高速ネット回線・校内LANの技術だけでなく工事業者組織や一元管理などの強みを発揮

自治体が地域DXプロジェクトを実施するパートナーとして、地元のケーブルテレビ事業者と連携する事例が全国で増えている。情報通信の技術力やノウハウを持ち、地域密着で事業を展開しているケーブルテレビ事業者は、地域DXの連携相手として最適だ。「自治体×ケーブルテレビ連携」による地域DXは自治体や地域住民にとって、どのようなメリットをもたらしているのか、全国の主要事例を取材したレポート記事を8回にわたり連載する(7/24(木)~25(金)開催の「ケーブル技術ショー2025」では、この連載でレポートする事例など、各地で進められている「自治体×ケーブルテレビ」の連携事例について、シンポジウムや展示等で詳しく紹介する)。
連載6回目の今回取材した大分ケーブルテレコム(株)(大分・大分市、荒木節夫社長)は、大分市など大分県内3市で、GIGAスクールのインターネット回線、校内LANを提供している。今後、デジタル教科書や動画教材の利用が増えてもスムーズに使用できる高速回線、児童・生徒の学習を中断させない冗長構成や障害からの短時間での復旧、短期間での工事など、同社の技術力、工事業者をまとめている組織力が活かされている事例だ。GIGAスクールにおけるケーブルテレビ事業者の強みをレポートする。
(取材・文:『月刊B-maga』編集部・渡辺 元)
大分市では小中学校83校のネット回線と校内LANを運用・保守

大分ケーブルテレコム(株)は、大分県内18の自治体のうち、大分市、国東市、豊後大野市の3自治体にGIGAスクールのインターネット回線の提供と設備の運用・保守を行なっている。GIGAスクールの設備は、インターネット回線、校内LAN、タブレットなどの端末の3つに大別される。このうち、大分市ではインターネット回線と校内LANの運用・保守を、国東市と豊後大野市ではインターネット回線を提供している。
同社へ大分市側からGIGAスクールへの対応について話があったのは2020年5月。同市のGIGAスクールは、文部科学省の補助金の期限である2020年度末までに導入を完了しなければならず、以前から同市の校務系インターネット回線を提供していた同社にも話が持ち掛けられた。
同社が当時考えた最大の課題は、83校ある市内の小中学校で、3月末までに全工事を完了させる必要があったことだ。「特に、安全性が重視される現在では、生徒がいる日中の作業が困難であり、限られた期間でいかに工事を完了させるかが課題と考えました。当社は5月から準備を開始し、公告に至るまで何度も施工体制の検討を行いました。10月に公告され、入札自体は無事落札できたものの、契約から工事開始までの期間は2~3カ月しかなく、単純計算では1日1校のペースで工事を完成させなければなりません。資材調達も必要です。この厳しい条件の中で体制構築が急務となりました」(大分ケーブルテレコム(株) 営業本部 副本部長 加藤陽生氏)。
校内LANについては、建設業の許可を有する会社でなければ工事を受注することができない案件だが、同社は一般建設業の許可を保有し、県内の公共工事への実績もあったため、地元の工事会社との関係を活かして、まず作業員の確保に着手した。また、83校の工事は一般建設業では対応できないことを踏まえ、特定建設業の許可を持つグループ会社のジェイコム大分エンジニアリング(株)を元請とする施工体制を整備した。応札はジェイコム大分エンジニアリングが行い、全体のマネジメントは大分ケーブルテレコムが担当した。
校内LAN整備の工事業者が不足する中、電気店など約250社の代理店網を活用
当時、文部科学省の主導のもと全国でGIGAスクールの工事が一斉に進められており、校内LAN整備の工事業者が極端に不足している中で、特に同市の案件は規模が大きく、大手通信会社を含めて対応できる業者が少ない状況になっていた。そんな中、なぜ大分ケーブルテレコムがこの案件を受注できたかというと、地元内外の電気工事会社との関係だけでなく、同社が電気店など約250社を代理店として抱える代理店制度を持っていたことも、受注に向けて本格的に動く大きな原動力となった。「もちろんこれらの電気店すべてが校内LAN工事に対応できるわけではありませんが、中には建設業の許可を持ち、対応可能な電気店も多数存在しました。入札前の段階で受注できるか不透明な中で、仮に受注できた場合は、工事の主体は電気工事会社が担う必要があるものの、こうした代理店網のリソースを活用できる点が、当社の大きな強みであり、短期間で工事を完了させるには有利に働くと考えました」(加藤副本部長)。
ケーブルテレビ事業者としての強みは地域密着性にもあり、NTTや電力系通信会社には難しい自治体との密接な連携や協働も可能だ。「例えば、充電保管庫の鍵が開かないといった小さなトラブルにも迅速に対応できる点は、ケーブルテレビ事業者ならではの利点であり、多忙な自治体職員の方にとっても、非常に便利な事業者だと思います」(加藤副本部長)。
2022年度には国東市内11校のインターネット回線も大分ケーブルテレコムの回線へ切り替えた。豊後大野市でも、市内13校のインターネット回線を同社のものに切り替えた。両市は各校ごとに直接インターネットに接続する方式と、市内のイントラネットを経由して接続する方式で、ファイアウォールの構成も含めた独自のネットワーク構成となっているが、同社はそれにも対応した。
電子教材の一斉使用にも耐えられる5Gbps・10Gbpsの回線を提供

■大分ケーブルテレコムによる大規模校のネットワーク構成のモデル案(回線・幹線10Gbps対応)
(出典:大分ケーブルテレコム(株))

大分市のネットワークプラットフォームにはシスコシステムズ「Cisco Meraki」が採用された。写真は保守用ダッシュボードの画面
大分ケーブルテレコムは各自治体との交流の中で、「GIGAスクールのインターネット回線が遅く、授業での活用が難しい」といった課題を聞き、それに対応できる回線を提供している。現在のGIGAスクールでは5Gbps、10Gbpsが求められている。大分市内には1,000人以上の児童生徒が在籍する学校もあり、全児童生徒が同時にインターネットを使用するような状況では、1Gbpsでは明らかに不足だ。「そのため、電子教科書や動画活用を見越し、児童生徒数に応じて5Gbpsまたは10Gbpsの回線を提供しています。現在、実際の授業では、快適に使用できているという評価をいただいています」(加藤副本部長)。同社のインターネット回線が各自治体から採用された理由として、10Gbpsなど高速回線にも対応できることがあるようだ。
同社が提供するG I G Aスクール用のインターネット回線は、サブセンターまでは冗長構成を採用しており、保守を行うジェイコム大分エンジニアリング自体が内製で工事を行うことができる。それでも障害が発生した場合には、「GIGAスクールにおける通信障害は児童生徒の学習を損なうものであり、長期間にわたる障害は学力格差や児童生徒の将来への影響にもつながるため、迅速な復旧が極めて重要です」(加藤副本部長)。
同社が大分市で行なっているように、インターネット回線と校内LANの両方を同社が一元管理している体制は、障害時の早期復旧に欠かせない。「障害発生時には、当社は各校に設置された端末を通じて、障害箇所が幹線設備、引込設備、あるいは校内設備かを即座に判別します。幹線側の障害であれば、幹線専任の班が即座に対応し、校内側であれば、現地に駆けつける対応班を派遣します」(加藤副本部長)。幹線側の作業とLAN側の作業ではノウハウが異なるため、障害の種類に対応した専門性を持つ適切な人員を早期にアサインすることが求められる。この点においても、インターネット回線と校内LANを一元管理することで、迅速かつ的確な対応が可能な、ケーブルテレビ事業者ならではの強みが発揮されている。
郷土教育の教材提供にも事業拡大を構想
大分ケーブルテレコムの今後の構想としては、現在同社は県内18市町村のうち、10市町でインターネットサービスを展開しているが、GIGAスクールに関してはインターネット回線は3市、校内LANは1市での提供にとどまっているため、この10市町すべてにインターネット回線と校内LANの提供を拡大していきたいと考えている。
また同社は今後、インターネット回線と校内LANだけでなく、教材の提供にもGIGAスクール事業を拡大させたいと構想している。「例えば、全国共通の教材による授業のほかに、週に1~2時間、地元を題材にした授業を学校やケーブルテレビ事業者などが連携して実施することが可能ではないでしょうか。これは地方創生にもつながる取り組みと考えています」(加藤副本部長)。
現在はGIGAスクールに対応するための高速通信回線の提供が主軸だが、「今後はその回線をどのように利活用していくかが重要です。地域密着型のケーブルテレビ事業者として、地元に密着した内容を取り入れた授業を通じて、子どもたちの地元への関心を高める取り組みができないかと考えています」(加藤副本部長)。このような郷土教育は、将来的に子どもたちがUターンして地元に戻り定住するきっかけとなり、人口減少対策としての効果も期待できる。大分ケーブルテレコムは地元情報を豊富に保有しており、コミュニティチャンネル番組などの映像素材を教材として活用できる点も強みだ。
大分県では地域の子供たちの将来、そして地域社会の将来にもつながるGIGAスクールの取り組みでも、ケーブルテレビ事業者の力が活用されている。
自治体・ケーブルテレビ連携のイベント「ケーブル技術ショー2025」
本連載の地域DX事例のキーパーソンが結集するシンポジウムも開催
ケーブルテレビ業界で国内最大の展示会「ケーブル技術ショー2025」が、「自治体+ケーブルテレビ」のイベントに進化して2025年7月に都内で開催される。近年、自治体が地域DXのインフラ構築や運営などの業務を地元ケーブルテレビ事業者に委託する成功事例が全国で増えている。ケーブルテレビ業界でも、地域DX事業への取り組みに業界を挙げて力を入れている。
このような動向を受けて、今年のケーブル技術ショーは自治体関係者向けの展示やセミナー、ケーブルテレビ事業者と自治体の来場者、出展者が意見交換や交流を深めるための交流イベントなどを大幅に強化する。
ケーブル技術ショーでは、本連載でレポートする自治体・ケーブルテレビ連携による地域DXのキーパーソンたちも会場に結集。シンポジウムやセミナーで、より詳しい情報を話したり、聴講者からの質問に直接答えたりする。交流イベントで情報交換もできる。
※本連載、ケーブル技術ショー2025の自治体・ケーブルテレビ連携に関する主催者展示、シンポジウム、セミナーの企画は、一般社団法人日本ケーブルテレビ連盟の「地域ビジネス推進タスクフォース」のご協力をいただきながら実施します。
●「ケーブル技術ショー2025」の概要
開催日 | 2025年7月24日(木)・25日(金) |
会場 | 東京国際フォーラム |
主催 | (一社)日本ケーブルテレビ連盟、(一社)日本CATV 技術協会、(一社)衛星放送協会 |
参加料金 | 無料※(事前登録制) |
※「ケーブルコンベンション2025」も同会期・同会場において開催されます。

設立 | 1975年7月1日 |
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代表者名 | 理事長 中村 俊一 |
本社所在地 | 〒160-0022 |
事業内容 | 各地の自治体は「デジタル田園都市国家構想交付金」や「地方創生推進交付金」などを活用し、地域の活性化や持続化可能な地域社会の創生を目的にICTサービスの導入によるさまざまなDX改革を進めています。 地方公共団体と繋がりが深いケーブルテレビは、地域密着の情報通信インフラとして、あるいは地域に根差した事業者として、地方公共団体や民間企業と連携し、自治体DXや地方共創、スマートシティの取り組みなどを積極的に進めています。 ケーブル技術ショー2025では、地域課題解決に向け地方公共団体やケーブルテレビ事業者を集め、ソリューションやノウハウなどの解決策の提供に加えビジネスマッチングを開催いたします。 |
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