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アフターコロナを見すえた政策に舵を切る姫路市が描くビジョン

住民のQOLを高める独自の施策「姫路モデル」で賑わいのある都市に

住民のQOLを高める独自の施策「姫路モデル」で賑わいのある都市に

アフターコロナを見すえた政策に舵を切る姫路市が描くビジョン

住民のQOLを高める独自の施策「姫路モデル」で賑わいのある都市に

姫路市長 清元 秀泰

※下記は自治体通信 Vol.46(2023年1月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。


コロナ禍が収束しつつあるいま、自治体では、アフターコロナを見すえた政策推進に注力する機運が高まっている。そうしたなか、住民の健康増進を図る独自のまちづくり政策を打ち出しているのが姫路市(兵庫県)だ。「ウォーカブル」をテーマに、住民が心身ともに健康になれるまちを目指すという。「行政の政策はすべて、住民のQOL向上につながるものであるべき」と語る市長の清元氏に、新たなまちづくりの内容や今後の市政ビジョンなどを聞いた。

「ウォーカブル」をテーマに、まちづくりで国土交通大臣賞

―市長就任から3年半以上が経過しました。これまでの成果をどのように振り返っていますか。

 平成31年4月の市長就任後、1年も経たないうちに世の中がコロナ禍という未曾有の緊急事態に陥りました。それ以降はまさに、新型コロナウイルスとの闘いに明け暮れた日々だったといっても過言ではありません。尊い命が理不尽な形で失われる状況に、「命最優先」の政策を展開してきました。「新型コロナウイルスに勝利した」と宣言するにはまだ早い状況ですが、重症化リスクが下がったことで、コロナ禍からの回復を意識し、住民一人ひとりのQOLを高める政策へと舵を切っています。

―どのような政策でしょう。

 当市では令和4年度から、市の総合計画「ふるさと・ひめじプラン2030」の実施計画を推進しています。その代表的な政策の1つに、「姫路市ウォーカブル推進計画」というものがあります。JR姫路駅から姫路城までの中心市街地において、歩行者優先の「居心地が良く歩きたくなるまちなか」を目指すものです。道路などハード面の整備とともに、道路の占用許可基準を柔軟にして、通りの賑わいを創出させます。まずは中心市街地で事業を進め、その成果を横展開して住民の生活圏が活性化する事例を数多く生み出し、「いつまでも住み続けたい」と思ってもらえる都市にすることが目標です。この推進計画は、令和4年度に創設された「まちづくりアワード」の構想・計画部門で、最高位となる国土交通大臣賞を受賞しました。

医師時代の経験が、推進計画の土台に

―どういった部分が評価されたと感じていますか。

 日常生活で歩いて外出する機会を増やす「ウォーカブル」なまちづくりを通じて、健康増進のほかにも地域コミュニティの活性化による「人とのつながり」を同時に生み出せる点だと思います。私は「姫路市ウォーカブル推進計画」によって、住民一人ひとりが健康で心豊かに暮らせるQОL向上の基盤になるまちづくりを進められると考えています。

 じつはこの計画は、私が市長就任前、医師として東日本大震災の復興事業に携わった経験が土台となっています。

―具体的にどのような復興事業に携わったのですか。

 避難生活をしていた約15万人の健康状態を、約10年間にわたり継続的に把握してデータ化し、その後の居住環境の違いによる健康リスクを科学的に分析する事業です。私は震災当時、東北大学医学部に所属しながら、未来型の医療研究事業に参画していた経緯もあり、同事業に携わりました。この取り組みのなかで、まさに今回の「姫路市ウォーカブル推進計画」につながる興味深い1つのデータが得られました。日常的に利用する最寄り駅を中心として800mから1.2㎞の範囲内に、買い物施設といった日常的な生活の基盤を持って生活している人は、そうでない人と比べて健康状態が非常に良好であることがわかったのです。

データで示された「歩くこと」の重要性

―どのような理由からでしょう。

 この「800mから1.2㎞」という距離がヒントでした。この距離は一般的に、「人が苦労なく歩ける距離」であり、この距離に生活の基盤を持つ人は、日常的な歩行により健康状態を良好に保てることがデータで示されたのです。

 じつは、JR姫路駅から姫路城までの距離は約800mなのです。多くの観光客が訪れ、大きな経済効果を生み出すエリアとなっていますが、理論的根拠を持ったこの「800m」の距離を活かし、健康増進をキーワードとしたまちづくりができるはず。そのためにも、全国で初めて「歩行者利便増進道路制度」を活用し、魅力的な店舗や広場をさらに増やしながら、快適な歩行空間を整備する取り組みを進めていきます。そこでは、観光客と地元住民が集い、さまざまな交流が生まれることも期待できるでしょう。まさに、心身ともに住民の健康寿命の延伸を図り、住民のQОL向上を実現する「姫路モデル」のまちづくりと言えるのではないかと考えています。

―住民のQOL向上に注力する政策は、ほかにありますか。

 行政のDX推進も、住民のQOL向上を図る重要な政策だと考えています。日常生活にデジタル技術が浸透することで、住民は市役所まで来庁せずに、自宅のパソコンから行政サービスを受けられるといった利便性を享受できます。しかし私は、単なる「利便性向上」ではなく、住民の生活の質、すなわちQOL向上こそがDXの目的の1つだと考えています。

マイナンバーカードを活用し、救急業務の実証実験を開始

―たとえば、どういったことでしょう。

 マイナンバーカードは、「健康保険証」としての役割がクローズアップされますが、今後、本人のさまざまな医療・健康情報を正確に把握できるようになり、その情報を活用すれば、医師から的確に「予防医療」のアドバイスを受けられるはずです。また、医療サイドの視点では、意識がはっきりしない急患を診る場合などに、「基礎疾患の有無」や「服用中の薬の種類」といった情報をマイナンバーカードからすぐに把握できます。一刻を争う救急の現場で、そうした内容の確認に費やす時間を、命を救う医療行為にあてられるのです。当市では令和4年10月から、総務省消防庁と連携し、マイナンバーカードを活用した救急業務の実証実験を進めています。マイナンバーカードの普及促進は、住民のQOLを高めるDXの象徴的な政策だと思っています。

―今後の市政ビジョンを聞かせてください。

 私は医師として長年、命の現場に携わってきた経験を活かし、市長就任時から一貫して、「『LIFE』を守り、支えていく」をキーワードに政策を推進してきました。人は生活(LIFE)のために命(LIFE)があり、その生活が豊かであれば、幸せな一生(LIFE)を過ごせます。行政が手がける政策はすべて、住民一人ひとりのQOL向上につながらなければならないと考えています。その使命感を持ち、住民が心身ともに健康で豊かさを実感でき、輝ける人生を送れる姫路市をつくりあげます。

清元 秀泰 (きよもと ひでやす) プロフィール
昭和39年1月1日、兵庫県姫路市生まれ。昭和63年、国立香川医科大学(現:香川大学)医学部卒業。平成4年、同大学大学院を修了し医学博士取得。同年、テキサス大学ヘルスサイエンスセンターサンアントニオ校学術研究員。平成7年、国立香川医科大学医学部附属病院勤務後、平成22年に東北大学医学部医学系研究科に異動。平成24年、東北大学東北メディカル・メガバンク機構地域医療支援部門 部門長(教授)に就く。平成28年、日本医療研究開発機構調査役・プログラムオフィサーを経て、平成31年、姫路市長に就任。現在1期目。
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