自治体の移住・定住施策 優良事例|独自の情報発信で成果を出している移住・定住施策

差別化されたプロモーション活動や自治体ブランディングで認知度アップ
SNSなどを活用した積極的な情報発信による独自のプロモーション活動や自治体ブランディングを進め、移住・定住施策で成果を出している自治体の事例を紹介します。
内閣府 地方創生推進室がまとめた「令和4年度 移住・定住施策 優良事例集」からの抜粋で、同事例集は三大都市圏以外に所在する市町村の中から、行政・民間が移住定住施策に積極的に取り組んだ結果、社会増減率がプラスに転じた、または社会減の減少幅が縮小した優良事例を内閣府地方創生推進室が選定し、取組の概要や具体的な成果を取りまとめたものです。
アニメと連携したプロモーション、祝金制度で差別化|山梨県 身延町
山梨県 身延町は山梨県の南部に位置し、町の中央を北から南に流れる富士川を挟んで東西に雄大な山なみが連なり、四季を通して緑と水とが織りなす美しい自然に恵まれた町で、日蓮宗総本山の身延山久遠寺や下部温泉郷、富士五湖の一つ本栖湖があります。
また、西嶋和紙や印章の伝統工芸に加えて、大粒で甘みの強いあけぼの大豆をはじめ、ゆば、味噌といった数々の特産品があります。町内に3か所のインターチェンジがあり、西側を国道52号が南北に、国道300号が東西に延びています。近年では、アニメ「ゆるキャン△」のモデル地としても注目を集めています。

身延山久遠寺(左)と本栖湖
概要と取り組みポイント
概要
人口減少や少子高齢化が著しいことを背景に、平成26年に企画政策課内に田舎暮らし推進担当を設置し、地域おこし協力隊を移住コーディネーターとして配置し、移住支援を実施。充実した子育てサポートをしており、子育て世代をメインターゲットにPRを実施しています。
アニメ「ゆるキャン△」のモデル地となったため、アニメと連携したイベントやあけぼの大豆をはじめとした特産品のPRなど、まずは町を知ってもらうことに注力しています。
最近はリモートワークの普及に伴い、都市部との二拠点居住を検討されるケースも増えています。令和3年の移住実績は238名、空き家バンクの成約実績は19件となっています。
取り組みポイント①―町の認知向上を図るための工夫
マスコットキャラクターやアニメと連携したプロモーションや、県と連携した移住相談会等で露出を増やし、まずは身延町を認知してもらうことを意識しています。
田舎暮らし体験施設は2棟運営しており、四季を感じてほしいという思いから、1年〜2年の滞在が可能で、長期滞在で町を体験できます。週末だけの二拠点居住や移住先を探しながらの1年間の田舎暮らし体験も可能です。
取り組みポイント②―利用用途を問わない移住定住祝金による他自治体との差別化
移住定住に関する各種祝金を用意しており、より多くの人に活用してほしいという思いから、利用用途を問わない祝い金を制定し、他の自治体との差別化を図っています。
町内に住宅を新築した移住者への新築住宅祝金、空き家バンクを利用した移住者への住宅購入祝金や引越祝金を用意し、移住者と同一世帯に18歳までの子がいるときは祝金を加算しています(新築住宅祝金・住宅購入祝金)。定住促進祝金も用意しており、結婚・出産に祝金を出しています。
他の自治体では補助金が多い中で、利用用途を問わない祝金にすることで、なるべく多くの人の活用を促すと共に、他の自治体も実施している補助金等と違う特徴を出しています。
周知・広報
○移住・定住パンフレット
町の概要や先輩移住者のインタビュー等を紹介する移住・定住促進パンフレット「みのぶLIFE/MEETみのぶ」を制作し、デジタル化してホームページ上で公開しています。
子育て世帯編、空き家バンク編、二拠点生活編、単身移住編、移住開業編として5組の移住者のインタビューを掲載しています。
参考リンク:みのぶLIFE/MEETみのぶ
https://www.town.minobu.lg.jp/kosodate/kurasu/shiru/minobulife/

「みのぶLIFE」の表紙
○情報発信
甲斐適生活応援サイトやJOIN(一般社団法人移住・交流推進機構)での情報発信に注力しています。子育て支援制度が充実しているため、移住パンフレットも子育て世代をターゲットとしたデザインにしています。令和2年に「身延町子育てサイトNOBINOBI」を開設し、子育て世帯への情報発信力を強化しました。
潜在的な移住希望者にはまだアピールが不足している部分もあり、まずは町に遊びに来てもらえるようにパンフレットなどを配り、町を知ってもらうことから始めています。最近はアニメ「ゆるキャン△」のモデル地になったことから、町を知ってくれる人も増えたそうです。地元・身延高校の生徒が町長に提案をした事がきっかけで始まったシダレザクラの植栽事業「しだれ桜の里づくり事業」に関連して、クラウドファンディングによって賛同者を募集するなど、関係人口の創出にも取り組んでいます。
参考リンク:子育てサイトNOBI NOBI
https://www.town.minobu.lg.jp/kosodate/

子育てサイトNOBI NOBIのトップページ
「ないものはない」挑戦の島としてブランディング|島根県 海士町
島根県から北におよそ60km、本州から高速船で約2時間かかる隠岐諸島に属し、半農半漁の島として、豊かな資源に恵まれてきました。
隠岐が遠流の地と定められた時代より、多くの貴族等を受け入れ、鎌倉時代に承久の乱に敗れた後鳥羽上皇は、海士町で19年間過ごし、多くの和歌を詠みました。
神楽や民謡などの伝統芸能だけでなく独特の島料理や、地区毎に大切にされているお祭りなど、島ならではの文化も今なお、大切に受け継がれています。

海士町の家督山から見下ろす菱浦港(左)と同町にある隠岐神社の例大祭の様子
概要と取り組みポイント
概要
三位一体の改革による財政難の中、行財政改革や、特産品開発、高校の魅力化プロジェクトなど、海士町独自の取り組みを実施。ここ15年ほどで750人以上の移住者を迎え入れ、そのうち350人以上が現在も在島しています。
平成23年から「ないものはない」いうキャッチコピーを使用し、「ないからこそ良い」という価値観を大事にしながら、「あるもの」を活かす知恵と工夫で暮らしを楽しもうとする島らしい生き方や魅力をPR。島という移住のハードルが高い特性を逆手にとり、滞在人口(目標200人)が入れ替わりながら人材還流を起こすことで、町の機能を維持する仕組みを取り入れています。
町独自では、金銭的な補助をするような移住支援施策は実施しておらず、金銭的な補助による「狩猟型」の移住施策ではなく、「大人の島留学プロジェクト」等の中長期の滞在型プログラムで、町との接点を作る中で移住したいと思ってくれる人を育てる「農業型」の移住施策を展開しています。
取り組みポイント①―「ないものはない」挑戦の島としてブランディング
平成23年に町のキャッチコピーとして「ないものはない」を宣言。「ないもの」はなくていい、大切なモノゴトはすべてここにあるという意味を持っています。島内に「あるもの」を磨く、「挑戦の島」をPRしています。

海士町のブランドサイト「ないものはない」のトップページ(https://naimonowanai.town.ama.shimane.jp/)
取り組みポイント②―「狩猟型」の移住施策から「農業型」に転換
移住を目的とした施策を実施するのではなく、町をよく知った結果が移住に繋がるような、学生を含めた若者をターゲットとした中長期滞在型のプログラムを実施。新しい働き方の提唱や多様な民間組織との連携にも取り組んでいます。
周知・広報
「ないものはない」の公式ウェブサイトやSNS(Instagramや連携協定を結んでいるnote等)で島の日常を積極的に発信しています。大人の島留学プロジェクト等の短期滞在プログラムは大学生〜第二新卒を主なターゲットとしており、基本的にプログラム参加者がSNSの更新を行うなど、参加者自らが島の魅力を発信しています。
その他にも海士町に興味がある、島で働いてみたい、といった人々に向けたトークセッションの実施や滞在者のリアルな声の発信など、滞在者から発信される口コミを通じて大人の島留学プロジェクトへの参加を希望する方も多いそうです。
また、海士町での滞在を終えた人を対象に同窓会等を実施しており、継続して参加者が町と繋がる関係を構築しています。長期滞在者の10%程度が実際に移住しており、移住実績としては想定よりも高くなっています。
参考リンク:
「ないものはない」公式ウェブサイト
https://naimonowanai.town.ama.shimane.jp/
海士町公式note
https://ama-town.note.jp/
若者を対象とした中長期の滞在プロジェクトにより滞在人口を維持
それぞれの目的や希望滞在期間にあわせ、複業島留学(2年間〜/20〜35歳の方)、大人の島留学(1年間〜/20〜29歳の方)、島体験(3カ月〜/20〜29歳の方)3種類の留学プログラムを実施し、常に人が還流しながら、町の機能を維持するために必要な人口を維持しています。
参考リンク:
大人の島留学ホームページ
https://otona-shimaryugaku.jp/

海士町的な働き方の提唱
漁業、農業、畜産業、観光業等、繁忙期が異なる島の様々な仕事を組み合わせ、時期に応じてはたらく場所を変えていくという組織横断的な複業スタイル「AMUWORK」や半農半X・半官半Xといった様々な働き方を提唱しています。

〈参照〉
内閣府 地方創生推進室「令和4年度 移住・定住施策 優良事例集(第2弾)」
https://www.chisou.go.jp/sousei/pdf/ijyu-jirei-2.pdf