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「負の連鎖」がシティプロモーションを失敗させる

    【自治体通信Online 寄稿連載】成功するシティプロモーション、失敗するシティプロモーション ①(関東学院大学准教授・牧瀬 稔)

    自治体が直面する今日的課題のひとつである「シティプロモーション」について、自治体の現場に精通している関東学院大学・牧瀬稔准教授(法学部地域創生学科)に、成果を出すための“処方箋”を連載で寄稿してもらいました。今回は、シティプロモーションで苦労する事例がなぜ多いのかについて。うまく行かない明確な理由があるようです。
     
    【目次】
    ■ 多くの自治体が取り組んでいるものの…
    ■ 意外と歴史が長い取り組み
    ■「シティプロモーション疲れ」も
    ■「先進事例=成功事例」ではない

    多くの自治体が取り組んでいるものの…

    今回から数回にわたって「シティプロモーション」を取り上げる。シティプロモーションは、近年、筆者のところに依頼や質問などが多く届く。

    「シティプロモーション」という言葉をwebで検索すると、現在(2019年7月末)は約920万件がヒットする。多くの地方自治体がシティプロモーションに取り組んでいる。しかし、成功しているシティプロモーションは一部である。

    その他多くが失敗とは言えないが、成果を出せずに苦労している状況がある。ここで言う成果とは、定住人口の増加や交流人口の拡大などである。

    成果を出せない理由は「独りよがりのシティプロモーション」が多いからである。独りよがりとは「顧客志向ではない」と言える。顧客志向が持てない原因は、次回以降で言及する。

    意外と歴史が長い取り組み

    詳細に入る前に、簡単にシティプロモーションの経緯を確認する。かつてX市の市長は「2000年半ばに全国ではじめてシティプロモーションを実施した」と述べている。しかし、この発言は間違っている。シティプロモーションの動きは1980年代から確認することができる。

    いつからシティプロモーションという語句が使われはじめたのか。過去の新聞記事から探してみた(図表1)。使用した新聞は、朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、産経新聞の4つの全国紙である。

    この4紙を確認すると、シティセールスは1980年代後半に福岡市(福岡県)が使用しているようである。1995年9月15日の朝日新聞に「東京事務所では89年に、シティセールス担当課長を設けるなど、アジアの拠点都市を目指してイベントの誘致などで売り込みに懸命だ」という記事がある。

    【図表1】「シティプロモーション」「シティセールス」という語句が全国紙4紙に掲載された回数の推移“>
    【図表1】「シティプロモーション」「シティセールス」という語句が全国紙4紙に掲載された回数の推移

    一方でシティプロモーションという言葉は、1999年10月29日の読売新聞に見られる。それは和歌山市(和歌山県)の「市を総合的に市外へ売り込む『シティプロモーション推進課』を市長公室に設置する機構改革を発表した。市外からの受け入れを一本化した窓口となると共に、市の総合計画や歴史、文化を宣伝し、観光客や企業、国際大会の誘致など市の発展につなげていく」との記事である。

    あくまでも朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、産経新聞だけであり、1980年代半ば以前からシティプロモーションを実施している可能性はゼロではない。いずれにしろ、上の図表1からシティプロモーションは意外と歴史があることが理解できる。

    「シティプロモーション疲れ」も

    確かにシティプロモーションの歴史は1980年代から見られるが、本格的に活発化してきたのは2010年前後と言える。筆者がはじめてシティプロモーションに取り組んだのも2008年である。

    当時は政令指定都市を中心にシティプロモーションが展開されていた。そして現在では多く自治体がシティプロモーションに取り組んでいる。図表1を見てもわかるように、2010年前後から急激にシティプロモーションの記事は増加してきた。

    が、近年は逓減傾向である。筆者は「シティプロモーション疲れ」があると推察している。実際、シティプロモーションに成功した自治体がある一方で、なかなか成果を導出できず苦労している事例も今日では多い。

    苦労している原因のひとつは「先進事例と成功事例の混同」があるように思う。格言に「歴史は繰り返す」とある。実はそうではない。真実は、歴史を学ばない人が「同じ歴史を繰り返す」のである。過去のシティプロモーションの成功と失敗をしっかりと学び、同じ轍を踏まないことが重要である。

    シティプロモーションの注意点を述べたい。2008年からシティプロモーションに取り組んでいるP市とQ市がある。P市とQ市はシティプロモーションの“先進事例”と称されている。今日においても、両市のシティプロモーションに関する記事を多く見かける。また視察も多い。

    ところが、気を付けることがある。両市はシティプロモーションを開始してから、定住人口は一貫して減少している。P市の交流人口は逓減であり、Q市は激減である。そして両市の財政も継続的に悪化している。

    さらに分析してみる。P市とQ市が進めているシティプロモーションの政策目標は、定住人口と交流人口の増加となっている。ところが全く達成できていない現実がある。

    P市はシビックプライドも政策目標に入れている。シビックプライドの利点は、しばしば「転出者を減らす」と言われる。しかし、P市は転出者が増加している。すなわちシビックプライドも失敗していると言えるだろう。

    「先進事例=成功事例」ではない

    ここまで言いたい放題で申し訳ないのだが、P市やQ市を貶めるという意図はない。何を言いたいかというと「先進事例と成功事例は異なる」ということである。

    P市やQ市はシティプロモーションの先進事例に間違いないが、決して成功事例ではない。だが、視察に訪れる多くの関係者が「先進事例=成功事例」と勘違いしている。この点は特に注意しなくてはいけない。これはシティプロモーションに限らず、政策づくり全般に言える。

    ちなみに議員視察が多い。議員はP市やQ市に訪れ、シティプロモーションを学んで、自分の自治体に帰っていく。そして議会で「P市やQ市を参考にしてシティプロモーションに取り組むべきだ」と執行部に提案している。真面目な執行部はP市やQ市を参考事例としてシティプロモーションにしっかり取り組む。その結果、お手本としたP市やQ市と同様に、成果の導出に苦労してしまうことになる。

    間違ったシティプロモーションの負の連鎖が続いている。当たり前だが、失敗事例を模倣すれば、確実に失敗していく。失敗事例は反面教師として活用しなくてはいけない。

    さらに読者に伝えたいのは「シティプロモーションを冷静に把握しましょう」である。そして「成果があがるシティプロモーションを実施しましょう」に集約される。

    次回以降では、シティプロモーションを成功の軌道に乗せる視点を紹介する。

    (第2回「成功しないシティプロモーションの共通項」に続く)

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    牧瀬 稔(まきせ みのる)さんのプロフィール

    法政大学大学院人間社会研究科博士課程修了。民間シンクタンク、横須賀市都市政策研究所(横須賀市役所)、公益財団法人 日本都市センター研究室(総務省外郭団体)、一般財団法人 地域開発研究所(国土交通省外郭団体)を経て、2017年4月より関東学院大学法学部地域創生学科准教授。現在、社会情報大学院大学特任教授、東京大学高齢社会研究機構客員研究員、沖縄大学地域研究所特別研究員等を兼ねる。
    北上市、中野市、日光市、戸田市、春日部市、東大和市、新宿区、東大阪市、西条市などの政策アドバイザー、厚木市自治基本条例推進委員会委員(会長)、相模原市緑区区民会議委員(会長)、厚生労働省「地域包括マッチング事業」委員会委員、スポーツ庁参事官付技術審査委員会技術審査専門員などを歴任。
    「シティプロモーションとシビックプライド事業の実践」(東京法令出版)、「共感される政策をデザインする」(同)、「地域創生を成功させた20の方法」(秀和システム)など、自治体関連の著書多数。
    牧瀬稔研究室  https://makise.biz/

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