コストを抑えた民間サービスを活用すれば、学校徴収金の「公会計化」を円滑に進められる

令和元年の文部科学省による要請を受けて、多くの自治体で学校給食費を含む学校徴収金の「公会計化」に向けた取り組みが進められています。この取り組みでは業務システムや集金代行サービスの導入が有効だとされ、すでに「実施している」自治体の割合は34.8%で、「準備・検討している」自治体も含めれば65.2%に上ります※。一方で、予算や人員の不足から導入を躊躇する自治体も34.8%と決して少なくありません。このような課題を、先行事例ではどう解決したのか紹介していきます。
※文部科学省「学校給食費に係る公会計化等の実施・検討状況調査の結果」
「公会計化」が進められる背景
「公会計化」とは、学校徴収金を自治体の歳入・歳出予算に計上し、議会の承認を経たうえで、首長が徴収・管理していくという方法です。従来は給食費や教材費などを、学校の教職員などが保護者から直接徴収する「私会計」という制度が主流でした。しかし、こうした業務は教職員の大きな負担となっています。
平成28年度に文部科学省が行った調査で、「過労死ライン」と呼ばれる月80時間以上の残業を行っている教職員は小学校で33.4%、中学校で57.7%に上ることがわかり、長時間労働の是正に向けた早急な取り組みが求められるようになりました。そこで、文部科学省は教職員が児童・生徒と向き合う「本来業務」に集中できるよう、徴収業務などを教育委員会に移管する「公会計化」を促進しているのです。同省によれば、「公会計化」へと移行すれば、100人程度の学校なら年間190時間の短縮につながるとしています。
「公会計化」は、教職員の業務量削減だけではなく、「会計の公平性確保」や「保護者の利便性向上」にもメリットがあると言われています。
「公会計化」のメリットと課題
従来の「私会計」では、未払いなどが生じた際、その回収責任は学校長にあり、どうしても回収が難しい場合はPTA会費から充当するなどの処置が取られていました。しかし、そもそもPTA会費は各保護者から徴収したものであり、未払い分をほかの保護者が補てんするかたちになっていたため、公平性という面で問題がありました。その点、「公会計」にすれば、回収責任は自治体に移管するため、ほかの保護者が負担する必要がなくなります。
また、保護者も現金を用意する必要がなくなり、指定金融機関への振替で対応できるようになります。場合によってはコンビニ払いやクレジットカード払い、QRコード決済などにも対応するため、スムーズな納付が行えるようになるのです。
先行事例によって、こうしたメリットは実証されていますが、それでも「公会計化」が進まない自治体もあります。たとえば、もともと学校徴収金を振替で対応している場合、「改めて自治体に移管する必要はない」と判断されることがあります。しかし、この場合は未払いなどが生じた際の対応を学校側が行うことになり、「会計の公平性」という問題が残ってしまいます。
また、文部科学省のアンケートによれば、「公会計化」を見送っている理由で、もっとも多かったのは「業務システムの導入や運用にかかるコスト」という回答でした。そのほか「運用する人員不足」なども挙がっており、いかにコストを抑えつつ、運用の手間がかからないシステムやサービスを導入できるかが「公会計化」を普及させるカギとなっているようです。
【御宿町】クラウドサービスの利用でコストを低減

御宿町(千葉県)は、人口7,000人に満たない小規模自治体で、財源にも限りがあるなか、令和3年10月に学校給食費の「公会計化」を実現しています。同町が「公会計化」を目指した背景には、さまざまな事情があったそうです。
以前は、小中学校2校の学校給食をセンター方式で運営し、給食費は教材費やPTA会費などとともに、それぞれの学校の教員が現金を取り扱ってきた。しかし、調理施設の老朽化を背景に、給食の調理・配送を、隣接の勝浦市に委託。これを機に「公会計化」へ移行することになった。 |
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こうした事情を踏まえ、同町が導入したのはクラウドサービスでした。そのサービスは、期初に児童・生徒の名前や口座情報、徴収時期などの計画を登録すれば、徴収・管理といった一連の業務をクラウド上で自動化できるというものでした。
導入の決め手となったのは、既存の学齢簿システムを改修などの対応よりもコストを抑えられると判断できたからだと言います。クラウドサービスは、比較的費用をかけずに導入できることが大きな特徴です。
さらに、教材費やPTA会費といった学校徴収金全般に活用できる点も、同サービスの評価ポイントだったそうです。保護者が支払った金額から、給食費を町会計、その他は学校口座へと振り分けることもできるため、保護者の負担も軽減できたと、同町は効果の実感を語っています。
【兵庫県】集金代行サービスで学校の業務負担を軽減

クラウドサービスと並び、「公会計化」に有効だとされているのが、集金代行サービスです。集金代行サービスの大きな特徴は、「徴収の確実性」と「支払い方法の多様化による保護者の利便性」が向上する点です。兵庫県では、8万人分の口座振替を集金代行サービスに集約しています。
以前は学校徴収金を、各校の指定する金融機関に保護者が開設した口座から引き落としていたが、残高不足によって引き落としができなかった場合、学校の窓口で現金を徴収していた。その際に生じる督促や徴収金の振り込みといった事務負担が問題視されていた。そこで兵庫県教育委員会は、教職員の事務負担削減と、保護者の利便性向上を目的に、集金代行サービスの導入を決定した。 |
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県立学校164校、合計約8万人の生徒分を対象とした大規模な導入でしたがが、口座振替の手続きはスムーズに進んだといいます。その理由は、保護者が2次元コードをスマホで読み取ることで、口座振替の申し込みをWeb上で行えるという仕組みを用いて、手続きそのものを簡素化できたからです。加えて、指定金融機関が幅広く、保護者が給与振込に用いている口座をそのまま活用することもできるため、確実な徴収につながっているといいます。
残高不足による未払いが生じた際は、コンビニ納付によって徴収する運用に変更し、教職員は、現金を取り扱う事務がなくなったほか、保護者もいつでも近くのコンビニで払い込めるようになり、利便性が高まったと評価されているそうです。こうしたスピーディーな導入が可能だったことに加え、そのほかのシステム導入などよりも低コストですんだといいます。
外部委託なら自治体の負担もほぼゼロに
クラウドサービスや集金代行サービスなどに加え、検討したいのが学校業務を支援する外部委託サービスです。人員を増加せずに学校と自治体職員の徴収業務にかかる負担を同時に軽減できるうえ、多様なサービスを提供していることがあります。
たとえば、ポータルサイトを活用したサービスでは、徴収業務のほか、保護者へ通知書を郵送するための封入・封かん業務を代替するシステムも搭載でき、学校にまつわる業務を効率化することができます。ある民間企業では、こうしたシステムの運用業務を一括して委託することも可能で、そうなれば、自治体で行うべき管理業務からも解放されます。
コストと手間の負担が軽い民間サービスを

学校徴収金の「公会計化」は、既存の業務システムの改修などによって対応しようとすると、時間と費用がかさみます。そのため、クラウドサービスや集金代行サービスを導入するほうがコストを抑えた「公会計化」を目指せるようです。
集金代行サービスでも、民間企業によるクラウドシステムを活用したサービスもあり、民間企業も自治体に寄り添ったプログラムを多数用意しています。「公会計化」の進め方についてお困りなら、当サイトでぜひ先進事例と支援企業を探してみてください。
【参考】
文部科学省「令和4年度学校給食費に係る公会計化等の推進状況調査の結果について(令和5年8月31日)」
https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/2022/mext_00001.html