※下記は自治体通信 Vol.50(2023年6月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
昨今、「8050問題*」に代表されるように、対応すべき福祉問題が複雑化していることを受け、国は令和3年度から「重層的支援体制整備事業*」の推進を自治体に求めている。そうしたなか、同事業を推進するにあたり、新たに「情報共有システム」の整備を進めているのが米子市(鳥取県)だ。同市担当者の松原氏に、情報共有システムを整備するに至った経緯や期待する効果などについて聞いた。
*8050問題 : 子どもの「ひきこもり」などが長期化し、「80」代の親が「50」代の子どもの生活を支えるといった問題のこと
*重層的支援体制整備事業 : 自治体による包括的な支援体制の円滑な構築・実践に向けて、社会福祉法に基づき令和3年4月から実施されている事業
[米子市] ■人口:14万5,581人(令和5年4月30日現在) ■世帯数:6万8,648世帯(令和5年4月30日現在) ■予算規模:1,084億5,810万円(令和5年度当初)
■面積:132.42km² ■概要:鳥取県の西部、山陰地方のほぼ中央に位置する。市の南東には中国地方最高峰の大山がそびえる。古くから地域の交通結節点であり、「山陰の商都」として栄えてきた。国内初のトライアスロン大会が昭和56年に市内の皆生温泉で開催され、「トライアスロン発祥の地」記念像が建てられている。
米子市
福祉保健部福祉政策課 課長補佐 兼 総合相談支援担当課長補佐 兼 総合相談支援センター長
松原 宏充まつばら ひろみつ
「紙」による情報共有には、限界があった
―米子市では、「重層的支援体制整備事業」への対応として、「情報共有システム」の整備を進めていると聞きます。
はい。近年、福祉行政は複雑化・複合化しており、従来のように「高齢者」「障がい者」など、分野ごとに縦割りの枠組みでは、対応が難しい状況です。そのため、当市では「重層的支援体制整備事業」の推進を通じ、各課が連携して支援していく体制の構築を目指しています。そこで、まずは窓口に来る相談者の情報を福祉に関係するすべての課で共有する仕組みが必要と考え、「つなぐシート」という用紙を独自につくりました。しかし、情報共有は想定通りにいかない部分もありました。
―それはなぜですか。
たとえば、相談者が親の健康問題で「健康対策課」を訪れ、担当職員が相談内容をヒアリングするなかで、子どものいじめの問題も発覚したとします。そうした場合、担当職員がその内容を「つなぐシート」に記入し、別の担当課へシートを渡して情報共有します。しかし、担当課や担当職員によって関心の対象や記載レベルにばらつきがあり、紙での連携ということも原因となって、迅速かつ的確に情報共有できないことが多くあったのです。そこで、もっと的確に情報共有できる仕組みを検討していたところ、アイネス社からシステムの提案を受けたのです。
―どのようなシステムですか。
システムでは、記載レベルにばらつきが生じないよう、各課でヒアリング項目などをすり合わせ、記載内容を事前にフォーマット化しています。たとえば、障がい者の相談内容の場合、必ず「障がい者手帳の有無」を聞く項目を設ける、高齢者の健康に関しては、具体的な病名や症状もヒアリングできるようにするといった形です。各課が専門的支援を検討する際に必要な情報を、的確に共有できるようにしたのです。
さらに、これらの相談に関する情報をベースとして、各課では相談者への支援方針などを詳細に決めていきますが、それらの情報も共有できるようにすることで、複数の課による包括的な支援も検討しやすくなるはずです。
生み出した「時間」を、「伴走型支援」にあてる
―今回のシステムを、今後の福祉政策にどう活かしていきますか。
今回のシステムでは、職員は共有された情報によって、窓口が変わっても相談内容を改めて聞く必要がなくなるため、業務効率化による「時間創出」の効果も期待できます。さらに、迅速かつ的確に情報共有を行えるようになったので、生み出された時間を活かし、重層的支援体制整備事業に資する「伴走型支援」を行っていきます。
実情に応じた支援に向けて大切な、汎用性の高いシステム選定
株式会社アイネス
営業本部 自治体DXソリューション部 部長
小西 勉こにし つとむ
昭和45年、神奈川県生まれ。大学卒業後、株式会社アイネスへ入社。自治体向け福祉業務システムの導入、開発に携わる。現在は、自治体DXの推進業務を担当。
―福祉に関する情報共有の推進について、検討している自治体は増えていますか。
いま多くの自治体で、その検討を進めています。と言いますのも、国が令和3年度から自治体に求めている「重層的支援体制整備事業」を推進するには、福祉や健康行政を担う部署間での情報共有が不可欠だと認識されているからです。
―どのように進めればいいのでしょう。
多くの自治体で運用されている「紙」による情報共有も考えられますが、情報共有を円滑に進めるにはシステム連携の仕組みが適していると思います。その際重要になるのは、「汎用性の高さ」と言えます。自治体によって、相談者からヒアリングする項目は必ずしも同じではありませんし、また、相談者の情報を部署間で共有する際も、個人情報保護の観点からどのレベルの項目まで共有するかを考えなければならないからです。その点当社の場合、福祉業務システムの導入、開発、運用で培ったノウハウにより、自治体の実情に応じて最適な支援を検討できる汎用性の高いシステムを提供できると自負しています。
―自治体に対する今後の支援方針を聞かせてください。
情報共有のシステム化を通じて、複雑かつ複合化している福祉課題の解決を支援します。また、システム化によって支援の内容や結果といった情報が蓄積されるため、効果的な福祉政策の立案に向けたEBPMも実現できると思います。自治体のみなさんと一緒に、地域共生社会の実現に貢献したいと考えています。