【障がい者雇用・遊休地】障がい者の自立を支える農園が、遊休地に新たな社会的価値を宿す
(はーとふる農園 / 日建リース工業)


※下記は自治体通信 Vol.70(2025年11月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
人口減少や地域経済の停滞により、多くの自治体で遊休地が増加傾向にある。自治体では、これらの土地をいかに有効活用し、新たな雇用や価値を生み出すかが問われている。そうしたなか、横須賀市(神奈川県)では遊休地となっていた火葬場跡地などを活用し、民間事業者が障がい者就労農園を開所。障がい者の社会参加と経済的な自立の場として再生し、地域価値の創出につながっているという。取り組みの詳細を、同市FM推進課の山中氏に聞いた。

駅近の好条件にもかかわらず、未利用が続いた火葬場跡地
―遊休地を障がい者就労農園に活用した経緯を聞かせてください。
当市では、立地条件や土地への印象などから活用が進まない未利用地が多くあります。今回、活用にいたった土地は駅近の好立地でしたが、「火葬場跡地」への心理的ハードルなどから長年利用を希望する人が現れず、地域の空洞化の一因になっていました。こうした土地を「維持管理コストのかかる資産」から「地域に価値を生む資産」に変えることが課題となるなか、障がい者就労農園事業を展開する日建リース工業が農園用地を探しているという情報を得たのが開所のきっかけとなりました。
―詳しく聞かせてください。
同社は「障がい者就労農園を横須賀にもつくってほしい」という市民の声に応えようと農地を探していましたが適地が見つからず、農地以外での展開も検討していました。そこで当市からアプローチし、概ね平坦で日照も確保できる火葬場跡地などの活用を提案したところ、栽培ベッドに砂を敷く「高床式砂栽培」であれば事業展開が可能と判断されました。市としても活用が進まない土地を社会的意義のある形で再生できるうえ、同社がほかの地域で障がい者就労農園の運営実績を有し、就労者の高い定着率を維持する仕組みがある点も、活用の決め手になりました。
―それは具体的にどのような仕組みなのですか。
既存農園を見学した際、同社の「高床式砂栽培」は作業がマニュアル化されていて覚えやすく、腰をかがめずに作業ができて体への負担が少ないため、誰もが長く働ける環境だと感じました。福祉事業所ではなく一般企業との雇用契約に基づく「働く場」であり、安定した収入を得られる仕組みとして障がいのある方々の自立支援にもつながります。農園は『はーとふる農園よこすか』として8月に一部エリアが開所し、長年手つかずだった遊休地が地域に開かれた場所へと再生しました。
一般就労の場として、月15万円の収入も想定
―取り組みにどういった成果を期待していますか。
『はーとふる農園よこすか』では約60人の障がいのある方々の雇用が見込まれ、市内ではかなり大規模な一般就労の場となります。長く動かなかった土地が地域に経済的・社会的な循環を生み出す点に大きな意義があります。一般的な就労継続支援事業所での月収が2万~8万円であるなか、ここでは約15万円が見込まれるほか、収穫された作物が地元のスーパーや飲食店で消費されるなどの波及効果も期待されます。障がい者の自立を支えるこの循環型モデルは、市長が掲げる「誰も一人にさせないまち」の理念を具現化するものであり、遊休地が市民の人生を豊かにする場所に変わることこそ、この取り組みに期待する成果です。


―遊休地の利活用をめぐる自治体の状況をどう見ていますか。
人口減少や産業構造の変化を背景に、各地で遊休農地や公共住宅・学校・企業の跡地といった土地が増えています。こうした土地は活用のめどが立たず、「負債資産」として自治体の財政を圧迫しているケースも少なくありません。その解決に向けて大切なのは、土地を再整備して終わらせるのではなく、地域の営みを続けられる形で活かすことです。そこで当社では、遊休地を障がい者就労農園として再生する提案を進めています。
―詳しく聞かせてください。
当社がモデル化した『はーとふる農園』はビニールハウスを使用した農園で、既存の地形を活かして遊休地を「障がい者の自立支援の場」や「生産拠点」へと変える仕組みです。働きやすさと続けやすさを重視し、「高床式砂栽培」による体への負担軽減、天候に左右されにくい環境設計、ワークサポーターによる個別支援体制を整えています。さらに、当社が企画や運営支援を担うことで、自治体は業務負担を軽減しながら、地域に根差した持続的な運営を目指せます。
―自治体に対する今後の支援方針を聞かせてください。
複数の自治体で展開している『はーとふる農園』では、年間約300万円の維持管理費削減や100人規模の雇用創出といった成果も生んでいます。そこで積み上げてきた知見が、各地域の課題に合った柔軟な提案を可能にしています。今後も自治体と連携し、使われていない土地を、地域を支える土地へと変えていくことを目指します。

| 設立 | 昭和42年11月 |
|---|---|
| 資本金 | 約300億円(剰余金含む) |
| 売上高 | 約1,009億円(令和6年9月期) |
| 従業員数 | 約2,100人(令和6年9月現在) |
| 事業内容 | 建設用鋼製軽量仮設資材および関連商品の賃貸・販売など |
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