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先進事例2021.11.29
連載「大阪発 公民連携のつくり方」第7回

行政と民間のリソースを集約し、目指すは「一歩先を行く課題解決」

行政と民間のリソースを集約し、目指すは「一歩先を行く課題解決」

大阪府公民戦略連携デスク

連載「大阪発 公民連携のつくり方」第7回

行政と民間のリソースを集約し、目指すは「一歩先を行く課題解決」

泉大津市長 南出 賢一

※下記は自治体通信34号(Vol.34・2021年11月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。


複雑化、多様化する社会課題の解決を掲げ、大阪府では公民連携の促進を目的に、一元的な窓口機能を持つ「公民戦略連携デスク」を設置している。このような専門部署を設けて公民連携を強化する動きは、府内の各自治体にも広がっている。連載第7回目の今回は、今年4月に公民連携の専門窓口として「官民連携デスク」を設置した泉大津市を取材。公民連携への考え方や、取り組みにより得られた成果などについて、市長の南出氏と同市担当者に話を聞いた。

[泉大津市] ■人口:7万3,958人(令和3年10月1日現在) ■世帯数:3万4,967世帯(令和3年10月1日現在) ■予算規模:470億4,941万2,000円(令和3年度当初) ■面積:13.73km2 ■概要:大阪府の南部、泉北地域に位置する。古くから毛布やニット製品をはじめとする繊維産業を中心に、商工業が発展してきた。大阪市中心部および関西国際空港から電車で約20分といった高い交通利便性を活かし、新たな産業の創出や企業誘致に積極的な取り組みを見せている。
泉大津市長
南出 賢一 みなみで けんいち

持続可能な社会に向けて、公民連携で最先端の研究を

―今年4月に「官民連携デスク」を設置した経緯について聞かせてください。

 当市では、特に「健康」「環境」「教育」という、持続可能な社会をつくっていくうえで欠かせない3つの分野において、公民連携で最先端の研究を行い、社会課題の解決モデルを生み出す「アビリティタウン構想」を進めています。そこでは、さまざまな分野で実証事業ができる場も用意して、より多くの民間企業や大学などからの参加を促しています。

 私は、ここから生まれる社会課題の解決モデルを全国に発信して、「泉大津市発」の公民連携事業を広げていきたいと考えています。そのためにも、まずは、課題解決に資する情報を1つでも多く収集するために、大阪府公民戦略連携デスクの協力も得ながら、専門窓口としての「官民連携デスク」を立ち上げたのです。

―専門窓口の設置によって、どのような成果がありましたか。

 設置から約3ヵ月間で、これまでの数倍となる20社以上の民間企業から、公民連携の事業提案がありました。提案分野は多岐にわたっており、今後さまざまな社会課題の解決につなげていけると考えています。

 実際に連携協定を結んだHCIとは、「ロボットの活用による図書館業務の改善」に向けた実証事業を始めています。全国でも例がない取り組みだと聞いており、まさに「泉大津市発」の解決モデルを発信できると期待しています。

―今後のビジョンを聞かせてください。

 当市は、私が平成29年1月に市長へ就任して以来、「官民連携・市民共創によるまちづくり」を理念に掲げ、「一歩先を行く社会課題の解決」を目指してきました。私たち行政と民間が持つ知見やノウハウ、リソースを集約する「官民連携デスク」は、まさにその推進基盤になると期待しています。その結果、市民のQOLを上げるまちづくりができ、さらに、「それを全国に発信している泉大津市」として、市民が地元に対する誇りを心のどこかに持てるようなまちにしていきたいです。


ロボットを使った図書館システムを、独自の課題解決モデルとして発信

泉大津市 市長公室 秘書広報課 課長補佐 兼 成長戦略担当長 宮嵜 嘉一

泉大津市では、「官民連携デスク」から生まれる社会課題の解決モデルを、「泉大津市発」として全国に発信していく考えだ。ここでは、HCIと連携協定を締結して進めている「ロボットを活用した図書館業務の実証事業」について、「官民連携デスク」を担当する宮嵜氏に詳しく聞いた。

泉大津市
市長公室 秘書広報課 課長補佐 兼 成長戦略担当長
宮嵜 嘉一 みやざき ひろかず

業務のオートメーション化で、図書館職員の負担を軽減

―「ロボットを活用した図書館業務の実証事業」に着手したきっかけを教えてください。

 当市では今年9月、市立図書館を駅前商業施設内へ移設しました。それにより、蔵書の閲覧スペースを従来の約10倍となる500席に拡大し、手に取って読める開架冊数はおおよそ2倍の約15万冊にするなど、規模の拡大や機能の充実を図っています。一方で、図書館職員の業務負担が増えるという課題も想定されるなか、地元でロボット開発を手がけるHCIから、「当社のロボットを、なにかに役立てられないか」という提案を今年5月上旬に受けました。絶好のタイミングだったことから、すぐに図書館業務を担当する部署と調整を図り、6月8日に同社と連携協定を締結し、実証事業をすることに決めたのです。

―どのような実証事業ですか。

 ロボットを活用して、行方不明本の追跡や蔵書点検といった業務のオートメーション化を図ります。現在は、本来の棚にあるべき本がない場合、職員が手作業で探しています。また、すべての蔵書の所在や現況を調べる蔵書点検は、図書館を年に数回閉鎖して職員が総出で行っています。大きな負担となるこれらの業務をオートメーション化することで、職員は、本の内容に関する相談や、「食育」「子育て」がテーマのイベント企画など、本の専門知識を駆使した業務を深化できる。そうして、市民サービスが充実した図書館に育てていきたいのです。1年後をメドに開発し、オープン直後のいまは、来館者を配架場所へ案内する役目としてロボットを活用しています。

―今回の実証事業を通じて、期待できることはなんでしょう。

 図書館職員の業務負担の大きさは、全国共通の課題だと聞きます。今回の実証事業が成功すれば、「泉大津市発」の社会課題解決モデルとして全国に発信できるでしょう。HCIにとってはビジネスチャンスとなり、「Win‐Win」の結果が期待できます。

 いま、社会にはさまざまな課題があります。私たちの公民連携による取り組みで創出されるこれらの課題の解決策が、全国や世界に広がることを期待したいですね。


支援企業の視点

スピード感のある調整のおかげで、ロボット開発をカタチにできた

株式会社HCI 代表取締役社長 奥山 剛旭
株式会社HCI
代表取締役社長
奥山 剛旭 おくやま たかてる

―泉大津市の「官民連携デスク」に、どのような意義を感じていますか。

 従来は、私たちがロボット活用を市に提案する場合、たとえば、福祉課には「介護用ロボット」、市民課には「窓口受付ロボット」といった具合に、担当部署ごとへの提案が必要でした。そうなると、どうしても時間がかかり、提案できる部署も限られてしまいます。その点、今回は各部署の課題を把握している「官民連携デスク」が窓口となり調整してくれたため、市の実情に合わせた課題設定ができました。しかも、当社の提案から連携協定の締結まで約1ヵ月のスピード感だったため、「配架場所への案内ロボットシステム」は、図書館オープンの大切な日に間に合わせて開発できました。

―直近の計画について教えてください。

 1年後の「行方不明本の追跡」機能の開発に向けて、市は「実証を重ねる場」として図書館を提供してくれています。そのため、机上だと把握できない細かな課題まで解決できる「図書館専用ロボット」の開発につなげられると考えています。

―公民連携に対する今後の方針を聞かせてください。

 泉大津市は昔から、「毛織物業のまち」として有名でした。ロボット・AIシステムの開発から製造・販売まで行っている当社が、「社会課題の解決策を全国へ発信したい」と考えている泉大津市とさまざまな取り組みを行うことで、これからは泉大津市を「ロボットのまち」としても有名にしていきたいですね。

奥山 剛旭 (おくやま たかてる) プロフィール
昭和45年、大阪府生まれ。平成14年、株式会社HCIを設立し、代表取締役社長に就任。一般社団法人日本ロボット工業会 FA・ロボットシステムインテグレータ協会副会長、一般社団法人HCI-RT協会代表理事・泉大津AI研究会会長など要職を務める。

大阪府公民戦略連携デスクの視点

窓口の役割を果たす「デスク」は、企業提案の具体化に大きく寄与する

 泉大津市の「官民連携デスク」は、民間企業のネットワークや提案を積極的・一元的に受け入れる窓口の役割を果たしています。新たな価値創造や社会課題の解決だけでなく、公民連携に対する職員個々の意識改革にもつながっているようです。

 特に、今年9月の「泉大津市立図書館」のリニューアルオープンにあたって連携したHCIは、「私たちの抽象的な提案をデスクが具体化してくれ、驚くほどのスピードで連携の話が進んだ」と振り返っていました。デスクが掲げる、「Win-Winの価値創出」を効果的に発揮できたのだと思います。庁内全体での、公民連携の機運が高まる契機となる事例と言えるでしょう。

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