【健康増進・健康づくり】「早期介入」を可能にする官医連携が、COPDによる死亡者数削減への礎に
(COPD対策 / アストラゼネカ)

「健康日本21(第三次)」において、慢性閉塞性肺疾患(以下、COPD)*1の死亡者数削減は重要目標の1つにされている。しかし、COPDの未診断率は依然として高く*2*3、検査や治療につなぐ導線づくりに苦慮する自治体は多い。こうした現状を打破するには、啓発や受診勧奨だけではなく、未診断から治療強化までを一気通貫で完遂できる仕組みづくりが求められる。本稿では、その先進事例である高松市(香川県)の取り組みとともに、仕組みづくりのポイントを紐解いていく。
受診勧奨と検査実施に構造的な課題を抱える
COPDはその増悪によって、入院、死亡、生活の質低下につながることがあり、予防には早期発見・早期介入が重要である。そこで国は、COPD対策の一環として、まず「啓発活動」や「認知度向上」に努めてきた。
それに伴い、自治体でも後期高齢者などに向けて通知書を送付するといった受診勧奨の施策を推進。さらに、令和5年に改正された「健康日本21(第三次)」では、「COPDによる死亡者数削減」が明記され、令和14年までに人口10万人当たりの死亡率を「10.0」に抑制するという数値目標も定められた。これにより、自治体には受診勧奨だけでなく、検査から診断、治療につなぐ対策が求められている。
しかし、国と自治体が長年にわたって多くの施策に取り組んできたにもかかわらず、COPDの未診断率は依然として高い。これまでの研究によれば、推定有病患者数が約530万人とされるなか*2、治療を受けているCOPD総患者数は約38.2万人にすぎない*3。現在も多くの患者が重症化してから初めて医療機関を受診している。この事実は、死亡者数削減の数値目標を達成するためには、従来の受診勧奨だけでは不十分である可能性を示している。
こうした現状を生み出した大きな要因のひとつには、COPDという疾患が「本人の自覚症状がないまま、静かに進行すること」が挙げられる。多くの患者が喫煙歴を有し、息切れや咳を「年齢のせい」だと見過ごしやすい。そのため、受診勧奨の通知を受け取っても行動変容につながりにくいと考えられている。
加えて、医療側にも小さくない課題がある。COPDの確定診断と重症度評価には、スパイロメトリー検査(呼吸機能検査)が必須だが、時間・人手・導線の負担が大きく、呼吸器非専門のクリニックでは実施が難しい。結果、COPDの疑いのある患者でも、検査が進まずに未診断が長期化する。この2つの課題を解決に導くには、未診断者を確実に医療につなぎ、診断から治療までを一気通貫で完遂させる「仕組み」を地域に落とし込む「社会実装」が有効な一手となる。この「仕組み」をつくるうえで重要なのが、住民の受診を勧奨する2つのアプローチの「重ね合わせ」という視点である。

「広く浅く」網をかけ、「狭く深く」介入する
多くの自治体では、受診勧奨として、地域に住む多くの人を一度に対象にして広く働きかける「ポピュレーションアプローチ」が用いられている。
具体的には、「対象者全員に受診勧奨通知を送る」「健診会場で質問票を配布する」「喫煙者や息切れが気になる人へ受診を呼びかける」といった施策が該当する。その役割は、無関心層を含めた多数の住民に情報を届けることで、社会全体の健康リテラシーを底上げし、潜在的な患者が受診を考える「入口」を広げることにある。しかし、この入口がどれだけ広くても、検査予約の手間や外来の混雑、検査の負担感などから、受診にいたらない住民も多い。特に、COPDの未診断者は、喫煙依存や病識の乏しさなども、受診への大きな障壁となる。
この「ポピュレーションアプローチ」に対し、病気の可能性が高い人をあらかじめ見つけ、集中的に「診断・治療まで」を届けるのが「ハイリスクアプローチ」だ。
この方法では、健診データや問診情報、レセプト情報などに基づき、「喫煙歴が長い」「息切れ・慢性咳嗽が続く」「過去の受診が途絶えている」「心血管疾患で治療中かつ呼吸症状がある」といった条件で対象者を抽出。かかりつけ医などの医療従事者から直接的に受診・検査を促す。その最大のメリットは「介入効率の高さ」にある。すでに疾患予備群である層にピンポイントで接触するため、早期発見・早期介入に直結しやすい。特に、医師という専門的な知見をもつ第三者からの推奨は、患者の思い込みを打破する強い動機づけとなる。COPDの死亡者数削減を目指すうえでは、まずポピュレーションアプローチで「広く浅く」網をかけつつ、そこから漏れてしまう重症化リスクの高い層に「狭く深く」介入するといった両輪をバランスよく回すことが「受診に至るまでの壁」を破るカギとなる。

診断までの「目詰まり」を解消。地域設計で施策を仕組み化
このポピュレーションアプローチとハイリスクアプローチをバランスよく重ね合わせた「地域設計」の取り組みを進めたのが、高松市だ。この設計の土台となるのは、地域の医師会との強固な連携にある。両者はそれぞれの役割分担を明確にし、住民を受診につなげる導線づくりを試みた。
まずは、医師会の協力を得て、スパイロメトリー検査と確定診断が可能な協力医療機関を募った。こうして、かかりつけ医はCOPDの疑い症例を協力医療機関へ紹介できるようになり、対象者がスムーズに受診できる体制を整備した。
これにより、呼吸器非専門医であっても、リスク患者を見つけ次第、協力医療機関へ紹介するという導線が生まれた。次に、この協力医療機関のリストを作成し、対象者へ送付する受診勧奨通知(ポピュレーションアプローチ)に同封した。これにより、患者は「どこに行けば検査してもらえるのか」を一目で理解でき、医療機関を探す手間や負担が軽減される。
さらに、診断後の治療介入、治療強化の指針を示した日本呼吸器学会が発行する「COPD診断と治療のためのガイドライン」を用いて、かかりつけ医の理解を深める教育とフィードバックを徹底。診断後の治療へと移行できるよう、伴走支援を行った。未診断者を減らすだけでなく、診断された患者を適切な治療へつなぐという質的な向上も図っている。
こうして「疑いのある患者の抽出(ハイリスク)」と「受診の呼びかけ(ポピュレーション)」を並行させつつ、その出口を「協力医療機関リスト」という具体的な受け皿に集約させた。この官医連携による一連の仕組み化こそ「高松モデル」の核心である。このモデルにより、受診から検査、診断、治療までの「目詰まり」の改善を果たしている。
その成果は、定量的なデータとして着実に表れ始めている。

スパイロメトリー検査率は、62.1%から72.3%へ
令和6年度の高松市の事業では、対象集団を市の国民健康保険の被保険者(40歳以上)に加えて後期高齢者医療制度まで拡大。健診で「喫煙歴あり」と回答し、COPD治療歴がないハイリスク者や治療中断者に対して受診勧奨通知を発送した。その後、レセプトデータより、受診勧奨後3ヵ月間における受診率やスパイロメトリー検査実施率、診断率を評価。その結果、受診率は3,857人中488人で12.7%(前年度:1,901人中95人、5.0%)、スパイロメトリー検査実施率は488人中353人で72.3%(前年度:95人中59人、62.1%)、診断率は488人中237人で49%(前年度:95人中48人、51%)となった*4*5。前年度とは対象者が異なるため、単純比較はできないものの、多くの対象者を検査につなげられたことは大きな成果となった。
高松市は、かねてより専門医偏在や病院医師不足という地域医療に構造的な課題を抱えていた。同様の課題を抱える自治体は全国にも多いだろう。しかし、高松市の事例が示しているのは、そうした課題を抱えていても、医療との連携を強化した「地域設計」と「仕組み化」によって、より高度な介入事業を行えるという可能性だ。呼吸器の専門医が不足している地域であっても、「検査機能の集約」と「紹介ルートの整備」を行えば、地域全体での診断能力は維持できる。むしろ、かかりつけ医がスクリーニングを行うゲートキーパーとなり、検査を実施する医療機関がバックアップするという体制は、限られた医療資源を最大化する現実的な解決策となる可能性を示唆している。高松市が実践したこの取り組みは、国からも高く評価され、厚生労働省とスポーツ庁が主催した「第14回 健康寿命をのばそう!アワード」で「厚生労働省 健康・生活衛生局長 優良賞(自治体部門)」を受賞した。
高松市は、令和7年度以降、この基盤を、さらに発展させる計画である。重症化予防を目的とし、ハイリスク者のうち循環器疾患等を有する者や過去に急性増悪歴がある潜在している患者にも対策を拡大する方針だ。
官医連携による仕組み化は、いますぐ実行できる施策
COPDによる死亡者数の削減は、個々の現場努力だけでは困難だ。広く呼びかけるポピュレーションアプローチに、可能性が高い人へ深く届けるハイリスクアプローチを重ね、検査のボトルネックを地域で解く。診断後はガイドラインに沿う治療介入、治療強化を、教育と連携で確実に回す。こうして未診断・診断・治療介入・治療強化の一連の流れを制度として地域に埋め込むこと。それこそが「健康日本21」の目標達成を現実に近づける最短ルートになると考えられる。
高松市が先行して示した検証可能なプロセス改善は、全国の自治体と医師会がすぐに着手できる「成し遂げ方」ともいえる。事実、こうした取り組みを実施する自治体は着実に増えており、奈良市(奈良県)や郡山市(福島県)では、心血管治療中の患者群など「医院内の高リスク層」に資源を傾注する設計が進みつつある。この官医の強固な連携による仕組みは、各地域の課題や条件に合わせて、柔軟にアプローチを選択・融合させることもできる。
COPDの対策強化は、住民の健康を守るという自治体の使命を果たすことに直結する。そのためにも、ポピュレーションアプローチとハイリスクアプローチを地域の実状に即して最適化し、その「仕組み」を「社会実装」することが求められている。「健康日本21(第三次)」で明記された目標達成に向け、強固な官医連携の有効性が、高松市の取り組みによって示された。
<参考文献>
- 厚生労働省「健康日本21(第三次)の推進のための説明資料(その2)」
- 厚生労働省「行政歯科保健担当者研修会 講演資料①」
- 日本システム技術「令和6年度COPD受診勧奨事業効果検証報告書」
<出典元>
*1:厚生労働省「健康日本 21(第三次)推進のための説明資料(第1回 健康日本21(第三次)推進専門委員会 参考資料3)」令和5年10月20日
*2:Fukuchi Y, Nishimura M, Ichinose M, et al (2004). COPD in Japan: the Nippon COPD Epidemiology study. Respirology. 9 (4): 458-65.
*3:厚生労働省e-Stat:令和5年(2023年)患者調査/ 全国編/ 年次/ 表番号158
*4:高松市「COPD(慢性閉塞性肺疾患)対策について」
*5:日本システム技術株式会社「令和6年度 COPD受診勧奨事業 効果検証報告書」令和7年4月

当市では、COPDの医療費や死亡率の高さが従前より課題となっていました。加えて、疾患の認知度が低く、従来の啓発だけでは受診につながらず、施策の限界を感じていました。市民からは「どこで受診したらいいかわからない」との声があり、かかりつけ医が専門外のためCOPDの検査や確定診断を行っていない場合もあるため、確実かつ円滑に対象者をCOPDの診断・治療につなげる体制づくりが必要と考えました。そこで、アドバイザーであるKKR高松病院の森院長や地域の医師会などの協力を得て、同検査ができる協力医療機関一覧を作成。それを受診勧奨通知に同封することで、かかりつけ医は疑い症例を協力医療機関へ紹介でき、対象者がスムーズに受診できる体制を整備しました。この体制は、医師向けの説明会を実施するなど、施策への理解を深めてもらう努力を重ねたからこそ整備できたと感じています。此度の「健康寿命をのばそう!アワード」の受賞を励みに、今後は対象者の範囲を広げ、取り組んでいきます。
| 発足 | 平成12年1月 |
|---|---|
| 資本金 | 20億円 |
| 売上高 | 5,141億円(令和6年1月期/販促会社レベル・薬価ベース) |
| 従業員数 | 約3,700人 (令和7年4月現在) |
| 事業内容 | 医療用医薬品の開発、製造および販売 |
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