カーボンニュートラルのまちづくり 自治体事例|スマートシティ+再エネの地産地消、ネットワーク型コンパクトシティ+再エネによる公共交通網の構築、《海外事例》エリア指定で熱供給接続を誘導

会津若松市、宇都宮市、デンマークのカーボンニュートラルのまちづくり自治体事例
近年、豪雨災害や記録的な猛暑など、気候変動に伴う自然災害の激甚化・頻発化が世界的な課題となっており、わが国においても2050年までにカーボンニュートラルを目指すことを宣言し、地域の取り組みを推進しています。
そのような中で、都市・地域構造や交通システムは中長期的にCO2排出量に影響を与え続けることから、都市分野においても脱炭素に資する都市・地域づくりが求められています。
そこで、都市行政においてカーボンニュートラルに向けた取り組みを一歩進めるための手引きとなることを目的に国土交通省 都市局 都市政策課 都市環境政策室が作成した「都市行政におけるカーボンニュートラルに向けた取組事例集(第2版)」より、地域脱炭素ロードマップの脱炭素先行地域の自治体事例のほか、海外事例も抜粋して紹介します。
今回は、会津若松市、宇都宮市、デンマークの首都・コペンハーゲン(リンビー・タールベック自治区「コンゲンス・リンビー地区」)のカーボンニュートラルのまちづくり自治体事例をお届けします。
スマートシティ+再エネの地産地消|会津若松市
福島県 会津若松市では、東日本大震災後、地域活性化に向けてスマートシティの取り組みが芽生え、平成25年より「スマートシティ会津若松」を推進しています。
平成29(2017)年策定の「第7次総合計画」の3テーマのひとつ“つなぎ続くまちへ”において「スマートシティ会津若松」を計画全体を貫くコンセプトとして位置づけました。
そして、スマートシティ会津若松を進める中で、脱炭素化への意識、ニーズが高まり、令和3年に「ゼロカーボンシティ会津若松宣言」を行い、脱炭素都市づくりへの取り組みが始まりました。

「ゼロカーボンシティ会津若松宣言」(左)と取り組み経過
今回のまちづくり①
「スマートシティ会津若松」からスタートした脱炭素化の取り組み
「スマートシティ会津若松」で取り組む16の分野のうち、エネルギー分野の取り組みの中で脱炭素化の実現を目指しています。
「スマートシティ会津若松」を推進する「AiCTコンソーシアム」では16分野ごとにWGを設置。エネルギー分野WGでは「再エネの地産地消」による脱炭素の実現を目指し、「会津エネルギーアライアンス」を構築しています。
「スマートシティ会津若松」が取り組む16の分野はヘルスケア、防災、データ利活用、ものづくり、エネルギー、教育、食・農業、地域活性化、観光、行政、決済、モビリティ、IoT/ネットワーク、サーキュラーエコノミー、API、コミュニケーション。それぞれにおいてデジタルサービスの実装を目指しており、各分野の取り組みが連携することにより、市民生活における多様な場面での利便性向上や付加価値創出を図るとしています。
エネルギー分野では、「再エネの地産地消」による脱炭素の実現を目指し、2020年から関連企業との連携のもと、取り組みを進めています。
今回のまちづくり②
会津エネルギーアライアンスの構築による再エネデータの活用
地域のエネルギーデータを集約する「会津エネルギーアライアンス」を設立し、公共施設だけでなく市民や事業者からもデータ提供を受けて再エネデータ基盤を構築するとともに、共有の蓄電池を保有することで地域全体の再生可能エネルギーを安定的に利用しやすくしているほか、地域で発電した再エネに対する「再エネ証明書」を発行することにより、再エネの地産地消を促進しています。
また、地域で発電した再エネに「会津産の再エネ」であることを市が認証した上で、電力系統経由で小売事業者を通じてユーザーに安定的な会津産再エネを提供しているほか、「会津産の再エネ」を利用したユーザーに対し、デジタル地域通貨(会津コイン)等によるインセンティブ付与を検討しています。

会津エネルギーアライアンスの枠組み(「会津エネルギーアライアンスの取り組み」https://www.city.aizuwakamatsu.fukushima.jp/docs/2023080700019/file_contents/02_araiansu.pdfより)
今回のまちづくり③
再エネ環境価値の地域内循環による地域活性化と地域ゼロカーボンの実現
太陽光発電した再エネを自家消費することによる環境価値をJクレジットに変換した上で、市内企業に売却することで環境価値の地産地消を実現。
環境価値の売却益をデータ連携基盤を通じて地域通貨で還元することにより、経済においても地域循環を目指しています。

環境価値の地域循環の流れ
取り組みの利点
- 安定的・安価な再エネ利用と、住み続けられる都市を構築
- エネルギー関連産業の集積、及び新たな雇用創出
- 系統制約下においても再エネの地産地消により、効率的に脱炭素化
ネットワーク型コンパクトシティ+再エネによる公共交通網の構築|宇都宮市
栃木県 宇都宮市では、都市拠点と地域拠点をコンパクトに配置し、階層性を持った公共交通ネットワークでつなぐことによる「ネットワーク型コンパクトシティ」の取り組みと併せて、脱炭素先行地域活用による再エネ供給等の取り組みにより、交通手段の脱炭素化の構築を進めています。
「第5次宇都宮市総合計画(平成20年3月)」にてネットワーク型コンパクトシティの推進を掲げ、平成25年3月からLRT(Light Rail Transitの略で、低床式車両の活用や軌道・電停の改良による乗降の容易性、定時性、速達性、快適性などの面で優れた特徴を有する軌道系交通システムのこと。道路交通を補完し、人と環境にやさしい公共交通として再評価されている)の導入に向けて検討を開始しました。
令和3年9月には「ゼロカーボンシティ宣言」を表明し、令和4年9月には「宇都宮市カーボンニュートラルロードマップ」を策定。脱炭素化に向け、市民・事業者・行政が一丸となった取り組みを推進しています。

宇都宮ライトレール(左)と取り組み経過
今回のまちづくり①
ネットワーク型コンパクトシティの取り組み
宇都宮市では、同市が将来にわたり持続的に発展していくため、都市空間そのもののあり方を見直し、公共投資と民間の経済活動を組み合わせた「ネットワーク型コンパクトシティ(連携・集約型都市)」を長期的に形成。ネットワーク型コンパクトシティの拠点形成に向け、拠点化の促進とネットワーク化の促進により、まちづくりと交通施策を一体的に進めています。
今回のまちづくり②
LRTの導入と合わせた公共交通の再編
LRTの導入とあわせて、LRTと運行経路が重複する既存のバス路線をLRTと接続する路線などに再配置することで、公共交通ネットワーク全体の充実を図ります。
今回のまちづくり③
エネルギー会社や交通会社との連携
宇都宮ライトパワーの取り組み
宇都宮市内で発電された再生可能エネルギーを宇都宮市内で地産地消することで、二酸化炭素排出量の削減と地域経済の活性化を図ることを目的に、宇都宮市と複数の民間企業が官民連携で設立した電気エネルギーの地域新電力事業者で宇都宮市内へ電気の供給をしている「宇都宮ライトパワー株式会社」は、環境省「地域脱炭素移行・再エネ推進交付金」を活用し、市内の再エネ電力を調達し、当該地域内に届ける(地産地消)ことで、CO2削減と地域経済の活性化を促進します。

関東自動車の取り組み
経済産業省「グリーンイノベーション基金事業」を活用し、電気バスの運行マネジメントシステムと電力の需給調整マネジメントシステムを連携させた「バスEMS」を構築しています。

EVバス(関東自動車)
関係者との連携体制
送配電事業者である東京電力パワーグリッドとの系統連係により、宇都宮ライトパワーが再エネ電力の調達・需要家への供給など再エネ電力の地産地消を行います。

宇都宮ライトパワーのサイト(https://www.miya-lightpower.co.jp/)
今回のまちづくり④
再エネ環境価値の地域内循環による地域活性化と地域ゼロカーボンの実現
太陽光発電した再エネを自家消費することによる環境価値をJクレジットに変換した上で、市内企業に売却することで環境価値の地産地消を実現。
環境価値の売却益をデータ連携基盤を通じて地域通貨で還元することにより、経済においても地域循環を目指しています。
取り組みの利点
- 安定的・安価な再エネ利用と、住み続けられる都市を構築
- エネルギー関連産業の集積、及び新たな雇用創出
- 系統制約下においても再エネの地産地消により、効率的に脱炭素化
《海外事例》エリア指定で熱供給接続を誘導|デンマーク
デンマークの首都コペンハーゲンの北部郊外にあり、リンビー・タールベック自治区の本拠地「コンゲンス・リンビー地区」(2018年人口:約1.2万人)では、地域熱供給を行うエリアの指定による、エリア内の熱供給への接続を誘導しています。
熱供給法に基づき、各自治体は地域熱供給を行うエリアを指定することができ、指定エリアは政府のウェブサイトで誰でも確認できます。
エリア内に立地する建物には地域熱供給への接続義務はないものの、個別の暖房ポンプのための政府の補助金を申請することができず、このことは熱導管への接続を誘導することにつながっています。
地域熱供給を市場価格で運営し、低価格で提供できる地域のみで整備を進めるため等の理由で、2019年1月、熱供給法の改正により熱導管接続義務は廃止されました。
具体的な取り組み内容
コンゲンス・リンビー地区では、地域熱供給事業者Vestorbraending社が地域熱供給エリア指定を受けるための事業計画書(2014~2016年工期)を提出。Vestorbraending社は、当該地区で廃棄物発電プラント及び熱導管を整備・所有しており、地域暖房システムを構築するプラント、パイプ、ポンプ場などのメンテナンスを行いました。
個々の消費者の家へ物理的に設置する変電所は、 Vestorbraending社が所有・維持管理するか自分達で行うかを選択できる、としています。
日本の自治体・企業への脱炭素化の推進に関するヒント
地域熱供給エリアの指定と交付金等を組み合わせることで、熱導管への接続が誘導できる熱供給エリアを行政が指定するとともに、エリア内での接続が進むような支援を行うことにより、都市基盤整備や街区整備等とあわせた熱導管への接続が誘導できることが考えられます。
ただし、エリア設定にあたっては、市民、事業者の納得につながるよう、費用便益分析マニュアル等による分析が求められます。

リンビー・タールベック自治区「リンビー・タールベック自治区の暖房計画 2022-2030」(https://www.ltk.dk/media/rxjn1buh/varmeplan-for-lyngby-taarbaek-kommune-2022-2030.pdf)






