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DXへのあるべきアプローチとは?《前編》

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【自治体通信Online 寄稿記事】
自治体DXの先にある公務部門ワークスタイルの姿 #3
(公務部門ワークスタイル改革研究会 研究主幹・箕浦 龍一)

DX導入で「業務効率が向上した」「担当者を減らすことができた」―。こんな声が聞かれるようになりました。しかし、そのDX、本当に合っていますか? 公務部門ワークスタイル改革研究会 研究主幹(一般財団法人 行政管理研究センター)を務める箕浦 龍一さん(元総務省大臣官房サイバーセキュリティ・情報化審議官)が自治体DX戦略を進めるうえで不可欠な視点を提示します。

「トランスフォーメーション」に気づく

前回は、デジタル・トランスフォーメーションという概念をどのように理解すべきかについて、お話をさせていただきました。前回も触れたように、しばしば口にされる割には、その指し示す概念を再整理して正しく理解できている人は、ほとんどいないように思います。
(参照記事:DX~トランスフォーメーションの本質とは?)

分かりやすいようでいて、とても深遠な概念であり、人や組織の営みを指し示す言葉というよりは、むしろ人や組織の営みを支える世界観とか景色のようなもの。「パラダイム」と言っても良いのかもしれません。少なくとも、デジタル化やITの利活用のような特定の行為やプロセスを指し示す概念と理解すべきではないのです。

この点、政府や大手企業などでも正しく定義出来ていないように思います。

大事なのは、「言葉」の「意味」や「定義」を知ろうとするのではなく、その概念が表す景色とか世界観のようなものに「気づく」ことです。デジタルやITは苦手、と敬遠する必要はないのです。

技術者たちのたゆまぬ努力のおかげで、技術は目覚ましい勢いで進歩し続けていきます。ですから、私たちは、デジタルやITを知らなくても、何をやりたいのか、何を目指したいのかを直截に考えること。今まで辿(たど)っていた道筋を前提としないで、まっすぐに目的地を見定めて、そこに至る新たなアプローチの仕方を考えることそれができることが「トランスフォーメーション」に気づくことなのです。

「そもそも」を抜本的に見つめなおす

前回は「ハンコ」を例に挙げながら、DXのアプローチを簡単にご紹介しましたが、もう少しいくつかの例を参考に考えてみましょう。

従来の業務改革で主流であったBPR(Business Process Re-engineering=業務改革)では、既存の業務フローのプロセスをタスク・手順毎に細かく分類し、それぞれについて、
①要・不要
②効率化・省力化・正確化・アウトソーシング
③機械化・IT化
などを考えるアプローチが主流でした。

近年、従来人間が行っていた業務プロセスの一部又は全部を機械(ロボット)化によって自動的に正確に処理しようとするアプローチが生まれました。これが、RPA(Robotic Process Automation)です。

人間の仕事には、ミスも発生しがちですし、処理速度にもばらつきが生じますが、ロボットは、決められた一連の作業を短時間で正確に処理していきます。

ところで、巷では、DXの例として、このRPAを挙げる方もいるようなのですが、RPAは、DXの例としては、必ずしも適切ではありません。

なぜだか、お分かりになるでしょうか。

RPAは、既存の業務フローのうち、特定の一部分をロボットに行わせるものです。ロボットが行うことによって、そのプロセス自体は従来職員が行っていた業務を簡素化・効率化・省力化するものであり、画期的なアプローチです。しかしながら、DX的にアプローチするなら、そもそもその業務フロー全体が必要だったのかどうか、という問いかけからスタートしなくてはなりません

前回の「ハンコ」の例に関連して言えば、SNSなどで “人が押印することに代わって、「押印ロボット」が開発された”などという面白いネタが拡散されましたが、RPAも、性質的には、これと変わらない位置づけなのではないでしょうか。

もちろん、足元で職員を忙殺させてしまっている業務を簡素化・効率化・省力化することは、DXを実現する上で必要な知的作業に注力可能とする意味では必要な改革ですが、そのことと、DXへの理解を混同してしまってはいけません。

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そもそもその業務フロー全体が必要だったのか!?

どこが変か、お分かりになりますか?

そして、アウトソーシング化された業務プロセスもそうなのですが、RPAで省力化が済んでしまっていても、DX的なアプローチにより、当該業務プロセスを含めた全体の業務そのものが今日的には意味のない無用なものであると判断されれば、アウトソース(外部委託)やRPAそのものが要らなくなる、ということになるのです。

長年官公庁が取り組んできた行政改革や業務改革によって、既存の業務プロセスのそれぞれの段階で省力化や効率化が図られてきました。その結果、実は、それぞれのプロセスやタスク自体がさほど注目されなくなり、当たり前の経路と思い込んでしまうことで、本当に見直しが必要なこと(全体最適)が行われにくくなっているという皮肉な状況が発生しているのかもしれません。

もうひとつ、考えてみましょう。

数年前に、会計検査院が主催する公会計監査機関意見交換会議というシンポジウムでパネルディスカッションに登壇させていただきました。

その際に検査院が設定したテーマは「デジタル時代の検査や監査はどう高度化するか」といったような内容でした。デジタル技術も進むので、これらに対応できる検査人材を育てる必要があるとか、検査や監査に、どのようにデジタル技術を活用するか、といったようなお話を、検査院側も、居並ぶ有識者の皆さんも発言されていました。

人材育成の問題は重要ですし、検査へのデジタル技術の活用という視点は、分からなくもないですが、大局的に眺めると、ちょっと変ですね。

これも、どこが変なのか、お分かりになりますか?

(「DXへのあるべきアプローチとは?《後編》」に続く)

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箕浦 龍一(みのうら りゅういち)さんのプロフィール
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公務部門ワークスタイル改革研究会 研究主幹(一般財団法人 行政管理研究センター)
一般社団法人地域活性化センターシニアフェロー
元総務省大臣官房サイバーセキュリティ・情報化審議官
総務省 行政管理局時代に取り組んだオフィス改革を中心とする働き方改革の取組は、人事院総裁賞を受賞(両陛下に拝謁)。中央省庁初の基礎自治体との短期交換留学も実現するなど若手人材育成にも取り組む。
官僚時代から、働き方、テレワーク、食と医療など、さまざまなプロジェクト・コミュニティに参画。
2021年7月に退官。一般社団法人 日本ワーケーション協会特別顧問、一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム理事も務める。
<連絡先>ryuichi.minoura.wkst@gmail.com
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