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【自治体DXの“不都合な真実”】組織内コミュニケーションのデザイン

    【自治体DXの“不都合な真実”】組織内コミュニケーションのデザイン

    【自治体通信Online 寄稿記事】
    自治体DXの先にある公務部門ワークスタイルの姿 #6
    (公務部門ワークスタイル改革研究会 研究主幹・箕浦 龍一)

    DXを進めると、なぜかドンドン忙しくなる―。こう感じたことはありませんか? 公務部門ワークスタイル改革研究会 研究主幹(一般財団法人 行政管理研究センター)を務める箕浦 龍一さん(元総務省大臣官房サイバーセキュリティ・情報化審議官)による“自治体DXの世界観”をテーマとした本連載。今回は組織内コミュニケーションのデザインについて。“情報の洪水”を防ぎ、適切かつ確実な情報伝達を実現する方策を考えます。

    見落とされがちなこと

    行政のDXが語られる場合、ともすると行政サービスの局面、すなわち役所と国民や市民とのインターフェースの場面(サービス提供や申請手続など)に注目されがちです。もちろん、これは大事なのですが、その前に、もう少し行政内部の業務フローを精査してみる必要があると思います。

    それは、組織内部のコミュニケーションのリデザイン(再設計)と、決裁プロセスの見直しです。後者については次の回でお話しすることとし、今回は、コミュニケーションのデザインについて考えてみましょう。

    逆にストレス増を招いている!?

    行政においても、業務でパソコンを使うようになり、様々な業務システムや電子メール、チャットなどを利用するようになったことに伴って、私たちの仕事は便利で効率化されたと考えられがちです。

    でも、実際はどうでしょう。パソコンが登場する前と比べて、仕事が楽になったと感じる方は案外少ないのではないでしょうか。

    確かに、かつて手書きで書類や資料(ドキュメント)が作成されたり、要件は電話や対面で伝えられて伝言ゲームのように周囲の関係者に伝えられたりしていた時代に比べれば、ドキュメントを作成・複製したり、誰かに連絡をする場面においては、格段便利になったと考えられます。

    でも、一方で、手軽に様々な情報が得られるようになったことや、それを簡単に共有できるようになったことなどによって、日常業務において、職員のもとに押し寄せる情報の量は、パソコンが導入される前の時代に比べて圧倒的に増えてしまったのではないでしょうか。

    その結果、日々、膨大なメールの処理に追われたり、山ほど到来するメールの中から重要で緊急度の高い連絡事項が見落とされてしまったりと、業務対応に伴うストレスや不都合が以前にも増して生じているのではないかと思います。

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    “メールの山”に押し潰される自治体職員が続出!?

    選択と整理

    実はそうした不都合は、電話も含め、段階的に登場した様々なコミュニケーション・ツールを、コミュニケーションの目的・内容やツールの性質が考慮されることなく、無秩序に利用されてきたことが招いた弊害ではないかと考えられるのです。

    メールやチャットの登場により、実はコミュニケーションのデザインはより大幅なリデザインが必要なのでした。

    メールは確かに便利な道具です。同じ内容のメッセージ(情報)を複数の宛先に同時に送る(同報送信)こともできます。手書きで作成されていた文書や場合によっては写真等の画像データを、メール本文に記載又はメールに添付することで、詳細な内容や情報も多くの相手方に同時に送り届けることすら可能となっています。

    また、その後登場したビジネスチャットツールは、メール以上に即時性のあるやり取りに適したツールとして、既に行政の現場でも導入・活用が進められつつあります。

    このような対面から電話へ、電話からメール、チャットへ、と技術が進歩したとはいえ、対面、電話によるコミュニケーションのやり方は、時と場合によって、今日でも有効な手段です。テキストデータに比べて、音声の情報が加われば、テキスト情報以上に細かいニュアンスが伝わりやすいですし、対面であればさらに顔の表情や身振り手振りも伝わりますよね。

    一方で、対面や電話など音声で伝えられる情報は、録画・録音などしない限り、第三者に伝えるには、改めて情報伝達のプロセスが必要となり、そこには「伝言ゲーム」となるリスクも発生することになります。

    大事なことは、コミュニケーションには、伝えるべき事項の内容や性質に応じて、それにふさわしいコミュニケーション・ツールの選択が必要であり、組織内部でのコミュニケーションのやり方に関して、ルールや運用を整理されることが重要である、ということなのです。

    デジタル時代の文書作成ルールとは?

    組織内で行われるコミュニケーションは、その性質や内容、類型別にみると、一例ですが、次のように分類することが可能です。

    a  音声型   ←→  テキスト型
    b リアル対面型 ←→  オンライン型
    c マルチ型   ←→  1on1型
    d 即時・緊急型 ←→  (事後)報告型
    e 確実到達型  ←→  参考情報型
    f  push型   ←→  pull型 

    電話の登場は、自宅などへの突然訪問という用件の伝達方法を「マナー違反」なやり方とし、事前に電話でアポイントを取るという生活様式を定着させましたが、その後もビジネスの現場では、用件があると相手のところに突然訪れる上司・部下や同僚も後を絶ちませんね。

    ビジネスの場面でメールが活用され始めた当初は、誰かにメールを送りつけた後で、届いているかどうかを確認するため、本人に電話で「今メールを送りましたが」と電話をして、メールに書いてある案件を口頭でも伝える、という笑い話のような例がみられました。これなどは、新しいコミュニケーション・ツールに移行する過渡期における混乱と考えられます。

    行政で活用されるメールの中には、紙文書で連絡が行われていたときと同様、比較的長文で最後まで読まなければ内容や結論が理解できないようなものも散見されます。デジタル時代のコミュニケーションに適したメッセージの作成方法のルール化ができていないことに起因すると思います。

    例えば、
    ・結論から先に書く
    ・メール本文には要点をできるだけ簡潔に記す
    ・メール全体として、スクロールしなくても読めるようにするなど、全体的にコンパクトにまとめる
    ・そのために不要かつ冗長な時候の挨拶や儀礼的な用語などは可能な限り省略する
    このようなデジタル時代の文書作成をルール化することも一案と思います。

    即時性のあるコミュニケーションに適したチャットツールについても、便利であるがゆえに、安易に様々なメッセージや情報の連絡にチャットを活用する人も見受けられるのですが、結果、不要不急の連絡がチャットで送られることで、頻繁にパソコンのアラートが点滅して作業を中断させられる、という弊害を感じる方も多いのではないでしょうか。

    同じテキストベースのコミュニケーションにおいても、メールとチャットとで、ツールの特性や適したコミュニケーションの性質・内容は異なることがお分かりいただけると思います。

    “無秩序状態”に決別を

    電子メールについては、先ほど「同報送信」という機能に触れましたが、この点についても現行、ルールが存在しない無秩序状態にあるのではないでしょうか。

    業務の動きを承知しておいて欲しい上司や同僚を気安くccで宛先に入れて送信されるメールが非常に多いと思います。その結果、職員が確認しなくてはならない情報量が必要以上に増大している現状ではないでしょうか。

    場合によっては、このccで送られたメールに対して、他の担当者が「全員に返信」機能を使って返信が繰り返されることで、とてつもない勢いでメールのタイムラインが埋まっていく。その情報に関して求められる関与度合いが低い職員にとっては、過剰な負担が発生します。

    これなどは、一次情報の段階で、その情報を承知だけしておけば済むような職員に関しては、別メールで別途情報提供で送るようにするか、あるいは一次情報に返信する際には、必要不可欠な関係者を除いて宛先から削除するなどのルール設定が必要でしょう。

    また、そもそもメールを送るという送信側からの「push型」の情報提供によらず、掲示板への貼り出しやイントラネットへの掲示によって、職員が必要に応じていつでもアクセスできるような「pull型」の情報提供も選択されるべきです。職場内手続の周知や福利厚生情報などは、多くの場合、「pull型」の情報提供になじむものです。

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    DXを進める上で慣行を変えることに躊躇は不要

    このように、コミュニケーションをその性質や内容に応じてデザインし、ツール選択や連絡方法のルール化を行うことで、適切かつ確実な情報伝達を実現するとともに、職員に押し寄せる情報量を抑制することができるのです。

    問題の本質は…?

    現在は、本稿で例に挙げたメールやチャット以外に、クラウドを活用してサービスが提供される様々なコミュニケーションツールも民間企業などでは導入されており、本稿で述べたようないくつかのコミュニケーション上の課題も比較的クリアに解決してくれるものもあるのですが、官公庁の場合には、クラウド利用が制限されているなど、そのようなツールを利用できない場合も多いと思います。

    それでも、問題の本質は「便利なツールが使えないこと」ではなく、現在の組織やチーム内でのコミュニケーションの性質や内容に応じた適切なコミュニケーション手段が選択されていないことにあるのです。性質や内容に応じてチーム内でのコミュニケーションのやり方をストレスなく確実に行うためのデザインをし直すことは、将来において新しいツールが導入される場合でも、適切なツール選択や使い方につながっていくことになります。

    このようなアプローチも、今後、DXを進める上で優先的に考え、取り組まれる必要があると考えられます。

    (続く)

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    箕浦 龍一(みのうら りゅういち)さんのプロフィール
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    公務部門ワークスタイル改革研究会 研究主幹(一般財団法人 行政管理研究センター)
    一般社団法人地域活性化センターシニアフェロー
    元総務省大臣官房サイバーセキュリティ・情報化審議官
    総務省 行政管理局時代に取り組んだオフィス改革を中心とする働き方改革の取組は、人事院総裁賞を受賞(両陛下に拝謁)。中央省庁初の基礎自治体との短期交換留学も実現するなど若手人材育成にも取り組む。
    官僚時代から、働き方、テレワーク、食と医療など、さまざまなプロジェクト・コミュニティに参画。
    2021年7月に退官。一般社団法人 日本ワーケーション協会特別顧問、一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム理事も務める。
    <連絡先>ryuichi.minoura.wkst@gmail.com
        (@を半角にしてください)

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