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DXをめぐる景色《役所のおかしな業務フロー》

    DXをめぐる景色《役所のおかしな業務フロー》

    【自治体通信Online 寄稿記事】
    自治体DXの先にある公務部門ワークスタイルの姿 #5
    (公務部門ワークスタイル改革研究会 研究主幹・箕浦 龍一)

    自治体DXのあり方を“論”ではなく実務に落とし込んで考えると…。公務部門ワークスタイル改革研究会 研究主幹(一般財団法人 行政管理研究センター)を務める箕浦 龍一さん(元総務省大臣官房サイバーセキュリティ・情報化審議官)による“自治体DXの世界観”をテーマとした本連載。今回はデジタル技術を活用していくうえで、リデザインが必要な「役所の不思議」についてのケーススタディです。

    自らムダな作業をつくっている!?

    前回まで、行政におけるデジタル・トランスフォーメーションをめぐる様々な景色の変化についてお話ししてきました。
    (参照:本連載バックナンバー)

    今回は、具体的な実例をもとに、もう少し考えてみましょう。

    前々回と前回、外部有識者の皆さんに役所の「検討会」や「有識者会議」の委員などへの就任を依頼するプロセスにおける「本人承諾書」に関して、この書類への押印の必要性以前に、そもそもその書類が必要だったのか、という点に触れました。
    (参照:DXへのあるべきアプローチとは?《前編》同《後編》)

    さらに、具体的な業務フローを想像してみてください。

    多くの場合、まずは先方の連絡先(電話番号やメールアドレス)を把握して、連絡した上で、電話またはメール、場合によっては先方のオフィスを訪問して対面で、委員への依頼の内容を説明し、委員への就任を打診するのが通例ではないでしょうか。その上で、ほとんどの場合には、この打診に対して、本人から承諾(内諾)の意思表示が行われていることが通例だと思います。

    おかしなプロセスは、ここからスタートします。

    既に就任依頼を行って、相手方が既に承諾の意思表示をしているにもかかわらず、役場側は改めて就任の依頼状を作成して送付する、という行為が行われる例が多いと思います。もちろん、相手方の所属組織によっては、組織外の職務に関わる行為に関しては内部の所属長や上司の了解を得るため、正式な依頼状が必要となる場合もあります。このような場合には依頼状発出は必要ですが、相手方から求めがないにもかかわらず、マニュアルどおりに機械的に依頼状を作成して発出するというプロセスを疑いなく行う例も多いように思います。

    相手方が必要としていない依頼状を発出する意味は何なのでしょうか? 依頼状を送ることは、相手方への負担は少ないとはいえ、行政内部に無用・不必要な業務プロセスを生じさせています。

    そして、多くの場合、この依頼状に「承諾書」の様式が添付され、この書類に必要事項を記載の上、署名し、場合によっては押印した上で役所宛てに返送することを求めます。既に相手方は、役所からの依頼に対して承諾の意思表示をしているにもかかわらず、ここで書類を必要とする理由は何なのでしょうか。

    推察するに、役所内部で「検討会」や「有識者会議」を設置又は開催する意思決定をするための決裁段階で、委員候補者のそれぞれが承諾の意思表示をしている「証拠書類」として添付することが「慣例」となっているからではないかと思われます。

    本来、この一連の業務における目的は、行政目的を達成するための検討会や有識者会議を開催することであり、その会議に特定の候補者に委員として就任し、参画いただくことではないでしょうか。

    とすれば、相手方に電話、メールまたは対面などいかなる方法であれ、就任を依頼し、承諾を得た段階で、その目的はほぼ達成されていることになります。その後のプロセスは、役所内部の手続上の都合にほかなりません。いわば、組織の内部の事情です。

    ご本人が承諾の意思表示をしていることを決裁段階で疎明する必要があるのならば、例えば委員候補者一覧の資料において、それぞれの候補者について、「就任依頼日」「依頼方法(電話、メール、対面など)」と「承諾のあった日時」「依頼・承諾の連絡を行った担当責任者氏名」を記載するようにすれば、必要な疎明はなされたと考えることができるのではないでしょうか。

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    ほかにも「?」と感じる業務プロセスはいろいろありそう…

    「見積書」の怪

    もうひとつ類似の例として、外部有識者等の個人に対して、謝礼や報酬の支払いを伴う事務や事業を依頼する場合を考えてみましょう。

    この場合、通常は、役場の担当者から、相手方に対して、電話やメール、訪問など何らかの手段によって 依頼内容の説明と依頼の打診が行われると考えられます。その際、その依頼内容を引き受けた場合の謝礼や報酬の額についても提示されるのが通例です。

    役所の場合、通常は、外部有識者等に支払う謝礼等の金額については、内部規程においてランク別に定められており、その金額をそのような依頼内容に関する支出規程などで支出できる金額が時間単価又は日当の形で定まっているのが通例と思います。したがって、多くの場合には、この金額が相手方に提示されます。

    相手方は、依頼に関わる日時がスケジュール的に空いており、報酬の水準も了解できる水準と判断し、引き受けてもよいと考えれば、承諾の意思表示が行われるでしょう。

    さて、ここから、先ほどの例以上におかしな業務フローがスタートします。依頼状や承諾書に関しては、先ほどと同じです。問題は、行政の担当者からは依頼状や承諾書に加えて、もうひとつ、書類の作成・提出が求められる例がみられるのです。

    それは、「見積書」です。承諾書と合わせて、本件に関する見積もりを作成して送ってほしいと言われるのです。相手方が役所とのやり取りに慣れていない方であれば、おそらく、腰を抜かさんばかりに驚愕するでしょう。

    通常、「見積書」は、その金額を設定する側が作成するものです。上記の例の場合、謝礼の額は役所の内部規程の上限を理由に、実質的には依頼者である役所側で決定されています。依頼を受けた外部有識者の側には金額の決定権は実質的には存在しません。にも関わらず、おそらく役所内部で、外部の者に対し経費を支出する際の会計処理の手続又はルールにおいて、「あらかじめ先方から見積書を提出させ、決裁に添付すること」を定めているという理由で、役所側が決めた報酬額での見積書を、こちらが頭を下げてお願いした相手方に作成、送付するよう求めているのです。

    「デジタル」ではなく「トランスフォーメーション」が重要

    以上、今回は、2つの具体例をもとに、改善を要する現行の業務フローを見ていただきました。

    行政の現場で仕事をされている皆さんにとってはこれが日常当たり前のタスクとなってしまっているが故に、あまり不自然さを感じられないかもしれませんが 白地で考えてみれば、「相手方に役所側から頭を下げてお願いしたにも関わらず、お願いした相手方に不必要な負担を生じさせている」という点をもって、いかにこの業務フローがおかしな流れであるかをご理解いただけるでしょうか。

    そして、これらはいずれも、デジタル以前の問題ですね。前回までにお話ししたように、DXの本質は、「デジタル」ではなく「トランスフォーメーション」の方が重要なのです。このような業務プロセスにデジタル技術を活用する場合、まずは、このおかしな業務フロー全体を目的に沿った簡素で合理的な形にデザインし直すことが必要となるのです。

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    「おかしな流れ」をリデザインしよう

    そして、このようなおかしな業務フローは、相手方へ負担をかけるばかりではありません 必要以上の業務フローを重ねることによって、実は役所内部の担当者側にも膨大な無駄なタスクが発生しているのです。

    今日、デジタル化が進んだ多くの役所組織において、総務担当者や現場担当者が大量のタスクに忙殺されている理由のひとつは、ここに大きな要因があると言っても過言ではありません。これを見直し、簡素・合理的なプロセスにデザインし直すことは、ユーザーである国民や市民へのサービス改善になるのと同時に、役所内部の繁忙な業務を効率化するためにも、今後優先的に意識し取り組んでいくべきだと思います。

    (「【自治体DXの“不都合な真実”】組織内コミュニケーションのデザイン」に続く)

     ★ この連載の記事一覧

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    箕浦 龍一(みのうら りゅういち)さんのプロフィール
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    公務部門ワークスタイル改革研究会 研究主幹(一般財団法人 行政管理研究センター)
    一般社団法人地域活性化センターシニアフェロー
    元総務省大臣官房サイバーセキュリティ・情報化審議官
    総務省 行政管理局時代に取り組んだオフィス改革を中心とする働き方改革の取組は、人事院総裁賞を受賞(両陛下に拝謁)。中央省庁初の基礎自治体との短期交換留学も実現するなど若手人材育成にも取り組む。
    官僚時代から、働き方、テレワーク、食と医療など、さまざまなプロジェクト・コミュニティに参画。
    2021年7月に退官。一般社団法人 日本ワーケーション協会特別顧問、一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム理事も務める。
    <連絡先>ryuichi.minoura.wkst@gmail.com(@を半角にしてください)

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