

いま、多くの自治体が地域DXを推進し、住民サービスのデジタル化に取り組んでいる。しかし、自治体がデジタルサービスを導入しても、「使われない」という壁にぶつかるケースは少なくない。特に地方自治体では、高齢化率の高さやデジタルリテラシーの格差が、住民への普及を阻む大きな要因となっている。
群馬県長野原町は、人口約5,000人の小規模な自治体ながら、地域アプリで高い住民普及率を実現した。その秘訣は何だったのか。システム導入だけでなく、利用定着まで見据えた戦略と、官民協働の粘り強い取り組みによる事例を紹介する。
【導入編】回覧板が届かない町で生まれた、切実な情報格差の課題
群馬県北西部に位置する長野原町。人口約5,000人、北軽井沢の別荘地や八ッ場ダムを有する観光地として知られるこの町が、地域アプリ基盤「Local Government Platform(以下、「LGPF」といいます)」を活用した地域DXで、リリースから約3年でアプリの住民普及率82%※1という驚異的な成果を上げている。
長野原町が抱えていた課題は、多くの小規模自治体に共通するものだ。南北に細長い地形で高低差約1,000mという地理的制約から、集落が広範囲に点在しており重要な情報共有ツールである回覧板を届けることすら容易ではなく、回覧板を回せていない世帯が296世帯、情報伝達に最長1ヶ月程度を要する状況だった。
防災無線も万能ではない。高齢者には音が聞き取りづらく、屋内や騒音のある環境では十分に情報が届かない。特に深刻だったのは、別荘地エリアには防災無線が配布できておらず、有事の際の情報発信に大きな課題を抱えていたことだ。町民の安心・安全に直結する情報格差の問題は、ハードインフラの整備だけでは限界があり、デジタルを活用した抜本的な解決が急務だった。
【戦略編】「住民・自治体・事業者」をつなぐプラットフォーム構想
長野原町が選択したのは、単なる行政アプリではなく、「地域に関わる全ての方々で創るプラットフォーム」という発想だった。NTTドコモビジネスとの連携によりリリースした「長野原町アプリ」は、“住民・自治体・事業者の3者をつなぐ”地域DXプラットフォームとして設計されている。
住民向けには、行政情報や防災情報から、地域の飲食店で利用可能なクーポンまで、日常に必要な情報を一元的に提供する。町の防災メールとの連携による防災情報発信や、ウォーキングポイント事業による健康増進支援など、多分野にわたる機能を順次拡大している。
自治体・事業者向けには、専門知識不要で誰でも使える「データ利活用ダッシュボード」を提供。配信した情報の閲覧率、年代・性別などの属性別分析が可能で、「どんな層の人に情報が届いているか」「どの情報が関心を集めているか」といった、従来は不可能だった情報が手に入る。
特徴的なのは、地域事業者も情報発信・コンテンツ登録が可能な設計だ。現在、45もの地元事業者が参加し、クーポン配信や関連記事の投稿を行っている。町の権限付与により、住民から住民への生活に身近な情報発信もできる。「行政情報だけでは住民は毎日アプリを開かない。地域の身近な店舗・施設からのお知らせやクーポンなど、日常に即したコンテンツを充実させることで、毎日使うアプリになる」という発想が、高い普及率の背景にある。

【実装編】デジタルデバイドの克服に向けて ―年間50回超の説明会による地域密着サポート―
こうした構想を実現するにあたり、2つの大きな課題があった。高齢者を中心としたデジタルデバイドの克服と、小規模自治体・少ない職員でも運用可能な体制づくりだ。
特に困難だったのが、高齢者のスマートフォン普及・利用定着である。長野原町の高齢化率は高く、スマホを持たない住民も多い。そこで実施したのが、町の負担によるスマホ非保有者への無償貸与と、年間50回を超える継続的なスマホ教室だ。
全国でスマホ利用促進に取り組んできたドコモショップをはじめとしたドコモグループのノウハウを活用。住民に寄り添った地域密着のサポート体制を整備した結果、60歳以上の住民の50%以上がアプリを利用、さらには85歳でスマートフォンを使い始めた町民も現れた。
事業者向けには、データ利活用講座やダッシュボード説明会を実施。従来のチラシや地域情報誌に慣れた事業者に対し、低コスト配信やリアルタイム接点強化のメリットを実証しながら、段階的な参画を促した。地域の関係者と共に創り上げ育てられているからこそ、多くの住民に認知・利用されるアプリになっている。
一方、運用体制の構築も重要な課題だった。少ない職員体制で新たなデジタルサービスを運用するには、業務負荷を増やさない工夫が必要だった。そこで、防災無線やメールなど既存の情報配信をアプリと連携させることで、職員の業務フローはそのままに、アプリという新たな配信チャネルを追加した。この結果、既存の運用を変えることなく住民への情報到達を広げることができ、従来最長1ヶ月かかっていた広報誌や回覧板による情報伝達を、即時配信できる環境を実現した。さらに、ドコモグループ社員を町のDXアドバイザーとして任命し、官民協働でデジタル化を推進する体制を構築している。

※スマホ教室の様子

※事業者向け説明会の様子
【成果編】デジタル化が生む三方よしの成果
長野原町の取り組みは、住民・自治体・事業者それぞれに明確な成果をもたらしている。住民には日常生活に必要な情報の一元化と利便性向上、自治体には情報発信効率および伝達率の向上、事業者には低コストで効果的な情報発信の場――こうした導入効果が「三方よし」の価値を実現している。
【主な成果】
- アプリダウンロード数 : 住民全体の普及率82%を達成
- デジタル化に関する町民満足度 : 導入前と比較して 約5倍へ向上
- 情報配信効率 : 従来最長1ヶ月かかっていた広報誌や回覧板による情報伝達が、即時配信可能に
- 地域事業者の参画 : 毎月二桁程度の事業者が様々なコンテンツを配信、「毎日使いたくなるアプリ」を実現
ダッシュボードの活用により、行政情報の閲覧状況を属性別・日別に可視化。年代や性別といった住民の属性ごとに、どの層の関心が高いかを把握し、PDCAサイクルによる継続的なコンテンツ改善が可能。これは、勘や経験に頼らない、データに基づく業務運営への転換を意味する。地域事業者にとっては、低コスト・高効果マーケティングの実現という価値がある。デジタルによる効果的なセグメント配信で省コストかつ効率的な施策を実施でき、新サービスや季節商品・イベント等、鮮度が高い情報をすぐに届けられる環境が整った。
【展望編】持続可能な地域エコシステムへ
長野原町は、福祉・交通・産業振興等、より多分野のコンテンツ拡充による住民生活のトータルサポートを目指している。特に防災面では、アプリのさらなる普及によりスマートフォンで防災情報を受信できる住民が増えることで、防災無線個別受信機のあり方についても検討の幅が広がることが期待される。
最終的に目指すのは、町のスローガン「繋ぐ・育てる・共に創る」を実現し、官民協働が地域に根付き、行政に依存しない住民・事業者それぞれが地域の担い手として活躍する社会だ。
地方自治体が実現できること
長野原町の事例が示すのは、高齢化が進む地方自治体においても、住民の大多数にデジタルサービスを浸透させることができるという可能性だ。重要なのは、「システムを入れて終わり」ではなく、利用定着までを見据えた仕組みづくりである。
LGPFは一度導入して終わりではなく、地域の成長に合わせて段階的に機能を拡張できる設計だ。長野原町では毎年新たな機能を追加し、3年が経過した今も陳腐化することなく、住民にとって常に価値ある「進化し続けるプラットフォーム」となっている。防災・交通・健康・福祉などの各種デジタルサービスを一元化し、住民にとって「1つのアプリですべてが完結する」利便性を提供する思想が、長期的な利用定着を可能にしている。この拡張性のあるプラットフォームと、官民協働によるまちづくりの仕組みが、持続可能な地域DXの基盤となる。
【受賞実績】MCPCアワード2025 ユーザー部門 奨励賞を受賞
長野原町の取り組みは、モバイルコンピューティング推進コンソーシアム(MCPC)が主催する「MCPCアワード2025」において、ユーザー部門 奨励賞を受賞。
MCPCアワードは、モバイル、IoT/AI、5G、クラウドなどの活用による先進的な事例を顕彰する表彰制度で、業務効率化や社会的意義を持つ優秀な事例を選出。長野原町のLGPFを活用した取り組みは、住民・自治体・事業者が相互につながる地域DXプラットフォームを実現した点が評価されての受賞となった。

【関連情報】
- LGPF(Local Government Platform)
https://www.ntt.com/business/lp/regional-effort/lgpf.html
※1 住基人口に対するダウンロード率より算出

| 資本金 | 2,309億円 |
|---|---|
| 代表者名 | 小島 克重 |
| 本社所在地 | 〒100-8019 |
| 事業内容 | ICTサービス・ソリューション事業、国際通信事業、およびそれに関する事業など |
| URL | https://www.ntt.com/ |
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