【高齢者の保健事業と介護予防の一体的実施】健診データ等の統計解析で、「フレイル予備群」の予測精度が向上
(フレイルリスク予測サービス / エーザイ)


※下記は自治体通信 Vol.67(2025年7月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
連載第1回(66号)では、アプリ活用による受診勧奨の拡大をテーマに、介護予防を目的とした歯科健診の利用拡大を図った事例を詳述した。今回は、豊田市(愛知県)が健診などのデータを用いたスクリーニングによって、口腔フレイル予防の介入効果を改善した実証事例を紹介。同市の三俣氏によれば、フレイルの前段階である「プレフレイル」の的確な予測で、想定以上の成果が得られたという。実務に携わった同市の植田氏を交えて話を聞いた。


従前のシステムでは、対象者の発見が難しかった
―フレイル予防の実証事業に取り組んだ経緯を教えてください。
三俣 当市では、「第8次豊田市総合計画」で「超高齢社会への適応」を重点施策に位置づけ、フレイル予防事業に取り組んできました。特に、令和3年度から実施する「ずっと元気!プロジェクト」では、高齢者に向けた健康増進プログラムなどを多数実施し、その効果に手応えを感じていました。
植田 一方で、コロナ禍以降、人口減少が加速し、令和7年現在、第8次総合計画当初の推計よりも約2万人も少なくなっています。それと同時に、後期高齢者数は10年間で約2.2倍*と急激に増加し、要介護認定率も約17%に達しました。新たな事業の必要性を感じていた折、「あいちデジタルヘルスプロジェクト*」会員のエーザイ社から、健診や質問票などの保健データを活用したフレイル予防事業を提案され、令和6年11月より実証を開始しました。
―実証を行う決め手はなんだったのでしょう。
植田 フレイルになる前の「プレフレイルの高齢者(以下、フレイル予備群)」をスクリーニングできる点です。フレイル予防では、プレフレイル段階での早期介入が重要とされていますが、従前から用いているKDBシステム*では、「基礎疾患のある人」も対象に抽出されるため、「フレイル予備群」の予測には不向きでした。また、アンケートなどの主観的な回答からフレイルリスクを予測しても、実際には健康だったという例もあり、その発見は難しかったのです。
三俣 その点、今回の実証は、当市や関連団体が保管する各種データを統計解析し、「フレイル予備群」を予測します。そこで対象となった高齢者にアプローチして予防プログラムへの参加を促すため、高精度で早期発見・早期介入が可能になります。実際、想定以上の成果を得ることができました。
*平成22年との比較値
*あいちデジタルヘルスプロジェクト : 超高齢社会の課題解決に向け、愛知県が行うデジタル技術を活用した産学官金連携プロジェクトのこと
*KDBシステム : 国保データベースシステムの略称。国保連合会が健診・医療・介護などの「統計情報」や「個人の健康に関するデータ」を作成し、提供するシステムのこと
効率的な早期介入に手応え
―どのような成果でしょう。
三俣 データ解析で「フレイル予備群」をスクリーニングし、並行して口腔フレイル予防プログラムの通知を620人に送付した結果、112人が参加意向を示しました。当市が網羅的に送付しても、30~40人しか返答がないなか、今回の取り組みへの関心の高さがうかがえました。
植田 さらに事前のスクリーニングにおいてプレ口腔フレイルと予測していた予防プログラム参加者27人のうち、「プレ口腔フレイル」が21人、「口腔フレイル」が5人と、高精度で予測でき、効果的な早期介入につながりました。予防プログラムではロッテ社の協力を得て、対象者に口腔体操を3ヵ月継続してもらった結果、口腔と身体状態の改善が見られました。
―実証結果を、今後どう活用していきますか。
三俣 今年度からの「第9次豊田市総合計画」では、「こども起点」のまちづくりを最重視しています。高齢化で生じた課題を次世代に残さぬよう、実証結果をもとに施策を検討し、未来志向のまちづくりを進めていきます。

当社は「噛むこと」による、国民の健康増進を目標のひとつに掲げ、さまざまな研究を行っています。特に近年、咀嚼や嚥下能力が低下する「オーラル(口腔)フレイル」が、高齢者の介護・死亡リスクを高めることがわかってきており、当社でも大学などと協働して、口腔機能改善エクササイズなどを開発・提供してきました。従前より自治体と協力して、高齢者のオーラルフレイル予防に取り組んできましたが、参加者のなかには口腔機能が健康なかたも多く、機能改善が必要なかたへの効率的な提供が課題でした。豊田市との実証では、エーザイ社のスクリーニングによって、フレイルリスクの高い高齢者に、エクササイズと通いの場での多様なプログラムを実施した結果、咀嚼能力や舌の力などの口腔機能に加え、食生活や身体状態の改善にも効果を示しました。今後は各自治体の要望に応じたプログラム調整やアプリなどの活用による運営効率化により、予防介入事業の実効性向上と利用拡大に貢献していきます。
設立/昭和23年6月 資本金/2億1,700万円 従業員数/7,375人(令和5年3月末現在:連結) 事業内容/菓子、アイスクリーム、健康食品、雑貨の製造および販売 URL/https://www.lotte.co.jp/

―自治体によるフレイル予防事業の現状をどう見ていますか。
フレイルは、介護が必要になる前、さらにより軽度の「プレフレイル」段階での対策が肝要ですが、介入を要する対象者の把握は非常に困難です。自治体はチェックリストなどを通じて該当者の把握を試みていますが、本人の一時的な回答から健康状態を見極めることは容易ではありません。自治体からは、「フレイル疑いがあり」とされた高齢者に会うと、実際は元気だったというケースが多いことや、予防介入プログラムを実施しても、集まるのは健常者ばかりといった事例をよく耳にします。
―良い解決策はありますか。
自治体が有する健診や基本チェックリストのデータから住民ごとにリスク度合を算出する「フレイルリスク予測サービス」なら、統計解析に基づき高精度にフレイル予備群を発見します。口腔フレイルに焦点を絞った豊田市との実証では「プレ口腔フレイル」の的中率が77.7%を示し、その後の効果的な予防介入につながりました。こうした介入対象者のスクリーニングに加え、協力各社の強みを活かした健診受診促進から予防トレーニング、アウトカム評価によって自治体のフレイル対策を後押しします。
―今後の自治体への支援方針を聞かせてください。
人生100年時代と呼ばれるいま、元気な状態の維持は、前向きに暮らすための重要なポイントだと考えています。当社はフレイル予防サービスパッケージを通じ、自治体と住民の健康に貢献していきます。

設立 | 昭和16年12月 |
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資本金 | 449億8,600万円(令和7年3月末現在) |
従業員数 | 1万917人(令和7年3月末現在:連結) |
事業内容 | 医薬品の研究開発、製造、販売および輸出入 |
URL |