
※下記は自治体通信 Vol.43(2022年10月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
多くの地方議会が「開かれた議会」を目指し、試行錯誤しながら、議会情報を住民にわかりやすく伝える取り組みを進めている。墨田区(東京都)もそうした議会運営をしている自治体の1つで、この5月から、議員の発言内容をリアルタイムで字幕表示できるシステムを導入し、聴覚障がい者への情報提供を強化したという。同区の区議会事務局の佐久間氏に、このシステムを導入した経緯や実感した効果などを聞いた。
[墨田区] ■人口:27万8,888人(令和4年9月1日現在) ■世帯数:16万1,006世帯(令和4年9月1日現在) ■予算規模:1,781億3,300万円(令和4年度当初) ■面積:13.77km2 ■概要:東京都東部に位置する。隅田川をはじめとする豊かな水辺に恵まれ、「江戸時代からの歴史や文化が薫るまち」として知られる。区の名称は、隅田川堤の通称「墨堤」の「墨」と、「隅田川」の「田」を選んで名づけられた。コロナ禍の影響で中止が続いている隅田川花火大会は、例年約100万人の来場者を集める国内最大規模の花火大会として有名。
手話通訳者の活用は、費用負担がネックに
―聴覚障がい者向けの情報提供システムを導入したそうですね。
ええ。私たちは「開かれた議会」を目指して、区民に議会情報をわかりやすく提供する取り組みを継続して行っています。たとえば、議事録を図書館に配架するだけでなく、データベース化して検索・閲覧できるようにしています。また、議会を傍聴できない場合でも、本会議や委員会の模様をネット中継し、情報をリアルタイムに提供する仕組みを構築しています。区民が区政情報をいち早く知り、政治への関心が高まるのは望ましいことです。
一方で、聴覚障がい者に対しては、こうしたリアルタイムな情報提供ができていませんでした。
―それはなぜですか。
本会議や委員会に手話通訳者を派遣してもらい、発言内容をその場で訳してもらう方法はありますが、費用負担がネックでした。というのも、本会議や委員会の審議は何時間にもわたるため、通訳の精度を保つには手話通訳者の途中交代が必要なのです。議会の一会期でみると、延べ何十人もの手話通訳者が必要になります。そこで、ほかの方法がないかと考えていたとき、ネット中継システムの構築でつながりのあった会議録研究所から提案を受けたのが、現在のシステムです。今年5月に導入し、本会議で試験運用を始めました。
―どのようなシステムでしょう。
発言内容を文字情報に変換して、リアルタイムで字幕表示するシステムです。具体的には、議場のマイク設備と「AI音声認識エンジン」をつなぎ、発言者がマイクを使って話した内容が、傍聴席に設けた大型モニターに字幕表示されます。また、変換した文字情報をネット中継システムにも配信し、字幕として表示します。このシステムなら、聴覚障がい者にも情報をリアルタイムに提供できます。手話通訳者を派遣する場合と比べて、費用負担を大幅に軽減できる点も導入の決め手になりました。
自治体特有の用語も、正確に認識
―実際に運用してみた感想を聞かせてください。
システムの文字認識精度が非常に高いことに驚きました。これは、条例名や財政用語など、自治体特有の用語でも「事前登録機能」によって正確に認識できることも影響しているようです。また、議場での発言と字幕表示にほとんどタイムラグが発生せず、ストレスを感じることなく傍聴、またはネット視聴できます。今回の試験運用で効果的なシステムだと判断できたので、今後は本会議での運用を本格化させるとともに、各委員会での導入の可能性についても検討をしていきます。

費用負担を抑えた「AI音声認識」で、誰もが理解しやすい情報発信が可能
株式会社会議録研究所 営業部 部長 鶴見 祐輔
[提供] 株式会社会議録研究所

―聴覚障がい者への情報提供を、充実させたいと考えている議会は多いのでしょうか。
多いですね。多くの地方議会が、障害者差別解消法に関連する条例を制定し、議会自身も、障がい者に対して差別のない情報提供のあり方を模索しています。議会の審議内容を聴覚障がい者へリアルタイムに提供する取り組みはその1つですが、手話通訳者を用いると費用負担が大きく、なかなか実現できずにいるようです。そこで、費用負担を抑えて導入できる「AI音声認識エンジン」を活用したシステムに注目が集まっています。たとえば、私たちは、議員の発言内容を傍聴席のモニターに字幕表示する『UDトーク』や、ネット中継画面に字幕表示する『DiscussVisionSmartライブ字幕サービス』を提供しています。
―どういう特徴がありますか。
音声認識率が高いことです。それらのサービスで採用したのは、『AmiVoice®』という製品で、業界シェアNo.1*1の音声認識エンジンです。文脈の学習により変換精度を高めるディープラーニング技術を実装しています。また、クラウドサービスのためバージョンアップがしやすく、つねに最新の状態で利用でき、業界でもトップクラスの認識率を誇ります。また、当社のシステムは、変換した文字情報を画面にタイムラグなく表示できる独自技術で、違和感なく視聴できます。
私たちは、聴覚障がい者にわかりやすく情報提供できるこのシステムであれば、議会による「誰もが理解しやすい情報発信」を支援できると考えています。ぜひ当社にご連絡ください。
鶴見 祐輔 (つるみ ゆうすけ) プロフィール
昭和48年、東京都生まれ。大学卒業後、美術専門雑誌の販売・広告営業を経て、平成16年、株式会社会議録研究所に入社、営業部に配属。議場音響映像システム事業の立ち上げを経験。ここ数年はAI音声認識事業に注力している。平成24年から現職。