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全国最年少市長が挑む今後の日本に必要な社会モデルの構築

「少子高齢化の先進地」を強みに、高齢者と若者の共創社会を目指す

「少子高齢化の先進地」を強みに、高齢者と若者の共創社会を目指す

※下記は自治体通信 Vol.70(2025年11月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

令和6年9月、当時27歳で大館市長に就任した石田氏。現職の最年少市長として、全国的に注目を集めた。就任して1年余りながら、元スタートアップの創業者という異色の経歴を活かし、独自の施策に取り組んでいる。「当市は全国的に見て少子高齢化が進んでいるが、それを弱みではなく強みとしてとらえることが大切だ」と語る。若きリーダーの同氏に、取り組んでいる施策の詳細や今後の行政ビジョンなどを聞いた。

インタビュー
石田 健佑
大館市長
石田 健佑いしだ けんすけ
平成9年、秋田県大館市生まれ。平成28年に青森県立青森工業高等学校を卒業後、東京地下鉄株式会社勤務などを経て、都内にて友人とITスタートアップを立ち上げるも頓挫。その後大館市に戻り、昆虫バイオ事業を手がけるスタートアップを弟の陽佑氏とともに立ち上げ代表取締役に就任。令和5年、大館市議会議員に当選。令和6年、大館市長に就任し、現職で全国最年少の市長となった。現在は1期目。世界を変える30歳未満30人の日本人を表彰する「Forbes JAPAN 30 UNDER 30」に、陽佑氏とともに選出された。

スタートアップ企業を誘致し、若者が働ける場を創出

―令和6年9月に市長へ就任して2年目を迎えました。これまでの行政運営を振り返ってください。

 当市では、人口約6万4,000人のうち、40%超の方々が65歳以上で、いわば「超少子高齢化」を迎えています。この社会構造になったときに、真っ先に取り組むべきだと考えたのが、まちの将来を担う働く世代の市外への流出をどう食い止めるかということです。令和3年に当市が若者へヒアリングしたアンケートでは、就職希望先に県外を選択した人は66%もいました。私が市長に就任後、実際に対面で若者から聞いた話で多かったその理由は、「やりたい仕事がないから出ていくしかない」ということでした。友だちもいるから本当は地元に残りたい場合でも、仕方がないんだと。そこで、地元で就ける職種を拡充して大館市に残ってくれる若者を増やす取り組みに注力しています。

―具体的に、どのような取り組みをしているのですか。

 取り組みのひとつに、令和7年3月に開催したイベント「スタートアップピッチ」があげられます。全国から10社のスタートアップが集まり、当市で実施可能な事業を私に直談判してもらうイベントです。「超少子高齢化」は一見すると深刻な「弱み」です。しかし、この状況はいずれほかの多くの自治体も直面することであり、当市は「少子高齢化の先進地」だといえます。実際に当市では、「大館市第9期介護保険事業計画・高齢者福祉計画」において、「大館市は全国と比較して少子高齢化が進んでいる『先進的な地域』である」と明記しています。スタートアップにとっては、この先の日本、さらには世界で必要なビジネスモデルをこの「先進地」で実証できる好機であり、当市においては、市内の職種を増やすきっかけづくりになると考えたのです。イベントでは、まず私自身が登壇し、市の魅力や課題も含めて来場者に説明しました。そうすることで、このイベントが当市の課題解決や魅力づくりにつながることを理解してもらうのが狙いでした。

―結果はいかがでしたか。

 「オンライン・AIを活用してリハビリを提供するサービス」「ローカル線の駅舎と古民家などを活用して沿線をまるごとホテルに見立てるサービス」「アプリと脈拍を測定できるリストバンドデバイスを活用した結婚支援サービス」を提案した3社をパートナー候補として採択しました。今後は各社と実証事業を進めていく予定で、ゆくゆくは企業誘致や人材の流入、そして若手が働ける職種の確保および多様化につながることを期待しています。このスタートアップピッチは、かつて私自身が起業した際の経験やネットワークを大いに活かすことができました。 
 
 また、こうした事業の推進に加えて、今後強化していく取り組みがあります。

自らほぼ毎日SNSを投稿し、市の魅力を域内外に発信

―それはなんでしょう。

 情報発信の強化です。市民に対する市政情報の発信に加え、「大館ではこんな面白いことが起こってるんだ」ということを域内外に発信し、熱意を持った人との関係人口を増やすとともに、シビックプライドの醸成につなげていきたいと考えているのです。そのため、遅ればせながら令和7年8月に市の公式LINEアカウントを開設したほか、9月にはYouTubeチャンネル『おおだてTV』を開設しました。これまでほぼ毎日投稿してきた私個人のXとInstagramとあわせて、積極的に情報発信を行っていきます。ちなみに、この1年における私のⅩおよびInstagramの閲覧数は1,000万回以上で、SNSを通じて大館市出身の大学生から教育に関する施策の提案を受け、実際に市長室でプレゼンしてもらうなどの成果が表れています。

祖父母のためにも、大館をもっと良くしたい

―石田さんは、大館市をどんなまちにしたいと考えていますか。

 高齢者と若者が、共創してまちづくりが行えるまちにしていきたいと考えています。私は選挙のときから「子や孫世代と共に栄える大館」というメッセージを掲げてきました。以前、私が東京で起業し、事業がうまくいかずに大館に戻って来たとき、家に住まわせご飯を食べさせてくれたほか、大館市で再び起業する資金を提供してくれたのは祖父母でした。結果、事業が軌道に乗り、大館市の地元企業として成長できました。その後、他自治体から会社誘致の話がきて祖父母に話した際、「生まれ育った大館が大切だ」と言われたのです。そこで、苦境にあった私をずっと支えてくれた祖父母の想いに応えるためにも、私は「大館をもっと良くしよう」と決意しました。

―それが政治家を志したきっかけなのですね。

 はい。その後、会社の経営を弟に任せ、起業家から政治家に転身したのです。祖父母からいろいろなことを教わったように、高齢者の方々は経験や知恵、技術などさまざまな財産を持っています。一方で、私を含めた若手は計画を実現するため、即行動に移せる実行力があると考えています。それらをかけ合わせれば、間違いなく良いまちがつくれると思っているのです。そこで現在は、現役を退いても「まちづくりに参加したい」という高齢者のために包括的な民間委託の仕組みづくりを進めています。そのほか、私個人としては高齢者と若者に向け「一緒に力をあわせましょう」とお声がけをしています。就任して1年が経ちましたが、「孫みたいな市長ががんばっているんだから俺たちもがんばらなきゃいけない」と市民の方々から言っていただけるようになり、それがうれしいですね。

商業施設や高い建物などで、勝負するつもりはない

―今後の行政ビジョンを教えてください。

 「子や孫世代と共に栄える大館」の実現に向けて、「移住・定住策」「少子化対策」などさまざまな施策をさらに強化していきます。「都市型の街に住みたい」という声は正直一定数ありますし、私自身も都会にあこがれて上京した経験があるため、その気持ちもよくわかります。確かに都会に比べると「大館市には商業施設や高い建物が少ない」とよく言われるのですが、我々はそこで勝負をするのではなく「少子高齢化の先進地」を活用することで、ウェルビーイングとシビックプライドの向上に努めていきます。

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