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先進事例2016.03.29

【郡山市】uni-voice(音声コード)の全庁実証実験を開始(実証実験の事例)

【郡山市】uni-voice(音声コード)の全庁実証実験を開始(実証実験の事例)

福島県郡山市 の取り組み

社会的弱者に想いを寄せた自治体運営が全体最適のまちづくりを可能にする

【郡山市】uni-voice(音声コード)の全庁実証実験を開始(実証実験の事例)

郡山市長 品川 萬里

郡山市(福島県)が全国初の実証実験を開始する。周知用一般印刷物に無償専用アプリをダウンロードしたスマホをかざせば自動で文章を読み上げてくれる音声コードUni-Voice(以下、Uni-Voice)の全庁導入実証実験だ。その内容や想いなどを市長の品川氏に聞いた。

※下記は自治体通信 Vol.4(2016年4月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

福島県郡山市データ

人口: 33万5,933人(平成28年1月1日現在) 世帯数: 13万8,492世帯(同)  予算規模: 2,420億1,794万円(平成27年度当初) 面積: 757.2k㎡km² 概要: 福島県の中央に位置し、東北地方で第3位の人口規模を誇る東北の拠点都市。今なお、東日本大震災や原子力災害が市民生活に影響を及ぼしているなか、B-1グランプリなど、復興イベントの開催や相次ぐ企業の進出など、復興に向け着実な歩みを進めている。一昨年には市制施行90周年の節目を迎えた。

■全国の実証実験の取組まとめはコチラ

自治体情報のユニバーサルデザイン化

―実証実験の開始に踏み切った理由を聞かせてください。

 障がい者の方が自立して生活を営める社会インフラ整備の一環として、自治体情報のユニバーサルデザイン化を進めるためです。

 きっかけは平成28年度から施行される障害者差別解消法。同法により行政窓口における視覚障がい者への読み上げ説明などが自治体に課せられます。しかし、年金関係など、自治体が住民に交付する文書には高度な個人情報にかかわるものが多く、不特定多数の人がいる窓口カウンターにおける職員の読み上げ説明はなじみません。そのため、読み上げ説明をしても個人情報が漏えいしないよう別室を用意して対応する自治体もあるようですね。一方で、その場合、いちいち別室に移動してもらう必要が生じ、視覚障がい者の方に余計な負担をかける恐れがあります。

 そこで、印刷媒体を視覚障がい者も健常者も等しく利用できる環境を整備するため、Uni-Voiceに着目しました。

―実証実験の目的を教えてください。

 将来的に全庁的な本格導入をにらみ、Uni-Voiceの特長や効果を確かめるためです。実施期間は平成28年4月から平成29年3月までの1年間。

 具体的には、Uni-Voiceを開発した「日本視覚障がい情報普及支援協会」(特定非営利活動法人)が視覚障がい者の方を対象に無料の読み取りアプリが入ったスマホを貸与し、市はUni-Voiceが印刷された印刷物を発行。利用者にはスマホを使っていただきます。

 また、「日本視覚障がい情報普及支援協会」は市に対して、テキストから音声コードに変換するソフトを無償提供。環境構築をサポートしてくれます。ですから、行政の導入コストは、きわめて低く抑えることができます。

 他の自治体を触発できるようなモデルケースを当市から発信したい、という想いもあります。大事なのは法的な義務感での対応ではなく、障がい者の想いを尊重した行政としての責任感と使命感。全職員が同じ気持ちで施策を講じていけるよう私が推進役となり、行政情報のユニバーサルデザイン化の輪を全国に広げたいですね。

ICTの本来の役割

―そうした想いが生まれたきっかけを教えてください。

 郵政省(現・総務省)の役人時代から「ICTの本来の役割とは、あらゆる人に幸福を届け、生活を便利にすることにほかならない」との想いを持っていました。

 ADSLによるインターネットへの接続サービスが開始された2000年頃、日本ではその経済的効用ばかりが注目されていましたが、英米では障がい者の方にとって住みよい社会を実現するためのICTのあり方が熱心に議論されていました。私もそう考えていたのです。郵政省放送行政局長時代には、その想いが信念に変わるできごともありました。

―どんな経験をしたのですか。

 地デジのPRのため、早稲田大学で講演をしたときのことです。ふと演壇から客席を見ると、ステージに背をむけて懸命に手話通訳している人や要約筆記をしている方がいました。デジタル放送では字幕を画面に出せたり、状況説明の副音声(解説放送)を放送できるようになるため、障がい者の方からとても期待されていたんですね。そうした方たちのためにも「地デジをやり遂げなければならない」との想いを強くしました。障がい者の方と健常者の間に情報格差があってはなりません。

 Uni-Voiceは、その隔たりを埋める有力で実効性のあるツールになりえます。今後もICTの活用で「住みよいまちづくり」「社会的弱者を大切にするまちづくり」を推進していきます。

「子本主義」と「五感行政」

―ICTを活用したまちづくりのビジョンを聞かせてください。

 「子本主義」に基づいた施策をさらに充実させます。

 この言葉が生まれたきっかけは、市長に就任する前、東日本大震災直後に被災者の方々が避難している学校の体育館などに通っていたとき。大人と違い、不便を強いられる生活に対して何も不平を言わない子どもたちの姿に心を揺さぶられました。何も言わないから、子どもに目が行き届かない。しかし、行政の役割とは本来、子どもに代表されるような社会的弱者の目線に立った施策を行うことではないか。そうすれば、誰もが住みよいまちづくりができるはずです。

 すべての市立小・中学校にタブレットを1学級分、配布したのも「子本主義」の実践。子どもたちこそが、未来を創る大切な資本なのです。

―今後の市政運営方針を教えてください。

 明治維新の元勲で、郡山の安積疏水の実現に尽力した大久保利通の理念「一利を興すは一害を除くに如かず」に習いたいですね。これは「新しいことを次々にやるよりも、阻害要因を取り除く方が、うまくいく」という意味です。

 当市の復興も道半ば。だからこそ、五感を働かせ、声なき声に想いを寄せ、市民の皆さんの幸せの実現を阻害しているものを取り除いていきたい。「五感行政」を研ぎ澄まし、市民のみなさんから少しでも「いいね!」と感じていただけるまちにしていきたいですね。

品川 萬里(しながわ まさと)プロフィール

昭和19年、福島県白河市出身。昭和42年に東京大学法学部を卒業し、郵政省(現・総務省)に入省。大臣官房審議官、貯金局長、放送行政局長、郵政審議官などを経て、平成12年に退官。株式会社NTTデータ代表取締役副社長、法政大学IT研究センター学術担当教授などを歴任。平成25年に無所属で郡山市長選挙に初当選し、現職。自治体スマホ連絡協議会監事。

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