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東京都世田谷区の取り組み
先進事例2023.08.02
再生可能エネルギーの導入①

安定した電力供給を受けることで、再生可能エネルギー利用を促進

[提供] ゼロワットパワー株式会社
安定した電力供給を受けることで、再生可能エネルギー利用を促進
この記事の配信元
ゼロワットパワー株式会社
ゼロワットパワー株式会社

※下記は自治体通信 Vol.51(2023年7月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

現在多くの自治体において、脱炭素化に向けた取り組みが積極的に進められている。そうしたなか、世田谷区(東京都)は、「RE100」*に注目。「せたがや版RE100」を打ち出し、区民や事業者と連携しつつ再生可能エネルギーの利用を促進している。同区の担当者2人に、「せたがや版RE100」をはじめとした、脱炭素化における取り組みの詳細を聞いた。

*RE100 :「Renewable Energy 100%」の略称で、事業活動で消費するエネルギーを100%再生可能エネルギーで調達することを目標とする国際的イニシアチブを指す

[世田谷区] ■人口:91万8,664人(令和5年7月1日現在) ■世帯数:49万6,212世帯(令和5年7月1日現在) ■予算規模:5,486億2,400万円(令和5年度当初) ■面積:58.05km² ■概要:東京23区中の西南部に位置しており、人口は東京23区のなかで一番多く、面積は大田区に次いで2番目の広さをもつ。京王線・京王井の頭線、小田急小田原線、東急田園都市線、東急大井町線、東急目黒線、東急世田谷線の7路線が通っていることから、都心へのアクセスも便利。閑静な住宅街であるほか自然も多く、「住みやすいまち」として人気。
インタビュー
山本 久美子
世田谷区
環境政策部 環境・エネルギー施策推進課長
山本 久美子やまもと くみこ
インタビュー
花田 貴将
世田谷区
環境政策部 環境・エネルギー施策推進課 事業担当係長
花田 貴将はなだ たかまさ

「気候危機」の問題を、「自分事」としてとらえる

―「せたがや版RE100」とはどのような取り組みでしょう。

山本 区民、事業者、区がそれぞれの立場で再生可能エネルギー(以下、再エネ)への関心を高めつつ、世田谷区全体の再エネ利用を進めていく取り組みです。

 もともと当区では、「世田谷区環境基本計画(平成27~令和6年度)」のなかで、「自然の恵みを活かしたエネルギーの利用拡大と創出」を目指すこととしています。加えて近年は、地球温暖化に起因する強力な台風や集中豪雨が頻発し、その被害は年々拡大しています。実際に当区でも、令和元年に発生した台風第19号の影響で多摩川の溢水による浸水被害が発生しました。世界の二酸化炭素排出量は今なお増加していることから、一人ひとりが「気候危機」の問題を「自分事」としてとらえ、環境への影響を考えたうえで行動を変えていく必要があるのです。

―具体的に、どういった施策を行っているのですか。

花田 たとえば、区民や事業者のみなさんができることとして、自宅や事業所に太陽光パネルを設置する、使用する電力を再エネに切り替える、自治体産の再エネを使うといったケースが考えられます。そこで当区では、太陽光パネルを購入した人や、太陽光パネル設置を条件に蓄電池を購入した人に対して助成する「エコ住宅補助金」や、再エネ電力に切り替えた家庭・事業所を対象に地域通貨『せたがやPay』ポイントを付与する「省エネ・再エネポイントアクション事業」などを実施しています。

山本 また当区としては、区有地を活用した太陽光発電事業によるエネルギーの地産地消や、再エネの資源が豊富なほかの自治体と連携した再エネ利用を以前から進めてきました。そして、さらなる再エネ利用を進めていくための施策を行っているところです。

区役所本庁舎をはじめ、各施設で再エネ電力を利用

―どのような施策か詳しく教えてください。

山本 区役所で使用する電力を、再エネ100%に切り替えるという取り組みです。区内最大級の事業者である区役所が率先して再エネ電力を導入することで、区全体における再エネ利用の底上げを図るのが目的です。再エネ電力を供給してもらう事業者は、一般競争入札にて選定しました。「二酸化炭素排出係数」「未利用エネルギーの活用状況」「再生可能エネルギーの導入状況」といった「環境配慮項目評価基準」を設定。それをもとに評価したうえで、小売電気事業者のゼロワットパワー社と契約を締結しています。

―契約締結後における再エネ供給の状況はいかがでしょう。

花田 まず、平成31年4月に、区施設のシンボルとも言える区役所本庁舎で導入しました。令和2年からは、さらに利用施設を増やし、出張所やまちづくりセンターなど、約90施設でも導入しています。再エネは、季節や天候などによって発電量が大きく左右されることや、電力価格高騰といった要因で、安定供給が難しいという話は見聞きしますが、現在のところ、電力は止まることなく安定的に供給してもらっている状況です。

―区民や事業者における再エネの浸透状況を教えてください。

花田 少し前の話にはなるのですが、当区が平成25年に実施した「世田谷区環境に関する区民意識・実態調査」では、「再エネを利用している」と回答した人は3.4%、「これから利用したい」と回答した人は8.7%でしたが、平成30年の調査ではそれぞれ6.5%、40.2%とアップしています。

山本 近況ですと、「せたがや版RE100」の取り組みに対して賛同した個人や企業・団体に登録をしてもらっているのですが、令和5年6月14日現在で、個人354、企業・団体53が登録しており、賛同数は計407となっています。

区民の再エネ利用率を、50%まで高めたい

―「せたがや版RE100」における、今後の取り組み方針を聞かせてください。

花田 区民、事業者、区による再エネ利用のさらなる促進を図っていきます。当面は、「せたがや版RE100」の賛同数を700、そしてゆくゆくは、区民の再エネ利用率を全体の50%まで引き上げるのが目標です。そのため、「エコ住宅補助金」「省エネ・再エネポイントアクション事業」による普及促進策を行っていきます。また、公共施設への再エネ電力の導入といった取り組みなども加速させていきます。公共施設への再エネ電力の導入率はまだ18%にとどまっており、この割合を50%に高めていくことを目標に掲げています。

 さらに当区としては、脱炭素化に向けてさまざまな取り組みを行っています。

―どのような取り組みですか。

花田 区民、事業者のみなさんと区が地球温暖化の問題を共有し、ともに行動していくことを目的に、令和2年に「世田谷区気候非常事態宣言」を行いました。

 そして、今年4月から「世田谷区地球温暖化対策地域推進計画」を新たにスタートさせています。この計画では脱炭素社会の実現に向け、2030年度における区内の温室効果ガス排出量を平成25年度比で57.1%削減するのを目指すこととしています。

山本 さらに、当区の全公共施設を対象とした、環境マネジメントシステム「ECOステップせたがや」があります。これまで主としてエネルギー使用量の削減、ごみの発生抑制と資源の有効利用などで、公共施設における温室効果ガスの排出量削減に取り組んできました。今年は、区自体の事務事業の計画となる「世田谷区役所地球温暖化対策実行計画」の改定にも取り組んでいきますので、再エネ利用の視点も取り入れ、区としての率先行動を一層進めていきたいです。

事業者と協働しつつ、再エネの啓発活動を行う

―そうしたさまざまな施策を行っていくなかで、小売電気事業者に期待することはなんでしょう。

花田 温室効果ガスの大半を占める二酸化炭素の排出量を削減していくには、省エネルギーの取り組みとともに再エネの利用を広げて相乗効果を生んでいくことが大切です。当区では、現在、公共施設における再エネ電力供給の契約をゼロワットパワー社と結んでいますが、小売電気事業者にはこうした再エネ電力の安定した供給を続けてほしいですね。それに加えて、区民や事業者に対しても、広く再エネ電力を使うことができるよう、利用しやすい再エネメニューの拡充などを期待しています。

山本 再エネの普及促進といった啓発活動にも、ゼロワットパワー社を含めた各小売電気事業者には期待しているところです。当区としても、そうした事業者と協働して再エネについて積極的に情報発信をしていくことで、区全体の再エネ利用を促進していきたいですね。

支援企業の視点
再生可能エネルギーの導入②
事業者を選定するポイントは「再エネ」電力を安定供給する仕組み

ここまでは、区全体で再生可能エネルギー(以下、再エネ)の利用を促進している世田谷区の取り組みを紹介した。このページからは、世田谷区に対して再エネ電力を供給しているゼロワットパワーを取材。同社代表の佐藤氏に、自治体が再エネを導入する際の課題や解決策などを聞いた。

インタビュー
佐藤 和彦
ゼロワットパワー株式会社
代表取締役社長
佐藤 和彦さとう かずひこ
昭和43年、千葉県生まれ。平成27年、再生可能エネルギーに特化した電力会社ゼロワットパワー株式会社を柏市(千葉県)に設立し、代表取締役社長に就任。

再エネは、安定供給するのが難しい

―再エネを検討・導入する自治体は増えているのでしょうか。

 かなり増えていると考えられます。調査会社であるシード・プランニング社によると、そもそも国内における再エネの導入量は年々増えており、令和3年度の再エネ導入量は約6,577万kWで、平成30年度と比較して36.9%伸びています。また環境省によると、令和5年6月30日時点で973自治体が「2050年までに二酸化炭素排出実質ゼロ」を表明。それぞれの取り組みのなかで、再エネ導入にも着目していくでしょう。

 国も自治体における再エネ導入を積極的に支援しています。環境省は令和4年度から「地域脱炭素移行・再エネ推進交付金」を盛り込み、令和5年度の予算規模は前年度補正予算を合わせて400億円で、令和12年度まで支援することを想定しています。

 こうしたことを背景に、自治体における再エネ導入の機運は高まっているのですが、その一方で課題もあります。

―どのような課題ですか。

 まず、再エネの場合、電力の安定供給が困難という点です。太陽光や風力などをエネルギー源としている場合、季節や天候、土地柄、規模などによって発電量に差が出てしまいます。そのため、需要に対して供給が不安定になる可能性があるのです。

 次に、小売電気事業者の倒産・撤退があげられます。平成28年に電気の小売業への参入が全面自由化されたことにより、多くの企業が電気の販売に参入しました。再エネが注目されているとはいえ、日本全体の電力はまだまだ天然ガスや、石油・石炭といった化石燃料に大きく依存している状況です。その主力である化石燃料の価格が、ロシアのウクライナ侵攻などから高騰し、小売電気事業を続けられない事業者が続出。大手の小売電気事業者でも、再エネのみを供給する余裕がない状況で、自治体が再エネ供給の入札をかけても不調に終わるケースが多いのです。

大手と逆張りすることで、独自スキームを構築

―解決方法はありますか。

 再エネを安定供給できる小売電気事業者と契約すればいいのです。たとえば当社の場合、太陽光や水力、風力、地熱、バイオマスなど全国各地に点在する再エネ電力を発電している事業者と電力売買の契約を締結。事業者ごとの電力発電量は不安定だったり少なかったりしても、数多くの事業者と契約を結び、発電資源も太陽光などに偏らず、幅広く取り扱うほか、自社でも発電事業に取り組んでいます。そうすることで、再エネであっても安定した電力供給を実現しているのです。

 こうした取り組みは、非常に手間ひまがかかるので、大手の小売電気事業者は自社の事業として扱いづらい。そうしたなか、当社はあえて「逆張り」することで独自のスキームを構築しているのです。

―なぜ、あえて逆張りをしているのでしょう。

 当社が、再エネ利用を広めていくことを目的として設立された会社だからです。もともと、「天然ガスといった化石燃料の輸入に頼ることなく、クリーンな国産エネルギーを利用したい」というニーズは一定数あり、再エネ電力を発電している事業者もありました。しかし、再エネは発電量が安定しないうえに、規模が小さい事業者が多く、なかなかマッチングが難しい状況にあったのです。再エネ電力を発電している事業者は、買い取り手がつかないため、自前で消費する以外の電力は捨ててしまうケースもありました。経済的な効率性の問題だけで、クリーンなエネルギーが有効に利用されていない。私は、そうした状況を「もったいない」と考えたのです。

―そこで、再エネ電力の供給に特化した会社をつくったと。

 そのとおりです。当社が契約した再エネ電力を供給する事業者の収入が増えれば、「風力発電のための風車をもうひとつつくろう」といった新たな設備投資ができます。そうすると、日本における再エネ電力の供給量が増える。使える電力の選択肢が増えれば、「それならクリーンな再エネ電力に切り替えよう」という利用者も増えていくでしょう。それを繰り返せば、国民全体の意識が変わり、再エネも普及していく。結果として、当社の売上も上がる。そうした長期的なスパンで取り組んでいるのが、当社のビジネスモデルなのです。

 当社の想いに賛同し、再エネ電力を提供してくれる事業者も年々増え続けており、より安定した再エネ電力を当社から自治体へ供給する基盤ができつつあります。

持続可能な社会の実現に、再エネの利用は欠かせない

―自治体に対する今後の支援方針を教えてください。

 安定した再エネ電力を自治体に供給することで、自治体における脱炭素化の取り組みを支援するほか、日本全体の再エネ普及に取り組んでいきたいですね。また、自治体が再エネ導入を検討する際、「どれくらいの予算を組めばいいのか」「どのような仕様であれば事業者が入札に参加しやすいか」といったさまざまな相談にも乗ることも当社では可能です。

 現在、世田谷区や東京都といった自治体をはじめ、各省庁でも当社の再エネ電力の導入実績が増えています。今後は導入実績を拡大させることで、当社のビジョンを実現させたいと考えています。

―どのようなビジョンですか。

 「二酸化炭素排出ゼロの発電を目指す」です。電力は、私たちの生活に必要不可欠です。エコの観点はもちろんですが、天然ガスなどの化石燃料に頼っていては、いつかはなくなってしまいます。そこで、クリーンで輸入に頼らない再エネの利用は、持続可能な社会の実現に向けて、欠かせないものとなっていくでしょう。

 「当社のビジョンに共感する」という自治体のみなさんは、ぜひ気軽に問い合わせてください。

ゼロワットパワー株式会社
ゼロワットパワー株式会社
設立

平成27年3月

資本金

1,100万円(資本準備金含む)

従業員数

54人

事業内容

小売電気事業、発電事業、地域新電力支援業務、脱炭素コンサルティング

URL

https://zerowattpower.co.jp/

お問い合わせ先
04-7126-0561(平日 10:00~17:00)
info@zwp.co.jp
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