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新型コロナに打ち勝つ国際交流「3つの実践」

    新型コロナに打ち勝つ国際交流「3つの実践」

    【自治体通信Online 寄稿記事】~緊急寄稿~前例はないけど不可能ではない方式(みなかみ町職員/台南市政府対日事務相談顧問・阿部 真行)

    予期せぬ新型コロナ禍で、さまざまな自治体事業・取り組みが見直されています。そのひとつがインバウンドや国際交流。ほんの数ヵ月前までは大きな期待が寄せられる“花形プロジェクト”でしたが「いまはそれどころじゃない」という声も聞こえてきます。しかし、現在も台湾に駐在しながら台湾台南市とみなかみ町(群馬)の交流事業に取り組んでいる同町職員の阿部 真行さんは「人の往来が途絶してもやれることはあるはず。新型コロナに打ち勝つため、いまこそ国際交流を継続する意義は大きいのではないでしょうか」と話します。なにがやれるのか、そこにどのような意義があるのか。阿部さんに緊急寄稿してもらいました。
    【目次】
    ■ いまこそ重要
    ■ 情報交流
    ■ 図書交流
    ■ 物産交流
    ■ 台湾現地の公務員の動き方から得た学び
    ■ 「みなかみ方式」を伝えていきたい

    いまこそ重要

    新型コロナの世界的な感染拡大により、各自治体のインバウンド施策も大幅な軌道修正を余儀なくされているようです。

    インバウンド、インターンシップ、企業マッチング商談会等々、1月末から多くの事業が中止。特にインバウンドはここ数年、大きく伸びていたために影響も大きく、かつ新型コロナが収束する時期も予測できないために打開策が見つかりません。

    一方で、交流そのものを途絶させないことは、こうした状況だからこそ重要なことではないかと思います。

    リアルの交流事業が難しく、実質的な“鎖国状態”で人の往来が難しい現状ですが、交流意識を継続させるために台南市政府国際科の同僚たちと話し合ったことがあります。そこで、現在、次の3つの事業や取り組みを進めています。

    情報交流

    ①お互いの広報誌・ホームページ等で交流都市の情報収集及び発信

    たとえば、みなかみ町の場合、昨年12月のみなかみ町中学生派遣、今年1月のみなかみ町町民旅行は台南市政府広報や台湾のメディアに取り上げてもらいました。行政の広報誌だけでなく、地元メディアに掲載してもらえれば露出度があがります。もちろん、町広報誌にも事業内容を掲載しています。

    費用をかけずに、お互いに交流都市の情報や様子を知ることができるこの方法は、他自治体も以前から用いていると思います。

    ただ、新型コロナの関係で交流事業が実施できない今、掲載する材料がないかも知れません。

    そこで現在、台南市政府としては「台南市のコロナ対策について(日本人を含む外国人に関係する記事・情報)」を日本語に翻訳して交流都市に発信する取り組みを始めました。

    マスクの購入方法変更について公布する台南市の広報チラシ。黄偉哲・台南市長が自ら登場してPR
    マスクの購入方法変更について公布する台南市の広報チラシ。黄偉哲・台南市長が自ら登場してPR

    たとえば、台湾では現在、台湾人に発行される身分証(中華民国国民身分証)があればマスクを購入できますが、身分証を持たない外国人はどうやってマスクを購入するか、といった情報です。

    全世界が新型コロナと戦っている今、“海を越えたヨコの連携”である国際交流の取り組みを止めずに機能させ続け、困りごとや解決策を共有することには大きな意義があると思います。

    図書交流

    ②Friendship Box (図書館交流)

    現在、台南市内図書館(2か所)で日本の交流都市展示(群馬県、熊本県)をしています(展示期間は、群馬県は2020年1月14日~4月12日、熊本県は同年3月3日~4月5日)。

    これは群馬県関係の書籍を台南市の図書館に一か月間展示することによって、実際に日本に行かずとも交流都市の文化や観光に触れてもらえるという交流方式です。

    台南市での群馬県書籍展示は昨年と今年の2回実施し、昨年は台南市関連書籍を群馬県に送り、県内五か所の図書館で「台南展」を実施しました。

    書籍を段ボールに詰めて送ることから、Friendship Boxという名前になっています。

    2019年に行われた図書館交流のひとコマ。写真中央の女性は台南市の王 時思・副市長、その左がみなかみ町の鬼頭 春二・町長。群馬県立図書館、沼田市立図書館、館林市立図書館、甘楽町立図書館の各館長も
    2019年に行われた図書館交流のひとコマ。写真中央の女性は台南市の王 時思・副市長、その左がみなかみ町の鬼頭 春二・町長。群馬県立図書館、沼田市立図書館、館林市立図書館、甘楽町立図書館の各館長も

    本来なら展示期間中に互いの関係者による講演や観光PRを実施して交流促進するのですが、新型コロナの関係でこれは出来ません。

    しかし、図書館展示&書籍貸し出しは実施可能です。また外出自粛の現状にも適している交流方式かもしれません。

    物産交流

    ③マンゴー等物産交流

    これは、みなかみ町がずっと継続している事業、毎年、台南市の特産品であるマンゴーを数百箱輸入し、みなかみ町民に購入してもらっています。

    最近ではみなかみ町だけでなく、沼田市、甘楽町など県内他市町村や中野区(東京)、埼玉県、茨城県の交流都市にも拡大しています。

    逆にこのルートを使って、日本の各自治体の特産品を台湾に輸出することも可能です。

    2019年に行われたマンゴー交流の模様
    2019年に行われたマンゴー交流の模様

    マンゴーの時期が6月であり、日本への発送時期も6月末ごろ。日本も新年度に入り4月5月で準備すれば6月の輸出に間に合います。人の往来ではなくて、物産の交流なら、現在のような状況下でも実施できます

    ①の情報交流②の図書交流は費用もほとんどかからないため、担当者も進めやすいと思います。

    ここで申し上げた③の物産交流は行政機関だけでなく、商工会や他団体等を巻き込まないと難しいかも知れません。しかし、実際手に触れられる「モノ」が介在するので、交流している実感が伝わりやすいかと思います。

    台湾現地の公務員の動き方から得た学び

    台湾の公務員のみなさんも、新型コロナ対策に奔走しています。こうした緊急事態のなかで、台湾の公務員の働き方で学んだこと、気づいたことがいくつかあります。

    日本でも多く報道されましたが、台湾は危機意識が非常に高く、初動が速かったです。2003年のSARSを経験したからだと周りがよく言っていました。

    公共施設へ入るときの検温や消毒は徹底されています。中央政府による情報発信、防疫のための啓蒙も毎日テレビ・ラジオを通じて実施されています。政府によるマスク購入制限対応は多くの日本のメディアも取り上げました。

    台南での私の所属が広報や国際関係を担当する部署だからなのかもしれませんが、台南市政府「新聞及国際関係処」の同僚たちは台湾の情報だけでなく、日本やヨーロッパ、アメリカその他の情報収集も欠かしません。そして、情報収集をしながら「今この状況で何ができるか?」を考え、行動に移す際の決断が速いのです。

    緊急時だけでなく、普段からも情報収集体制は凄いです。これは私がこちらに来て非常に勉強になったことのひとつです。

    台南市政府新聞及国際関係処の職員のみなさんと阿部さん(前列左)
    台南市政府新聞及国際関係処の職員のみなさんと阿部さん(前列左)

    行動実施までの決断が速いのは以前、自治体通信Onlineの寄稿でも紹介したとおり 「熟考してから動きだす日本人」と「動きながら考える台湾人」の特性かも知れません。とにかく、台湾の動き方は素速く柔軟です。
    (参照:「知名度ゼロ」だから新たな観光資源になる)

    それぞれ良し悪しはありますが、今回のような緊急時にはとても有効に働いていると感じます。

    「みなかみ方式」を伝えていきたい

    私の立場はちょっと特殊で、台湾から「台南市政府対日事務相談顧問」として正式に任命されている珍しい日本人公務員です。みなかみ町の職員でありながら同時に台南市政府の職員としても動けます。

    この特殊身分を確立するまでに日台双方の関係者に本当に助けてもらいました。

    今後はこの立場を活かしつつ、台湾台南をきっかけに知り合った自治体同士が今度は日本国内で連携し、前述したマンゴー交流や物産交流、そして観光交流等を広く展開できる出来る環境づくりのお手伝いが出来ればと考えています。

     
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    第1回 たった5年で台湾インバウンドを10倍超に増やした “前例のない方法”
    第2回 「知名度ゼロ」だから新たな観光資源になる
    第3回 「儲けてもらう仕組み」をつくる
    第4回 「愚直さ」と「ある仕掛け」で地域が一丸に
    第5回 「インバウンド効果」は観光関連にとどまらない
    第6回 台湾で「みなかみ町ブーム」を起こしたPRノウハウ
    第7回 地方自治体だからこそ「できるインバウンド促進」「やれる国際交流」

    阿部さんの著作が「上毛芸術文化賞」を受賞

    このほど阿部さんの著作『台湾・台南そして安平! ~日本公務員の駐在日記~』が上毛芸術文化賞(主催・上毛新聞社)を受賞しました。その喜びの声を阿部さんに聞きました。

    「小さな自治体のPR方法」「新しい国際交流の手法を学べる」という点を評価していただいての受賞と聞き本当に嬉しいです。
    今回の出版もそうですが、みなかみ町の国際交流取り組みは前例がないことばかりなので交流開始当初は周りからも不安や反対の声も少なくありませんでした。どちらかというと日本側から不安や心配の意見が多く、台南市側同僚や関係者がプラス思考。
    ただ今回の出版については、大抵のことはまずやってみようと応援してくれる台南市長官からも一時ストップがかけられそうになったのですが、台南での同僚が根気強く説得して進めてくれた経緯があります。今回、上毛芸術文化賞を受賞したことをその同僚が本当に喜んでくれ、私としてもホッとした嬉しさがあります。

    阿部さんの受賞を報じる上毛新聞紙面(2020年3月26日)
    阿部さんの受賞を報じる上毛新聞紙面(2020年3月26日)

    「台湾インバウンドをどう進めればいいのかわからない」「台湾と交流したい希望はあるが、どこから始めていいか分からない」という声をよく聞きます。
    失礼な言い方になるかも知れませんが、分からないために無駄な予算を使ったり、効果の少ない動きをする自治体・団体も多くみられます。もちろん私のみなかみ町も多く失敗を経験してきました。
    今回の書籍はみなかみ町と台南市が試行錯誤して進めてきた交流事例の紹介です。各自治体の特徴はみな違うので交流方式も千差万別かと思いますが、この書籍によって「こんな方法もあったのか」と少しでも参考になれば有難いと思っています。
     

    阿部 真行(あべ まさゆき)さんのプロフィール

    大東文化大学外国語学部卒、高校講師などを経て、2005年からみなかみ町(群馬県)の職員に。2013年6月から台南市へ渡る。現地での役職は「みなかみ町台湾事務局長」。台南市政府の「台南市政府対日事務相談顧問」も務める。日台双方の国家資格などを取得し、インバウンドを主とした交流を推進中。現地大学でも講師を務める。著書に「台湾・台南そして安平!」(上毛新聞社、上毛芸術文化賞受賞)。

    <連絡先>
    電話: 0278-62-0401 (みなかみ町観光協会)

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