

※下記は自治体通信 Vol.70(2025年11月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
医療・介護・福祉など、地域包括ケアに関する情報は、住民が支援を受けるうえで欠かせない基盤となる。しかし、分野ごとに担当課が分かれる自治体では、最新の情報を迅速かつわかりやすく発信するのが難しい。そうしたなか、新宿区(東京都)は情報を一元的に管理・発信できる仕組みを整え、庁内外の連携と住民サービスの向上を実現したという。取り組みの詳細を同区担当部門の3人に聞いた。



施策の情報が各課に分散し、住民は全体像が見えにくい
―新宿区では、どのような方針で地域包括ケア体制に関する情報発信を行っていますか。
広瀬 まず、鮮度の高い情報を届けることです。地域包括ケアの現場では情報の鮮度が支援の質に直結するため、区民や医療・介護関係者がいつでも最新情報にアクセスできる状態を目指してきました。もう1つは、わかりやすさです。必要な支援を誰もが迷わず見つけられることが重要です。しかし、介護保険制度や医療、通いの場、障害福祉などかかわる分野が広がるにつれ、そうした理想的な情報発信には課題も見えてきました。
―どのような課題ですか。
広瀬 「通いの場」は地域包括ケア推進課や社会福祉協議会、「医療」は健康政策課など、情報が部署ごとに分散し、問い合わせのたびに担当課へ確認する必要がありました。こうした体制のもとでは情報の更新や共有にも時間がかかり、結果として、情報を最新の状態に保つのが難しい状況でした。
白井 縦割り型の体制は、区民や事業者が必要な情報にたどり着くうえでの障壁にもなっていました。たとえば、健康部や地域包括ケア推進課ではそれぞれ異なる体操プログラムを展開していますが、区民には全体像が見えにくい状況でした。こうした課題を受け、地域包括ケア推進課を中心に情報の管理と発信の一元化に向けた検討が始まり、健康部も連携して取り組みを進めました。
蓄積した情報を集約し、検索機能つきで公開
―具体的に、どういった検討を行ったのですか。
広瀬 複数の部署や機関が同じデータベースを共有し、即時に地域包括ケアの情報を更新・発信できるデジタルツールの導入を目指しました。紙媒体と違って情報量の制約がなく、区民を中心とする生活支援体制整備協議会からも「地域資源情報を検索できる仕組みが必要」との要望があり、検討が加速しました。そこで、令和3年度にプロポーザルを実施し、蓄積した情報を検索機能つきで一般公開できる社会資源情報共有ツール『けあプロ・navi』を採用しました。
―選定の決め手となったポイントはなんですか。
袴田 まず、介護保険サービスや医療機関、通いの場・サロンといった、地域包括ケアに関する多様な情報をテンプレートとして組み込める柔軟性です。また、すでに当区の介護保険課で長年使われていた実績があり、信頼性が高かったことも評価につながりました。多くの自治体で導入されているため、区外の事業所のデータを自動で反映できる点も有用でした。こうした点を踏まえ、当区では令和3年度末から、『けあプロ・navi』を基盤としたサイト「さがせーる新宿」を公開しました。

関係者の普段使いが定着し、事業者間の連携も促進
―導入成果はいかがですか。
袴田 期待通り、各課や社会福祉協議会が共通のツールを使うことで、医療・介護・通いの場など分散していた情報を一元化し、最新情報を即時に共有できるようになりました。情報更新も一度の入力で済み、二重登録や更新漏れが解消されたうえ、事業者自身がオンラインで更新できる仕組みにより、職員や関係機関の間の情報のズレや混乱が大幅に減りました。
広瀬 情報のわかりやすさも向上しました。地図上から施設を探せるようになり、駅やエリア、ランドマークなど土地勘に従って検索できます。医療・介護・通いの場を横断して一覧でき、目的に応じて比較もしやすくなりました。さらに、こうした仕組みは対外的な発信だけでなく、庁内や関係機関との連携強化にも役立っています。
―詳しく聞かせてください。
広瀬 関係者向けサイトでは、トーテックアメニティの「情報センター」が厚生労働省や東京都の最新情報を掲載しており、職員はアクセスするだけで確認できます。各課が内容を整理してサイトに反映する流れも確立し、掲示板機能により庁内や関係機関への共有も迅速化しました。
袴田 健康政策課では掲示板機能を活用し、訪問看護ステーションの災害時情報伝達訓練をオンラインで実施。安否確認などをリアルタイムで共有できる体制が整い、定期訓練を通じてログインの習慣も定着しました。登録率は約87%に達しています。
―庁外でも、活用が広まっているのですね。
白井 ええ。掲示板などでは、事業者同士が自主的に研修やイベント情報を共有するようになっています。たとえば、ある病院が主催する「がんサロン」や健康イベントについて、区がお知らせ機能を使ってほかの病院に周知し、広く参加者を募るといった連携が生まれています。行政主導ではなく、民間事業者発信による協働が進んだことで、区民も有益な社会資源が見つけやすくなりました。

ツール活用と定例会の対話が、庁内で協働の風土を醸成
―関係者が増えるなか、どのように連携や調整を図っていますか。
広瀬 トーテックアメニティの伴走のもと、月1回の定例会を開いています。区の関係各課、社会福祉協議会、同社の営業担当・エンジニアが参加し、各課の「アクションプラン」に沿ってサイト改善や活用促進を協議しています。たとえば、庁内外の利用者拡大を目指し、研修を通じて職員の利用定着を図るほか、庁外の団体にも活用を広げています。サイトの見やすさや検索性の向上、掲載内容の拡充にも取り組んでいます。トーテックアメニティからは、他自治体の活用事例や改善提案も紹介してもらっており、たとえば、「高齢者向け交流・憩いの場」ページの新設は、区の提案により、同社と打ち合わせを重ねた結果、実現したものです。
―今後の活用方針を聞かせてください。
広瀬 令和6年度には、「障害福祉」情報を新たに追加しました。今後は区民のニーズがさらに多様化していくでしょう。情報が増えるほど、わかりやすく最新の状態で発信することが重要になります。その実現に向け、トーテックアメニティの専門的な支援に引き続き期待しています。
袴田 最終的には、「地域包括ケアの情報といえば、『さがせーる新宿』」と言われる存在を目指しています。単なる利便性の向上ではなく、地域の支え合いを育てるインフラにしていきたいです。
白井 「さがせーる新宿」と定例会を通じて、縦割りだった部門の間に「困ったら相談できる関係」が生まれました。情報共有を重ねるなかで、部門を越えた協働の風土が育まれてきたことが、なによりの成果だと思います。

ここまでは、情報共有ツールの活用によって、地域包括ケアをめぐる複数の部署や組織の間の情報発信を効率化した新宿区の取り組みを紹介した。ここでは、同区を支援したトーテックアメニティの担当者2人に取材。情報の管理・発信を、地域における支援体制の充実につなげるポイントについて聞いた。


部署間連携が求められるなか、情報管理は負担の増大要因に
―地域包括ケアに関する情報発信で自治体が抱える課題はなんでしょう。
湯本 介護保険や医療などの担当各課が個別に情報を管理しており、庁内の情報共有が滞ってしまうことです。住民や事業者からの問い合わせに対し、必要な情報を得るには他課への確認が必要になるため、双方の負担が増えてしまうのです。さらに、Webサイトや紙媒体における情報発信では、情報の更新が年1回程度と少なく、古い情報が放置されてしまうケースも少なくありません。地域包括ケアシステムの推進では多くの部署との連携が求められるなか、実務と並行して情報の更新作業を進めるのは難しく、職員の負担は増大しています。
―そうした課題はどのように解決すればよいでしょう。
湯本 ポイントは2つあります。1つは、「共通のプラットフォームを構築する」ことです。庁内外の関係者が同じ基盤で情報を共有できれば、縦割りを越えた連携が可能になります。もう1つは、「任せられる業務は任せる」こと。情報の更新や確認などは外部に委ね、職員が本来業務に集中できる環境を整えることが重要です。そこで当社では、この2つのポイントを押さえたソリューションの提供を通じ、自治体における地域包括ケアシステムの推進を支援しています。

鮮度の高い有益な情報が、関係者の普段使いを促す
―詳しく聞かせてください。
坂井 当社の『けあプロ・navi』は、地域包括ケアに特化した情報共有プラットフォームです。介護保険制度施行時の平成12年に誕生し、制度の変化に合わせて機能を拡充してきました。介護保険から医療、通いの場・サロンなど、異なる分野の情報を網羅的に管理・発信できる機能を備えています。事業者や区民など一般向けサイトの運営では当社の「情報センター」が情報を分野ごとに最適な頻度で更新し、つねに最新の状態を保ちます。職員が更新作業に追われることなく、正確で鮮度の高い情報発信を続けられるよう支援しています。
湯本 それに加えて「関係者専用サイト」も用意しており、お知らせや掲示板の機能を通じて、ケアマネジャーや包括支援センター、事業所などが連携できます。鮮度が高く有益な情報を集約することで、関係者の「普段使い」を促し、情報と支援が循環する地域づくりを支えます。
―自治体に対する今後の支援方針を聞かせてください。
坂井 20年以上のサービス提供で培ってきた知見とノウハウをもとに、各自治体の課題に合わせた伴走支援を強化します。たとえば、当社の営業担当とSEが参加する「定例会」では、アクセス状況の分析や改善提案を行い、『けあプロ・navi』の運用をサポートします。当社は情報センターとエンジニアを自社で抱える一社完結の体制で、迅速かつ柔軟な対応が可能です。
湯本 『けあプロ・navi』は現在、自治体が進めている重層的支援体制整備事業にも対応しており、障害や保育などの新しい分野にも拡張を進めています。自治体の「なにから始めてよいかわからない」という悩みに対しても、具体的な活用方法を提示し、現場で実践できる形に落とし込んでいきます。今後も、自治体と事業所、住民がつながる「支援者のための支援基盤」を広げ、地域包括ケアの推進に貢献します。ぜひ、お気軽にお問い合わせください。


| 設立 | 昭和46年5月 |
|---|---|
| 資本金 | 12億円(資本準備金含む) |
| 売上高 | 360億円(令和7年3月期) |
| 従業員数 | 3,032人(令和7年9月末現在) |
| 事業内容 | ITソリューション事業、エンジニアリングソリューション事業、検証ソリューション事業 |
| URL |





