四日市市のスマートシティプロジェクトが進行中 「地域課題に詳しい」地元CATVの強みを活かし参画

自治体が地域DXプロジェクトを実施するパートナーとして、地元のケーブルテレビ事業者と連携する事例が全国で増えている。情報通信の技術力やノウハウを持ち、地域密着で事業を展開しているケーブルテレビ事業者は、地域DXの連携相手として最適だ。「自治体×ケーブルテレビ連携」による地域DXは自治体や地域住民にとって、どのようなメリットをもたらしているのか、全国の主要事例を取材したレポート記事を8回にわたり連載する(7/24(木)~25(金)開催の「ケーブル技術ショー2025」では、この連載でレポートする事例など、各地で進められている「自治体×ケーブルテレビ」の連携事例について、シンポジウムや展示等で詳しく紹介する)。
連載7回目の今回は、三重県四日市市のスマートシティの事例を取り上げる。同市では、都市開発と交通インフラ整備とスマートシティ整備が同時に進行している。地元のケーブルテレビ事業者である(株)シー・ティー・ワイ(CTY、三重・四日市市、渡部一貴社長)は、これら都市開発やスマートシティを推進する強力な協力者となっている。ローカル5Gなどスマートシティの通信インフラの整備やスマートインフラの整備、AIカメラや環境センサーなどで得られた人流データなどの活用検討の協力を行なっている。地域の事情に詳しいケーブルテレビの強みを活かし、地域課題解決を目標にしてスマートシティプロジェクトに取り組んでいる。
(取材・文:『月刊B-maga』編集部・渡辺 元)
急進するスマート化を支える、CTYローカル5G
四日市市では近鉄四日市駅とJR四日市駅を含む東西約1.6kmにわたって再開発が進められており、現在、近鉄四日市駅西側の整備が一部完成している段階だ。近鉄四日市駅前には大規模な円形デッキが建設中で、年内の完成が予定されている。両駅を結ぶ中央通りは途中で国道1号と交差しており、近鉄四日市駅から国道1号へのエリアに「バスタ四日市」が新設される予定だ。これは国土交通省の直轄事業として整備され、運営は民間企業に委託される。四日市市では理工系大学の誘致にも取り組んでいる。コンビナートの特性を活かしながら理工系人材を集め、産業振興と将来的な人口増加を図る。JR四日市駅の東側に広がる四日市港の再開発計画も進められている。

中央通りのランドマークである円形デッキの整備中の様子
これらの主に道路インフラの再開発に合わせて、5G、IoT、AIといった技術を活用したスマートシティ計画が推進されている。このスマートシティプロジェクトにおいて大きな役割を担っているのが、地元ケーブルテレビ事業者であるCTYだ。CTYは2022年から、四日市市の中心市街地でローカル5Gの整備を進めている。公道上の広い範囲をカバーする形でローカル5Gを整備したのは日本初の事例。完成は2026年の予定だ。

CTYローカル5G開局式(市と共催のYOKKAICHI Great EXPOで)
ローカル5G整備に必要な光回線の敷設は、中央通りの再開発工事に合わせて実施されており、光回線にローカル5Gのほか、BWA、Wi-Fiなどが接続された通信インフラを整備し、行政や企業が必要とする多様な通信サービスを提供する。現在ローカル5G基地局が2局設置されており、2026年度までにさらに2局を追加して計4局とする予定だ。加えて、多くの来街者が通信デバイスを中心市街地のどこでも接続できるように、Wi-Fiの整備も進められている。
四日市市では、現在、AIカメラや環境センサーなどから得られた情報を蓄積するためのデータプラットフォーム(都市OS)の運用も構築も進めている。AIカメラなどで人流や通行者の属性、通行車両数といったデータを収集・分析し、リアルタイムで視覚化することで、混雑の状況や暑さ指数の状況といった情報を市民が把握できるようになっている。企業などが過去の人流データの推移を確認できるように、ダッシュボードを用いて可視化する取り組みも進めている。

AIカメラの映像とデータを可視化したダッシュボード
また、3D都市モデル「PLATEAU」により市街地を立体的に確認できたり、“四日市版MaaS”の準備も進んでいる。
四日市市の中央通り再開発事業では、道路のダイナミックな改修と同時にスマートシティのプロジェクトも進行しているが、2022年度から中央通りをどのように利活用していくかについて、多角的な視点での取り組みが行われており、CTYもこれらに関わっている。中央通りで実装を目指している自動運転とローカル5Gに関する実証実験は、自動運転車に搭載されたカメラの映像をローカル5Gで伝送するという内容だ。昨年と一昨年に行われた自動運転の実証実験では、通信はLTEを使用しており、それと比較してローカル5Gは遅延が少ないことが確認された。

四日市市3D都市モデル

ローカル5Gと自動運転の実証実験のイメージ図

工事中の中央通り(CTY情報カメラから)
検討段階からスマートシティ計画に参加
CTYはスマートシティプロジェクトに検討段階から参加している。検討組織として、中央通り再編関係者調整会議、四日市市都市再生協議会、四日市スマートリージョン・コア推進協議会など、複数の検討部会が設置されており、CTYはそれらのメンバーとして、事業計画の検討、スマート化の構想などの議論に取り組んだ。そして、道路インフラの開発にとどまらずスマートシティ化も実施する方針が定まり、2022年に策定された四日市スマートリージョン・コア実行計画にも検討策定段階から地元の通信・放送事業者として関わってきた。スマート化の実行計画も策定され、四日市市とCTYは2022年にローカル5G整備などを推進するための協定を締結した。

四日市市とCTYの協定式
「CTYは日常的な業務で市民や行政、企業と接しているため、地域課題を把握しており、スマートシティの計画段階から各検討部会で地域課題に即した提案を行ってきました。スマートシティにこのような関わり方ができることが、地元ケーブルテレビ事業者としての強みです。通信インフラを整備し、その上に地域課題解決型のサービスを展開していける点も、ケーブルテレビ事業者の利点です。さらに、大手通信事業者と比較して、ローカル5Gなどにおける最先端技術の導入に関する判断をより迅速に下し、整備を進められるというスピード感も、ケーブルテレビ事業者ならではです」((株)シー・ティー・ワイ 取締役営業部長 安達勝也氏)。CTYはこれらのケーブルテレビ事業者の強みをスマートシティプロジェクトで活かしている。

CTYはスマートシティに対して、地域課題を解決するために進められていくべきものだと考えている。同社は地域あっての企業であり、地域に存在するさまざまな課題に向き合い、それを解決することが、自社の事業の持続にもつながるという考えだ。「道路整備や商店街の振興、港の再開発など、この地域にはさまざまな課題があります。これらの地域課題を解決できなければ、結果的にケーブルテレビ事業の継続も困難になります。当社では、社員一同がこれら課題に向き合い、地域の方々が中央通りやその周辺で常に喜んで過ごしている姿を目指し、取り組んでいます」((株)シー・ティー・ワイ 営業部 次長 山本龍太郎氏)。

地域課題の一つが、近鉄四日市駅とJR四日市駅との間の約1kmの区間での、賑わいの創出だ。その解決策の一つとしてMaaSの活用が検討されている。ここで期待されているのは、単なる移動手段としてのMaaSではなく、市民や来街者に街中を回遊してもらうことを目的とした“四日市版MaaS”であり、その構想について協議している。
スマートシティではAIカメラなどで来街者の人流データを取得し、街づくりやイベント誘致など街の賑わいの創出に役立てることが目指されている。この人流データはオープンデータとして提供されており、地元の事業者が閲覧・活用できるようになっている。人流データなどは“四日市版MaaS”にも活用できそうだ。

スマートポール(AIカメラ・環境センサー・Wi-Fi)
両駅間には複数の商店街があり、それぞれが振興策の必要性を認識し、商店街同士が連携して検討を始めている。若い店主が多い商店街では、毎月イベントを開催するなど外部からの集客を意識した取り組みが進められている。CTYは人流データの収集などでも協力している。若年層のスマートシティへの関心を高めることで、こうした若い世代の動きを喚起できるのではと期待が高まっている。
スマートシティのエリア内では、再開発された公園、円形デッキ、バスタ四日市といった、賑わいを創出できる空間が整備されつつある。これらの施設や空間を活用して大規模イベントから日常的に開催される催しなどが継続的に行われ、街に人を誘引する施策や街中で活動する人たちを募るなどの実証実験を重ねながら検討している。
地域課題に対応したサービス提供
大規模災害も四日市市の重要な地域課題だ。同市は南海トラフ地震により最大2mの浸水が予測されている。この地域は過去に伊勢湾台風でも大きな被害を受けた。中央通り一帯は風水害により最大5mの浸水も想定されている。「これらの災害に対して、CTYは得意な通信分野のインフラや技術、知見、経験を活かしていきたいと考えています。災害時にはいかに迅速に情報を伝えるかが重要です。そこで、スマートシティの一環として街中に設置されるデジタルサイネージでの情報表示を進めています」(山本次長)。
サイネージは中央通りをはじめ、商店街などさまざまな場所に設置される予定だ。災害発生時には同社が運営しているコミュニティチャンネル、コミュニティFMのほか 、サイネージなどさまざまな手段を活用してLアラートやJアラートと連携し、中央通りや商店街などにいる人たちにも避難を促していく。CTYはLアラートやJアラートを受信した際に、街中のサイネージが自動的に災害情報へ切り替わる仕組みを実験している。LアラートやJアラートとの連携機能のサイネージへの実装は、今年度中を予定している。

デジタルサイネージを使った災害時の情報連携実験の様子
さらに、スマート化を活用したまちづくりをテーマにして、高校生、大学生、商店街関係者、近隣企業などが参加したワークショップやアイデアソンが実施された。昨年は、そこで出たアイデアを具体化する「まちづくりハッカソン」を開催し、CTYもその取り組みを支援した。
近鉄四日市駅とJR四日市駅の間の地域に賑わいを創出したり、南海トラフ地震や高潮といった災害への減災に取り組むなど、地域課題をスマートシティで解決しようとするCTYの挑戦は、地域の実情を深く理解している地元ケーブルテレビならではの強みを活かした取り組みの好例だ。
地元ケーブルテレビだから可能なスマートシティとの関わり方として、「長期的な参画」にも注目したい。「当社は新設される『バスタ四日市』において、国土交通省から委託される施設運営事業者にも構成員としても参画しています。当社には情報発信などの分野での役割が期待されています。当社は単なる施設の保守運営にとどまらず、地域貢献としてさまざまな取り組みに関わっていきたいと考えています。中央通りでは、単なる道路のインフラ工事で終わらないよう中央通り全体をマネジメントする検討も進んでいます。当社も長期的な視点でまちづくりに関与する計画を描いています」(安達取締役)。
四日市市におけるスマートシティの取り組みは海外からも注目されており、一昨年には台湾から視察団が四日市市を訪れている。これを受け、CTYも先日台湾を訪問し、現地の取り組みを視察した。地域課題の解決手段として長期的な視点でスマートシティに取り組むCTYの役割は、視察を通じて海外にも伝わっているはずだ。日本のケーブルテレビの取り組みが、各国のスマートシティの構築・運営に活かされようとしている。
自治体・ケーブルテレビ連携のイベント「ケーブル技術ショー2025」
本連載の地域DX事例のキーパーソンが結集するシンポジウムも開催
ケーブルテレビ業界で国内最大の展示会「ケーブル技術ショー2025」が、「自治体+ケーブルテレビ」のイベントに進化して2025年7月に都内で開催される。近年、自治体が地域DXのインフラ構築や運営などの業務を地元ケーブルテレビ事業者に委託する成功事例が全国で増えている。ケーブルテレビ業界でも、地域DX事業への取り組みに業界を挙げて力を入れている。
このような動向を受けて、今年のケーブル技術ショーは自治体関係者向けの展示やセミナー、ケーブルテレビ事業者と自治体の来場者、出展者が意見交換や交流を深めるための交流イベントなどを大幅に強化する。
ケーブル技術ショーでは、本連載でレポートする自治体・ケーブルテレビ連携による地域DXのキーパーソンたちも会場に結集。シンポジウムやセミナーで、より詳しい情報を話したり、聴講者からの質問に直接答えたりする。交流イベントで情報交換もできる。
※本連載、ケーブル技術ショー2025の自治体・ケーブルテレビ連携に関する主催者展示、シンポジウム、セミナーの企画は、一般社団法人日本ケーブルテレビ連盟の「地域ビジネス推進タスクフォース」のご協力をいただきながら実施します。
●「ケーブル技術ショー2025」の概要
開催日 | 2025年7月24日(木)・25日(金) |
会場 | 東京国際フォーラム |
主催 | (一社)日本ケーブルテレビ連盟、(一社)日本CATV 技術協会、(一社)衛星放送協会 |
参加料金 | 無料※(事前登録制) |
※「ケーブルコンベンション2025」も同会期・同会場において開催されます。

設立 | 1975年7月1日 |
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代表者名 | 理事長 中村 俊一 |
本社所在地 | 〒160-0022 |
事業内容 | 各地の自治体は「デジタル田園都市国家構想交付金」や「地方創生推進交付金」などを活用し、地域の活性化や持続化可能な地域社会の創生を目的にICTサービスの導入によるさまざまなDX改革を進めています。 地方公共団体と繋がりが深いケーブルテレビは、地域密着の情報通信インフラとして、あるいは地域に根差した事業者として、地方公共団体や民間企業と連携し、自治体DXや地方共創、スマートシティの取り組みなどを積極的に進めています。 ケーブル技術ショー2025では、地域課題解決に向け地方公共団体やケーブルテレビ事業者を集め、ソリューションやノウハウなどの解決策の提供に加えビジネスマッチングを開催いたします。 |
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