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宮崎市北土地改良区の取り組み
先進事例2023.07.25
安全なため池の水位計測

ため池水位の遠隔計測を実現。大雨時の点検リスクゼロを目指す

ため池水位の遠隔計測を実現。大雨時の点検リスクゼロを目指す

※下記は自治体通信 Vol.51(2023年7月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

大雨や台風など自然災害の深刻化が進む近年、農業用ため池の浸水対策強化に取り組む自治体は多い。そこでは、大雨時のため池点検に伴う危険をいかに軽減するかも重要な課題となっている。そうしたなか、宮崎市北土地改良区は、ため池に「水位計測システム」を設置し、遠隔で水位を把握できる体制を構築した。同土地改良区の理事長、鳥丸氏に取り組みの詳細を聞いた。

[宮崎市] ■人口:39万7,637人(令和5年7月1日現在) ■世帯数:18万7,842世帯(令和5年7月1日現在) ■予算規模:3,278億1,600万円(令和5年度当初) ■面積:643.57km² ■概要:九州南東部に位置し、地形は北部から西部にかけて丘陵地が連なり、南部は鰐塚山系、双石山系の山地で占められる。昭和63年に国のリゾート法適用第1号の承認を受けた「宮崎・日南海岸リゾート構想」にもとづき、ホスピタリティ豊かな国際リゾート都市を目指すほか、近年では、生目の杜運動公園を核として「スポーツランドみやざき」の実現に積極的に取り組んでいる。
インタビュー
鳥丸 秀秋
宮崎市北土地改良区
理事長
鳥丸 秀秋とりまる ひであき

過去に浸水被害を起こした、大型のため池が域内に存在

―宮崎市北土地改良区では、どのようにため池の点検を行っていましたか。

 晴天が続いたり大雨の予報があったりした際に、各ため池の管理者が現場に赴き、目視で水位を測っていました。そこから必要に応じて、ため池の貯水量を調整するのですが、大雨被害の頻発化、激甚化が進む近年、私はこの管理方法に不安を感じていました。ため池の決壊を防ぐため、大雨が降る前にはあらかじめ水位を下げておくのですが、いざ雨が降り出すと人はどうしても現場のようすが気になってしまうものです。当土地改良区には、平成17年の台風で浸水被害を起こしたことのある大型のため池も存在します。そのため、降雨時にため池を見に行った人が事故に遭ってしまうリスクを身近に感じていたのです。そうしたなか、令和3年に宮崎市の農村整備課から、ため池の水位計測に関する実証実験の打診を受けました。

―どういった内容の実験ですか。

 ため池に計測システムを設置し、水位を遠隔で把握できる技術を検証するものです。安全なため池点検につながる有意義な取り組みだと感じ、我々はすぐに実験への協力を決めました。農村整備課では複数の企業からシステムの提案を受けていたようで、我々が管理するため池には、ソフトバンクの『ichimill』というシステムを設置することになりました。それは、「衛星測位」という方式を採用したもので、GPSなどを用いて水位を高精度に計測できる点が特徴とのことでした。

 令和3年10月、センサーを搭載した浮船をため池に浮かべ、計測した水位データを随時、Webページで観察するという実証実験がスタートしました。

基準値を上回った場合は、アラートの受信も可能

―実験の結果はいかがでしたか。

 1cm単位の詳細な水位データを、どこにいてもリアルタイムに取得できる便利さを実感しました。システムでは、「基準値」をあらかじめ設定しておけば、実際の水位が特定の基準値を上回った際には、注意や警戒のアラートを受信することもできます。これによって、大雨時の危険な見回りを減らしたり、水位が危険なレベルに達した際の周辺住民への警戒を早めたりできると確信しました。そのため、今年3月からはこのセンサーを本格導入し、毎日活用しています。

―今後の活用方針を聞かせてください。

 『ichimill』は特別な工事が不要なため、短時間で手軽に設置できる点にもメリットを感じています。今後は、『ichimill』の設置をほかのため池にも広げ、大雨時の危険なため池点検をゼロにしていきたいですね。

支援企業の視点
工事不要の「衛星測位方式」ならば、水位計の設置を手軽に広められる
インタビュー
秦 健太朗
ソフトバンク株式会社
法人プロダクト&事業戦略本部 Service Design室 サービスデザイン第2部 高精度測位サービス推進課
秦 健太朗はた けんたろう
平成3年、福岡県生まれ。平成28年に筑波大学を卒業後、ソフトバンク株式会社に入社。法人営業に従事。令和3年より現職。おもにサービスの企画開発を担う。

―ため池の水位計測に関心を持つ自治体は増えていますか。

 はい。日常の水位点検を安全に行えるようにしたいと考え、水位計の設置を検討する自治体は増えています。また、ため池の水位と降雨量の相関関係を把握する目的で、定量的な水位データを得たいと考える自治体も多いです。ただし、従来からダムで用いられる「水圧式」の水位計は、堤体に工事を施す必要があるため、設置のハードルが高まってしまいます。

―どうすればよいのでしょう。

 GPSなどの信号を使って水位を測る「衛星測位方式」を活用すればよいのです。たとえば当社では、『ichimill』という高精度測位サービスを活用した、ため池の水位計測システムを提案しています。これは、衛星測位システムから発信された信号を2地点で受信することで、誤差数cmの高精度な「RTK*測位」を行えるのが特徴です。水上フロート式の自立電源と組み合わせれば、水位計として利用できるのです。工事が不要で、設置が2時間ほどで済み、費用も抑えられるので、実験的な設置や、水位データをある程度収集した後にほかのため池に移設するといった活用も可能になります。

*RTK : Real Time Kinematicの略。GPSなどによる位置測定の精度を向上させる技術のこと

―自治体に対する今後の支援方針を聞かせてください。

 『ichimill』は水位計以外にも多様な活用ができます。たとえば、RTK測位に対応したドローンに利用することで、精密農業や果樹への農薬散布、測量、点検への活用が可能です。また、トラクターでは自動操舵や走行履歴管理への活用ができます。ぜひお気軽にご相談ください。

設立

昭和61年12月

資本金

2,043億900万円(令和5年3月31日現在)

売上高

5兆9,119億9,900万円(令和5年3月期)

従業員数

5万4,986人(連結、令和5年3月31日現在)

事業内容

移動通信サービスの提供、携帯端末の販売、固定通信サービスの提供、インターネット接続サービスの提供

URL

https://www.softbank.jp/

お問い合わせ先
070-1435-6785
GRP-ichimill_WLT@g.softbank.co.jp
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