
※下記は自治体通信 Vol.66(2025年6月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
令和4年、泉南市長に就任した山本氏。当時、全国最年少かつ初の平成生まれの首長として注目を集めた。「若手だからこそ、成果としてわかりやすいマニフェストの達成にこだわってきた」という同氏は、特に「子育て」と「教育」の支援に注力してきたと話す。任期の終盤となる令和7年は、4月に「大阪・関西万博」が開幕するとともに、7月に市制55周年を迎える。そうした泉南市の舵取りをどう行ってきたのか。山本氏に、今後のビジョンも含めて聞いた。

保護者の声に耳を傾け、市独自の施設をオープン
―市長に就任してからの行政運営を振り返ってください。
私は市長に就任して以降、持続可能なまちづくりを目指した行政運営に取り組んできました。任期が4年目を迎えた現在、私が就任当初に掲げたマニフェスト60項目の達成率は90%を超え、一定の成果を得られたものと考えています。そのなかでも、私が現在、5歳と2歳の子どもを持つ父親という立場から、「子育て」や「教育」の支援にはかなり注力してきました。
―具体的にどのような施策を行ってきたのですか。
たとえば子育て支援においては、乳幼児の遊びの広場「SENNAN LITTLE PARK りるぱ(以下、りるぱ)」を市内にてオープンしました。これは、「猛暑日や真冬日に関係なく子どもが屋内で遊べる公園みたいな場所がほしい」という保護者の方々の声を受けての施策です。しかし構想当初から、昨今の財政状況は厳しく、新たにハコをつくるのはムリがありました。そこで市内の公共施設を見直したところ、地域福祉の拠点施設である「あいぴあ泉南」の空間使用率が65%だということがわかり、使用されていない空間をリニューアルして有効活用しようと考えたのです。
―リニューアルの財源はどのように確保したのでしょう。
「ESCO事業*」における国の補助金と、ふるさと納税の寄附金を原資としました。特にふるさと納税は、寄附者の嗜好が食材から日用品に移行傾向にあるのを受け、返礼品にトイレットペーパーなどの日用品を増やすといった見直しを行い、寄附金額を就任前から1.7倍以上に増やしました。結果、大型遊具などを設置した「りるぱ」を令和6年4月にグランドオープンできたのです。オープンして1年で、市外からも含めて約3万7,000人が来場しています。市内の保護者からも、「子どもを安心して遊ばせられる」と大変好評であることに加え、「ママさん」「パパさん」同士が気兼ねなく交流できる場としても機能しています。
*ESCO事業 : Energy Service Companyの略で、省エネルギーに関する包括的なサービスを提供し、顧客の省エネルギー効果を保証する事業
「生きた英語」が学べる、英語教育環境を実現
―教育支援における具体的な施策についても教えてください。
泉南市ならではの取り組みをあげますと、当市には、国内外の出入口となる関西国際空港があります。その立地を活かし、「泉南市の学校に入れば、早い段階で海外とつながれる」環境をつくりたいという想いがありました。そこでまずは、令和5年4月、フィリピンのダバオ市と、泉南市においては初となる姉妹都市協定を締結しました。フィリピンは英語圏で日本人の語学留学が盛んな親日国であり、渡航時間も比較的短く、交流がしやすいと考えたのです。そして、泉南市とダバオ市の小中学校をオンラインでつなぎ、児童・生徒同士の国際交流が実現しました。さらに令和7年度からは、市内の全小中学校にて、ダバオ市の学校とオンラインでの国際交流をカリキュラム化しています。こうした、「生きた英語」を義務教育の過程で学べるようにしたのは大きな意義があると考えています。さらに、英語やダバオ市に興味を持った児童・生徒が、今後は親子留学などができないかといった検討を進めているところです。

「お金がないからできない」を、突破したかった
―こうした施策を行ううえで、重視していることはありますか。
当然かもしれないですが、やはり住民から求められていることに対し、忠実に応えようとする姿勢です。「りるぱ」の件もそうですが、昔から住民ニーズはあるものの、「予算がない」といったケースは多く、「そうした状況を突破してほしい」と期待されているのを就任時から感じていました。予算がないのは、どこの地方自治体でも同じでしょう。しかし、「お金がないからできない」ではなく、「どうしたらお金を確保できるか」を考えるのが大事だと思っているのです。ですから、ふるさと納税を見直すことで寄附金額の増加を図りましたし、これからの泉南市を考えたうえで行財政改革も同時に進めています。
―具体的に教えてください。
たとえば、今後控えている学校建設やごみ焼却施設の建設の費用は昨今の物価高騰により、当初の想定以上に大きく膨らんでいます。そこで、人口動態の見直しによる規模の縮小や施設の再編などで費用をグッと抑えることができています。こうした先の課題も、先送りせずに、早めに手を打つことを意識しています。目の前の住民に対して予算を確保しながら還元していくのはもちろん、将来の住民に対しても、負担を減らしつつ、予算を確保していくのは市長としての務めだと思っているのです。
現状の好機を活かして、人を呼び込む施策を打つ
―今年は「大阪・関西万博」の開催と市制55周年を迎えますが、どのような施策を打っていますか。
「大阪・関西万博」では、現地会場の回転寿司店に特産物である「泉南あなご」をメニューに出したり、ダバオ市と共催イベントを企画したりしています。また、市政55周年を迎えるにあたっては、コロナ禍のため自粛していた地元の祭り「泉南市祭礼やぐらパレード」が昨年から復活したほか、関西最大級のレクリエーション施設「SENNAN LONG PARK(泉南りんくう公園)」にて花火大会も予定しています。そして、少し先の話ですが、企業立地促進条例の改正とトップセールスにより、マニフェストでもあった悲願のホテル誘致に成功し、令和9年にオープン予定です。正直今までは、関西国際空港と大阪市内の間に位置する泉南市域は、観光客にスルーされる傾向にありました。これからは現状の好機を活かし、市内に人を呼び込む施策をどんどん打っていきたいと考えています。
―今後の行政ビジョンを教えてください。
市長1期目の私がこだわっているのは、住民と約束したマニフェストの達成です。そのため、引き続き、マニフェストの進捗管理にこだわりつつ、泉南市という特色を活かしたまちづくりに取り組んでいきたいと考えています。私のような比較的若い首長は、「若い人に託してよかった」と住民に思ってもらえる仕事ぶりが重要であり、それが新たな若い首長を生み出す筋道になると思っているからです。なにより私自身、住民から「『りるぱ』行ってるで~」とよく声をかけられ、それが励みになっていますからね。
