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我らはまちのエバンジェリスト #30(福岡市 職員・今村 寛)
出張財政出前講座という「ヨコの対話」への想い

サヨナラは明日のために

    プロフィール
    今村 寛
    《本連載の著者紹介》
    福岡市 職員
    今村 寛いまむら ひろし
    福岡地区水道企業団 総務部長。1991年福岡市役所入庁。2012年より福岡市職員有志による『「明日晴れるかな」福岡市のこれからを考えるオフサイトミーティング』を主宰し、約9年間で200回以上開催。職場や立場を離れた自由な対話の場づくりを進めている。また、2012年から4年間務めた財政調整課長の経験を元に、地方自治体の財政運営について自治体職員や市民向けに語る「出張財政出前講座」を出講。「ビルド&スクラップ型財政の伝道師」として全国を飛び回る。好きなものは妻とハワイと美味しいもの。2022年より現職。財政担当者としての経験をもとに役所や公務員について情報発信する「自治体財政よもやま話」(note)を更新中。

    所属組織の垣根を超えて「自治体職員のヨコの連携」をつくる動きが広がっています。本連載著者の今村さんも各地を「出前講座」で飛びまわり、そうした新しい自治体職員コミュニティづくりに東奔西走しているひとりです。そこにはどのような想いがあり、参加者たちはどんな刺激を受け、どういった体験や経験を持ち帰ることができているのか―。「ヨコの連携」に興味があったり、関心はあるけどなんとなく参加を躊躇している職員のみなさんに是非読んでほしい、今村さんがこの夏、北海道の2会場で実施した「出前講座」の記録をお届けします。

    200km離れた道内2会場で“出前講座”

    先日、出張財政出前講座で北海道に行ってきました。

    【編集部註】出張財政出前講座=本連載著者の今村さんが福岡市 財政課長時代に培った知見を軸に2014年から行っている全国の自治体職員を対象にした出前講座。コロナ禍等の事情による2020年から2023年までの休眠期間を経て、これまでに合計130回以上実施している。

    道内初開催は名寄市で実施した2019年8月。以来5年ぶり、出講は場所を変えての2DAYS。新千歳空港にほど近い札幌都市圏の恵庭市と人口5,000人に満たない道東の農業の町、訓子府(くんねっぷ)町(私の出張出前講座史上、最少人口の開催自治体でした)のそれぞれで、自治体職員有志が事務局となり、職員だけでなく道内他自治体職員や道内地方議会議員、一般市民など多方面から2日間で80名近い方のご参加をいただき大盛況でした。
     
    前回の名寄でもそうでしたが、驚かされるのが道内各所から集まってくれる皆さんの移動距離。
     
    北海道は人口密度が低く生活圏が分散しているため、どこかでイベントがあると聞きつけると100km、200kmの移動は当たり前とのことなのですが、道内を飛行機で移動して駆けつけてくれたツワモノもおられ、本当に頭が下がります。
     
    皆さん、遠路はるばるご参加ありがとうございました。

    5年前に名寄市での受講いただいた方々とも多数再会できました。うれしかったのは5年前に名寄で受講してくれた方々が講座での体験を地域に持ち帰り、私の思いや熱量を伝えてくれたことが縁となって、5年の月日を経て恵庭、訓子府のそれぞれで、名寄の講座に参加していない職員さんも一緒になって、今回の開催を企画運営いただいたことです。
     
    自治体財政に関する知識やノウハウを習得したいという学習意欲だけでなく、自分の住むまちのために何かがしたい、そのために誰かとつながり仲間を増やし行動したい、そんな気持ちを集めてひとつの動きにするための人寄せの仕掛けとして私の講座を使っていただくことは出張財政出前講座ではよくある光景ですが、今回も、恵庭、訓子府のそれぞれで若い職員も含めた仲間が集まり、まちを愛するエネルギーが結集し、参加された皆さんからも「次はわがまちで」という声が多く聞かれました。
     
    出張財政出前講座で全国を旅してまわって10年経ちますが、私が蒔き散らかした種があちこちで芽吹き、花を咲かせ、そこからまた種が散らばっています

    いつの間にかその種が全国に広がり、私が講座の最後に添えている「一人の千歩よりも千人の一歩」という言葉通り、全国各地で対話による自治体改革を進める千人の一歩が刻まれていることに驚き、大きな喜びを感じています。

    出張財政出前講座恵庭会場(左)と訓子府会場(右)の様子

    「ヨコの対話」を長く長く続けるため

    出前講座で全国各地を旅していると、たくさんの方々にお会いします。

    なるべくおひとりおひとりと時間を取ってお話ししたいと思うのですが、講座という性格上、滞在時間の大半はこちらからの情報伝達に当てられ、双方向での対話ができる機会、時間は限られています。

    そんな中で少しでも対話の時間を設けるために可能な限り現地に泊り、講座参加者や開催事務局の皆さんとおいしい食事を楽しみ、酒を酌み交わしながら交流を深めるよう心掛けていますが、スケジュールの制約からそのような機会が許されないことも多く、もっとゆっくり話したかったなあと後ろ髪をひかれながら帰途に就くことばかりです。

    と言いながら、講座の中では受講者からの質問時間をとりません。

    • 講座の内容は情報過多気味(笑)なので後日各自のペースで咀嚼していただき、そこで改めて感じた疑問や意見についてメールやSNS等でお寄せいただきたい
    • 今日の講座を皆さんとのご縁の始まりとして、自治体財政のことに限らず、まちづくりのこと、対話のこと、その他なんでも気になったことを情報交換し、対話しながら、これからも末永くおつきあいいだきたい

    と講座の中でいつもお話ししていますし、実際に講座でお会いした方も、まだお会いしていない方ともSNSでつながり続け、私の発信するくだらない私生活情報も含めて日々心に映るよしなしごとを共有し、対話を続けています。

    この「To be continued」感が私と受講者の皆さんがつながり続け、千人の一歩をともに歩み続けることができている秘訣かもしれません。

    “垣根”を越えて共通課題に取り組む

    私は出張財政出前講座を一度限りの打ち上げ花火としてはいけないといつも思っています。

    そのため、事前の受け入れ体制づくりから事後の「次の一手」、そしてその後の芽吹き、開花、実りまで可能な限り関わっていきたいし、何かお手伝いできることがあれば力になりたいと常に公言しています。

    最近では、自治体財政担当課から直々に枠予算制度の構築や行財政改革の進め方などについて個別具体の相談を受けることが増えました。

    出張財政出前講座で実施している対話型自治体経営シミュレーションゲーム「SIMULATIONふくおか2035」のノウハウ提供やご当地版の作成についてアドバイスを求める声も増えています。

    【編集部註】SIMULATIONふくおか2035=参加者が2035年の仮想の自治体の局長になり、どこにでも起こり得る地域の課題を他の局長との対話で解決していくゲーム。「財政が厳しいってどういうこと?」「お金がないってどういうこと?」「なぜ借金をして事業を行うの?」等々の疑問を学ぶことができる。(上画像は恵庭会場)。

    また、出前講座で話している自治体運営や対話の話以外に、私の公務員としての生きざまや管理職としての職場づくりの経験、最近では仕事と家庭の両立などのテーマで話をしてほしいという依頼もちらほら出てきています。
     
    私が出前講座で出会った皆さんや、そこからご紹介いただいた方も含め、多様なご縁でつながった私との関係を軸にそれぞれのテーマを掘り下げ、新たな絆を紡いでいただいていることに感謝申し上げます。

    今後、仕事や家庭の都合と調整しながら、これまでいただいたオファーをフォローしつつ、未踏の地5県(福島、栃木、香川、徳島、高知)の踏破もにらみながら、新たなご依頼にも対応していきたいと思っています。この記事をお読みの皆さんにおかれましても、ご入用の向きがありましたら気軽にお声がけください。

    別れは「またの機会」に向けた歩み

    出張財政出前講座を始めて10年。この活動を始めたことで縁を結んだ多くの方々との一期一会が私を成長させてくれました。
     
    出会いはいつも歓喜にあふれています。
     
    SNSだけのつながりだった方と講座会場で初めて出会えた時の少し照れ臭い初対面のあいさつ。拙著(末尾の「著書紹介」参照)をご購読いただき、一度話を聞きたかったと講座会場に本を持参してサインを求める声。講座の中での皆さんの笑い声やうなずき、終了後の「疲れたけど楽しかった」という苦笑いの表情にいつも元気をいただいています。
     
    そして旅芸人の宿命なのですが、講座が終わり現地を離れるときの皆さんとの別れはさみしい瞬間です。「また今度ゆっくりお話ししましょう」と何度繰り返したことか。それ以来お会いできていない方も本当にたくさんいます。
     
    しかし、私はあきらめないことにしています。
     
    「またの機会」は座して待っていても自然と転がり込んでくるものではありませんが、今回の恵庭、訓子府のように「またの機会」を創る努力を怠らなければ、自分たちの力で未来を切り拓くことができるのですから。

    今回もたくさんの別れの言葉を交わしましたが、それはすべてお互いの明日のため。

    「またの機会」を創ろう
    「またの機会」に相応しい自分でいよう
    「またの機会」を笑って迎えられる心と体の健康を維持しよう

    ここで交わした別れの言葉は全て「またの機会」に向けて歩き出す未来の自分たちへのエールなのだと思います。

    というわけで、皆さん「またの機会」にお会いできるのを楽しみにしています!

    (続く)


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    『「対話」で変える公務員の仕事~自治体職員の「対話力」が未来を拓く』(公職研)の表紙カバー

    『自治体の“台所”事情~“財政が厳しい”ってどういうこと?』(ぎょうせい)の表紙カバー

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