※下記は自治体通信 Vol.28(2021年2月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
平成30年9月、文部科学省は「新・放課後子ども総合プラン」を発表し、すべての児童が放課後を安心・安全に過ごせるよう、「放課後児童クラブ」の追加的な整備を打ち出した。これを受け、対応を迫られる自治体にあっては、人手や財源の不足に頭を悩ませているところも多い。そうしたなか、神栖市(茨城県)では、早くから「放課後児童クラブ」の整備を進め、待機児童ゼロを実現してきた。その手法について、同市担当者に聞いた。
神栖市データ
人口:9万5,515人(令和2年10月末現在) / 世帯数:4万2,497世帯(令和2年10月末現在) / 予算規模:675億6,520万8,000円(令和2年度当初) / 面積:146.97km² / 概要:茨城県東南部の鹿島地域に位置し、東は太平洋の鹿島灘、西は利根川を経て千葉県の香取市、東庄町に、北は鹿嶋市、南は千葉県銚子市に接している。霞ヶ浦と北浦を源とする常陸利根川および利根川と鹿島灘にはさまれた平坦な低地にあり、四季を通じて雨量が少なく寒暖差も少ない比較的温暖な地。市北部から東部一帯に鹿島港および鹿島臨海工業地帯が整備され、鉄鋼、石油製品等の広域的な供給拠点として重要な役割を担っている。
保育への需要が増すなか、運営を担う市の負担が課題に
―神栖市では、早くから子育て支援に力を入れてきたと聞きます。その背景を教えてください。
当市では、近隣の鹿島臨海工業地帯の開発により、過去数十年にわたって転入者が増え続け、人口の半数ほどを、この間に市外から移住してきた勤労世帯が占めている特殊な地域と言えます。そのため、核家族化も進み、放課後の児童をどのように受け入れるかは、早くから市の課題でした。その受け皿として、昭和49年から児童館の整備に着手し、現在までに県内で2番目に多い7ヵ所を設置。そこで「放課後児童クラブ」を運営してきました。
しかし、近年の保護者の就業形態の多様化や女性就業率の向上などを背景に、少子化が進むなかでも「放課後児童クラブ」への需要は増え続けてきました。そのため、現在まで継続的にさらに増設する必要に迫られています。
―この間、どのように増設を進めてきたのでしょう。
市内の小学校でも「放課後児童クラブ」を段階的に開設する方針を決めました。ただし、運営にあたっては、財源の確保はもとより、職員の配置も難しい状況でした。さらに、子育て支援に対するニーズは多様化・複雑化しており、クラブの運営を担う支援員には一定以上の専門性も求められます。そのため、運営をめぐる市の負担は年々大きくなっていました。
―どのように解決したのですか。
平成24年から、一部の「放課後児童クラブ」の運営を民間事業者に委託することにしたのです。ほぼ毎年増え続ける「放課後児童クラブ」を市の職員のみで運営していくのは難しく、民間のノウハウを導入することで、効率的な学童保育運営を実現できるのではないかと期待したためです。公募型の事業者選定により、委託先はシダックス大新東ヒューマンサービスに決定。支援員の教育・研修体制が充実していることにくわえ、市内に事務所を構えているため、迅速な連絡体制を確保してもらえる安心感が決め手になりました。
コロナ禍での「1日保育」対応力に利用者の高い評価も
―委託の効果はいかがでしたか。
利用者のニーズに対して、とても柔軟な対応ができるようになりました。急な支援員の増員や保育時間の延長が必要になった場合でも、シダックス大新東ヒューマンサービスの広い人員ネットワークによって支援員を迅速に配置してもらえるように。さらに、児童虐待やいじめなどへの対応が迫られるケースがかりに起こった場合でも、専門知識をもった人材を配置してもらえる体制もあります。
最近では、新型コロナウイルス感染拡大の影響で小学校が一斉休校になった際、保護者から「1日保育」への強い希望が寄せられました。これに対し、同社は快く引き受けてくれ、約3ヵ月にわたって朝7時半からクラブを開いてくれたのは非常にありがたかったですね。
―市職員による運営では、とても対応できなかったと。
はい。そうした対応力を早くから評価してきたため、市では委託開始の翌年となる平成25年度から、市内の「放課後児童クラブ」すべての運営を一括して同社に依頼しています。平成27年度に国が「子ども・子育て支援新制度」を打ち出し、「放課後児童クラブ」の設置が一気に増えることになった際に十分に対応することができたのも、振り返れば民間委託のおかげでした。
当市ではその後も「放課後児童クラブ」の増設を続け、平成28年には待機児童ゼロを実現。平成31年時点で42クラブ、定員1,550人の受け入れ体制を構築していますが、そのすべての運営をシダックス大新東ヒューマンサービスに任せています。現在は保育時間を18時半まで延長。すべての希望者を対象に、土曜日の運営を集約して行っており、利用者からは大変喜ばれています。