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成功しないシティプロモーションの共通項

    【自治体通信Online 寄稿連載】成功するシティプロモーション、失敗するシティプロモーション②(関東学院大学准教授・牧瀬 稔)

    定住人口や交流人口の拡大などへの効果が期待されるシティプロモーションを実施する自治体が年々増加しています。数多くの自治体のシティプロモーションに携わっている関東学院大学・牧瀬稔准教授(法学部地域創生学科)による本連載の2回目は、シティプロモーションに取り組む際の注意点です。
     
    【目次】
    ■ シティプロモーションの「出羽守」とは?
    ■ 先進事例の注意すべき視点
    ■ 成果のあるなしが重要
    ■ 成功事例から学ぶ時にも注意すべき点がある

    シティプロモーションの「出羽守」とは?

    しばしば自治体の政策立案には「出羽守」(でわのかみ)が登場する。文字通りに解説すると、出羽守とは大和時代の地方行政区分で律令国のひとつである出羽国を治めた国守のことだが、ここで使用している意味はそうではない。回答は『では』を多用する現代の自治体の傾向である。

    具体的には「〇〇市『では』シティセールスを展開し、10ポイント以上も定住人口が増加した」あるいは「□□市『では』ブランド・プロモーションに取り組み、人口の自然増を達成した」というように『では』を強調する傾向である。

    こうした傾向にある理由や背景は、よく言うと「自治体は競争意識が強いため、周囲が気になって仕方がない」からだ。悪く言うと「横並び意識があるため、やはり周りの動向を押さえておきたい」ためだ。

    そして、周囲の取り組み状況に影響された結果、何となく政策の立案に取り組むことが多い(このことを「何となく政策立案」と言う)。つまり、出羽守化とは、周囲ばかりを気にする一方で、自分(自治体)たちの意見を持っていないことの裏返しである。

    シティプロモーションを採用する自治体でも、この傾向が拡大している。年毎にシティプロモーションに取り組む自治体が増加しているものの、今日のシティプロモーション・ブームは、明らかに「出羽守」の様相が強いのだ。

    このような状況ではシティプロモーションの成功は難しいだろう。自分たちの意見を持たずにシティプロモーションを実施したため、失敗事例のノウハウを移植してしまう場合が多いからだ。実際、筆者の周辺でも次にご紹介するケースがあった。

    先進事例の注意すべき視点

    それは、こんなエピソードである。

    ――X市はシティプロモーションの先進事例と称されている。2000年代半ばからシティプロモーションを展開してきた。当時は政令市を中心にシティプロモーションが実施されており、X市のような一般市では、ほとんど見られなかった。

    そのためX市はシティプロモーションの先進事例と認められているおり、シティプロモーションに取り組む自治体が多くなってきた近年では、そのノウハウを得ようと議会(議員)を中心にX市の視察が多い。

    マスメディアも注目し、X市のシティプロモーションに関する記事も一定数存在する。その記事を見た議員や職員がX市に視察に行くという循環が生まれている。

    筆者自身もX市が登壇するセミナーを何度か拝聴した。シティプロモーションの事例が少なかった時期に、積極的に取り組んできた事実に敬意を持っている。何事も草創期は苦労するものである。

    確かにX市はシティプロモーションの先行者利益を得て、マスメディアに登場する回数が増えた。その結果、X市の認知度は上昇しているようだ。ところが、注意すべき視点もある。

    それは、X市がシティプロモーションに取り組んできた間、一貫して定住人口の状況が減少している点だ。しかも大きく減少している。国立社会保障人口問題研究所が発表するX市の将来人口推計よりも大きく減少している。これは同研究所が想定するよりも定住人口が悪化していることを意味する。

    同時に交流人口は逓減しており、財源も悪化しつつある。筆者が確認すると、このほかにもX市の指標の多くは悪化している。しかし、シティプロモーションの先進事例と称されるため、依然として視察が相次いでいる。

    成果のあるなしが重要

    特に議会視察が多い。X市を視察した議員は、視察後、自らの議会で執行部に対し「X市を参考にして、シティプロモーションを実施するべきだ。そうすれば人口減少に歯止めがかかる」という趣旨の質問をしている。執行部は「シティプロモーションに取り組みます」と回答している。

    その後、執行部はX市を視察している。そしてX市を参考としてシティプロモーションを開始することになった。ところが、よい成果はあらわれず、むしろ定住人口は激減しているなど、苦悩している現状がある(そして筆者に相談が来た)。

    X市は失敗事例である。その失敗事例を参考にシティプロモーションを実施すれば、当然、失敗していく。この点は注意しなくてはいけない。

    言いたいことは「先進事例はイコール成功事例と限らない」という事実である。視察した先進事例が失敗事例と分かった場合は、「反面教師」として捉え、同じ轍を踏まないことが大切である。悪い事例を参考として着実に実施すれば、当然、結果は悪くなる。

    意外と「先進事例=成功事例」と捉えている人が多い。しかしながら、必ずしもイコール(=)とはならない。先進事例と思っていても、様々な数字を確認すると、失敗事例という真実は多々ある。

    成功事例から学ぶ時にも注意すべき点がある

    諺に「歴史は繰り返す」がある。古代ローマの歴史家クルティウス・ルフスの言葉と言われている。この諺は「過去に起こったことは同じような経緯をたどって再現される」という意味で使用されることが多い。

    確かに「歴史は繰り返す」という傾向がよく見られる。しかし厳密に考えると、筆者は「まったく同じ歴史が繰り返されることはない」と考えている。

    歴史を繰り返してしまうのは、過去の歴史をしっかりと学ばななかった人間(私たち)が、結果として同じ歴史を繰り返してしまうのである。失敗事例も、成功事例も、しっかりと学んでいくことが求められる。

    先進事例が本当に参考とすべき事例なのか、客観的に検討する必要がある。読者が先進事例を参考事例として活用しようとするのならば、その先進事例先が本当に成功事例であるか、しっかりと政策研究をしなくてはいけないだろう。

    また、地域の事情は地域毎に異なる。ある地域の成功事例が、そのまま別の地域に当てはまることは少ない。ある地域の成功事例を活用する時は、自分たちの地域の事情や背景、地域性にあわせて移転していくことが求められる。

    (第3回「『基本』を押さえれば成果は出てくる」に続く)

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    本連載のバックナンバー

    【第1回】「負の連鎖」がシティプロモーションを失敗させる

    牧瀬 稔(まきせ みのる)さんのプロフィール

    法政大学大学院人間社会研究科博士課程修了。民間シンクタンク、横須賀市都市政策研究所(横須賀市役所)、公益財団法人 日本都市センター研究室(総務省外郭団体)、一般財団法人 地域開発研究所(国土交通省外郭団体)を経て、2017年4月より関東学院大学法学部地域創生学科准教授。現在、社会情報大学院大学特任教授、東京大学高齢社会研究機構客員研究員、沖縄大学地域研究所特別研究員等を兼ねる。
    北上市、中野市、日光市、戸田市、春日部市、東大和市、新宿区、東大阪市、西条市などの政策アドバイザー、厚木市自治基本条例推進委員会委員(会長)、相模原市緑区区民会議委員(会長)、厚生労働省「地域包括マッチング事業」委員会委員、スポーツ庁参事官付技術審査委員会技術審査専門員などを歴任。
    「シティプロモーションとシビックプライド事業の実践」(東京法令出版)、「共感される政策をデザインする」(同)、「地域創生を成功させた20の方法」(秀和システム)など、自治体関連の著書多数。
    牧瀬稔研究室  https://makise.biz/

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