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「大変革」を掲げる青森県の次期基本計画が描く未来

縄文の昔から受け継ぐ「豊かさ」で、郷土に誇りと愛着を持つ若者を育む

縄文の昔から受け継ぐ「豊かさ」で、郷土に誇りと愛着を持つ若者を育む

※下記は自治体通信 Vol.55(2024年1月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

令和5年は統一地方選挙が行われたこともあり、多くの自治体で首長の交代が起こった。それを受け、今年、令和6年を起点とする新たな総合計画を発表している自治体は少なくない。そのひとつである青森県では、むつ市長から転身し、新たに知事に就任した宮下氏のもと、「青森大変革」を掲げる令和6年度スタートの次期基本計画を発表し、県政の刷新を掲げている。「新しい青森県づくり」を打ち出す同氏に、今後の県政ビジョンなどを聞いた。

インタビュー
宮下 宗一郎
青森県知事
宮下 宗一郎みやした そういちろう
昭和54年5月、青森県生まれ。平成15年3月に東北大学法学部を卒業後、国土交通省に入省。道路局係長、まちづくり推進課課長補佐、建設業課課長補佐、東北地方整備局用地企画課長、外務省出向(在ニューヨーク総領事館領事)などを歴任。平成26年6月にむつ市長に就任。令和5年3月、3期目途中で辞職し、青森県知事選挙に出馬。令和5年6月に青森県知事に就任。

強く感じていた「変化」を求める県民の心情

―令和5年6月、どのような使命感を持って青森県知事に就任したのでしょう。

 県知事選に出馬するにあたって強く感じていたのは、県民のみなさんの「この閉塞感を打開してほしい」という想いでした。青森県は、県民所得であったり平均寿命であったり、さまざまな機関が発表する全国ランキングで下位に位置づけられることが多いです。冬には厳しい気象条件によって閉ざされる青森県は、出稼ぎ県であった歴史からも農村漁村には「貧しさ」「過酷さ」のイメージが持たれがちな側面もあります。そのためか、県民自身が地元に対する誇りや自信を持ちにくい傾向があったのは事実かもしれません。それらのランキングに「果たしてどこまで重要な意味があるか」という問題はありますが、「変化」を求める県民の心情につながっているという事情はあるのだと思います。

 今回策定した次期青森県基本計画の全体を貫く基本理念に、「AX(Aomori Transformation)~青森大変革~」というキャッチフレーズを掲げたのも、そうした県民の期待を受けて、県政が「大きく変わる」という方向性をまずは打ち出したかったからなのです。

―次期基本計画では、基本理念を支える基盤として「挑戦」「対話」「DX」という3つのキーワードを掲げていますね。

 次期基本計画における2040年のめざす姿は、「若者が、未来を自由に描き、実現できる社会」というものです。その観点から、これからの時代の主役になるべき若者を中心に、「青森を変えたい」「良くしたい」という想いを持った人々の「挑戦」を応援する県政を実現していきます。その過程ではこれからの時代、あらゆる場面でデジタル技術を活用していかなければなりません。県として社会全体の「DX」推進は最重要課題と位置づけています。

 ただし、県政運営において、じつはもっとも基本的で重要なキーワードは「対話」だと感じており、ここに新県政の特徴が出るのだと考えています。

地道な「対話」では、根本的な人間力が問われる

―それはどういうことでしょう。

 この答えのない先行き不透明な時代に、県民が一定の納得感を持てる政治の方向性を打ち出していくには、地道な「対話」を重ねていくしかないと考えています。それを知事自身がやり続けるというのは、基本的なことではありながらもじつは非常に難しいことであり、古くて新しい民主主義の世界観だと思います。そこでは、面識のない人々の輪に入って、笑いや涙もありながらのコミュニケーションを通じて人々が納得できる一定の解決策を引き出していかなければならない。これほど根本的な人間力が問われる作業はなく、否応なく知事個人のカラーが発揮されていくことになると思うのです。

―その姿勢は、市長時代も実践してきたことなのですか。

 いいえ、むしろできていなかったことかもしれません。市長時代は、人口5万人規模の自治体のトップとして求められたのは、他に埋没しないための「対外的な発信力」だと感じており、実際にそれが政策推進の原動力になったことも多くありました。

 しかし今後は、県知事として発信力を競う立場ではありません。発信力よりも、その内容そのものが真に県民の志向に適っているか、県民が待ち望んでいる答えなのかを吟味する姿勢が問われるのだと考えています。そのためにも「対話」は欠かせないプロセスであり、「青森大変革」というメッセージ性の強い基本理念を打ち出したからこそ、その意識はより重要になると感じています。

農林水産業のポテンシャルは、青森県が誇る強さ

―今後、具体的にどのような政策に力を入れていきますか。

 計画では、めざす姿の実現に向けて、取り組むべき課題を「しごと」「健康」「こども」「環境」「交流」「地域社会」「社会資本」という7つの政策テーマで分類しています。この中でも、私が特に重視している分野は、「しごと」と「こども」です。

 将来世代に責任を持った県政を志すうえでは、「こども」政策は重要なテーマであり、かつ従来からの転換が必要となる施策が多いです。子育て支援策については、合計特殊出生率の向上にアプローチできる「青森モデル」を構築するとともに、学校教育では市長時代の経験も活かしながら、不透明な時代を生き抜くための力を養う探究型教育への大胆な転換によって、教育の面でも選ばれる青森県へと変革していきます。

―一方の「しごと」政策についてもビジョンを聞かせてください。

 めざす姿である「若者が、未来を自由に描き、実現できる社会」の実現に向けては、多様な「しごと」と安定した収入があることは大前提となるでしょう。また、全国的に見て低水準にある所得状況は当県にとっての特に大きな課題であり、「しごと」政策の強化によって経済の好循環をつくることは、改善に向けたもっとも重要かつ切実なテーマといえます。

 もっとも、ここは青森県が強さを秘めた分野でもあり、特に基幹の農林水産業は他県に類を見ない多様性と成長のポテンシャルを持っていると私は感じています。

大いなる水循環が支えた文化の繁栄

―その理由はなんですか。

 青森県の農林水産業を支えている「大いなる水循環」があるからです。世界自然遺産である白神山地がその典型ですが、ブナの原生林がつくり出す腐葉土は雨水や雪解け水を濾過し、ミネラル豊富な湧き水や河川というかたちで海に流していきます。それらの水は循環の過程で果樹栽培や田畑の土壌を形成し、海に流れては良質の海産物を育てています。県内にあるもう1つの世界遺産である三内丸山遺跡が示すとおり、古くは縄文時代の昔からこの大いなる水循環に支えられた文化の繁栄が青森県にはありました。青森のリンゴや大間のマグロが国境を越えてブランド化されているように、稼げる農林水産業の確立には今後も大きなポテンシャルを感じています。

 青森が本来的に持つこうした豊かな自然の恵みにあらためて目を向け、この地が有する価値が国内外で高く評価されるように育てることができれば、郷土に誇りと愛着を持つ若者が増えていく未来を実現できると考えています。

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