【河川防災、鋼製スリット】中下流域に設置した「流木捕捉工」が、河川防災の「最後の砦」として機能
(河川向け流木捕捉工 / 日鉄建材)


※下記は自治体通信 Vol.70(2025年11月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
昨今、気候変動による記録的豪雨の頻発化や、それに伴う河川氾濫など水災害の激甚化が各地に大きな被害をもたらしている。そうしたなか、「平成29年7月九州北部豪雨」など度重なる被害にさらされてきた大分県では、その教訓を活かした水災害対策として、日田市内を流れる小野川に「流木捕捉工」を設置する新たな取り組みを行っている。同県日田土木事務所の築地氏に、取り組みの詳細と実感する効果などを聞いた。

全国的にも事例が少ない、河川内での「流木捕捉工」設置
―大分県が新たな水災害対策を行った経緯を聞かせてください。
直接的なきっかけは、平成29年7月に発生した九州北部豪雨でした。総雨量634㎜、時間雨量83㎜の記録的な豪雨によって、日田市内を流れる小野川で氾濫が起こり、多数の家屋や事業所が浸水するなど流域に甚大な被害をもたらしました。県内ではこれまでも大規模水害がたびたび発生していましたが、この九州北部豪雨によって、近年の気候変動の影響を再認識させられました。その後、被災原因を検証するなかで、流木による流下阻害が特に被害を大きくしたことが判明しました。そこで県では、被害の再発防止策として、洪水時に流木や土砂を捕捉する「流木捕捉工」の設置が必要と考えました。ただし、従来は流木の発生源対策として上流の砂防ダムに設置する例は多いものの、中下流の河川内に設置する例は全国的にもほとんどありませんでした。
―そうした状況で、工事計画はどのように進めたのですか。
まずは、施設規模を設定するため、航空写真や現地調査をもとに推定される流木の発生量を算出しました。その結果、700m³の流木捕捉能力を有する施設が必要と判断しました。また、流木を捕捉する仕組みに関しては、砂防事業でも多くの実績があり、施工性に優れた「鋼製スリット」を選定しました。その後、洪水時の水や流木の流下状況など複雑な水理現象を想定した「水理模型実験」も行い、流木の捕捉率を向上させるための鋼製スリットのサイズや高さ、水を分流させるための配置形状、捕捉後の流木除去などの維持管理のしやすさなどを考慮し、施設設計を細かく組み上げていきました。
被害軽減に十分な効果、地域住民からも感謝の声が
―完成した流木捕捉工の概要を教えてください。
施設工事では護岸、擁壁、護床の工事を行ったうえ、蛇行部の外側に鋼製スリットをL字型に配置しました。河川横断方向に高さ5mの鋼製スリットA型8基、高さ8mの鋼製スリットB型1基を27mにわたって配置しました。さらに、河川縦断方向には高さ3mの鋼製スリットA型を25基設置しました。施工に際しては、日鉄建材による厳格な工程管理によって高品質の鋼製スリットが届けられたことで、非出水期に限定された現地作業もスムーズに進行できました。
令和5年7月には、日田市内において総雨量507㎜、時間雨量76㎜と、平成29年7月九州北部豪雨に匹敵する豪雨被害が発生しました。その際には、施設全体で流木600m³、土砂7,000m³を一晩で捕捉できた結果、施設より下流部では橋梁閉塞はなく、被害軽減に十分な効果を確認できました。地域住民からも流木捕捉工が機能したことへの安心や感謝の声が寄せられており、河川防災の「最後の砦」としての役割を果たせたことで、私自身も土木防災事業の意義や醍醐味を味わえた印象です。


―水災害対策をめぐる自治体の課題はなんでしょう。
近年の集中豪雨の頻発化、それに伴う土砂災害の甚大化を受け、国は水災害対策をめぐって「流域治水」を提唱しています。これは従来の砂防や治山といった河川上流における水災害の発生源対策に加え、中下流域での氾濫対策も含め、上流・中流・下流を一体的にとらえる防災対策の考え方です。この流れを受け、当社では砂防や治山の分野で活用されてきた「鋼製スリット」を、中下流域での流木捕捉に活用することを提案しています。
―どのようなものでしょう。
鋼管フレームで構成される構造物であり、所定の間隔で設置することで、平常時はこの隙間から水や土砂を下流へ流し、洪水や土石流の発生時には効果的に流木や土砂を捕捉するものです。当社の「鋼製スリット」は、シンプルかつ合理的な構造により、施工性に優れ、現場での工期短縮や作業効率向上に貢献できるのが特徴です。2,000件以上の豊富な施工実績で培われた高い開発力と信頼性、さらには鋼材メーカーとしての高い品質管理と安定した供給体制を強みとしています。開発や商品提案から設計支援、製造、現場での組み立て支援までのトータルサポートを通じて、「安心」を提供できるのも当社の強みです。
―今後の自治体への支援方針を聞かせてください。
今回の小野川での施工・捕捉実績を受け、従来の砂防・治山分野にとどまらず、今後は河川分野における流木対策として「鋼製スリット」の活用を積極的に提案していきます。

| 設立 | 昭和48年4月 |
|---|---|
| 資本金 | 59億1,250万円 |
| 売上高 | 約1,615億円(連結:令和7年3月期) |
| 従業員数 | 1,792人(連結:令和6年3月31日現在) |
| 事業内容 | 建築・土木・防災分野における鉄鋼製品を開発、製造、販売 |
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