自治体との間で築いた信頼関係を活かし 戦略的に大手やコンサルの補助役を担う

自治体が地域DXプロジェクトを実施するパートナーとして、地元のケーブルテレビ事業者と連携する事例が全国で増えている。情報通信の技術力やノウハウを持ち、地域密着で事業を展開しているケーブルテレビ事業者は、地域DXの連携相手として最適だ。「自治体×ケーブルテレビ連携」による地域DXは自治体や地域住民にとって、どのようなメリットをもたらしているのか、全国の主要事例を取材したレポート記事を8回にわたり連載する(7/24(木)~25(金)開催の「ケーブル技術ショー2025」では、この連載でレポートする事例など、各地で進められている「自治体×ケーブルテレビ」の連携事例について、シンポジウムや展示等で詳しく紹介する)。
連載8回目の今回焦点を当てるのは、となみ衛星通信テレビ(株)(TST、富山・南砺市、宅見公志社長)。同社は約15年前から自治体向けに高齢者支援、子育て支援、防災、教育、地域経済活性化、などさまざまなDXサービスを提供している。同社は豊富なB to Gの経験を踏まえ、継続可能にサービスを自治体に提供し続けていくために、あえて事業の主体になるのではなく、大手事業者やコンサルの補助役を担うことで、ケーブルテレビ事業者の強みをより発揮できると考えている。地域課題を抱える自治体や現在B to Gを実施しているケーブルテレビ事業者、これからB to Gに注力していく事業者に向けて、これまでの実績に裏打ちされた考えを同社の宅見公志社長に聞く。
(取材・文:『月刊B-maga』編集部・渡辺 元)
地域課題解決に取り組み、自治体からの信頼を確立
となみ衛星通信テレビ(株)(TST)ではコロナ禍後、5GやAIなどさまざまな技術の進展や、国がデジタルを活用した地方創生を推進するという流れもあり、総務省や公共団体の補助事業・実証事業に参画し、地域社会の課題解決や維持・発展にチャレンジしてきた。だが「実証で終わるものも多く、利用者のニーズにマッチし、お金を払ってでも使い続けていただけるような商用サービスにまでなかなか発展させられませんでした」(となみ衛星通信テレビ(株) 代表取締役社長 宅見公志氏)。このように、うまくいかなかった事例がたくさんあることにより、これまでの取り組みが「失敗」であったかというと、「まったくそうではなく、TSTは自治体との間に、営利だけを目的とせず地域課題解決のために一生懸命汗をかき一緒に動いてくれる会社、というイメージや信頼関係ができたと考えます」(宅見社長)。

このイメージや信頼関係はコロナ禍後に短期間でできたわけではなく、同社のこれまでの長年にわたる取り組みの結果だ。同社の自治体を相手にした取り組みの歴史を振り返ってみよう。
約15年前、同社は自治体向けにサービスを提供し始めた。イントラネットの通信回線や公共施設での無料Wi-Fiなどさまざまなサービスを提供した。10年くらい前には、事業内容がさらに拡大し、マイナンバーカードを活用した電子版母子手帳のテレビでの閲覧を可能にするサービス、タブレットを使った高齢者見守り支援事業など、自治体と一緒になった地域住民向けサービスを開始した。「ケーブルテレビ with 自治体の形で、高齢者支援、子育て支援、防災、教育、地域経済活性化など、その後DXと言われるような数々の取り組みを多数実施してきました」(宅見社長)。

となみ衛星通信テレビのこれからのB to G事業の基本姿勢
継続可能なサービスを提供するための自社の最適な位置づけ
転機になったのはコロナ禍だ。この時期に、公共でも民間でも困っていることを地元ケーブルテレビ事業者である同社が、デジタルや通信を活用して解決する手伝いをしたり解決主体になる、という大きな流れができあがった。「当社が通信サービスに関して在宅特需による恩恵を受ける中、地域のさまざまな分野の方が困っているときに、我々だけが良い思いをすることはあってはならない、という信念のようなものが根底にありました。特に現在に至るこの3~4年間は非常に重要な期間であり、『ありとあらゆるお困りごとを解決するお手伝いをする』という会社方針がより明確になりました」(宅見社長)。リスクが大きくなく、手間がそれほどかからないことであれば、ほぼボランティアでの対応もしてきた。
このようにして自治体との間で築いた信頼関係が、これからのB to G事業でとても重要になる。さらに同社はこれまでの経験から、B to G事業における自社の位置づけも変える方針だ。同社の現在の重要な基本姿勢としては、すべてのB to G事業で主体者になるのではなく、案件や中身に応じて、大手事業者やコンサルの補助役を担っていく、というものに変化した。ケーブルテレビ事業者としての自社の強みを活かし、B to G事業の取り組みが成功に繋がるよう、事業の主体者になったり補助役になったりと自社の位置づけを柔軟に最適化していくのだ。「総務省さんの大型実証事業案件に我々が主体(プライム) として取り組むことはここ1、2年考えておらず、インテックさん、電通さんなどとも我々の強みをうまく提供する体制をとっていきます。それが結果的に、継続可能なサービスを生み出していくことになると考えています」(宅見社長)。
少子高齢化・世帯数減の加速により、今後は公共も民間ともに事業継続がますます難しくなる。これは同社が事業展開している富山県だけでなく、全国の多くの自治体でも同様な状況になるだろう。このような状況においてケーブルテレビ事業者は自治体や地域に対してどのように貢献していけばいいのか。宅見社長はこう語る。「toC、toB、toGのすべての事業領域に関わることができるケーブルテレビは、地域、町、団体・企業、個人が何かに困っていたり、何かにチャレンジしようとしていたり、発展しようとしている際に、通信・デジタルと自社人財をフル活用し、少しでもみなさんが幸せになりそれが維持できるようにお手伝いしていくことが大事だと考えています」。
自治体・ケーブルテレビ連携のイベント「ケーブル技術ショー2025」
本連載の地域DX事例のキーパーソンが結集するシンポジウムも開催
ケーブルテレビ業界で国内最大の展示会「ケーブル技術ショー2025」が、「自治体+ケーブルテレビ」のイベントに進化して2025年7月に都内で開催される。近年、自治体が地域DXのインフラ構築や運営などの業務を地元ケーブルテレビ事業者に委託する成功事例が全国で増えている。ケーブルテレビ業界でも、地域DX事業への取り組みに業界を挙げて力を入れている。
このような動向を受けて、今年のケーブル技術ショーは自治体関係者向けの展示やセミナー、ケーブルテレビ事業者と自治体の来場者、出展者が意見交換や交流を深めるための交流イベントなどを大幅に強化する。
ケーブル技術ショーでは、本連載でレポートする自治体・ケーブルテレビ連携による地域DXのキーパーソンたちも会場に結集。シンポジウムやセミナーで、より詳しい情報を話したり、聴講者からの質問に直接答えたりする。交流イベントで情報交換もできる。
※本連載、ケーブル技術ショー2025の自治体・ケーブルテレビ連携に関する主催者展示、シンポジウム、セミナーの企画は、一般社団法人日本ケーブルテレビ連盟の「地域ビジネス推進タスクフォース」のご協力をいただきながら実施します。
●「ケーブル技術ショー2025」の概要
開催日 | 2025年7月24日(木)・25日(金) |
会場 | 東京国際フォーラム |
主催 | (一社)日本ケーブルテレビ連盟、(一社)日本CATV 技術協会、(一社)衛星放送協会 |
参加料金 | 無料※(事前登録制) |
※「ケーブルコンベンション2025」も同会期・同会場において開催されます。

設立 | 1975年7月1日 |
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代表者名 | 理事長 中村 俊一 |
本社所在地 | 〒160-0022 |
事業内容 | 各地の自治体は「デジタル田園都市国家構想交付金」や「地方創生推進交付金」などを活用し、地域の活性化や持続化可能な地域社会の創生を目的にICTサービスの導入によるさまざまなDX改革を進めています。 地方公共団体と繋がりが深いケーブルテレビは、地域密着の情報通信インフラとして、あるいは地域に根差した事業者として、地方公共団体や民間企業と連携し、自治体DXや地方共創、スマートシティの取り組みなどを積極的に進めています。 ケーブル技術ショー2025では、地域課題解決に向け地方公共団体やケーブルテレビ事業者を集め、ソリューションやノウハウなどの解決策の提供に加えビジネスマッチングを開催いたします。 |
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