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年間131万件の電話をどう変えるか 奈良市に学ぶAIコールセンターの活用と「住民の声」のナレッジ化【イベントレポート】

[提供] 株式会社エスプールグローカル
    年間131万件の電話をどう変えるか 奈良市に学ぶAIコールセンターの活用と「住民の声」のナレッジ化【イベントレポート】
    この記事の配信元
    株式会社エスプールグローカル
    株式会社エスプールグローカル

    自治体の電話対応は、住民にとって最も身近な入り口の一つでありながら、これまで十分に改革の対象となってこなかった業務です。現場からは、代表電話や各課への問い合わせ対応に追われ、本来取り組むべき業務に手がつかないという声をよくお伺いします。電話対応を外部に委託しても、問い合わせの内容によっては職員への転送が生じ、結果として庁内の対応負担が当初の想定より残ってしまうことも少なくありません。

    この記事は、株式会社エスプールグローカルが2026年7月30日に開催したオンラインセミナー『【奈良市に学ぶ】デジタル化で電話対応はどう変わる?AIコールセンターの活用による業務効率化を奈良市の事例を交えて解説』のイベントレポートです。

    登壇した高橋が繰り返し伝えたのは、デジタル化やAIの導入は手段の一つにすぎない、という点でした。電話対応を業務として改善するだけでなく、住民の困りごとを集め、行政サービスそのものをアップデートするための手段として捉え直すことが、電話対応の本質的な改革につながる、というのが高橋の考えです。

    その実例として取り上げたのが、年間約131万件※の電話を受ける奈良市です。PBX(電話交換機)の更新をきっかけに、電話対応をどのように見直し、業務効率化につなげたのかを、当日投影したスライドとあわせ、具体的な数字や現場の声を交えながら講演内容に沿ってご紹介します。(※2026年7月現在)

    開催概要

    項目

    内容

    イベント名

    【奈良市に学ぶ】デジタル化で電話対応はどう変わる?AIコールセンターの活用による業務効率化を奈良市の事例を交えて解説

    開催日時

    2026年7月30日(木)14:00〜14:50

    形式

    オンライン(参加無料)

    主催

    株式会社エスプールグローカル

    登壇者

    株式会社エスプールグローカル 執行役員 DX企画部長 高橋 晋吾

    セミナーの構成

    自治体における電話改革とは、電話交換機やシステムを新しくすることだけでなく、AI・オペレーター・職員の役割分担を設計し直し、通話から得られる「住民の声」を行政サービスの改善に活かしていく取り組みを指します。セミナーは「課題 → 解決策 → 導入成果 → 今後の展望」の順に、第1部〜第4部と質疑応答で構成されました。

    本セミナーは、4つの章立てでお話しします(登壇資料より)

    構成

    テーマ

    主な内容

    第1部

    なぜ今、電話改革なのか

    人口減少・職員不足という構造変化と、従来型の電話業務の限界

    第2部

    電話改革を推進するための解決策

    本質的な課題からの再設計、AIコンタクトセンター、「住民の声」のナレッジ化

    第3部

    奈良市の事例

    課題と目的、導入までの経緯、定量・定性の成果、今後の拡張

    第4部

    これから目指す未来

    「住民の声」を政策へ、段階的な導入の進め方

    質疑応答

    事前質問・当日質問への回答

    個人情報の扱い、FAQ作成、推進体制など

    第1部|なぜ今、電話改革なのか:職員が減っても、求められるサービスは減らない

    第1部では、高橋が自治体を取り巻く構造的な変化と、従来型の電話業務の限界を整理しました。冒頭で高橋は、電話は住民にとって「自治体に連絡をする際の第一の手段」である一方、職員にとってはその場での対応が求められ、手元の業務を中断せざるを得ない大きな負担になっていると指摘しています。

    ■ 人口減少と業務の高度化が同時に進んでいる

    日本の生産年齢人口は、今後30年で約2,000万人減少することが見込まれています。登壇資料では、2020年から2040年にかけて85歳以上の人口が増える市町村は約9割(89.4%)にのぼる一方、15〜64歳の人口が増える市町村は2.0%にとどまるという推計も示されました(出典:「日本の地域別将来推計人口(令和5(2023)年推計)」)。

    いま自治体に、構造的転換(パラダイムシフト)が迫る(登壇資料より)

    85歳以上の人口が増加し、生産年齢人口が減っています。その一方で、国の新しい施策が次々と加わり、住民からの相談内容も多様になっています。生産年齢人口が減少し、サービスの質を保たなければならない状況のなかで、住民サービスの入り口である電話対応には、いまもアナログな運用が多く残っています。高橋は、多くの自治体で庁舎内に設置された従来型のPBX(電話交換機)に依存した運用が続いていると指摘しました。

    ■ 委託していても、電話は職員に

    従来型の電話業務の限界は、住民と職員の両方に表れています。

    住民の側では、委託先が回答できる範囲が限られているため、職員への転送が多く発生することにより、転送後も転送先を間違えてしまったり、担当者が席を外していて保留のまま待たされる、といったことも起こりがちです。住民からすれば、待たされた末に必要な回答にたどり着けない、いわゆる「たらい回し」の状態です。

    職員の側では、委託先から転送されてきた電話に、その場で対応しなければなりません。1件にどれくらい時間がかかるか読めないため、1日の業務計画も立てづらくなります。高橋はこうした状況について、業務を委託するという本来の目的から外れた運用になっているケースも少なくないのではないか、と問いかけました。

    従来型の電話業務は、住民・職員の両面で限界を迎えている(登壇資料より)

    住民体験(CX)の低下と職員体験(EX)の低下が互いに影響し、双方のエンゲージメントが低下してしまう悪循環が、電話業務の現場で起きていることが、第1部の問題提起でした。この課題に奈良市がどう向き合ったのかは、第3部で詳しくご紹介します。

    第2部|電話改革を推進するための解決策:AI・オペレーター・職員の役割を分ける

    第2部では、エスプールグローカルが自治体の電話改革をどう支援しているのかを、3つのステップに沿って紹介しました。

    属人化を脱し、“住民の声”をナレッジ化して自己解決力を高める(登壇資料より)

    ■ STEP 01:デジタル化もAIも「手段」にすぎない

    高橋がまず強調したのは、デジタル化やAIの導入は手段であり、目の前の課題に対処しながらその先のゴールから逆算して設計する必要がある、という前提です。

    その例として挙げられたのが奈良市です。奈良市は、今後30年間で職員数を約76%減らし、消防などを除いて職員500人の体制とすることを掲げています。20年後には新成人が半分になることを見据え、500人でも回る組織をつくるための構造改革を進めており、その実現にはAIの導入や、デジタル・人・AIの協働が欠かせないとして、電話改革のロードマップを設計しています。エスプールグローカルも、何を導入するかを決める前に、今後どうあるべきか、何をすべきか、逆に何をやめるべきかを自治体と一緒に整理するところから支援に入っている、と高橋は説明しています。

    ■ STEP 02:AIで一次対応50%、オペレーターと合わせて80%の完結を目指す

    AIを前提にしたコンタクトセンターで大切なのは、「AIが全部解決してくれる」と考えないことだといいます。AI、オペレーター、職員がそれぞれ何を担うのかを明確にしたうえで運用を組み立てます。

    担い手

    主な役割

    一次対応完結の目標値

    AI(AIボイスボット)

    住民からの電話の一次窓口として定型的な問い合わせに回答します。オペレーターの通話内容を読み取り、回答候補を自動で提示します

    50%

    オペレーター

    AIで解決できない問い合わせをシームレスに引き継ぎ、複雑な相談や住民に寄り添う対応を担います。職員でなければ対応できない案件を職員へつなぎます

    30%

    職員

    個人に紐づく情報をもとにした対応や、判断を伴う業務に集中します

    -

    エスプールグローカルでは、AIの一次対応で50%、オペレーターへの接続で30%、合わせて80%をコンタクトセンターで完結させることを運営上の目標値(KPI)に置いています。この80%が実現すれば、職員は電話対応から離れ、本来の判断業務に時間を割けるようになる、というのが高橋の説明でした。

    住民を、時間の制約から解放するAIボイスボット(登壇資料より)

    AIボイスボットは24時間365日稼働でき、同時に受けられる通話数にも原則として制限がありません。住民は、開庁時間内に電話をかけ直したり、窓口に並んだりする必要がなくなります。

    稼働後は、AIと住民の会話記録、AIがどのナレッジを使って回答したか、回答できなかった問い合わせは何か、といった詳細なデータを取得できます。これを分析してナレッジを更新し続けることで、AIの回答率を高めていく仕組みです。

    ■ STEP 03:通話録音データを「ナレッジ」に変える

    もう一つの柱が、住民の生の声をナレッジにしていく取り組みです。日々のやり取りから、電話の音声データを蓄積している自治体も多くあります。エスプールグローカルは、この音声をAIで自動的に文字起こしし、テキストデータとして分析・整理したうえで、ナレッジに変えていきます。

    ナレッジ化の目的は大きく2つあります。

    1つ目は、AIでも人でも、どの窓口でも同じように回答できるようにすることです。ポイントになるのが、住民が普段使う言葉と制度の正式名称を結びつける作業です。たとえば「乳幼児医療費助成」は、自治体によって「子ども医療費」と呼ばれたり、住民の間では略称で呼ばれたりします。地域ごとにこうした言葉のゆれは数多く存在します。高橋は、普段使いの言葉と正式名称を結びつけておくことが非常に重要だと強調しました。AIが言葉を正しく認識できるように分類しておけば、それは人が正しく理解するための土台にもなります。ナレッジ化が必要だとする理由はここにあります。

    2つ目は、住民の本当のニーズを見えるようにすることです。どのナレッジがどれくらい使われているかを測ると、問い合わせの多いテーマが浮かび上がります。「この制度は見直したほうがよい」「こうした施策が必要だ」といった検討の材料にもなり、住民の声から自治体運営を設計していくことにつながります。高橋は、AIボイスボットの回答率を上げるうえでも、このナレッジの考え方が非常に重要だと話しています。

    ■ 約400の自治体との取引と、全国23拠点の地元雇用

    第2部の後半では、こうした取り組みを支えるエスプールグローカルの特徴が紹介されました。

    自治体DX × 地方創生を同時に実現する独自モデル(登壇資料より)

    1つ目は、約400を超える自治体との取引実績※です。自治体に特化したコールセンター運営を通じて、制度や手続き、住民対応に関する実務的な知見を積み重ねてきました。(※2026年7月現在)

    2つ目は、1つのコールセンターで複数の自治体の業務をまとめて受け持つ運営です。オペレーターが日々さまざまな自治体の制度や住民の困りごとに触れているため、他の自治体での対応経験が、各自治体の住民対応にもそのまま生かすことができます。

    3つ目が地元での雇用です。人口流出の抑制と地域経済の循環を目的に、中小規模の自治体にコールセンターを設け、地元の方を中心に正社員として雇用しています。現在は全国23拠点・従業員300名超、正社員比率は80%以上です。地域の地名や言葉に通じたオペレーターが対応することで、地域の特性を踏まえたナレッジが蓄積できる、と高橋は説明しました。

    第3部|奈良市の事例:電話交換機の更新を、応対業務改革の起点に

    第3部では、奈良市の電話改革について、導入のきっかけ、導入までの流れ、現時点の成果と今後の目標を順に紹介しました。

    ■ 年間131万件の電話と、約7割の転送

    奈良市には、コールセンターに年間約14万件、各課への直通電話に年間約117万件、合わせて約131万件の電話がかかってきます。コールセンターで受けた約14万件のうち、約7割は担当課への転送が必要でした。

    項目

    数値

    年間の入電件数(合計)

    約131万件

    うちコールセンター

    約14万件(うち約7割が担当課へ転送)

    うち各課への直通電話

    約117万件

    1件あたりの対応コスト(10分と仮定)

    約785円

    電話対応にかかる年間コスト(単純計算)

    約10億円

    職員の人件費は、1分あたり68円です。電話1件の平均応対時間は11.55分とすると、
    ・68円×11.55分=約785円/件 
    年間131万件の電話がある場合、
    ・785円×131万件=約10.3億円/年 となります。

    ■ きっかけはPBX(電話交換機)の更新

    奈良市が電話改革に踏み出したきっかけは、庁舎内のPBX(電話交換機)の更新時期を迎えたことでした。

    庁舎内に従来型のPBXを置く運用では、人事異動や組織改編、部署の統廃合のたびに電話環境の設定変更や配線工事が発生します。奈良市では、回線を増やしたくても新たな配線を通す管路に空きがなく、工事そのものが難しい状況も生じていました。

    奈良市:老朽PBXの更新を、応対業務改革の起点に(登壇資料より)

    そこで奈良市は、PBXを庁舎内の従来型の設備から切り離し、クラウド型のPBXであるZoom Phoneへ移すことを決めました。ただし、「電話交換機を入れ替えて終わり」にはせず、電話環境の課題と、自治体として抱える本質的な課題をあわせて考え、電話業務全体を設計し直したことがこの取り組みのポイントだと、高橋は説明しました。

    ■ 固定電話機をなくし、スマートフォン1,030台へ

    新しいPBXは、本庁舎と西部出張所に先行して導入されました。対象の職場では固定電話機をなくし、職員が使う電話はスマートフォン(1,030台)に切り替えています。電話が場所に縛られなくなることで、将来のリモートワークや、災害時に電話を持ち出して対応するといった場面にも柔軟に備えられます。

    電話基盤にはZoom社の製品が使われており、奈良市とZoom社が連携しながら導入を進めてきたといいます。

    ■ 公募から約3か月半で運用開始

    導入にあたっては、提案とデモ、原課での試行、度重なる質疑応答への対応を重ね、DX部門・情報システム部門・総務課、さらに部長を含むトップへと段階的に庁内の合意形成が進められました。登壇資料では、エスプールグローカルが受託・連携協定の締結を経て、導入前から導入後まで継続して支援していることも示されています。

    奈良市:提案から連携協定まで、現場に入って伴走(登壇資料より)

    高橋が注目すべき点として挙げたのが、そのスピードです。調達の公募から運用開始までは約3か月半でした。12月ごろの公募を経て、2026年3月中旬には、Zoom Phoneによる新しい電話環境での運用が始まりました。

    ■ 成果:3年間で電話関連コスト55%削減の見込み

    運用開始から間もない段階ですが、すでに見えてきた成果と、今後目指す姿は次のとおりです(セミナー開催時点)。

    区分

    内容

    実施済み

    ・本庁舎・西部出張所のPBXのクラウド化(Zoom Phone、2026年3月中旬運用開始)、職員用スマートフォン1,030台への切り替え
    ・オペレーター対応時の会話のリアルタイム文字起こし

    見込み

    ・3年間で電話関連コストを55%削減(従来型のPBXの撤廃とAIによる応対比率の向上による)
    ・庁内とコールセンターが同じ基盤でつながることによる、転送時の通信費の削減

    予定

    AIボイスボットによる代表電話の一次対応(秋ごろの稼働を目標に構築中)

    奈良市:劇的なコスト構造の変化と、“いつでも繋がる”環境(登壇資料より)

    コスト面では、従来型の設備の維持費をクラウド化で抑え、コールセンターの運営をAIへ段階的に置き換えていくことで、3年間で55%の削減を見込んでいます。また、職員の電話とコールセンターの電話が同じZoom Phoneの基盤で動くため、これまで外線として費用がかかっていた転送が内線扱いになり、通信費も大きく下がる見通しです。

    一方で、高橋はコスト削減そのものを目的とは位置づけていません。あくまで、最終目標は「いつでもつながる」住民サービスに振り向けることを目指しています。

    ■ 文字起こしが、聞き間違いを減らす

    住民向けの効果として、高橋が実感を込めて語ったのが、会話のリアルタイム文字起こし機能です。高齢の方との会話や地域特有の言い回しが多い会話では、一度のやり取りで互いの認識をすり合わせるのが難しいことがよくあります。電話番号のように何度か復唱して確認する場面でも、文字で補完されていれば「これで間違いないですね」と双方の認識がそろいます。高橋自身も実際に電話対応を経験しており、この機能は非常に有効だと感じたといいます。

    職員にとっては、定型的な内容の電話から離れてコア業務に戻れること、場所を選ばない働き方ができることが、主な変化として挙げられました。

    奈良市:住民サービスの向上と、職員負担の大幅軽減を同時に(登壇資料より)

    ■ 今後:各課直通電話の分析と、教育委員会・学校への展開

    奈良市では今後、いくつかの機能拡張が検討されています。まず、秋ごろの稼働を目標に、AIボイスボットによる代表電話の一次対応の環境構築が進められています。

    あわせて、年間約131万件のうち8〜9割を占める各課直通の電話についても、通話を分析・ナレッジ化できる環境づくりにも取り組んでいます。AIボイスボットやコンタクトセンターで対応できる範囲を広げ、職員につながる電話そのものを減らしていく考えです。さらに対象範囲についても、現在の本庁舎・西部出張所から、教育委員会や市立学校などへの展開が検討されています。

    奈良市:自動応答の高度化と、ナレッジ生成のPDCA(登壇資料より)

    各課の直通電話でどんなやり取りが行われているかは、これまで見えにくい領域でした。そこがデータとして可視化されること自体が、今後の業務改善につながると高橋は話しました。

    第4部|これから目指す未来:「住民の声」を政策へ

    第4部では、奈良市で確立した電話改革のモデルを、全国の自治体へ横展開していく展望が語られました。

    ■ 単独の自治体に留めず、複数の自治体で使う

    全国1,741の自治体の多くが、人口減少、職員不足、住民ニーズの多様化という共通の課題を抱えています。住民との電話のやり取りは、住民の課題が多く集まる場所であり、そのデータを一つの自治体で留めず、複数の自治体で共同利用・共同運営していく形を目指しているといいます。とくに人口20万人程度までの中小自治体では、人員や予算の面から、単独で新しい仕組みをつくるのはハードルが高いといいます。だからこそ連携によって支え合う仕組みが、持続可能な地域社会をつくるうえで欠かせない、というのが高橋の考えです。

    “住民の声”を政策へ。成功モデルを全国自治体に(登壇資料より)

    ■ 録音データの分析から始める段階的な導入

    全庁の代表電話をいきなりAI化するのが難しい場合でも、段階を踏んで始めることができます。登壇資料では、次の4段階が示されました。

    “ナレッジの生成”から始める段階的導入(登壇資料より)

    段階

    内容

    STEP 1:録音データ分析

    すでにある通話録音をAIで分析し、頻出の問い合わせを可視化します。ナレッジの「種」を抽出します

    STEP2:業務特化の電話

    マイナンバー関連など特定の業務に絞り、分野特化のナレッジをつくります。チャットボットでの一次対応も組み合わせます

    STEP3:課の代表電話

    課単位で受電をAIと人で担い、所管業務のナレッジを面で整えます。転送や折り返しを減らします

    STEP4:全庁の代表電話

    全庁の入り口を一元化し、横断的なナレッジ基盤をつくります(奈良市の導入モデル)

    FAQのデータがすでにある自治体であれば、開庁時間外の対応だけを先にAIボイスボットに任せて試す、といった区切り方もできます。また、既存のPBXを使い続けながら録音データの分析だけを先に始め、PBXの切り替えは時期をずらして進めることも可能だといいます。

    高橋は、AIは日々進化しており、性能が均一で高い水準になるのはそう遠くない、と見ています。そうなったときに回答率や品質の差を生むのは、蓄積されたナレッジの量です。早く始めるほどAIに置き換えられる時期を前倒しできるため、住民の声からナレッジをつくる取り組みは、早いほどよいといいます。

    なお、電話だけでなく、対面窓口にタブレットや録音機器を置いて住民の声をナレッジ化するサービスも、提供を始めていることが紹介されました。

    質疑応答

    セミナー後半の質疑応答では、事前に寄せられた質問と当日の質問に高橋が回答しました。参加者の関心が高かったテーマを中心にご紹介します。

    ■ 録音データの個人情報はどう扱うのか

    通話録音から分析を行う場合、個人情報はどの段階で、どのように扱われるのかという質問に対しては、データを抽出する際に、氏名・住所・電話番号とみられる情報をマスキングする機能を使い、そのうえでデータを整形していく流れが説明されました。

    ■ AIコールセンター導入で壁になるのは何か

    最も大きな壁として挙げられたのは、やはり応対のノウハウや過去の応対のログといったナレッジの蓄積・共有が十分にできていないことです。AIの回答率を上げるにはナレッジの量が欠かせず、地域特有の言い回しを正式名称に結びつけておかないと、回答が用意されていてもAIがそれを結びつけられない、ということが起こります。高橋は、住民の言葉に合わせてナレッジを整えていくこの作業こそが最大の壁であり、それをやり切ることがAIによる自動化を成功させる鍵になると答えました。

    費用対効果については今後の検証になるとしたうえで、奈良市では3年間で55%の削減が見込まれていることが改めて示されました。

    ■ FAQは職員がつくらなくてよくなるのか

    現在は担当部署の職員が都度FAQを作成しているが、その作業はなくなるのか、という質問もありました。回答は、FAQの作成自体は基本的に音声データから行うものの、内容が正しいかどうかの判定には職員の協力が必要になる、というものでした。

    また、チャットボットとAIボイスボットのFAQは別々に運用すべきだという考えも示されました。チャットボット向けの書き言葉をそのまま音声で読み上げると、長すぎて聞き取りにくくなるためです。ベースとなるナレッジは共通にし、そこからチャットボット用・AIボイスボット用に派生させていく運用を想定しているといいます。

    ■ 他の自治体のQ&Aを流用できないか

    ナレッジを一から積み上げるのは大変ではないか、奈良市の回答の多くは他の自治体でも共通するのではないか、という質問も寄せられました。高橋は、共通する部分と自治体ごとに異なる部分の両方があるとしたうえで、その差分を管理しながら共通部分をすぐに使えるようにしていく考え方を示しました。共通のナレッジが蓄積されていけば、導入当初からAIボイスボットで始められる可能性もあるといいます。

    ■ 奈良市ではどんな体制で進めたのか

    プロジェクト全体はCIOとCIO補佐官がリーダーを務め、庁内のPBXの切り替えは資産管理を担う課、代表電話・コールセンターは総務課、AIに関わる部分はAIの活用を担当する部署が関わる体制で進められました。立ち上げ当初は20人ほどが関わったそうです。

    あわせて、3月中旬の切り替えが人事異動の時期と重なったことが難しかった点として挙げられました。担当者が代わると、それまでのFAQの解釈が変わることもあるためです。年度替わりの切り替えは挑戦的だったが、奈良市の職員の皆さまの努力に支えられた、と高橋は振り返りました。

    ■ スマートフォンの利用は必須か

    必須ではありません。奈良市が導入したZoom Phoneにつなげられる固定電話機もあり、そちらで受ける運用も可能だと説明されました。

    ■ AIは、住民が何を聞きたいのかを聞き返せるか

    住民の質問内容がはっきりしないとき、AIが「こういうことですか」と確認しながら絞り込めるのか、という当日の質問もありました。回答は「対応できる」です。たとえばマイナンバーカードの手続きで15歳以上かどうかによって案内が分かれる場合、AIボイスボットの側から年齢を尋ね、その答えに応じて回答する流れを、実際にテストで確認しているといいます。

    まとめ:電話改革の出発点は「住民の声」をためること

    セミナーで語られた内容を整理すると、次のようになります。

    論点

    セミナーで示されたポイント

    課題の捉え方

    電話対応の負担は、委託しても職員に戻る転送構造と、住民の「たらい回し」が重なって生じています

    解決の考え方

    AI・オペレーター・職員の役割を分け、コンタクトセンターで80%の一次対応を目指します

    成否を分けるもの

    通話録音データからつくるナレッジの量と、住民の言葉と正式名称の結びつけ

    奈良市の進め方

    PBXの更新を機にZoom Phoneへ切り替え、電話業務全体を設計し直して公募から約3か月半で運用を開始しました。AIボイスボットは秋ごろの稼働を目標に構築中です

    始め方

    録音データの分析など、小さな範囲から段階的に始められます

    高橋は講演の最後に、電話改革やAIの活用を進めるのであれば、全体設計から段階的な取り組みまで支援できると述べました。そのうえで、どのような進め方であっても何より大事なのは住民の声からナレッジをつくっていくことであり、その取り組みは早ければ早いほどよい、と締めくくりました。

    よくある質問(FAQ)

    ■ Q1. 自治体のAIコールセンターとは何ですか?

    自治体のAIコールセンターとは、AIボイスボットによる自動応答と、オペレーターによる有人対応を組み合わせて住民からの電話に対応する仕組みです。定型的な問い合わせはAIが一次対応し、複雑な相談はオペレーターへ、個人情報に基づく判断が必要な案件は職員へつなぎます。エスプールグローカルでは、AIで50%、オペレーターで30%、合わせて80%をコンタクトセンターで完結させることを目標値としています。

    ■ Q2. AIコールセンターの導入で最も重要なことは何ですか?

    ナレッジの整備です。AIの回答率は、どれだけのナレッジを持っているか、住民が普段使う言葉と制度の正式名称が結びついているかに大きく左右されます。通話録音データを文字起こし・分析してナレッジをつくることが、導入の成否を分けるポイントとされています。

    ■ Q3. 奈良市の電話改革ではどんな成果が見込まれていますか?

    奈良市では、本庁舎と西部出張所のPBXをZoom Phoneでクラウド化し、2026年3月中旬に運用を開始しました。物理PBXの撤廃やAIによる応対比率の向上によって、3年間で電話関連コストを55%削減する見込みです。AIボイスボットによる代表電話の一次対応は、秋ごろの稼働を目標に構築が進められています(いずれもセミナー開催時点の情報)。

    ■ Q4. 小規模な自治体でも電話DXに取り組めますか?

    取り組めます。すでにある通話録音データの分析から始め、マイナンバー関連などの特定業務、課の代表電話、全庁の代表電話へと段階的に範囲を広げる進め方があります。開庁時間外の対応だけを先にAI化して試す方法もあります。人員や予算に限りがある中小自治体では、複数の自治体でナレッジや仕組みを共同利用する形も検討されています。

    ■ Q5. 通話録音データを分析する際、個人情報はどう扱われますか?

    データを抽出する段階で、氏名・住所・電話番号とみられる情報をマスキングする機能を使い、個人が特定されない形に整えたうえで分析に使います。

    【監修者】高橋 晋吾
    株式会社エスプールグローカル 執行役員 DX企画部長

    ▽略歴
    新卒で株式会社エスプールに入社し、顧問派遣事業の立ち上げに携わる。その後、当社の前身である地域創生BPO事業部の立ち上げに参画。シェアードBPOの体制づくりや運用基盤の整備を担った。
    事業部の子会社化に伴い、2021年12月に創業メンバーとしてエスプールグローカルに参画。営業責任者・運用責任者を歴任し、兵庫県神戸市大型ごみ受付センター業務や、山口県宇部市フロントヤード改革モデル事業など、数多くの案件を運営。これまでに200を超える自治体への業務支援を行い、住民サービスの向上と職員の負担軽減に取り組んできた。
    現在は執行役員 DX企画部長。現場で培った知見を生かし、AIを活用したコンタクトセンターをはじめとするサービス企画や、他事業者とのアライアンスを推進。自治体業務のモデル変革と次世代サービスの構築に挑戦している。

    本記事の作成・支援事業者
    株式会社エスプールグローカル

    自治体に特化したコールセンター運営やBPOを通じて、自治体の業務改善と地方創生の両立に取り組んでいます。400を超える自治体との取引実績があり、全国23拠点で地元雇用を中心とした運営体制を整えています。AIコールセンターの構築・運用、通話録音データの分析とFAQ・ナレッジ整備、電話DXの全体設計まで、自治体様の状況に応じた段階的な支援を行っています。

    詳細はこちら▶ https://glocal.spool.co.jp/ / お問い合わせ:glocal-contact@spool.co.jp

    株式会社エスプールグローカル
    株式会社エスプールグローカル

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