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介護予防事業の改善サイクル、実現の手がかりは「通いの場」にあり

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識者の声

データにもとづく介護予防策の改善①

介護予防事業の改善サイクル、実現の手がかりは「通いの場」にあり

日本老年学的評価 研究機構
代表理事 (千葉大学 予防医学センター教授) 近藤 克則
理事 (日本福祉大学 社会福祉学部講師) 宮國 康弘
[提供]トーテックアメニティ株式会社

※下記は自治体通信 Vol.33(2021年10月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。


運動や趣味活動を介護予防につなげる「通いの場」の創設や運営支援に、力を入れる自治体は多い。こうしたなか、健康長寿社会づくりを目的に学術研究を行っている日本老年学的評価研究機構(以下、JAGES)の代表・近藤氏は、「通いの場への参加実績をデータとして収集し、介護予防事業の改善に向けたPDCAサイクルを回すことが重要だ」と語る。その具体的な方法について、同機構の宮國氏も交えて聞いた。

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日本老年学的評価 研究機構
代表理事 (千葉大学 予防医学センター教授)
近藤 克則 こんどう かつのり
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日本老年学的評価 研究機構
理事 (日本福祉大学 社会福祉学部講師)
宮國 康弘 みやぐに やすひろ

「通いの場」運営の効果を、データで把握できているか

―介護予防をめぐる、自治体による取り組みの現状について教えてください。

近藤 多くの自治体が、住民主体で運営されている「通いの場」に注目し、財政的支援を通じた新たな通いの場の創出や、高齢者の参加率向上に努めています。厚生労働省も、通いの場を介護予防のための重要施策として位置づけており、「人口1万人当たりに10ヵ所で開催する」ことや、「令和7年度までに参加率を8%まで高める」ことを目標に掲げています。

 ただし、通いの場を健康寿命の延伸という目的に近づけていくためには、通いの場の数を増やしたり、参加率を高めたりするだけでは十分ではありません。

―どうすればよいのでしょう。

近藤 通いの場の運営効果をデータにもとづいて検証し、そこで見つけた新たな改善点を今後の運営計画につなげていく、PDCAサイクルを回していくことが重要です。ひとくちに通いの場と言っても、その活動内容は、スポーツを行うものから、カラオケや手工芸など趣味活動を楽しむものまでさまざまです。通いの場の目的として「認知症の予防」ひとつをとっても、その効果は趣味活動の内容によって異なることがわかってきました。そのため、地域の高齢者が抱える健康課題を把握しつつ、どういった活動を行う通いの場を開設していくか、計画していくことが重要になるのです。また、通いの場への参加実績データを現場から得られれば、参加前後における高齢者の健康状態を比較することができます。たとえば、参加者と非参加者で、うつや閉じこもりといった傾向にどのような違いが表れるかが、わかるでしょう。

宮國 JAGESでは、自治体から得られた高齢者のデータをもとに「健康なまち」の要因を研究する「健康とくらしの調査」を、平成11年度より実施しています。この実績とノウハウを活かし、通いの場の効果測定を支援することが可能です。

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他地域との比較で見えてくる、高齢者の健康課題

―調査はどのように行っているのですか。

宮國 厚生労働省が示す「介護予防・日常生活圏域ニーズ調査(以下、ニーズ調査)」の調査票にJAGESの研究者が検討した項目を追加し、要介護認定を受けていない65歳以上の高齢者を対象にデータを収集します。ニーズ調査は、3年ごとの介護保険事業計画策定に向けて、市町村や広域連合といった多くの介護保険者が実施しているものです。これにより、「課題の設定」や「介入施策の立案」「プログラムの実施」「効果評価」という、介護予防政策における一連のプロセスにおいて、活動の根拠や評価手法としてデータを活用し、各市町村の実態に沿った実現可能性の高い介護予防事業を策定できるのです。

近藤 「健康とくらしの調査」の特徴は、市町村内の小学校区や包括区のほか、他市町村と比較した地域診断を行える点にあります。

―他地域と比較することで、どのようなメリットを得られますか

近藤 たとえば、「認知機能低下者」や「要介護認定者」などの割合が全国の他の市町村に比べて、どの程度の水準にあるかがわかります。こうした比較データがあれば、地域における高齢者の健康課題を浮き彫りにし、その課題を解決するための具体的な施策立案につなげられます。このほか、他地域と比較したデータを公表すれば、健康に対する高齢者の課題意識を高める効果も期待できます。その際、「スポーツや趣味を通じて交流をもつことが、認知症リスク低減につながる」という効果を具体的な数値とともに示せれば、地域の高齢者が通いの場に参加するモチベーションも高まるでしょう。

宮國 「健康とくらしの調査」はこれまで、累計100以上の自治体と実施してきました。最近は、トーテックアメニティの協力のもと、通いの場への参加実績データを収集できる仕組みを構築し、より多くの自治体に調査を通じた支援を行える体制が整いました。

データを効率的に収集する、仕組みが整った

―どういった仕組みを構築したのでしょう。

宮國 通いの場のボランティアが、タブレット端末を使って参加証に付与した二次元コードを読み取り、参加実績をデータとして収集する仕組みです。調査票や名簿に記載された情報を分析に用いるには、情報のデジタル化が欠かせません。従来、通いの場への参加実績データを集めるには、現場で作成された紙の名簿をもとに参加者の情報をパンチ入力する必要があり、研究を行う前の作業に多くの時間がかかってしまっていました。しかし現在は、トーテックアメニティが開発した「チェックイン・システム」を活用することで、「高齢者各人が、何月何日の、どのような活動を行う通いの場に参加したか」というデータを、リアルタイムに蓄積できるようになっています。

近藤 これにより、詳細な参加実績の把握と、より精度の高い分析を、短いサイクルで行えるようになりました。データ収集は、少し練習さえすれば、通いの場のボランティアが行えるため、自治体職員にとっても、データ収集にかかわる業務負担が増えない点がメリットです。

 また、通いの場への参加実績データを収集し、効果検証や分析を行える体制をつくることは、厚生労働省が進める「高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施」にも大きく寄与すると私は考えています。

―それはなぜですか。

近藤 通いの場に参加する効果は、介護予防だけでなく、健康診断やフレイル*1対策といった保健事業の分野にも表れると期待できるためです。実際に、通いの場に関するデータと、保健事業で蓄積されたデータを組み合わせて分析できれば、これまでに見えてこなかった相互のデータの関連性が見つかるといった成果が見込めます。

「保健事業との一体化」も、通いの場のデータがカギに

―たとえば、どのような分析が可能になりますか。

宮國 JAGESが行った研究結果のなかから、具体的な例を紹介しましょう。一見、関係ないように思われますが、「スポーツ活動を行う通いの場への参加率が高い地域では、健康診断の受診率が高い」という相関関係があることがわかったのです。

 この研究ではまず、うつ状態の人が多い地域では、健診の受診率が低いことが実証されました。生きていくことに希望を見いだせないといううつ状態では、あすの健康づくりのための健診をわざわざ受けに行く気にならないことなどが背景にあると思われます。そこからさらに、うつ状態の人が多い地域を分析すると、その地域はスポーツの会への参加率も低い傾向がわかったのです。これはまさに、「通いの場」という介護予防の分野と、「健診」という保健事業の分野とで、一体的に分析を行ったひとつの事例になると考えます。

近藤 JAGESはこれまで、介護予防事業の分野でさまざまなデータを収集しながら、「健康とくらしの調査」を自治体とともに実施してきました。「高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施」に向けて、改正法が昨年に施行されたことを受け、JAGESも今後、健診を含む国保データベースや、医療費といったデータの提供を受け、効果検証や分析を行えるようになると期待しています。

近藤 克則 (こんどう かつのり) プロフィール
昭和58年に千葉大学医学部を卒業後、船橋二和病院リハビリテーション科科長などを経て、平成9年、日本福祉大学助教授に就任。英ケント大学客員研究員、日本福祉大学教授を歴任し、 平成26年より千葉大学教授、平成28年から国立長寿医療研究センター老年学評価研究部長。平成30年、一般社団法人日本老年学的評価研究機構を設立し、現職。令和2年に日本医師会医学賞を受賞。
宮國 康弘 (みやぐに やすひろ) プロフィール
平成21年に名桜大学人間健康学部を卒業後、バングラデシュ青年海外協力隊(感染症対策)として活動。千葉大学予防医学センター特任研究員、医療経済研究機構研究員、国立長寿医療研究センター研究員を経て、令和3年に日本福祉大学社会福祉学部講師に就任。一般社団法人日本老年学的評価研究機構へは平成30年に入構し、現職。

Case Study 01

愛知県常滑市

参加実績データをもとに、事業の成果を可視化できた

[提供]トーテックアメニティ株式会社

 常滑市(愛知県)では、平成28年度よりJAGESと協力し、「健康とくらしの調査」を実施。調査では、運動やボランティア活動を行った高齢者にポイントを付与する「スマイルポイント事業」の効果測定も行った。事業への参加実績データと健康関連のデータを組み合わせた経年分析により、事業の成果を数値に可視化することができたという。

 分析結果によると、「GDS5*2」が2点以上の「うつ傾向」は、「スマイルポイント事業」への参加者が平成28年の17.9%から平成29年には17.2%に減少。一方で、非参加者は21.6%から21.9%に増えたことがわかった。「閉じこもり」については、参加者が1.5%から1.4%とほぼ横ばいだったが、非参加者は2.6%から4.2%に増えたことが確認できた。

 同市は現在、二次元コードを活用した「チェックイン・システム」を通じ、通いの場への参加状況を可視化し、次期介護保険事業計画の策定に向けた目標値を設定している。

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Case Study 02

愛知県武豊町

一次介護予防を目的にサロン開設、確かな効果を実証できた

[提供]トーテックアメニティ株式会社

 武豊町(愛知県)はJAGESの協力のもと、一次介護予防を目的とした地域介入研究「武豊プロジェクト」に平成19年度から取り組んでいる。同年度には、モデル事業として町内に「憩いのサロン」を立ち上げ、ボランティア運営による一次介護予防の活動を始めた。

 活動の効果を経年分析すると、平成19年から5年間の観察期間では、サロンに頻繁に参加した人は非参加者に比べて要介護認定を受けるリスクが半減。さらに、後期高齢者の要介護認定率は、「介護予防・日常生活支援総合事業」の導入期間に入った平成27年の27.5%をピークに低下を始め、令和2年には21.7%まで下がったという。プロジェクトの特徴は、ハイリスク者へ働きかける従来の「ハイリスク・アプローチ」ではなく、対象者を一部に限定せずに集団全体へ働きかける「ポピュレーション・アプローチ*3」で介護予防を行う点にある。非参加群との比較と、認定率の経年変化の双方において、有効性が実証できた格好だ。

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支援企業の視点

データにもとづく介護予防策の改善②

自治体職員の負担を抑えながらも、現場のデータは収集できる

トーテックアメニティ株式会社
大阪事業所 公共医療システム事業部 公共西日本営業部 社会保障企画担当 日向 康博
[提供]トーテックアメニティ株式会社

ここまでは、効果測定や分析を通じて「通いの場」の運営でPDCAサイクルを回すことの重要性と、実際にそうした取り組みを行っている自治体の事例を紹介した。ここでは、JAGESと連携して通いの場の運営支援を行うトーテックアメニティの日向氏に取材。通いの場の運営でPDCAサイクルを回す際の重要なポイントについて聞いた。

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トーテックアメニティ株式会社
大阪事業所 公共医療システム事業部 公共西日本営業部 社会保障企画担当
日向 康博 ひゅうが やすひろ

簡単なタブレット端末操作で、通いの場の参加実績を把握

―通いの場におけるPDCAサイクルを回すに当たり、自治体にはどのような課題がありますか。

 自治体職員だけで通いの場の参加実績データを収集するのが難しいことです。通いの場の効果を持続するために厚生労働省が推奨する開催頻度は「1週間に1回以上」。人口1万人当たり10ヵ所の開設が目標に掲げられるなか、人口が10万人の自治体であれば、100ヵ所分の参加者データを毎週集める必要があり、とても現実的とは言えません。そのため当社は、通いの場で働くボランティアに、そのデータ収集を担ってもらう提案をしています。ただし、その際には2つのポイントがあります。

―どのようなことでしょう。

 まずは、デジタルでデータを取得することです。ほかのデータとの紐づけや、暗号化を行うためには、デジタル処理を施す必要があるためです。2つ目のポイントは、データ収集にかかる作業負担を極力抑えることです。通いの場のボランティアは、高齢者の割合が高いため、IT機器の複雑な操作に戸惑うことなく、簡単に収集できる仕組みが求められます。そこで当社では、独自の「チェックイン・システム」を開発し、これら2つのポイントを押さえたデータ収集の実現を支援しています。

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―詳しく聞かせてください。

 二次元コードをタブレット端末で読み取り、参加者や会場名といった情報を、データセンターに自動で蓄積できるシステムです。利用者は、参加証に付与された二次元コードをかざして「データ送信」のボタンをタップするだけで、参加実績に関するデジタルデータを簡単に収集できます。収集されたデータは自治体側でダウンロードでき、被保険者情報と紐づけることで、誰が参加したかといった情報を閲覧することも可能です。また、データの分析を行う研究機関へは、参加者の個人情報を暗号化したうえで提供されるため、情報漏えいリスクも抑えられます。

―実際に、JAGESでの研究事業に用いられているそうですね。

 はい。このシステムはJAGESの「健康とくらしの調査」に協力するなかで当社が開発したもので、現在は通いの場の運営支援ソリューション『通いの森』として提供しています。『通いの森』には、JAGESによる効果検証・分析サービスを含め、収集したデータをPDCAサイクルの実現に活用できる、多様な機能を搭載しています。

参加率向上やケア会議にも、現場のデータを活用

―どういった機能がありますか。

 たとえば、「アウトリーチサービス」では、通いの場の参加実績データから、未参加者・離脱者の把握や参加勧奨を行えます。これは、通いの場の近隣住民から対象者を抽出し、通知書の送付や電話で参加勧奨を行うサービスで、参加率の向上を支援するものです。また、「ケア会議支援ツール」では、参加実績データをもとに、地域ケア会議に必要となる個票を容易に作成できます。『通いの森』は、こうした参加実績データを活用する機能のほかにも、認知症予防や介護予防などを促す動画コンテンツの配信機能や、個人インセンティブとしてのポイントを管理する機能なども提供しており、通いの場の運営を包括的に支援します。

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―自治体に対する今後の支援方針を聞かせてください。

 通いの場の運営をめぐる自治体の悩みは、データの収集・分析から運営ボランティア不足、運営者の養成など多岐にわたります。『通いの森』は、こうしたさまざまな悩みを解決すべく、JAGESを含む複数の団体・企業とパートナーを組み、サービスの充実を図っています。通いの場の運営や「高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施」に課題を感じている自治体のみなさんは、ぜひご連絡ください。

日向 康博 (ひゅうが やすひろ) プロフィール
昭和38年、岡山県生まれ。昭和61年に岡山大学を卒業後、SI企業に入社。長年にわたり、全国の自治体の保健福祉関連の計画策定や情報化に従事。平成28年、トーテックアメニティ株式会社に入社。平成30年より現職。
トーテックアメニティ株式会社
設立 昭和46年5月
資本金 1億円
売上高 253億6,671万円(令和3年3月期)
従業員数 2,466人(令和3年6月末現在)
事業内容 ITソリューション事業、エンジニアリングソリューション事業
URL https://www.totec.jp/
お問い合わせ電話番号 06-6147-2250 (平日9:00〜17:30)
お問い合わせメールアドレス kayoinomori-ml@totec.co.jp
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*1:※フレイル : 「健康」から「要介護」への移行期で、可逆性がある状態のこと

*2:※GDS5 : 「Geriatric Depression Scale」(高齢者うつ尺度)の5項目版

*3:※ポピュレーション・アプローチ : 対象者を一部に限定せず集団全体へ働きかけを行い、全体としてリスクを下げる方法のこと。一方で、疾患を発症しやすい高いリスクをもつ個人に対象を絞り込む方法を「ハイリスク・アプローチ」という