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地方自治体だからこそ「できるインバウンド促進」「やれる国際交流」

【自治体通信Online 寄稿連載】小さな自治体の大胆インバウンド戦略⑦(みなかみ町職員・阿部 真行)

地方自治体だからこそ「できるインバウンド促進」「やれる国際交流」

取組み開始からわずか5年で10倍に急増した“みなかみ町”(群馬)の台湾インバウンド。このプロジェクトの責任者にして台湾現地に赴いて取組みを推進している同町職員、阿部 真行さんに台湾インバウンド施策の詳細や試行錯誤のうえに蓄積された貴重なノウハウなどを解説してもらった本連載の最終回は、いくつもの壁を乗り越えてきたからこそわかった“地方自治体にしかできない”インバウンド促進や国際交流のあり方です。
 
【目次】
■ 本気ゆえの叱責
■ 交流は「立場と利益の尊重」がキモ
■ 台南市政府対日事務相談顧問
■ 異例の「出版交流」
■ ~エピローグ~ 壁を乗り越え見えた光景

本気ゆえの叱責

今でこそ台南市政府国際科の一員として何とか仕事が出来ていますが、当初は言葉が分からず、自分が苦しいだけでなく周りにも非常に迷惑をかけました。勤務時間中はもちろん、夕食や土日までも同僚たちに面倒をみてもらっていた状況でした。

大学時代に中国語を勉強していてそれなりに基礎はあり、みなかみ町役場に入ってからも香港や中国との交流を担当し、個人的には勉強していました。ですから台南に行くまでは、内心、中国語に多少は自信もありました。

しかし、仕事の現場で使えるレベルではなかったのです。派遣先の台南市政府国際科の上司から「何で聞き取れないの? あなたが中国語を理解しないために私たちの業務に影響が出ることをよく考えなさい」と叱られたこともあります。

そして、叱られた後、仕事終わりや土日に上司から中国語の特訓をしばらく受けました。

「言葉ができない、わからないでは、どうしようもないではないか」という正論に返す言葉はなく、気が引き締まりました。と同時に、いつまでも周囲の助けが必要な“お客さん扱い”ではなく、“一人前の戦力”として本気で自分をチームに迎え入れようと思ってもらえていることも理解でき、うれしく感じました。

台南市政府の外観。バイクに乗っているのは阿部さん
台南市政府の外観。バイクに乗っているのは阿部さん

交流は「立場と利益の尊重」がキモ

言葉は自分の努力で何とかなりますが、“面子と立場”は今でも難しい課題です。

4年程前、ある交流事業で国際科上司の面子を潰してしまったことがあります。私が自分の立場をはっきりさせずに動いていたのが原因でした。その時科長は1週間以上口をきいてくれませんでした。;;

科長が怒っているから科内全体がそのような雰囲気で同僚も口をきいてくれず、科長がトイレに立った隙に寄ってきてくれて「阿部さん気にするな」と囁いては席に戻るという状況。

「正規職員じゃないのだから無理に出勤しなくてもいい」とも言われ、まさに針のムシロ状態でしたが、いち度欠勤したらそのまま心が折れてしまいそうだったので何とか出勤し、顔だけは見せるようにしていました。

この時が私にとって最大のピンチ。なんとかこれを乗り越えることができ、おかげで「交流を継続させるためにはお互いの立場、お互いの利益が最重要」という基本概念について身をもって学習できたと思います。
  

台南市政府対日事務相談顧問

現在拠点を置いている台湾では、何か問題が発生しても解決できる自信があります。ただ、実は、日本側から「なぜ台湾側に立って物事を考えるんだ」「どこから給料をもらっているか分かっているの?」と言われることがあります。

幸いなことにインバウンド事業を担当したおかげで、みなかみ町の地元の多くの旅館・ホテル・その他観光業者の皆さん、そして時には他地域自治体の方が支持してくれます。そして、役場の理解と協力で何とか仕事を続けられています(笑)。

過去6回の寄稿で紹介したように、みなかみ町(群馬)と台南市の交流は一定の成果をあげ、特に台南市側から評価されています。もともと5ヵ月の出張任期が半年伸び、1年2年と延び、今に至っているのも台南市政府がみなかみ町に延長提案し、それに町が応えてくれているからです。

もちろん延長は簡単ではありません。日台双方の公務員としての立場を持つ存在自体が微妙として在台湾の日本台湾交流協会の方に心配してもらったり、台北駐日経済文化代表処に特別なビザを出してもらったりした事もあります。

しかし、今は正式に「台南市政府対日事務相談顧問」という役職でビザを発給してもらっています。^^

異例の「出版交流」

「台湾の行政機関で働く唯一の日本人公務員」という立場で2013年から台南市政府で働いてきましたが、5年が経過した2018年にはいよいよ本格帰国という状況になっていました。

阿部さんの動向は現地でも注目されており、「日本唯一の駐台公務員が帰国するかも」という報道が現地メディアで流れたことも。 左画像の記事のタイトルは「継続して留まるか協議が始まった」(左は黄偉哲・台南市長、右が阿部さん)。 右画像はその2日後の報道で「台南に駐留することが確定」との見出し。それだけ台湾にとって日本人の公務員は特別な存在 (画像はいずれも台湾の国営通信社「中央通訊社」のサイトより引用)
参照: 左画像の記事サイト右画像の記事サイト

そこで、台南市政府がみなかみ町と台南市の交流事例を日本の他自治体に紹介するため、書籍出版を企画してくれました。

ここ数年増えてきた「(みなかみ町という)小さな町がどうやって交流しているのか」「みなかみ町にできて、なぜウチでできないんだ」といった問い合わせへの対応や視察対応ためという大義名分のほか、私がもしも帰国することになっても「唯一の日本人公務員」の存在が忘れられないために、記録として残すという目的でした。
  
日本の自治体と共同で書籍出版という企画は、台湾全土で初の試みでした。台南市政府の強い意志と機動力、そして、群馬県の地元紙、上毛新聞出版社の協力で、いち年足らずで日本での出版が実現しました。

よくある役所発行の単なる寄贈本にだけはしたくありませんでした。幸い担当者の理解を得られ、一般書店やAmazon等の流通に乗せることができました。

また、出版が縁で、これまで接点がなかった自治体の方から連絡をもらったこともあります。今回、この自治体通信Onlineで台南市とみなかみ町の取り組みを紹介できるきかっけになったのも、この出版のおかげです。

~エピローグ~ 壁を乗り越え見えた光景

前述した帰国命令は神風(?)が吹き、2019年12月現在も私は台南市にいます。以前と同じく日本との交流窓口を担当していますが、最近では日本の各自治体に赴き、講演活動を始めました。

過去に「海外出向希望を持つ若手職員」を対象に勉強会講師をしてきたことがありますが、今年(2019年)は大船渡市(岩手)、藤枝市(静岡)、秋田市(秋田)で「駐在公務員の効果・メリット・方法」について話しました。

みなかみ町の台湾インバウンド施策から学ぼうとする自治体が増えている。写真は秋田市役所(秋田)で行われた阿部さんの講演会の様子(2019年11月14日)。インバウンド施策やマンゴー交流の実践などを紹介した
みなかみ町の台湾インバウンド施策から学ぼうとする自治体が増えている。写真は秋田市役所(秋田)で行われた阿部さんの講演会の様子(2019年11月14日)。インバウンド施策やマンゴー交流の実践などを紹介した

台南市政府が出版と講演の効果を認め、今では講演活動に係る予算措置までしてくれています。「実際に台湾駐在を実現している阿部本人が行って話した方が理解してもらいやすい」という訳です。

日本と台湾は正式な国交がないために国や県レベルだと交流が難しい場面もあります。しかし、逆に「地方自治体だからできる交流」もあると思います。

今回の私の体験寄稿が少しでも日台交流促進のきっかけになれば幸いです。それでは多謝、拜拜!!

台湾ビールとぐんまちゃん。地方自治体だからできる世界の国々との国際交流もある
台湾ビールとぐんまちゃん。地方自治体だからできる世界の国々との国際交流もある
本文末尾の「多謝」は台湾語で「ありがとう」の意味、duōxiè(ドゥオ・シィエ)。 「拜拜」は台湾で日常的に使われるサヨナラの挨拶、báibái(バイバイ)

本連載「小さな自治体の大胆インバウンド戦略」バックナンバー
第1回 たった5年で台湾インバウンドを10倍超に増やした “前例のない方法”
第2回 「知名度ゼロ」だから新たな観光資源になる
第3回 「儲けてもらう仕組み」をつくる
第4回 「愚直さ」と「ある仕掛け」で地域が一丸に
第5回 「インバウンド効果」は観光関連にとどまらない
第6回 台湾で「みなかみ町ブーム」を起こしたPRノウハウ

阿部 真行(あべ まさゆき)さんのプロフィール

大東文化大学外国語学部卒、高校講師などを経て、2005年からみなかみ町(群馬県)の職員に。2013年6月から台南市へ渡る。現地での役職は「みなかみ町台湾事務局長」。台南市政府の「台南市政府対日事務相談顧問」も務める。日台双方の国家資格などを取得し、インバウンドを主とした交流を推進中。現地大学でも講師を務める。著書に「台湾・台南そして安平!」(上毛新聞社)。

<連絡先>
電話: 0278-62-0401 (みなかみ町観光協会)

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