自治体通信ONLINE
  1. HOME
  2. 先進事例
  3. 行政がマネジメントへと役割を変える、新しい時代の公民連携を模索
先進事例2022.08.09
連載「大阪発 公民連携のつくり方」第13回

行政がマネジメントへと役割を変える、新しい時代の公民連携を模索

行政がマネジメントへと役割を変える、新しい時代の公民連携を模索

大阪府公民戦略連携デスク

連載「大阪発 公民連携のつくり方」第13回

行政がマネジメントへと役割を変える、新しい時代の公民連携を模索

阪南市長 水野 謙二

※下記は自治体通信 Vol.40(2022年7月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。


複雑化、多様化する社会課題の解決を掲げ、大阪府では公民連携の促進を目的に、一元的な窓口機能「公民戦略連携デスク」を設置している。このような専門部署を設けて公民連携を強化する動きは、府内の各自治体にも広がっている。連載第13回目となる今回は、令和3年5月に公民連携の専門窓口として「企業連携デスク」を設置した阪南市を取材。公民連携に対する考え方や取り組みの成果などについて、市長の水野氏や同市担当者に話を聞いた。

[阪南市] ■人口:5万1,883人(令和4年5月末現在) ■世帯数:2万4,104世帯(令和4年5月末現在) ■予算規模:344億7,889万円 (令和4年度当初) ■面積:36.17km2 ■概要:大阪府南西部に位置する。平成3年に市制を施行し、大阪府では一番新しい市。北は大阪湾に面し、南は和泉山脈と接している。山中渓の桜、箱作海水浴場、波太神社、漁業や農業、地酒造りなどの地場産業、歴史的まちなみなど、豊かな自然や多彩な歴史・文化といった地域資源を持つ。
阪南市長
水野 謙二 みずの けんじ

地域福祉の「阪南市モデル」で、注目を集めた公民協働の歴史

―阪南市ではこれまでも、公民連携に力を入れてきたそうですね。

 ええ。当市は高度経済成長期に宅地開発を進め、大阪市のベッドタウンとして発展してきました。地域にコミュニティが新たに形成される過程で、行政と住民、社会福祉協議会など公民が協働して地域に深く根差した地域福祉計画が立案され、そうした取り組みは「阪南市モデル」として、いまも注目されています。近年、地域の高齢化や人口減少、それに伴う財政悪化が深刻化するなか、当市では公民連携を社会課題解決の中心的なスキームと位置づけてきました。

―専門部署である「企業連携デスク」を立ち上げた経緯は、どういったものだったのでしょう。

 これまでは、「暮らしのスタンダード」を維持するための公民連携でしたが、こうした社会課題解決の取り組みを発展的に広げることで、「地域の価値」を上げられるのではないかとの期待がありました。近年は、地域福祉にとどまらず、健康や環境など解決すべき社会課題は多様化しており、SDGs推進の観点も取り入れた行政運営の推進が必要です。ここには、専門的な知識やリソースを持つ企業との連携をさらに強化する必要があると考えたのです。伊藤園との健康と環境への取り組みは、代表的な成功事例だと考えています。

―今後の市政ビジョンを聞かせてください。

 当市は、行財政構造改革プランを改訂し、15年先を見すえた新たな行政運営を今年からスタートしています。そこでは、公民連携はますます重要な役割を果たすわけですが、そのためには行政の役割はかつてのプレイヤーから、マネジメント役へと変わるべきだと私は感じています。一方で、住民や企業には観客ではなくプレイヤーに転向してもらい、これまで以上に関与を深めてもらう。お互いが役割を変えながら、両者が新しい価値を共創していく。当市が今年5月に「SDGs未来都市・自治体SDGsモデル事業」の選定を受けたのは、まさにそうした仕組みの成果だと思います。新しい時代の公民連携のかたちとしての「阪南市モデル」をつくっていきます。


お茶という「新たな資源」を、持続可能なまちづくりに向けた柱に

阪南市 未来創生部 部長 松下 芳伸

阪南市「企業連携デスク」は、伊藤園と包括連携協定を結び、「お茶のある暮らし」プロジェクトを進めている。令和4年5月に内閣総理大臣から「SDGs未来都市・自治体SDGsモデル事業」の選定を受けた同市にとって、このプロジェクトは、SDGs推進のうえで大きな柱になるようだ。プロジェクトの内容や期待する効果などを、同デスク担当の松下氏に聞いた。

阪南市
未来創生部 部長
松下 芳伸 まつした よしのぶ

―「お茶のある暮らし」プロジェクトとは、どのような取り組みでしょうか。

 お茶を通じて、住民の心身・社会的な健康の保持を図り、ウェルビーイング*1と生きがいに満ちた生活様式の実現をサポートする取り組みです。企業連携デスク設置後の今年4月には、市内の遊休農地に、市民100人以上のみなさんと一緒に伊藤園から提供いただいたお茶の苗木を植樹し、栽培をスタートしました。また、茶樹はCO2を吸収・固定することからグリーンカーボンとして、カーボンニュートラルの推進につながると期待を寄せています。

―今後、具体的にどういった取り組みを行う予定ですか。

 市民の健康づくりを推進するため、各種団体との共創により、市内に40ヵ所ある「まちなかカフェ・サロン」を活動の場として、健康コミュニティづくりを行う「グリーンサポーター制度」を導入します。また、お茶が持つ効能・価値、飲用習慣が、市民生活にどのような有益な影響をもたらすかといった検証を伊藤園や大学と連携して行い、健康寿命の延伸につなげたいと考えています。そのほか、茶摘み体験など観光資源としてのにぎわい創出や、収穫した茶葉を使った新たな特産品の開発による地域活性化など、「Co-ベネフィット」という相乗効果を生み出していきたいです。今回のプロジェクトは、「人生100年時代」を市民がイキイキと自立して暮らせる、持続可能なまちづくりの1つのモデル事業になるととらえています。

―今後の方針を教えてください。

 当市は、令和4年度「SDGs未来都市・自治体SDGsモデル事業」に選定されました。また、令和7年の大阪・関西万博の「共創チャレンジ」にも登録しています。これらを契機として、今回の伊藤園との事例のように、社会課題の解決を共創していく企業連携を進めていきたいです。さらには、私たちがハブとなり、そうした企業同士の連携も促すSDGs推進の取り組みを中心とした「はんなん・Co-ベネフィット創出協議会」を設置します。新たな価値が創出される阪南市にしたいですね。


支援企業の視点

デスクが生み出す企業との接点が、公民連携の輪を広げる

株式会社伊藤園 理事 総合企画部長 羽鳥 雅春
株式会社伊藤園
理事 総合企画部長
羽鳥 雅春 はとり まさはる

―阪南市との取り組みに、どのような成果を感じていますか。

 今回の「茶畑づくり」だけではなく、健康増進という共通の課題認識のもと、これまでに野菜飲料を通じた健康サポートや、健康に特化した品揃えの自動販売機を展開しています。また、お茶の飲用習慣化により認知機能改善効果を得られるか、といった検証を3ヵ月にわたって行った実験では、水野市長にもご参加いただき、「このような有意義な取り組みは、今後も長期的スパンで推進していきたい」というお声をいただきました。当社としても、市の協力を得られたのは、ありがたい限りです。当社は健康創造企業として、お茶を通じて世界中の人々にさまざまなかたちで健康と幸せを提供することを目指しています。その意味では、阪南市と取り組む「お茶のある暮らし」プロジェクトは、まさに我々が志向する事業の方向性を見事に表現しています。

―阪南市の企業連携デスクに対しては、どういった期待をしていますか。

 公民連携の専門デスクが設置されたことで、民間企業からの接触は大きく増えるものと思います。そのなかには、健康増進をはじめ、我々と阪南市との取り組みに関連する問題意識や、相乗効果を生み出せるリソースを持った企業もいるかもしれません。そうした企業を含めるかたちで公民連携の輪を広げることができれば、取り組みの価値もさらに高められるでしょう。そんな発展的な広がりが生まれることを期待しています。

羽鳥 雅春 (はとり まさはる) プロフィール
昭和49年、東京都出身。平成10年、株式会社伊藤園へ入社。財務経理部長や経営企画部長、また同社のグループ会社である株式会社土倉の社長を歴任。令和4年から現職。

大阪府公民戦略連携デスクの視点

デスク設置で民間との交流が活発化。企業との連携強化で魅力的な市に

  阪南市は、「公民協働」に早くから取り組み、暮らしの課題解決や地域の価値・魅力向上のために、企業連携の重要性を再認識し、専任デスクを設置。4月からは、全国的にも珍しい企業版ふるさと納税(人材派遣型)の活用も行っています。大阪府公民戦略連携デスクとも定期的に交流し、情報共有や意見交換を行っています。

 デスク設置後は毎日のように企業の方々が役所を訪れ、さまざまな連携について議論を交わしていると聞きます。伊藤園との「お茶のある暮らし」プロジェクトはそうした成果の1つでしょう。企業との連携強化で、新たなアイデアや資源を取り込めば、今後さらに魅力ある市になっていくと思います。

*1:※ウェルビーイング : 身体的、精神的に良好な状態にあること。持続的幸福感

電子印鑑ならGMOサイン 導入自治体数No.1 電子契約で自治体DXを支援します
自治体通信 事例ライブラリー