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我らはまちのエバンジェリスト #28(福岡市 職員・今村 寛)
続・経営者は誰だ

“病める公務員”を無くしたいと思いませんか?

    プロフィール
    今村 寛
    《本連載の著者紹介》
    福岡市 職員
    今村 寛いまむら ひろし
    福岡地区水道企業団 総務部長。1991年福岡市役所入庁。2012年より福岡市職員有志による『「明日晴れるかな」福岡市のこれからを考えるオフサイトミーティング』を主宰し、約9年間で200回以上開催。職場や立場を離れた自由な対話の場づくりを進めている。また、2012年から4年間務めた財政調整課長の経験を元に、地方自治体の財政運営について自治体職員や市民向けに語る「出張財政出前講座」を出講。「ビルド&スクラップ型財政の伝道師」として全国を飛び回る。好きなものは妻とハワイと美味しいもの。2022年より現職。財政担当者としての経験をもとに役所や公務員について情報発信する「自治体財政よもやま話」(note)を更新中。

    メンタルをやられる公務員が増えています。カスハラ被害に心を折られる自治体職員も多くなっています。「人財」として扱われない口惜しさに震える仲間にかける言葉を失ったことはありませんか? 地域と住民のためにイキイキと働く公務員を増やすための“ゲームチェンジ”のあり方を一緒に考えましょう。

    “病める公務員”が10年前比でほぼ倍増…

    前回「市民との協働が育むもの」では、行政が現在担っている役割を市民や民間事業者と協働で行うことで、市民が行政運営の当事者、パートナーとして自治体組織、職員とともに考えともに行動していくことができる風土、文化を育てていくことができると書きましたが、このことは以前書いた「経営者は誰だ」で触れた考え方に基づいています。
    (参照:役所? 首長? 住民?「自治体の経営者」は誰だ《後編》)

    この時私は
    『自治体は民間企業と違い、顧客がそのまま全員株主のようなものです。』
    『市民はサービスを受ける主体である一方で、サービスを提供する自治体に納税し、自治体運営の権限を付託し、それを監視する立場です。』
    と書いています。

    しかし、現実はどうでしょうか。

    地方自治体で精神疾患などによる病気休職者が増えています。地方公務員災害補償基金からの委託を受け、一般社団法人 地方公務員安全衛生推進協会と総務省公務員部安全厚生推進室が連携して立ち上げた「地方公務員のメンタルヘルス対策の推進に関する研究会」の令和5年度報告書によれば、「精神及び行動の障害」を理由とした長期病休者(疾病等により休業30日以上又は1か月以上の療養者、10万人率)は10年前の約1.8倍、15年前との比較では2倍を超える水準にも達しています。年齢別にみると20代と30代が平均(全年齢平均)を上回り、女性職員に限って言うと10代~40代という広範な年齢層で平均を上回るという、恐ろしさすら感じさせる結果です(下グラフ参照)

    報道機関からこの事実が伝えられると大きな社会的関心を呼びました。
    (参照記事:「自治体、精神疾患で休職1.8倍 20代と30代目立つ」共同通信)

    ひょっとすると「私たちの失敗」!?

    この統計は民間企業あるいは社会全体との比較がないのでこの現象が地方公務員特有の事情によるものかどうかは判然としません。しかし、この世界に30年以上いる私の目から見ても、地方公務員の世界で精神疾患による病気休職というものが目に見えて増えたように思います。

    報道では特に若い人が、という結果になっていますが、経年変化での増加傾向は年齢に関係がないような実感はあります。

    また、病気休職に至らずとも精神的な不調を抱え年休を消化する職員や、休職ではなく退職を選択する職員もいることから、この統計の外側にも多数の見えない“病める公務員”の姿を見て取れます。

    病気休職に至るほどの精神疾患がどのような原因によるのか、報道では業務量の増加、複雑化に加え、職場の余裕が失われて若手の教育に手が回らない、行政に対する過度なクレームなどハラスメントも影響している可能性があると指摘しています。

    さもありなんと思う一方で、それら個別の原因をひとつひとつつぶしていくことよりも大事なことがあるといつも感じています。私たち公務員業界はひょっとすると「人材」を「人財」として扱う、人を組織の財産として大事にしようという真剣な姿勢に欠けているのではないでしょうか? とういうことです。

    国際比較で最低水準の「公務員“数”」

    私が市役所に入った30数年前は「24時間働けますか」という触れ込みで企業戦士として昼夜の別なく働くモーレツ社員がもてはやされる時代。「過労死」という言葉が社会問題化したのもこのころからです。

    逆に平成初頭は、昭和の時代に築き上げられた、9時5時で仕事を切り上げる“仕事をしない公務員像”が世に蔓延し、実際に業務多忙な職場はあるのに「公務員は楽をしている」と言われた時代でした。

    その後30年が経過する中で、民間企業では過酷な労働環境の改善が進んだのではないかと思っています。ブラック企業という言葉も現れ、そのような働かせ方を忌避する社会の空気が醸し出されたことで、昔のように過酷な長時間労働やノルマを強いることは表向きできなくなりました。

    一方、私たち地方公務員業界はどうでしょうか。

    霞が関で働く国家公務員については、国会対応での長時間労働などの過酷な労働環境からくる中堅層の離職や志望者の減少などが最近よく報道されるようになりましたが、地方公務員でも状況はそう変わりません。

    行革の名のもとに行われてきた度重なる人員削減で組織が先細る一方で、従来から行われてきた行政の無謬性、公平公正性を担保するための重厚な手続きは簡略化されることなく伝統的に継承され、一方で価値観が多様化、複雑化した住民ニーズへの対応や福祉社会の進展により増加した業務にも人手を割かれ、マンパワーが枯渇しています。

    日本の公務員の“数”は「客観的にどうか」を示唆していると言えそうなOECDの報告書「Government at a Glance 2021」(注:数値は2019年分)を本欄の担当編集者が送ってきました。OECD加盟国を多様な政府関連の視点から調査して同一基準で数量化した報告書で、下のグラフで示したのは雇用者全体に占める公務員の比率を計算した項目「Employment in general government as a percentage of total employment」(雇用者全体に占める一般政府雇用者比率=グラフのキャプション参照)です。

    青塗りした部分が日本で、2019年時点ではOECD最低の5.9%(OECDの平均値は17.9%)で、日本の公務員は国内雇用者全体のおよそ17分の1、という結果。参考までにG7各国は赤文字で示しました。

    一般政府雇用者とは、中央政府だけでなく地方政府や公的な社会保障基金を合わせた公的機関の総体(一般政府)に雇用されている人を指し、非営利団体も含む。雇用者全体も公務員もそれぞれの国内で雇用されている人のみが対象。短期雇用者も該当

    社会全体としてはどうなのか!?

    忙しければ人を増やす、人を増やすために賃金その他の労働条件を改善するという当たり前の取り組みが進まないのはなぜなのか。

    人を増やせないのであれば仕事を減らすという道もありますが、私たちは市民の期待とそれに応えたいという自らの責任感の強さから、業務そのものをやめるという選択をとりづらく、人を増やそうにも財政的な事情もさることながら、その財政事情の改善のために昭和の時代から世間の脳裏にこびりついている“仕事をしない公務員像”の亡霊に囚われ「身を切る改革」を求め続ける市民の声に抗うことができない。そんな背景があるように思います。

    公務員は全体の奉仕者。その言葉が私たちに重くのしかかります。

    確かに市民の皆さんが納めた貴重な税金を有効に使い、付託された権限を行使して行政運営を行い、市民福祉の向上のために尽力するのが公務員の使命です。

    しかし一方で、私たち公務員は国や自治体に雇用された労働者でもあり、市民福祉の向上のために国や自治体が準備した労働力という資産でもあるのです。

    先ほど、2番目の小見出しの末尾に、この「人財」という考え方が私たちの公務員組織の中で欠落しているのではないかということを書きましたが、それは組織の中だけではなく社会全体としてどうなのかという疑念を持っています。

    自治体は民間企業と違い、顧客がそのまま全員株主のようなものです。市民はサービスを受ける主体である一方で、サービスを提供する自治体に納税し、自治体運営の権限を付託し、それを監視する経営者の立場です。

    しかし多くの場合、市民は顧客の立場でサービス提供者である自治体を見ることが多く、株主の立場で自治体経営を論ずることはあまりありません。

    私たち自治体職員の働き方改革や人材の獲得、育成まで含めた人事戦略が首長の選挙の争点になることがないのは、ある特定のイデオロギーに偏っているという誤解を与える懸念も当然あるのでしょうが、そもそもそれは内部管理事項であって自治体の経営方針、特に顧客である市民が享受するサービスの内容や質を大きく左右するものではないという市民感覚なのだと思います。

    「公務員へのカスハラ」の正体

    たとえば、巷で最近よく耳にする「カスハラ」という言葉。

    商品やサービスを販売提供する従業員に対して、顧客の側から過剰な圧力がかけられ従業員の心身の安全が侵されるという社会問題ですが、役所に対して住民から寄せられる過度なクレームもこの「カスハラ」として取り上げられるようになっていますが、これも厳密に言えば市民は顧客の身分である一方、サービスを提供する自治体そのものを経営する立場でもあるわけです。

    サービス提供者と顧客との関係が対等で互いの人権を侵してはならないことは一般論として正しいですが、公務員と市民との関係で言えば、その関係性に加えて株主が自らの会社が販売する商品をキズモノにするようなものです。

    自治体職員を精神疾患に追い込むようなカスハラやパワハラを内部管理事項だと放置し、職員の労働条件悪化をないがしろにして、その労働環境が生み出す業務成果の品質との関係性に無関心であれば、自分たちが経営する自治体そのものの品質低下、ひいては自分たちが享受するサービスの質や量を悪化させます。

    そのような場合に顧客として「社長を出せ」と文句を言おうにも、その社長に経営権を委ね、監視する株主の立場である自分たちに跳ね返ってくるだけなのです。

    上グラフの出所=全日本自治団体労働組合「自治体におけるカスタマーハラスメントの発生状況」(2020年10月実施、回答者数=1万4,213名)

    「今日よりも良い明日」を創るために

    職員を大事にすることで自治体組織全体のパフォーマンス維持向上が図られているか、職員を蔑ろに扱うことで組織の機能が低下していないかを市民がしっかりと観察し、評価し、組織運営の責任者である首長にその評価結果を返す。そうした世の中になってほしい。

    そういう市民の目に耐えるだけの自治体運営を行うのが首長の責任であると首長自身が意識し、そのリーダーシップのもとで職員が財産として大事にされる職場づくりが行われる。そんな世の中になってほしい。

    職員が使い捨てされるような組織が市民の幸せを考えられるはずがないし、組織から大切にされていない職員が市民を大切に扱えるはずがないのですから。

    私たち公務員自身が、自分自身そして組織の中での互いを人として尊重し、互いを大事にしあうことも重要だと思っていますが、自治体の経営者である市民自身も、経営資源である職員を使い捨てず、労働者としての私たちに理解共感していただけるとありがたいなと思います。

    (続く)


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