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「公民連携」が規模に左右されない強い自治体をつくる

    【自治体通信Online 寄稿連載】あなたの街の地方創生は順調ですか?②(関東学院大学准教授・牧瀬 稔)

    図らずも行政サービスの量的拡大競争に走ってしまっている―。地方創生の現状について、本連載執筆者で多くの自治体のアドバイザー等を務めている関東学院大学・牧瀬稔准教授(法学部地域創生学科)はこのように分析します。第2回は、結局は自治体規模に左右される行政サービスの「量的拡大」志向ではなく、「質的変化」を起こすことで強い自治体をつくりだしうる地方創生の方策に焦点を当ててもらいました。

    【目次】
    ■ 「ちょっとした工夫」が求められている
    ■ 「地方政府」の時代
    ■ 「量的拡大」は消耗戦
    ■ 「共創」が必要
    ■ 「競争」に立ち向かうために

    「ちょっとした工夫」が求められている

    前回は「地方創生はイノベーション志向であるべき」と指摘した。イノベーションを創出するためには、自治体は意図的に「初めてやっていく」や「他自治体と違うことをやっていく(差別化)」を実施するべきと主張した。
    (参照記事:意外と曖昧な「地方創生」その意味を定義する)

    今回はイノベーションという観点から、いろいろと検討してみたい。

    本連載の第1回で、地方創生とは「地方自治体が従前と違う初めてのことを実施していく」あるいは「他自治体と違う初めてのことに取り組んでいく」に集約されるという筆者の考える指摘をした。すなわち、地方創生とは自治体にイノベーションを起こす能動的な取り組みであるべきだ。

    イノベーションという概念を提起したのは、経済学者のシュンペーターである。同氏は「イノベーションこそ資本主義の本質」と説いており、「イノベーションによる変化が経済を発展させる」と主張している。

    シュンペーターはイノベーションを次の5パターンにわけている。それは、①新しい商品・サービスの創出、②新しい生産方法の開発、③新しい市場の開拓、④原材料の新しい供給源の獲得、⑤新しい組織の実現、である。すべてを満たすのではなく、それぞれがイノベーションになる。

    しばしばイノベーションは「新結合」や「新機軸」と訳されることが多い。あるいは、ややくだけて「新しい切り口」や「新しい捉え方」と称されることもある。新結合や新機軸と言うとやや重たい印象を持つが、筆者は「ちょっとした工夫」程度の感覚でよいと思う。

    「地方政府」の時代

    しかし、この「ちょっとした工夫」さえも自治体は嫌厭する傾向がある(「ちょっとした工夫」を生み出す能力がないとは考えられないのだが…)。地方創生の時代は自治体の意識や取り組み方を変えていく必要があるだろう。

    余談になるが、総合行政ネットワーク(LGWAN)が始まったこともあり、自治体のドメインに「lg」が使われるようになった。この「lg」とは、「local government」の頭文字である。すなわち「地方政府」である。国の「中央政府」に対して地方の「地方政府」である。地方政府であるならば、独自の政策展開が求められる。

    地方創生の時代においては、自治体(職員)は地方政府としての気概を持たなくてはいけない。その意味で「初めてやっていく」や「他自治体と差別化していく」に果敢に取り組んでもらいたい。

    そうすることがイノベーションの土壌となる。そしてイノベーションは新しい見地を提供することにつながるだろう。

    「量的拡大」は消耗戦

    ところで、地方創生は結果的に自治体間「競争」(都市間競争)を生み出してしまったようだ。

    自治体間「競争」は「地方自治体がそれぞれの地域性や空間的特徴などの個性(特色)を生かすことで創意工夫を凝らした政策を開発し、他地域から住民等を獲得すること」と定義できる。

    やや言い過ぎた感があるものの、現実はこの定義のような状況となっている。自治体間「競争」が展開されることにより、行政サービスの質的向上が促される側面もあるだろう。

    一方で、民間企業のイノベーションは激しい市場競争の中から登場する。イノベーションは経済を発展させていく原動力となる。

    ところが、自治体間「競争」に勝ち抜くため多くの自治体が選択するのは“行政サービスの量的拡大”である。例えば「〇歳まで医療費無料」というのは典型的な量的拡大である。

    この量的拡大に走る自治体の思考にこそ、大きな問題がある。

    量的拡大を目指した自治体間「競争」は、結果的に消耗戦を招くだけである。さらに言えば、結局は、小規模自治体は規模の大きな政令市や中核市に量的拡大では勝つ可能性は少ない。

    「共創」が必要

    今日、自治間「競争」に勝ち抜く視点は多々ある。この時代の中で生き残っていくためには、自治体単独だけでは難しいだろう。そこで自治体は自治体外の多様な主体と協力・連携して、自治体間「競争」に対応していくことになる。

    その動きが「公民連携」と言われている。

    自治体が自治体間「競争」に勝ち抜こうと公民連携に取り組んでいる。その結果、民間企業の思想が公的世界に入り込み、従前の自治体にはありえなかった多くのイノベーションが創出されている。

    筆者は、自治体間「競争」は自治体間「共創」にも結び付くと言う持論がある。

    共創は「自治体が地域住民や民間企業、NPO、大学等の自治体外と『共』に活動(この活動こそが公民連携の定義である)して、イノベーションの『創』出につなげること」と定義している。

    自治体間「共創」の行きつくところは、新しい価値観の提示である。

    競争の英語は「Competition」である。共創は「Cocreation」と英訳されることが多い。注目したいのは、競争にも共創にも「Co」という言葉が入っている点である。

    競争に立ち向かうために

    英語の「Co」には「共に」という意味が含まれている。ちなみに、Communication(交流)、Collaboration(協働)にもCoが入っている。つまり競争(Competition)には「共に」という思想が組み込まれていると解することも可能である。むしろ競争に立ち向かうために、自治体は様々な主体と「共に」進めなくてはいけないと捉えることもできる。

    現実的にも、自治体間「競争」に対応していくために、自治体は様々な主体と「共創」して対応していかなくてはいけない。その意味で、自治体間「競争」は自治体間「共創」に結び付くのである。

    次回(第3回)では、再度、地方創生の新しい展開を筆者なりの視点から検討したい。

    (第3回「第2期地方創生では『人口縮小との共生』が不可避」に続く)

    本連載「あなたの街の地方創生は順調ですか?」バックナンバー

    第1回 意外と曖昧な「地方創生」の定義とは

    牧瀬 稔(まきせ みのる)さんのプロフィール

    法政大学大学院人間社会研究科博士課程修了。民間シンクタンク、横須賀市都市政策研究所(横須賀市役所)、公益財団法人 日本都市センター研究室(総務省外郭団体)、一般財団法人 地域開発研究所(国土交通省外郭団体)を経て、2017年4月より関東学院大学法学部地域創生学科准教授。現在、社会情報大学院大学特任教授、東京大学高齢社会研究機構客員研究員、沖縄大学地域研究所特別研究員等を兼ねる。
    北上市、中野市、日光市、戸田市、春日部市、東大和市、新宿区、東大阪市、西条市などの政策アドバイザー、厚木市自治基本条例推進委員会委員(会長)、相模原市緑区区民会議委員(会長)、厚生労働省「地域包括マッチング事業」委員会委員、スポーツ庁参事官付技術審査委員会技術審査専門員などを歴任。
    「シティプロモーションとシビックプライド事業の実践」(東京法令出版)、「共感される政策をデザインする」(同)、「地域創生を成功させた20の方法」(秀和システム)など、自治体関連の著書多数。
    牧瀬稔研究室  https://makise.biz/

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