。

 職員にとってはこれまでにない経験で、最初は戸惑いを感じていたようです。しかし、たとえば「5つの意識改革」の張り紙を各部署が率先して掲げるなど、職員自ら改革に取り組む姿勢が広がっていきました。そうしたなか、知事に就任して2年後の平成24年度に、地域経済活性化の推進役となる新たな組織「愛のくに えひめ営業本部」を設置しました。当時、県庁に「営業本部」を設置するというのは、全国的に見ても極めて珍しい取り組みでしたが、いまでもうまく機能しているのは、改革を推進した1つの大きな成果だと考えています。

海外も回り県関与成約額は、年間約200億円に

―「営業本部」とは、どういった組織なのでしょう。

 魅力的な商品やサービスを生み出す力はあるものの、情報発信力や販売力が弱い中小企業などに対して販売支援を行う組織です。県内事業者の技術力や特産品をまとめた冊子を片手に、職員自ら企業や百貨店へと商談に向かいます。「営業本部」の設置当初は、多くの職員が「なにから着手すればいいのかわからない」と困惑していました。庁内には「営業」という概念がなかったため、当然といえば当然です。そこで、私自身が現場でネゴシエーションを率先して行い、「プレゼンテーションの仕方」や「商談の進め方」を間近で見てもらいました。いまでは約70人の職員が日本全国はもちろん海外も飛び回り、年間約200億円の県関与成約額を確保できる組織へと成長しました。

―業務に慣れるまで職員のみなさんは苦労したのではないですか。

 正直、とても苦労していたようです。それでも、「この組織が愛媛県の経済活性化の土台になる」と営業本部の重要性を深く理解し、一歩一歩前に進んでくれました。それができたのも、冒頭の意識改革の成果ではないかと感じています。変化を恐れず挑戦し続け、自ら考えて行動する力を、一人ひとりの職員が着実に身につけてきています。このような前向きな愛媛県庁の職員なら、今後、コロナ禍後の劇的な社会変化に対応した政策を立案し、愛媛県の未来を切り開く働きが存分にできると期待しています。

県民が誇りと希望を持てる、「ふるさとづくり」へまい進

―今後の県政ビジョンを聞かせてください。

 松山市を舞台にした小説『坂の上の雲』では、明治時代の激動期のなか果敢に国づくりに立ち向かう人々の姿が描かれています。時代は違えども、価値観が大きく変化した今回のコロナ禍で、私たちはまさしく激動期のただ中にいると言えます。今後、困難に陥っても、『坂の上の雲』の登場人物たちのように、未来を切り開く気概を持って県政課題に向き合える人材・組織づくりを進めます。そして、県民のだれもが誇りと希望を持てる「ふるさと愛媛づくり」に、職員とともにまい進していきます。

中村 時広 (なかむら ときひろ) プロフィール
昭和35年、愛媛県松山市生まれ。昭和57年、慶應義塾大学法学部法律学科卒業後、三菱商事株式会社へ入社。愛媛県議会議員、衆議院議員を経て、平成11年に松山市長に就任。その後、3期務める。平成22年、愛媛県知事に就任。現在、3期目。
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