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港とともに発展した「まちの歴史」を継承し、新たなエネルギー革命の担い手となる

市制100年、開港150年の節目に掲げる新産業創出への挑戦

港とともに発展した「まちの歴史」を継承し、新たなエネルギー革命の担い手となる

室蘭市長 青山 剛

※下記は自治体通信 Vol.42(2022年9月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。


明治以来、製鉄業を中心に発展してきた臨海工業都市・室蘭市(北海道)。今年は市制100年、また市の発展を支えてきた港が開港150年を迎えている。多くの地方都市と同様、人口減少や経済の低迷に苦しみ、人口はピーク時の半分以下にまで落ち込んだ同市だが、この歴史の節目を好機として、シティプロモーションや新産業振興といった経済再生策に力を入れている。「歴史を継承し、次の100年の礎を築く」と語る市長の青山氏に、市政ビジョンを聞いた。

市制100年の節目が、市の魅力を再発見する機会に

―市制100年、開港150年を迎え、さまざまなシティプロモーションを展開していますね。

 市の歴史の大きな節目を迎えるにあたり、昨年度に市のイメージを図案化した「ブランドマーク」の作成や「カントリーサイン」の更新などに着手しました。この議論を担ってきたのは、中学生を含む幅広い世代の市民で組織された「まちのデザイン会議」という会議体でした。ここでは室蘭の良さを見つめ直す議論が重ねられ、その経過はSNSなどを通じてさまざまなかたちでつぶさに発信されてきました。こうした動きが、市民はもとより、元住民や出身者などに届き、室蘭の魅力を再発見するきっかけとなっているようです。とてもうれしいことですね。というのも、室蘭は多くの地方都市の例にもれず人口減少や高齢化に直面し、地域経済の低迷が長く続く厳しい時期を経験してきましたから。

―市制の節目がシビックプライドを取り戻す好機になっていると。

 はい。当市は、約50年前の16万人をピークに人口減少を続け、現在は8万人を切る水準にまで落ち込んでいます。11年前に私が就任して以降は、こうした背景から小中学校の統廃合や公共施設の再編が市政における最大のテーマとなってきました。ある年は、4週連続で閉校式に参加した月もあったほどです。この間、施設の廃止や移転を余儀なくされる地域の住民からは厳しい不満の声が寄せられるなか、難しい利害調整をいくつも経験してきました。

 市の実情に合わせ、市政の持続可能性を探る縮小均衡の動きが約20年間続いて、ようやく一段落した感があります。いまは、体育館や科学館・図書館など、再編後の複合施設が次々と生まれ変わるタイミングを迎えており、市民が活気を取り戻しつつあるという手ごたえを感じています。

洋上風力発電基地としての、特殊な要件をすべて満たす

―青山さんが考える現在の市政の最重要テーマはなんですか。

 新たな産業の振興です。天然の良港を抱える当市には、臨海工業都市として港とともに発展してきた長い歴史があります。明治時代には道内産の石炭の積み出し港として栄え、その後はその石炭を原料とした「鉄のまち」として繁栄を遂げるとともに、全国有数の製油所を抱える石油産業のまちとしても発展してきました。

 その製油所は10年前に撤退を表明することになるのですが、それに代わるかのように、「鉄のまち」の歴史を支えてきた製鋼所が原子力発電用の原子炉生産で世界トップシェアを握り、一時期の世界的な原子力発電ブームをけん引してきました。

―石炭、石油、原子力という変遷とともに、エネルギー産業の担い手を輩出してきたのですね。

 そのとおりです。1世紀以上にわたって、つねに時代の「エネルギー革命」を追いかけ、エネルギーの変遷とともに発展してきたまちだったと言えるのです。また、いずれの産業も室蘭が誇る「天然の良港」という資産を基盤に発展を遂げてきた共通点もあります。その歴史を踏まえ、市の将来を担う次なる産業を展望した時、いま当市が注目しているのが「洋上風力発電」なのです。

―注目の理由はなんですか。

 洋上風力発電は、関連産業のすそ野の広さに特徴があります。それらの関連産業の集積を図り、開発・製造拠点を目指すための条件が、当市には揃っているからです。たとえば、洋上風力発電では、輸入した風車を洋上へ設置するために多くの部材が必要とされ、その開発・製造・組立には、製造業の高い技術力と、広大な後背地を備えた港湾施設が不可欠とされています。岸壁には、重量物の運搬に耐えられる地耐力と水深の深さが求められます。また、建設に欠かせない多くの作業船を修繕する造船業の基盤も必須です。開発・製造拠点に求められるこれらの特殊な要件をすべて満たしている数少ない地域が、この室蘭なのです。

 なによりも、「地の利」に恵まれています。日本において洋上風力発電に適した遠浅の海があり、風況の良い東北・北海道地方の日本海側への設置が進んでいます。今後は、同地方の太平洋側でも進むと考えられますが、室蘭はこの両方にアクセスが容易です。

次の100年に向けた、礎を築く重要な転機

―理想的な条件が揃っていると。

 ええ。まさに天然の良港とともに発展してきた歴史と、製造業の厚い産業基盤を有する臨海工業都市・室蘭にもっとも相応しい新産業だと確信しています。この7月には、洋上風力発電の建設用作業船の母港を室蘭港に決めた大手建設会社との間で協定を締結しています。昨年11月には、別の大手建設会社との間でも包括連携協定を締結。遠浅の海が少ない日本で今後普及するとみられる、「浮体式」洋上風力発電の開発・製造拠点を当市に置くことが決まっています。

 市の歴史の節目に合わせるかのように、室蘭がもつポテンシャルが再び注目を集め始めています。いまがまさに、次の100年に向けた礎を築く重要な転機だと考えており、私自身が先頭に立って産業誘致に汗を流しています。

地域への愛着と誇りをもつ、若い世代を増やしたい

―今後の市政ビジョンを聞かせてください。

 昨年から今年にかけ、市制100年、開港150年を記念したさまざまな取り組みが進展するなか、そこに多くの市民が参画し、地域に愛着と誇りを深める機会が生まれていると聞きます。市民参画は就任以来、私が大切にしてきた基本姿勢でしたが、いまあらためてその重要性を認識しているところです。少し前にも、それを再確認する機会がありました。再編統合によって生まれ変わったある公共施設の開所式で地元の学生が挨拶をしてくれたのです。その学生は、5年前に始まった施設再編議論に当初から市民代表の中学生として参画しており、その思い出とともに、施設や地域への想いを語ってくれました。実は私自身、公共施設整備にかかわった大学時代の経験が、地方政治に目覚めるきっかけになった過去があります。この学生のように、市政への参画を通じて地域に誇りをもってくれる若い世代を一人でも多く増やしていくことが、私の役割なのではないか。学生の挨拶を聞き、市の未来に希望を感じながら、そう考えました。

青山 剛 (あおやま たけし) プロフィール
昭和52年、北海道札幌市生まれ。平成14年、室蘭工業大学大学院工学研究科博士前期課程を修了し、室蘭工業大学助手に。平成15年5月、室蘭市議会議員に当選。2期務める。平成23年5月、室蘭市長に就任。現在3期目。