
※下記は自治体通信 Vol.77(2026年10月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
温暖な気候と豊かな自然や文化にめぐまれる一方、急速に進む人口減少という深刻な構造的課題に直面する高知県。同県で知事2期目を務める濵田省司氏は、「スマートシュリンク(賢い縮小)」の考えのもとで持続可能な社会基盤の整備に取り組むなど、積極的に人口減少対策を進めている。「対策に当たっては、官民連携の深化を推し進める新たな局面を迎えている」と語る同氏に、課題解決のフロントランナーとして描く県政ビジョンについて聞いた。

社会インフラそのものが立ち行かなくなる危機感
―これまでの県政の成果をどのように振り返りますか。
知事に就任して以来、「共感と前進」をスローガンに掲げて県政運営に取り組んできました。1期目は新型コロナ対応と重なりましたが、県独自の中小企業向け無担保・無利子融資制度を国に先駆けて導入するなど、感染防止と経済活動の両立に努めました。結果として、コロナ禍からの脱却で一定の成果をあげられたと考えています。また、南海トラフ地震対策も着実に進め、津波避難タワーの整備などにより想定死者数を半数程度に減らすことができました。しかし、こうした歩みのなかでも、私がひときわ危機感を強めているのが人口減少問題です。
―具体的には、どのような危機感を抱いていますか。
本県は全国のなかでも高齢化率が2番目に高く、国勢調査の速報値でも過去最大の人口減少率を記録しました。これに対し、私たちは34歳以下の若年人口にターゲットを絞った対策を進めてきました。たとえば、男性の育児休業取得の促進などに力を入れた結果、一部の市町村で出生数が上向くなど、明るい兆しが見え始めています。しかし、それでもまだ全体ではその兆しを上回る危機的な状況にあります。産婦人科の医師がおらず分娩ができなくなったり、バスの運転手が確保できずに路線を廃止せざるをえなくなったりと、需要があってもサプライサイドの担い手がいなくなり、社会インフラそのものが立ち行かなくなる事態が起きているのです。
「4Sプロジェクト」に挑戦し、「賢く縮む」
―そうした課題に対して、どのように取り組んでいきますか。
行政としては、「スマートシュリンク」の視点に立った取り組みを進めています。不採算部門をただ切り捨てるだけの縮小では、さらなる人口減少を招く負の連鎖に陥ってしまいます。スマートシュリンクとは、行政サービスの提供体制全体を再構築し、持続可能な地域社会の実現を目指すものです。本県では、「Smart Shrink for Sustainable Society」の頭文字から取った「4Sプロジェクト」を展開しています。これは人口減少への適応策であると同時に、中山間地域においても若者にとって魅力ある職場や地域づくりを進めるという点で、人口減少に歯止めをかける攻めの対策でもあります。たとえば、現行15ある消防本部を1つの本部に統合する、「全国初」の「消防広域化」のほか、学校単位の再編や新学科等の創設を含めた「県立高等学校の魅力化」などに挑戦しています。
さらに本年度は、人口減少対策として特に2本柱の施策に注力しています。
2本柱の施策に注力し、自然増と社会増を促す
―詳しく聞かせてください。
若い世代が安心して結婚や出産、子育てができる環境を整えることによる自然増と、若者の定着や都会からのUIターンを促すことによる社会増を目指します。そのためには、若者が都会に負けない高い給与を得られる強い経済基盤をつくらなければなりませんし、多様性を重んじる寛容な社会をつくる必要があります。この自然増と社会増という2つの効果を期待して推し進めているのが、「高付加価値型経済への転換を通じた若者の所得向上」と「多様な人材が活躍できる環境の実現に向けた働き方改革」という2本柱です。
―具体的にどういった取り組みを行っているのですか。
「高付加価値型経済への転換を通じた若者の所得向上」では、本年度は国の重点支援交付金を活用し、15億円規模の所得向上総合補助金を創設しました。これは昨年度に官民協働でつくった「経営改革モデル」を横展開するもので、業種を問わず使える自由度の高い制度として、大変多くの応募をいただいています。また、県庁が「隗より始める」取り組みとして、県立の美術館や植物園などの施設でも、民間と同じ目線に立ち、より付加価値の高いサービスの提供と経営改善を図る取り組みを進めています。指定管理者の公募に広報宣伝の実績がある事業者の参画を条件付けるなど、自律的に稼ぐ施設運営への転換を目指します。
―2本目の柱についても教えてください。
「多様な人材が活躍できる環境の実現に向けた働き方改革」については、働き方改革をなし遂げた企業しか生き残れないという危機感のもと、共働き・共育て社会の実現を目指しています。具体的には、男性の育休取得に取り組む企業を登録する制度を始めました。自社の状況を公表し、働きやすい企業であることをアピールしてもらう狙いがあり、目標を大きく上回る1,600社以上に登録されています。「隗より始める」取り組みとしては、職員の時間外勤務縮減に向けた社会実験を行っています。自治体としては全国初となる、時間外勤務手当の割増率を時限的に引き上げる一方で残業時間を大幅に縮減させる試みで、すでに良い成果が出ています。
日本全体にとっての、ロールモデルになる
―2本柱の施策はいずれも民間企業との連携が重要になりますね。
その通りです。人口減少などの難題を解決し、県政を前進させていくには、行政の力だけでは限界があります。時代が変わった以上、やり方も変えていくべきであり、これまで以上に民間を巻き込み、官民連携を深化させていくことが極めて重要です。そこで、新しいスタイルで官民連携を進めるため、令和7年11月に特別職の官民連携推進担当の参与として、元県議会議員で民間企業での勤務経験もある大石宗氏を任用しました。大石参与の知見と人的ネットワークを活かし、官民の橋渡し役としてプロジェクトを推進してもらっています。

―今後の県政ビジョンを聞かせてください。
高知県には豊かな自然や食、人のつながりといった魅力がたくさんあります。全国に先駆けて人口減少が進む本県だからこそ、私たちはその課題に挑むフロントランナーとして、日本全体にとってのロールモデルになる責務があると考えています。守るべき価値を次代に引き継ぐために、変えるべきところは変えていかなければなりません。高知にゆかりのある、やなせたかしさんの『アンパンマン』の主題歌の歌詞にもあるように、高知県への深い「愛」と、生まれ変わる「勇気」を持ち、不退転の決意で挑戦を重ねていきます。成功するまで何度でも挑戦し、元気で豊かな、そしてあったかい高知を必ず実現していきます。

ここまでは、人口減少の克服に向けた施策や、官民連携の深化を目指す濵田知事の県政ビジョンを紹介した。ここでは、令和7年11月に高知県で初となる特別職「参与(官民連携推進監)」に就任した大石宗氏を取材。企業との共創を加速させる体制づくりや、現場で進める官民連携の具体的なアプローチなどについて同氏に聞いた。

行政と民間の「言語」を翻訳し、接点をつくる橋渡し役に
―どのような使命感を持って参与職に就任しましたか。
知事からは、企業版ふるさと納税や包括連携協定、PPP・PFI、ネーミングライツ、連絡調整、特命事項という6つの実務領域を託されました。本県が直面する人口減少の危機には行政だけでは対応しきれない領域が増えており、民間の活力を取り込んで新たな価値を共創することが不可欠です。前例のない参与という役割は、ゼロから仕事を生み出す非常に難しい立場であり、成果を出す重責を感じています。しかし初代だからこそ、私個人の属人的な活動に終わらせず、官民連携を県庁の組織として定着させる「型」や「仕組み」をつくり上げることが自身の使命だととらえています。
―議会や民間企業で培ってきた経験をどう活かしていきますか。
私は民間企業での勤務経験や商工会議所青年部での活動を通じ、企業が抱える困り事や意思決定の基準、求めている価値を肌で理解してきました。同時に、長年県議を務めたことで、県庁内部の意思決定プロセスや政策論理も熟知しています。さらに県内34市町村をつぶさに歩き、地域の現実を見つめてきた蓄積もあります。行政と民間にはそれぞれ独自の文化や言語がありますが、双方が持つ強みを理解しているからこそ、双方の言語を相手に翻訳し、接点をつくる橋渡し役として、これらの経験を最大限に投入していきます。
―今後の官民連携に求められることはなんだと思いますか。
大きな課題は2つあります。1つは医療や公共交通など、人口減少により崩れつつある地域の生活基盤を守るための社会課題の解決です。もう1つは、一次産業や観光など地域に人や投資を呼び込む成長産業の創出です。これまで行政は公平性や中立性の観点から、特定のリスクを伴う事業や投資に一歩踏み込むことが難しい面がありました。しかし、透明性を確保したうえで、民間の最新技術やノウハウを取り込み、重点的な投資や実証実験をともに行う「一歩進んだ連携の形」をつくることこそが、いま強く求められています。
スローガンで終わらせない。真の「オール高知」を構築へ
―現在進めている具体的な取り組みを教えてください。
直近では、11月19日に「まぜくるサミット(官民連携実装サミット)」というイベントを開催します。ただ講演を行うだけでなく、宇宙港構想や地域産業の高付加価値化などをテーマに、県と企業、または企業同士が具体的な案件を生み出し、実装につなげることを目指す場です。県内外の企業・団体には、ぜひ参加いただくとともに、継続的な共創を支える「まぜくるパートナーズ」への協賛もお願いしたいと考えています。また、就任以来力を入れてきた「企業版ふるさと納税」においても、従来の枠組みを越えた大きな可能性を感じています。
―どのような可能性でしょう。
単に控除を受けるだけの寄附や善意頼みのCSRではなく、企業のニーズや課題に寄り添った新しい提案の形です。たとえばプラネタリウムメーカーの五藤光学研究所とは、名誉県民である関勉先生の星空への情熱を子どもたちに伝える教材化プロジェクトを企画しました。企業が持つ歴史や理念と行政課題を結びつけ、企業版ふるさと納税を活用して資金調達と事業化を実現しました。単に行政の既存メニューへの寄附を請うのではなく、企業とともに案件を共創する「企画営業」の仕組みを整えていきたいと考えています。
―官民連携に向けた今後の方針を聞かせてください。
単なるスローガンで終わらない、真の「オール高知」を構築することです。県民や地元企業、行政はもちろん、県外のゆかりのある企業や出身者など、すべてのステークホルダーが「高知の未来を守ることは自分たちの可能性を拓くことだ」と実感し、主体的にかかわれる体制をつくります。官民連携を単発のイベントで終わらせず、案件化、実装、検証まで一貫して伴走する型を確立し、高知の新たな可能性を切り拓いていきます。

高知県は令和8年9月現在、約50社の企業などと包括協定を結んでいる。令和8年7月には、本誌『自治体通信』を発行するイシンと、双方が保有する資源の活用と、同県における地方創生の推進を目的とした包括連携協定を締結。県政の情報発信や産業振興・官民連携の推進、教育の充実などに加え、「AIを含むデジタルを活用した行政業務改革及び県民サービスの向上」を連携事項として位置づけている。


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