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先進事例2022.05.30
連載「大阪発 公民連携のつくり方」第11回

財政健全化の過程で認識した、民間事業者の存在の大きさ

財政健全化の過程で認識した、民間事業者の存在の大きさ

大阪府公民戦略連携デスク

連載「大阪発 公民連携のつくり方」第11回

財政健全化の過程で認識した、民間事業者の存在の大きさ

泉佐野市長 千代松 大耕

※下記は自治体通信 Vol.38(2022年5月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。


複雑化、多様化する社会課題の解決を掲げ、大阪府では公民連携の促進を目的に、一元的な窓口機能「公民戦略連携デスク」を設置している。このような専門部署を設けて公民連携を強化する動きは、府内の各自治体にも広がっている。連載第11回目となる今回は、令和3年4月に公民連携の専門窓口として「公民連携デスク」を設置した泉佐野市を取材。公民連携に対する考え方や取り組みの成果などについて、市長の千代松氏や同市担当者に話を聞いた。

[泉佐野市] ■人口:9万8,607人(令和4年3月末現在) ■世帯数:4万7,771世帯(令和4年3月末現在) ■予算規模:1,036億9,420万8,000円(令和4年度当初) ■面積:56.51km2 ■概要:大阪市と和歌山市のほぼ中間に位置する。背後に一部が金剛生駒紀泉国定公園に指定された和泉山脈を擁し、美しい山河、緑あふれる恵まれた自然環境が特徴。関西国際空港の開港などに伴う人口の増加とともに、商業・サービス業が盛んになっている。
泉佐野市長
千代松 大耕 ちよまつ ひろやす

先進的な社会課題解決策。新たなふるさと納税の仕組み

―泉佐野市ではこれまで、どのような考えのもとに公民連携を実践してきたのでしょう。

 私が市長に就任した平成23年当時、当市は財政危機に直面しており、総務省から財政健全化団体の指定を受けていました。財政再建が喫緊の課題となるなかで、職員の人員削減も進めてきました。そうなると必然的に、職員には公務員でなければできない仕事のみに集中してもらわざるをえません。結果として当市では、行政運営において民間企業との連携に重きを置いてきた経緯があります。平成23年は東日本大震災が発生した年でもあり、防災対策強化の観点から、46社の民間事業者と防災協定を締結してきたことは、その成果のひとつだと考えています。

―昨年度、公民連携を推進する専門窓口を置いたそうですね。

 ええ。令和3年4月に「公民連携デスク」を設置しました。その理由の一つは、近年の行政におけるSDGs推進やゼロカーボンシティの実現といった新しい社会課題の浮上があります。それらの課題解決のためには従来にない視点や手法が必要なため、民間の知見も導入しながら、行政としても情報収集を強化する必要があり、その役割をデスクに担ってほしいと考えたのです。

 もう一つは、先進的な社会課題解決策の代表例として、当市が力を入れている新たなふるさと納税の仕組みを推進してもらいたい、という狙いもありました。ふるさと納税の成功は、当市の財政健全化の大きな原動力となった施策であり、今後も「#ふるさと納税3.0」と銘打ち、さらに推進していく考えです。規模の大小を問わず多くの事業者が参加でき、自治体、事業者双方がメリットを得られるこのスキームを広げていくうえで、デスクへの期待は大きいです。

―今後の市政ビジョンを聞かせてください。

 地域が抱えるさまざまな課題を解決していくうえで、民間事業者の存在は非常に大きい。それは当市が財政健全化を進めてきた過程で、よくわかっているつもりです。これからも、公民連携のスキームを積極的に活用し、持続可能なまちづくりを目指していきます。


「ふるさと納税」で生み出す特産品を、地域経済活性化の起爆剤にする

泉佐野市 成長戦略室 室長 阪上 博則

泉佐野市は現在、クラフトビールを製造しているヤッホーブルーイングと連携協定を結び、独自事業の「#ふるさと納税3.0」に取り組んでいる。「公民連携デスク」の機能をもつ成長戦略室の阪上氏は、「この事業は、地域経済活性化に向けた起爆剤になる可能性を秘めている」と語る。取り組みの詳細や、期待する効果などを同氏に聞いた。

泉佐野市
成長戦略室 室長
阪上 博則さかがみ ひろのり

財政負担なく企業誘致を促進

―「#ふるさと納税3.0」の内容を教えてください。

 新たな返礼品を製造・加工・開発する企業の誘致や、既存事業者の設備投資などに交付する補助金の原資を、ふるさと納税で調達する新たな取り組みです。具体的には、当市が民間企業と連携し、新たな特産品をつくり出すプロジェクトを立ち上げ、「ふるさと納税型クラウドファンディング」で支援いただきます。そこで集まった寄附金の一部を企業に補助金として渡し、返礼品の製造に向けた事業資金に充ててもらう仕組みです。そうして企業が新たにつくり出した特産品を返礼品として、クラウドファンディングの支援者に返礼するという流れです。ふるさと納税の制度改正*1に対応した仕組みとして、当市が独自に考案しました。

 今回、ヤッホーブルーイングとは、新たな返礼品となるクラフトビールのブルワリー建設に向けて取り組んでいます。すでに6億円以上の寄附金が集まり、令和4年秋には稼働する予定です。

―どのような効果が期待できるでしょうか。

 市としては、ふるさと納税の寄附金増額はもちろん、新たな特産品ができれば、それが産業として育つ可能性もありますし、雇用も生まれ、将来的な市税増収など大きな経済効果に期待しています。一方、ヤッホーブルーイングとしても、本来事業拡大に必要な多額の資金を補助金で賄えることから、当市との連携を前向きに検討できたようです。その補助金の原資はクラウドファンディングであるため、当市に財政負担はないというメリットもあります。ふるさと納税を通じて歳入が増え、企業の誘致を促し、新たな特産品も生み出せる。「#ふるさと納税3.0」は、地域経済活性化の大きな起爆剤になる可能性を秘めています。

―今後の方針について聞かせてください。

 当市ではすでに、ヤッホーブルーイングのほかにも21社と同様のプロジェクトを進めています。今後も取り組みをさらに推進し、ふるさと納税の制度を活用した地域振興の新たなモデルケースをつくれればと考えています。


支援企業の視点

優れた実行力と斬新な企画力をもつ、公民連携デスクは心強いパートナー

株式会社ヤッホーブルーイング 社長室 ディレクター 清水 俊介
株式会社ヤッホーブルーイング
社長室 ディレクター
清水 俊介 しみず しゅんすけ

―泉佐野市との取り組みに、どのような期待をしていますか。

 クラフトビールを通じて、日本に新たなビール文化を創出したい当社にとって、泉佐野市に建設するブルワリーは、西日本地域、その先のアジア圏へと活動を広げるうえで重要拠点になります。ふるさと納税を通じてブルワリー建設の補助金をいただけることは、当社にとって大きなメリットです。しかし、それだけではなく、新たな地場産業を育てたいと考える泉佐野市の課題解決にも貢献できるため、当社としても大きな意義を感じています。そうした背景から、新ブルワリーでは生産だけを目的とするのではなく、訪れる人が楽しめる施設とすることで周辺地域を含めて賑わいを創出し、関係人口を増やしていく構想をもっています。今後、泉佐野市成長戦略室の公民連携デスクとともに、その構想を具体化していきます。

―公民連携デスクをどのように評価していますか。

 チャレンジ精神にあふれ、優れた実行力と斬新な企画力をもつ事業パートナーとして大変心強い存在です。事業を進めるにあたっては、市の複数の部署との連携が必要になりますが、その際にハブ機能を務めてくれ、事業全体を強力にけん引してくれています。この事業には、ふるさと納税を通じてすでに6億円を超える寄附金が集まっています。これは、泉佐野市と当社への期待の大きさを物語るものです。その責任を大変重く受け止めており、改めて身を引き締める想いで事業を成功させたいと思っています。

清水 俊介 (しみず しゅんすけ) プロフィール
昭和61年、神奈川県横浜市生まれ。横浜市立大学大学院(理学)を修了後、日本アイ・ ビー・エム株式会社の戦略コンサルティング部門を経て、平成26年に株式会社ヤッホーブルーイング入社。平成30年より特命担当、令和2年より現職。新規事業、自治体連携などを担当。

大阪府公民戦略連携デスクの視点

先進的な仕組みで企業を呼び込む「泉佐野モデル」のまちづくりに期待

 泉佐野市「公民連携デスク」では、ふるさと応援寄附金、ネーミングライツ、企業誘致など、さまざまな事業を通じて、公民連携によるまちづくりを推進しています。なかでも、新たな地場産業創出につながる仕組みとして注目される「#ふるさと納税3.0」では、市内外の多くの企業が、地域経済活性化につながる魅力ある事業を構想しています。企業がチャレンジできる仕組みや基盤を構築したことが、同市の公民連携の大きな推進力になっています。このような先進的で独創性に富んだ「泉佐野モデル」を府内市町村とも共有し、公民連携を原動力にしたオール大阪でのまちづくりをより一層進めていきたいと考えています。

*1:※ふるさと納税の制度改正 : 令和元年6月に改正。返礼品を地場産品とする内容などが盛り込まれた

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