
※下記は自治体通信 Vol.70(2025年11月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
九州の南端に位置し、南北約600㎞に連なる多くの離島と、特色ある文化や自然に恵まれる鹿児島県。その温暖な気候や九州の南の玄関口としての地理的特性などを生かし、いくつもの分野で「生産量日本一」を記録する農林水産王国でもある。同県では、昨年から知事2期目に突入した塩田氏のもと、鹿児島県としてのブランド力を生かした、「『稼ぐ力』の向上」を打ち出している。鹿児島県が進める魅力づくりやその先に描く県政ビジョンなどについて、同氏に聞いた。

難しい環境下での危機管理は、鹿児島県政に課せられた使命
―昨年7月、知事2期目に突入しました。まずは1期目の成果をどのように振り返りますか。
1期目は、鹿児島県でも新型コロナウイルスの感染拡大が始まった直後の令和2年7月の就任だったため、当時は新型コロナ対応が喫緊の課題でした。ワクチン接種の促進や医療提供体制の確保を図る一方で、県独自の旅行支援事業や、飲食需要を喚起するクーポン事業などを通じて、感染拡大防止対策と社会経済活動の両立という難題に立ち向かってきました。「コロナ禍からの再生と飛躍」を象徴する大会として、令和5年10月に「燃ゆる感動かごしま国体・かごしま大会」を開催できたことは、多くの県民のみなさんに感動や喜びをもたらしたと考えています。この大会の開催にご協力をいただいた後催県のみなさんには心より感謝しています。
―同じ危機管理という側面では、鹿児島県ではこれまでに、大規模な自然災害も頻発してきました。
本県は元来、集中豪雨や台風の襲来が多いうえ、水を含むと崩れやすいシラスなどの特殊土壌に本土の大半が覆われる地形的特性から、被害が発生しやすい状況もあります。さらに、風水害のみならず、県内には桜島をはじめ新燃岳や諏訪之瀬島といった複数の活火山を抱え、トカラ列島では群発地震も発生しました。本県においては「地域強靱化計画」に見直しを重ね、ハード・ソフト両面から防災減災対策を進めてきました。
本県は、本土においては薩摩半島と大隅半島の2つの大きな半島で形成され、南北600㎞の広大な県土に28の有人離島を有しています。このような地理的環境は、県土強靱化を進めるうえでの難しさでもありますが、その特殊な条件のなかで、安心安全を確保し、県民生活における活力を維持していくことこそ、本県の県政運営に課せられた大きな使命だと考えています。
県政ビジョンを改訂、ポイントは「稼ぐ力」の向上
―県政運営においては令和4年3月、「かごしま未来創造ビジョン」を改訂しています。改訂のポイントはなんでしょう。
「かごしま未来創造ビジョン」は、おおむね10年という中長期的な視点から、鹿児島のめざすべき姿や施策展開の基本的な方向性などを示すものであり、県政全般にわたってもっとも基本となるものとして、平成30年3月に策定されました。その後、新型コロナウイルス感染症の拡大、デジタル化の進展、SDGsの推進やカーボンニュートラルの要請など、昨今の社会経済情勢が大きく変化してきており、これらへの対応が重要になってきたところです。こうした時代の潮流と本県の現状・課題を踏まえ、今回の改訂にあたっては、「デジタルテクノロジーの活用」「移住・交流の促進」「奄美・離島の振興」といった政策テーマを新たに項目立てています。なかでも、本県の基幹産業である農林水産業や観光関連産業を中心とした「稼ぐ力」の向上は、ビジョンが掲げる「誰もが安心して暮らし、活躍できる鹿児島」を実現するための重要な基盤をなす政策テーマと位置づけています。
―具体的にどのような施策を進めていきますか。
たとえば、労働力不足や高齢化に対応するため、農業においては、ドローンを活用した病害虫防除や家畜の分娩監視システムなど、水産業においては漁場の予測システムなど先進技術を導入したスマート農林水産業の推進を図ります。また、生産・加工体制を強化し、付加価値の向上につなげるための支援を展開していきます。
これと同時に、販路や輸出の拡大を図る「攻めの農林水産業」を打ち出していますが、そこでは、鹿児島としての「ブランド力」をいかに高めるかが、重要な課題になると考えています。
生産量日本一を誇る品目で、「攻めの農林水産業」を
―「ブランド力」を高めるための取り組みを教えてください。
たとえば、令和5年における本県の農業産出額は、5,438億円と過去最高額を更新し、北海道に次ぐ全国第2位を7年連続で堅持しています。農業産出額の約7割を占める畜産については、和牛の改良の成果を競う5年に一度の「全国和牛能力共進会」において、直近の令和4年大会で県産和牛の代表ブランドである「鹿児島黒牛」が内閣総理大臣賞を受賞し、本県が2大会連続で「和牛日本一」の称号を獲得しました。しかし、市場関係者の間では評価が高いものの、「国内産」や「九州産」の表示で流通するケースが多く、最終消費者の認知度はさほど高くありません。その背景には、これまで県内で多くのブランドが群雄割拠し、「鹿児島県産和牛」としての統一的なブランド発信ができていなかった現実もあります。そこで現在は、「和牛日本一鹿児島」という統一ロゴマークを作成し、鹿児島県産和牛に対するブランド力や付加価値を高める取り組みを進めているところです。
―最終消費者への認知を高め、付加価値や「稼ぐ力」の向上につなげたいということですね。
そのとおりです。同じような例はほかにもあり、たとえば令和6年産で本県悲願の「生産量日本一」となった荒茶*もその1つで、他県でブレンドされ、消費者のもとに届いているケースも多いと聞きます。ブランド力の向上で国内市場での存在感はまだまだ高められると思います。抹茶も海外での需要が伸びています。県産農林水産物の令和7年度輸出目標額500億円を掲げ、和牛やお茶のほか、ブリや鰹節といった同じく生産量日本一を誇る本県の主力品目の輸出拡大や販路拡大など、「攻めの農林水産業」に取り組んでいきます。
*荒茶:製品として仕上げる前の一次加工品のお茶

将来の県勢発展へ。秘められたポテンシャル
―鹿児島県の資源や魅力を生かした産業振興といえますね。
まさに、地域がもつ豊かな自然や、風土が育む特色ある歴史・文化は、本県の魅力にほかならず、そこに将来の県勢発展への高いポテンシャルが秘められていると信じています。世界自然遺産にも認定され、令和5年に日本復帰70周年を迎えた奄美は、その象徴的な地域の1つでもあります。今後、世界自然遺産の価値の保全と持続的な観光推進の両立を図っていきたいと思います。こうした魅力ある本県の素材がもつ「ポテンシャル」を最大限に生かしながら、「かごしま未来創造ビジョン」に掲げた各般の施策に積極的に取り組むことにより、「誰もが安心して暮らし、活躍できる鹿児島」をめざしていきたいと考えています。






